第百五十二話 アルマの魔法
なんか普通に忙しくしてました!
まだ終わってないから割とこんなんやってる場合じゃないんですが、もう我慢出来ねえ更新だぁ!
「こ、これ〈エレメンタルトーテム〉? で、でも……」
僕の魔法によって生み出された黒い塔、百段階目の〈シャドウトーテム〉を見上げ、レミナは呆然とつぶやいた。
まあ、気持ちは痛いほどに分かる。
だって……。
(――ほんっと、めっちゃくちゃでっかいなぁ!)
魔法を使った僕自身も、びっくりしてるんだから!
いや、なんで本人が驚いてるんだよ、と言われそうだけど、こんなに大きくて目立つもの、普通の場所で練習出来るはずもない。
熟練度上げをするにも一工夫必要な訳で、僕は〈シャドウトーテム〉の熟練度が高くなってからは一度もまともにこの魔法を使っていなかったのだ。
(いつか試そう、とは思ってたけど、今まであんまりいい機会がなかったんだよね)
何しろ僕の魔法によって現れた〈シャドウトーテム〉はまさに見上げるほどの高さ。
近くからこうやって仰ぎ見ても、その頂上が見えないほどだ。
どこで使ったって、騒ぎになってしまうに決まっている。
大きいだろうとは思っていたけど、いざ目の前にすると驚いてしまう。
いや、むしろ十段階目までの伸び率を考えれば、この高さでも控えめなくらいなんだろうか。
「あ、あの、レオハルト様! これってトーテムですよね! で、でも、こんな大きさで、それにこの色は闇の……」
トリシャの三十倍のスルー力があると言われるレミナ(アルマ調べ)でも、流石にこれはスルー出来なかったらしい。
焦った様子で問いかけてくる。
「ごめん。ちょっと待って」
僕としても、ここに至ってレミナに隠すつもりはない。
色々と説明してあげたいんだけど……。
「――その前に、お客さんみたいだ」
こんな派手なことをして、奴らに気付かれない訳がない。
「え……」
レミナがハッと振り返ったその先に、
LV 92 ネクロウィザード
LV 95 ブラッディサイクロプス
恐るべき深層の魔物たちが、獲物を品定めするような目で、僕らを見据えていた。
※ ※ ※
「あ、ぁ。レオハルト、様……」
深層の魔物ににらみつけられ、身体を震わすレミナを、僕は静かに励ます。
「……大丈夫だ」
なぜなら、僕の見立てが正しければ。
「あいつらのうちの半分は、もう戦力にならない」
「え?」
驚いた顔をするレミナに声をかけたいところだけれど、そこで魔物が動く。
「レミナは、僕の後ろに!」
相手は、魔法使い系の魔物である〈ネクロウィザード〉が二体と、巨大な一つ目の巨人である〈ブラッディサイクロプス〉が一体の、計三体。
ただ幸いにも、サイクロプスの方はニヤニヤと笑いながら様子見の構えで、すぐに襲いかかってくる様子はなさそうだ。
一瞬だけ、背後に目をやる。
僕の出したトーテムは上手いこと道に嵌まっている。
道の反対側から敵が来る心配は、少なくとも当分はしなくていいはずだ。
と、そんな風に視線を外したことを、隙と見て取ったのか。
「――〈ダークランス〉」
「――〈ダークランス〉」
完璧にシンクロした動きで、二体の〈ネクロウィザード〉が闇色の魔力の槍をこちらに放ってくる。
「レオハルト様! 逃げて!」
後ろでレミナが悲鳴のような声をあげるけれど、僕は動かない。
必然として、その漆黒の槍は、超高速で僕の身体を捉え、
――ぱしゅん。
まるでシャボン玉みたいにあっけなく、僕に当たると弾けて消えた。
「え、え?」
レミナと、それと魔法を撃った当人のウィザードたちは戸惑った様子を見せるけれど、
(――うん! 期待通り!)
