第百五十八話 インビジブル
(――騙して悪いけど、これも絶対原作守護るマンの仕事なんでね)
僕が伝説の魔法、〈ファルゾーラ〉を使ったとすっかり信じ込んでしまっているレミナに、心の中で頭を下げる。
僕はメニュー画面を使うことで、口に出すことなく魔法や武技を使うことが出来る。
だから口では第十五階位魔法である〈ファルゾーラ〉と叫びながら、メニューから第一階位魔法の〈ファイア〉を使っていた、というのが今回のカラクリ。
つまり、大会の時に十一番目の刀技〈次元断ち〉を使うフリをして、実際には十五番目の〈絶禍の太刀〉を使っていたのと仕組みは同じだ。
ただ、弱い技を使うフリをして最終技を使っていた大会の時とは逆に、今回は最終魔法を使うフリをして初期魔法を放った。
(本物の〈ファルゾーラ〉は色々過剰と言うか、ちょっとMP消費が多すぎるんだよね)
残念だけど、第十五階位魔法なんて消費の重い魔法、初めから使うつもりはなかったのだ。
「レオハルト様は、まだ色々隠しているとは思ってましたけど、まさか、伝説の魔法まで使えるなんて……」
だから、キラキラとした目でこちらを見てくるレミナには罪悪感を刺激されてしまうけれど、もちろん僕だってただの道楽でレミナにウソをついた訳じゃない。
威力がほとんどない第零階位魔法の〈トーチ〉を除けば、実質最初にして最弱の火魔法である第一階位魔法〈ファイア〉。
その魔法があれほどの威力を持つのは、僕が使いまくって熟練度を上げたからだ。
ちょっとした目標のために努力をしまくった結果、僕の〈ファイア〉は〈ファルゾーラ〉と見まがうほどの威力を手に入れた。
おかげで初期魔法の消費MPで終盤クラスの魔法を連射出来るコスパ最強技が生まれた訳なんだけど、これはこれで問題がある。
エレメンタルトーテムの成長上限などから考えると、初期魔法をどれだけ鍛えても、最終魔法と間違えられるほどの威力には届かないと考えるのが自然だ。
これはおそらく転生ルールの「カンスト撤廃」による恩恵で、明らかに原作ゲームで出来る範囲を逸脱している。
――要は、「ゲーム前半なのにもう最終魔法を覚えている」ことと、「初期の魔法が最終魔法並みの威力になっている」こと、どちらの秘密がやばいかと考えた結果、僕は後者の方を隠すべきだと判断したのだ。
……まあ、僕の偽装も完璧じゃない。
レミナが冷静に見ていれば、規模や威力が大きいだけで、魔法のエフェクト自体は〈ファイア〉そのものであることに気付いたかもしれないし、ほかの大魔法の時には全身を色濃く覆っていた赤い魔力の燐光が、あの〈ファイア〉の時だけは腕にうっすらと浮かぶ程度だったことに、違和感を持ったかもしれない。
とはいえ、あれだけの威力の魔法が、今日これまでに見せた魔法の中で「一番魔力消費が少ない」なんて普通は考えないし、このフェイクのために全く必要もない「タメ」まで作って大技アピールしてみせた。
特に疑う理由もないこの状況で、あの魔法が第一階位魔法だなんて見破ることは不可能だろう。
友達をこうやって騙すのはちょっと気が引けてしまうけれど、事は原作の、ひいては世界の命運にかかわること。
もし原作が壊れたせいで魔王を倒せなければ、レミナも僕も死んでしまう可能性が高いのだから、そこは許してほしい。
「それにしても……」
見ると、レミナもようやく最初の興奮が収まったのだろう。
今度は僕が撃った魔法の跡地を見て、そこに転がる戦利品の山に目を丸くしていた。
「すごい数のアイテム、ですね。それだけたくさんの魔物がいたってことでしょうか」
「そうだね。僕もあんなにたくさんのドロップアイテムは……」
誇らしさ半分、心苦しさ半分で、僕はレミナの言葉に笑みを返そうとして、
――ゾクリ、と背筋が震えた。
僕の魔法は、集まった魔物たちを全滅させるほどの威力があった。
そのはずだ。
――なのにどうして、ドロップアイテムが散乱してるんだ?
気付いた瞬間、僕は動いていた。
「レミナ! まだ、終わってない!」
「えっ?」
混乱するレミナを引き寄せ、ぐるりと辺りを見回す。
そして、森の中に赤いものが見えたと認識した瞬間、その方向に右手を向けていた。
「――〈ウィンドスラスト〉!!」
躊躇なく、魔法を放つ。
それは、森の木々……ゲーム的には「壁」であるはずの場所から蛇型の魔物が飛び出したのと、全くの同じタイミングだった。
「ギャッ!」という耳障りな音を立てて、森から飛び出してきた蛇……〈デモニックコブラ〉という魔物が、地に落ちた。
「――〈フレイムランス〉!」
地面に落ちたままのたうつ魔物に、僕は間髪を入れずに追撃を放って、トドメを刺す。
「……え」
遅れて襲撃に気付いたレミナの顔が、青くなった。
「ま、まさか、壁の中から……」
「うん。厄介だね」
おそらくこれは、このイベント中だけの特殊状態。
イベント中に限り、ダンジョンの壁に当たる木々からも敵の増援が出てくる、という仕様なのではないかと想像出来た。
(木々の隙間からHPゲージが見えてよかった)
肉眼だけでは、緑色をしている蛇の魔物を捕捉出来なかったかもしれない。
「す、すごいです! 魔法が強いだけじゃなくて、あんなところから奇襲してくる魔物の気配も感じ取れるなんて!」
まるでそういう係にでもなったかのように、嫌味なく僕を褒めてくれるレミナの声に、頬を緩めたい気持ちはあった。
ただ……。
「あ、ありがとう。でも、すごくは、ないんだ。むしろ、自分でも信じられないほど油断していて……」
その時の僕の頭の中を占めていたのは、全く別のこと。
それは、頭の中で高らかに鳴り響くおなじみの勝利BGMに合わせて表示された「MAP COMPLETE!!」の文字と、それから……。
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……
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リザルト画面に表示される項目が増える度、地面から消えていく魔物のドロップアイテムのことを、どうやってごまかせばいいのか、ということだった。
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リザルト画面のイメージはタクティクスオ〇ガです
戦闘終わったあと、地面の戦利品が自動回収されるの……いいよね!