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第百四十六話 イレギュラー

おかしい……

一話短くするのってどうやるんだっけ?


「――安全地帯、ですか?」


 ディークの言葉に、大声の主、ネリス教官は大げさにうなずいた。


「正確に言うと、安全地帯候補、だな。この森は毎回構造が変わるんだが、一部の地形とかギミックは毎回同じようなもんが出るんだ。で、その一つに浅層と中層の間に出てくる、でっかめの広場があるんだが……」


 ネリス教官はそこで言葉を切って、演出効果たっぷりにタメを作ると、



「――そこでは大体、ほかより強い魔物が召喚されて襲ってきやがるんだよ」



 邪気のない邪悪な笑顔で、そんなことを言い捨てた。


「いや、安全地帯とは真逆じゃないですか!」


 たまらず僕が口をはさむと、


「……と、思うだろ? だけど違うんだなぁ、これが」


 ネリス教官は、ニヤけた顔でチッチッチとムカつく仕種で指を振った。

 正直殴りたい。


「広場には魔法陣があって、広場に入った瞬間にそこから魔物が召喚されて襲ってくるんだが、一度倒したらしばらくは新しい魔物は湧かない。しかも、その部屋は入口が一ヶ所しかないからな。大人数が休むには最適、ってワケよ」

「……つまり、強敵を倒すと安全地帯になる場所、ってことですか」

「一言で言やぁ、そうだな」


 じゃあ最初からそう言えよ、とは思うけれど、この人には言うだけ無駄だろう。

 僕はあきらめて、さらなる情報を聞き出すことにした。


「魔物って、何が出てくるんですか?」

「場合によって色々だな。弱めの敵がワラワラ出てくることもあれば、強そうなのが数体出たり、ボスが一体ってこともある。ただ、どんな場合でも普通に出てくる敵よりは苦戦するはずだぜ」


 いわゆる中ボスエリア、といったところだろうか。


「例年、その広場を制圧して、昼飯食ったりそこを拠点に追加の探索したり、ってのが通例なんだが、問題は広場に出てくる魔物でさぁ」


 浅層の魔物が弱いとは言っても、下位クラスの中にはそれでいっぱいいっぱいな生徒もいる。

 だからこそ、広場にはBクラスやCクラスの生徒には突入させられない、というのが教官の事情らしい。


「仕方ねえからお姫様のチームでも呼びに行くかと思ってたところだから、手間ぁ省けたぜ」と言ってカラカラと笑う教官。


 あいかわらずなんで教育者やってるのか分からないくらいの最低っぷりだけれど、僕にはそれ以上に思うところがあった。


(……いよいよ、か)


 ここまでお膳立てされたような状況で、気付かないはずがない。



 ――イレギュラーが起こるのは、ここだ。



 魔法陣から出てくるのが何かは分からないが、絶対に普通のモンスターじゃない。

 ここからが、本当の「イベント」だ。


 ――嵐の予感に、僕は一人、密かに拳を握りしめたのだった。



 ※ ※ ※



 結局、ネリス教官のお願いを聞いて、僕のパーティとディークくんのパーティの二組で広場の敵と戦うことになった。


「ま、ほんとにやばそうになったら私も助けてやるから、死ぬ寸前まではがんばれよー」


 ひらひらと手を振る教官からは、まるで緊張感が見られない。

 それにこちら側のメンバーも、戦いを前に緊張するというよりは、どちらかというと活躍の機会が来たことを喜んでいるようだった。


 ……それは、そうだ。


 僕と違って、彼らはここで想定外の事態が起こることなど知らない。

 だとしたら、今さらレベル30程度のダンジョンの罠に警戒するはずもない。


 それでも、ディークくんにだけは声をかけておく。


「ディークくん。くれぐれも、油断だけはしないようにね」

「ん? あ、ああ。そりゃあ油断はするつもりはないが……。流石に心配しすぎじゃないか?」


 そう正面から問い返されると、なかなか答えにくい。


「ええと、なんだかちょっと、嫌な予感がするというか……」


 僕が歯切れ悪く答えると、本格的な戦いを前にナーバスになっている、と思われてしまったらしい。


「はは! 心配すんなって! 余裕だとは思ってるが、油断はしてない。何が出てきても、オレがぶった切ってやるからさ!」


 ディークくんは頼もしい笑顔を向けて、ドン、と胸を叩いて請け負ってくれたけど……。


(……むしろ、そういうところが心配なんだよね)


 なんというか、僕らのチームはちょっと前のめりすぎるのだ。


 僕のパーティは前衛のスピード系戦士のセイリアに、中衛のトリシャ、典型的な後衛魔法使いのファーリとレミナ、と編成が攻撃に寄っていてタンク役がいないし、ディークくんのパーティも似たり寄ったりだ。


(多少強いのが出てきても、勝てないってことはないだろうけど)


 きちんとした盾役がいない以上、事故の可能性が怖い。


(集団相手の殲滅力ばっかり意識しすぎたかな?)