これは、僕の予想の範囲内。
敵の方を見据えたまま、困惑しているレミナに声をかける。
「安心して。〈エレメンタルトーテム〉の軽減効果だよ」
「シャ、〈シャドウトーテム〉の、ですか? で、でも……」
レミナの言いたいことは分かる。
「……まあ、その、本当はここまで強くはならないんだけど、そこはちょっとズルをした感じかな」
説明文では〈エレメンタルトーテム〉は最大で十段階で、その場合でも軽減率は30%までしか至らない。
なのになぜ、僕が闇属性完全無効のトーテムを作れたかと言えば、答えは簡単だ。
僕の転生を通知したメールに書かれていた【ゲームへの転生の場合のルール】、その四つ目。
・要望多数により自分の成長の限界(いわゆるカンスト)は撤廃しましたので、好きなだけ強くなることが可能です
この「成長限界の撤廃」こそが、掟破りの百段階トーテムが作れた秘密。
レベルや能力値だけではなく、魔法の熟練度に対しても、この効果が適用されていたのだ。
とはいえ、最初は〈シャドウトーテム〉をここまで鍛えるつもりはなかった。
だって、あまりに大きくすると訓練の時に邪魔になるし、肝心の戦闘で天井につっかえて消えてしまったら役に立たない。
だから、熟練度は十一で抑えよう、と思っていたんだけど……。
(もう、手遅れだったんだよね)
十一段の時点ですでに、〈シャドウトーテム〉は洞窟型のダンジョンや屋内では使えないほどに大きかった。
でも、闇属性を軽減出来るこのトーテムの効果は終盤に向けて重要になるはず。
そこで、僕は考えたのだ。
――だったらいっそもっとでっかくして、ダンジョンとか建物の隣に設置しても、中まで効果が届くようにしたらよくね?
……と。
我ながら、見事な開き直……逆転の発想。
そうして生まれたのが、この規格外の大きさを持つ〈シャドウトーテム〉になる。
「トーテムの軽減効果は初期が10%で、トーテムの段数が増えるごとに2%ずつ効果量が増えていく。で、このトーテムは百段階目だから……」
「軽減効果、210%?」
眼を丸くしながら口にするレミナに、うなずきを返す。
(……まあ、100%を超えた分は特に意味はないみたいだけど)
耐性が100パーセントを超えたらワンチャン回復するのでは、みたいな期待もない訳じゃなかったけれど、〈フォールランドストーリー〉は割としっかりとしたゲームだ。
こういうありがちなバグ要素は、対策していたようだ。
まあともあれ、それでも十分。
何しろ、このトーテムの影響下では、闇の魔法は意味をなさない。
つまり、
「――あの二体のウィザードは、もう無力化したも同然ってことだよ」
言いながら前に一歩を踏み出すと、対照的に〈ネクロウィザード〉たちはまるで恐怖を感じているように一歩あとじさる。
それに、深層の魔物としてのプライドを傷つけられたのか、まるで激昂したかのように、二体のウィザードたちは競うように詠唱を始める。
「――〈ダークミスト〉」
「――〈ダークボール〉」
発動は、やはり同時。
今度は二体が別々の魔法を唱え、それをぶつけてくるが、そのどちらも効果を発揮することはなかった。
攻撃魔法である〈ダークボール〉はおろか、状態異常魔法である〈ダークミスト〉すらあっさりと消え去ってしまう。
「す、ごい……」
レミナのつぶやきが、耳を震わす。
元の仕様を知らないため推測になるけれど、これはおそらく、ゲームが現実化したことによる変化。
「同属性の攻撃を弱める」という性質が拡大解釈されたのか、純粋なダメージ要素だけでなく、同属性のあらゆる魔法効果を弱めるようになった。
明らかに規格外の力。
いくら転生特典を使っているとはいえ、不遇魔法とされていることが信じられないほどの効果だ。
ただ……。
「……まあ、欠点もあるんだけどね」
「えっ?」
トーテムは、段階が進むごとに消費する魔力も増える。
百段階目ともなればその消費MPは105となり、初級魔法のざっと50倍。
当然そんなの、MPがもつはずもなく……。
「実はもう、MPがすっからかんなんだよ」
「えっ、えっえっ?」
それはとても、まずいのではないか。
そんな風に言いたげな様子のレミナに、僕はもう一度笑みを見せた。
「あー、大丈夫だよ。……僕の本番は、MPがなくなってから、だからさ」
ここまで来たらもう隠すことは無理だろう。
レミナから視線を切り、僕はいまだ困惑から回復していない〈ネクロウィザード〉たちへと、その手を向ける。
「その、光……」
同時に、魔力《MP》が尽きたはずの僕の身体から、噴き上がるように赤い燐光が舞い踊る。
それは〈気力〉の源泉、〈生命力〉を基とする魔力の輝き。
命そのものを力とするその魔力は、やがて僕の手のひらに収束して、
「――〈ウィンドバースト〉!」
暴風が、二体のウィザードたちの間で爆発した。
反撃開始!