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第百四十三話 フィルレシア皇女


「――よろしければそのお話、私にも聞かせていただけませんか?」


 そう言って僕らに声をかけてきたのは、〈ファイブスターズ〉の筆頭である〈皇女フィルレシア〉。


 彼女は完璧な笑みを浮かべながら、僕との距離を詰めてくる。


「え、と、『その話』って……」

「先程話題にあがっていた指輪についてです。一月ほど前の練習場で、とてもすごい指輪を使われていましたよね。あれから、ずっとお話を伺いたいと思っていたんです」


 分かってはいたけれども、さっきのやりとりを聞き咎められていたらしい。


 まずいことをしてしまった、とセイリアが青くなるけれど、迂闊だったのは僕も同じ。

 はっきり言えば指輪についてはそこまで隠すつもりもなかったので、気にはしていない。


「え、ええと、興味を持っていただけたのは光栄ですけど、こんなところに来ちゃって大丈夫なんですか? その、皇女様がパーティから離れちゃったら、戦力が……」


 それでも、正直皇女様に目をつけられるのは避けたい。

 自分でも往生際が悪いと思いながらも、そうやって話を逸らそうとしたけれど、皇女様は一枚上手だった。


「討伐のノルマならもう終わらせていますから、問題ありませんよ」

「え……」


 くすりと笑うと、さらっと衝撃的な事実を告げてくる。


「僭越ながら私は『聖女』と呼ばれていますから。戦利品を譲ると言ったら、皆さん協力的になってくださって……」

「それは、どういう……?」


 僕が首を傾げていると、彼女は優しく解説してくれた。


「魔物の落とす装備や道具は、魔物の魔力が『浄化』されたもの。だから、『浄化』の性質を持つ光属性の使い手や精霊がいると、特別な品物が落ちやすい、と言われているんですよ」

「へ、へえぇ……」


 確かに、ゲームで装備品がポロポロ落ちるRPGなんかを見て、こんなにドロップするなら一瞬で値崩れしそう、と思ったことはあるし、この世界でもこんなに簡単に装備が手に入っていいのかな、と思ったことはある。


 ただ、主人公が生まれながらにドロップアップの特殊能力を持っていた、とすればその矛盾は解決する。


(――アルマくん、やっぱり優秀じゃん!)


 光属性Sの僕は自分自身アルマを褒めながらも、これは絶対バレちゃいけないな、とあらためて理解した。

 そして、


「……ふふ」


 そんな僕の様子を、フィルレシア皇女が瞬き一つせずにじっと眺めているのに気付いた。

 ……ぶっちゃけちょっと怖い。


「そう身構えないでください。ただ、貴方が使っていた素晴らしい指輪について気になって、少しお話を聞きに来ただけ、なのですから」

「あ、あははは。そ、そうですか」


 冷や汗が止まらない。


 ギャルゲの世界だけあって、身分差がある相手に普通に接していても許される世界観だけれど、そういったものとは違った迫力がフィルレシア皇女にはある。


 そんな僕の様子を見てどう思ったのか、


「ああ。盗み聞きの類を気にされているなら心配は要りませんよ。ほら」


 そう言って、彼女は手にした魔道具を起動させた。

 ずいぶん小型だけれど、前にトリシャが使っていたのと同系の防諜用のものだろう。


(いやいやいや! これ、絶対「少し話を聞きたいだけ」の時にやる準備じゃないじゃん!)


 内心で叫ぶけれど、それで逃げ出せる訳でもない。


(……まあ、腹をくくるか)


 考えてみれば、別に強い指輪を持っていること自体は、悪いことじゃない。

 僕は意識的に気持ちのスイッチを切り替えて、皇女様に相対する。


「それで、興味があるというのは、どのような指輪の話でしょうか?」


 僕が覚悟を決めて皇女様に尋ねると、彼女は顔をぱあっと明るくした。


「ありがとうございます! そうですね。これは、あくまでも噂、なのですけど……」


 そう前置きして、彼女はあっさりとこう口にする。




「――貴方が〈レッドドラゴンリング〉を持っている、という話を聞きまして」




 ドクン、と心臓が跳ねた。


 視線がレミナたちの方へ行きそうになるのを必死にこらえる。


(そんな噂が流れるなんて、ありえない)


 僕が学園であの指輪を見せたのは、レベル上げでレミナたちに指輪を貸した時だけ。

 それがどうして、フィルレシア皇女のところに情報が行っているのか。


「申し訳ありません。やはり噂は、間違いでしたか?」


 心の底から心配そうな口調と声。

 顔を上げると、気遣わしげな表情を顔に張りつけながらも、その両の瞳がじっと僕を観察していた。


「いえ。確かに、その、最近は属性を強化する指輪をいくつか手に入れて……」


 真偽を判別出来る魔法がある世界で、軽率な嘘は身を滅ぼす。

 それに、僕が持っているのが火属性を強化する指輪だと知れば、フィルレシア皇女も興味をなくしてくれるかもしれない。


 そんな思いから、僕は噂を認めたのだけれど、


「まぁ! でしたら、よかったです!」

「え……?」


 なぜか、彼女は僕の言葉に満面の笑みを浮かべた。


「実はこの話をしたのは、貴方に指輪をお譲りいただけたらと思ったからなんです」

「それは……」


 当然予想していた話の流れ。


 なのになぜだろう。

 とんでもなく嫌な予感がするのは……。


「もちろん対価は払いますし、この取引はアルマくんにとって得しかないと思いますよ。だって、私がお譲りいただきたいのは『光属性を強化する指輪』なんです。それなら――」


 その予感を裏付けるように、フィルレシア皇女は口を開いて、




「――光魔法を使えない貴方には、不要なものでしょう?」




 完璧な皇女の仮面の奥で、底知れない闇を宿した瞳が嗤った気がした。

フィルレシア様は裏表のない素敵な人です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 速報 皇女殿下、おねだり疑惑! これはパワハラなのか!?
[一言] 更新できてて、すごいです!
[一言] カツアゲじゃーい!
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