 なんて反省をしてしまうが、今さら考えてももう遅い。


「じゃ、先に行くぜ」


 話し合いの結果、ディークくんのパーティに先頭を譲り、僕らはその後ろに続くことになった。


 僕らのパーティの陣形は、先頭をセイリア。

 中衛にトリシャと魔法使いだけどスペック的にそれなりに動けるファーリを置いて、後衛にレミナと僕がつく形で進む。


 僕の立ち位置は迷ったけれど、不測の事態が起こった時、パーティメンバーを一番ケアしやすい後方に今回は陣取ることにした。


 そこから広場までは一本道。

 その間、敵が出てくることはなかったけれど、


「っ!? 虫!?」


 目的地の広場の方から小さな虫が飛び出してきて、一瞬だけ隊列が止まる事件があった。

 ただの虫だったか、と周りが気を抜く一方で、


(……イベント前の演出か、イレギュラーの伏線、かな。どちらにせよ、こりゃイベント濃厚だ)


 僕は何かが起きるという確信を強くする。


 そこからは何事もなく前に進み、広場まであと少し、というところで先頭のディークくんが一度立ち止まる。


「広場に誰かが足を踏み入れた時点で、召喚魔法陣が起動する。オレが広場に入ったら、すぐに全員で駆け込んで陣形を作ってくれ!」


 ディークくんの注意喚起に、僕らは無言でうなずいた。


「行くぞ!」


 ディークくんが勇ましい叫びをあげながら、広場に飛び込み、そのあとを彼のパーティメンバーが続いていく。


 彼らに続いて、


「んー、腕がなるね!」

「むぅ。めんどくさい」

「レオっち、レミナを任せたよ!」


 僕のパーティのみんなも次々に広場に走り込む。

 そうして、


「レミナ!」

「はい!」


 最後尾の僕とレミナも広場に駆け込もうと、足を踏み出した瞬間、



「――え!?」



 足元、広場の入口の地面が、光る。


「なっ!? これ……!」


 思い出すのは、転生前に見た光。

 複雑に回転するその魔法陣に、「それ」がなんの模様なのか理解した瞬間、




「――へ?」




 僕の視界は、あっさりと切り替わっていた。


「ここは……」


 慌てて辺りを見回すと、そこは森の中には違いないけれど、先ほどまでとは大きく植生が変わっていた。


 ダンジョンとはいえ、曲がりなりにも普通の木々に囲まれていたはずが、今周りに生えているのはまがまがしく歪んだ真っ黒な木ばかりで、とてもまともな場所とは思えない。


(やっぱり、転移罠!)


 隣を歩いていたレミナ以外、周りにはほかの生徒やパーティメンバーの姿もない。

 完全に、分断されてしまっていた。


(まさか広場じゃなくて、手前の通路に罠があるなんて……)


 あまりにも露骨にイレギュラーが起こりそうな魔法陣があったから、その前に何かが起こるなんて考えもしなかった。


 油断した、と僕が自分の甘さを悔やんでいると、



「――レ、レオハルト様! あれ!」



 頭上を見上げていたレミナが、切迫した声をあげた。

 これ以上何があるんだ、と僕も天を仰いで、



「……世界、樹?」



 ほぼ真上に見えた、見えてはいけないものに、思わず声を漏らした。


(さい、あくだ……)


 この〈常闇の森〉は世界樹を中心としたダンジョン。

 世界樹に近付くほどダンジョンの奥に進むことになり、敵も強くなる。



 そして、ダンジョンの中心である世界樹が、こんなに近くにあるということは――



「――間違いない。ここ、〈深層〉だ」



いきなりサバイバル!




この作品とは全然関係ない宣伝になんですが、「猫耳猫」こと「この世界がゲームだと俺だけが知っている」のコミックス版最終10巻がついに発売されました!


いやまあ流石に邪神編までやるのは色々厳しいってことで魔王編までなんですが、イチゼンさんが綺麗に完結させてくれたので興味があったら読んでみてください!

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かっこいいアルマくんの表紙が目印!
書籍二巻、11月29日より発売中!
二巻
ついでににじゅゆも


― 新着の感想 ―
[気になる点] 絶禍を使えばとりあえず安全地帯にはなりそうだ。
[良い点] 筆力や構成力が高い。 見事なお手前です。 [気になる点] 「この世界がゲームだと俺だけが知っている」のコミックス版は、ボクが安定して絵を描く時間が確保できるようになったら、買って読んでみ…
[一言] トリッピー、お前だったのか……。 これがマジなら伏線えぐい。
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