第百三十二話 最高適性
「――す、すごいじゃん、レミナ! こんなの、まるでエレメンタルマスターだよ!」
セイリアが、レミナの魔法適性を見て、跳び上がるようにして手を叩く。
流石に兄さんを引き合いに出すのは少し大げさな気もするけれど、気持ちは分かる。
僕はもう一度、レミナの魔法適性が書かれた紙に目を落とした。
【魔法適性 レミナ】
火:A
水:A
土:A
風:A
曲がりなりにもメインキャラと思しきトリシャを軽々と超える、とんでもない魔法素質。
(……これは、どういうことなんだ?)
この適性の値は明らかにやばい。
今までの感じからすると、魔法適性Aなんて一つあるだけで優秀というレベルなのに、それが四つ。
どう考えても、普通じゃない。
ここはやはり、有識者の意見を求めるのがいいだろう。
「あのさ、トリシャ。こんな風に、適性四つが横並びになるなんてありえるの?」
通常、魔法の適性は得意属性が高く、その反対属性が使えなくなり、残りは得意属性よりは低い値で終わるはず。
例外として、得意属性が二つある「デュアル」や「ツイン」というのがあるとは聞いたけれど、それにしたって四つが横並び、というのはおかしい。
そんな疑問に対して、トリシャは言葉を選ぶようにして、口を開いた。
「めずらしい、とは思うよ。レミナはわたしが見つけた時から、四属性の魔法を全部同じくらいに扱えたんだ。ここまで綺麗に横並び、とは思わなかったんだけど……」
トリシャは真剣な顔で続ける。
「でも、ありえないことじゃないと思う。デュアルだったら弱点属性はなくなるし、得意属性とそうじゃない属性の差が少ない人っていうのは、ほかにもいるから……」
どこか歯切れの悪いトリシャの言葉。
ただ、ある程度の説得力はあった。
(……ほかにもいる、か)
実際、兄さんは四属性を均等に使っている節があったし、もっと身近に似たような例を知っている。
――僕だ。
四属性だけを見れば、僕は全てE。
全部がAのレミナと比べれば月とスッポンもいいところだけど、横並びなのは一緒だ。
ただ、僕の適性が横並びなのは、「光魔法がSでほかが全てE」という、言ってみれば主人公的な演出をするための、いわば例外的な措置だろう。
いやでも、そう考えると……。
(――レミナにも、僕と同じような「理由」がある?)
一瞬そんなことを思ってしまって、首を横に振った。
そもそもレミナ・フォールランドは、トリシャが孤児院で見出したという魔法が得意なだけの普通の少女。
何よりそのステータスには、図鑑マークがない。
――つまり、原作には登場しないか、もしくは登場してもさして重要じゃないキャラ……のはずだ。
図鑑マークを見る限り、すでにヒロインとその対応キャラだけで十人。
今まで世界一が作ってきたRPGの傾向からして、仲間の人数はそんなに多くはならない。
原作において、レミナがゲーム中に仲間になっている可能性は低いはず。
(だったら……)
やっぱり、どうしてメインでもないキャラにこんな素質が、という疑問が残る。
実は優秀な人物として話題には上るけれど出番があまりなかったとか、現実化した影響で本来は学園に来ないはずの人物をトリシャが引っ張ってきたとか、可能性だけは色々と考えられるけど……。
「――ね、ねぇねぇ! 次はボク! ボクも適性、教えてもらいたい!」
セイリアの声に、明後日の方向に飛んでいた思考を引き戻される。
「あ、ああ。ごめんごめん」
……うん。
レミナの適性については確かに気になるけれど、すぐに答えが出せるような問題じゃなさそうだ。
それよりまずは、全員分の適性を判明させてしまおう。
「じゃあ、セイリアも見てみようか」
おかげさまで、下から上まで完全にデータは出そろった。
セイリアにも四属性のトーテムを三段階まで育ててもらって、手早く適性を割り出す。
「……うん。こんな感じ、かな」
【魔法適性 セイリア】
火:S
水:―
土:D
風:E
差し出した適性は、トリシャのものよりもさらに尖った形。
火属性に一点突破した適性で、いっそ清々しい。
あ、ちなみにセイリアの水属性のように横線を引いているのは「この属性の魔法は使えない」と分かりやすく示すためで、アルファベットで表記するならG。
装備などで魔法適性を引き上げない限り、絶対に魔法が発動しないランクを指す。
判明した自分の適性を見て、セイリアは真剣な顔をして考え込んでいた。
「これは……とにかく火属性の魔法を伸ばせばいいってことかな?」
「うん。まあ、魔法詠唱が低いと魔法が全然成功しなくなるから、土と風も最低限は上げた方がいいけどね」
僕が言うと、なるほどなるほどとセイリアもうなずく。
前は「剣さえあれば魔法なんて」という態度のセイリアだったけれど、今回のトーテムや適性検査を通じて、ちょっとは魔法にも興味を持ってくれたらしい。
「じゃあ最後は、ファーリに……ファーリ?」
そういえば、普段なら魔法のこととなると一番に食いついてくるファーリが、今回はやけにおとなしい。
不思議に思って彼女の方を見ると、
「き、緊張でおなかが……」
「え、えぇ……?」
いつもマイペースな彼女が、今は青い顔でお腹を押さえていた。
魔法好きゆえに我が道を行くファーリだけれど、魔法好きだからこそ、自分の適性を知るというイベントの価値は思いのほか大きいらしい。
「ま、まあ、とりあえず始めない?」
とはいえ、別に緊張してもしなくても結果が変わる訳じゃない。
僕が促すと、彼女は「待って!」と大声で僕を止めて、
「――し、調べる前にちょっと、身を清めてきていい?」
と、訳の分からない提案をしてきたのだった。
※ ※ ※
「――か、覚悟は出来た! 煮るなり焼くなり、好きにして!」
道場備え付けのシャワーを浴び、湯上りの顔に緊張を貼りつけたファーリがそう宣言する。
「い、いや、好きにしろって言われても、魔法使うのは、ファーリなんだけど……」
別に僕は、回数を数えて適性を判定するだけだ。
(それに……)
ガッチガチに緊張しているところ悪いけれど、ファーリの適性については前の一件でもう想像がついている。
素の状態で火が使えないのは確定、
水は最高ランクとしても、熟練度上げを放棄するほどだった土と風の適性が高いはずがない。
つまりは、
火:―
水:S
土:E
風:E
というのが僕の予想。
これは大方外れてはいないはず。
……と、思ってたんだけど、
「……ええと、じゃあ土属性と風属性は、Fだね」
「う、うぅぅぅぅ!」
真実は、現実よりも多少残酷だった。
(子供の頃、無理矢理属性を変えられた影響で水以外の属性が苦手になった、って言ってたけど)
これなら、水属性以外を育てなかった理由も分かろうというもの。
「レ、レオぉぉ……!」
「だ、大丈夫! まだ一番得意な水属性が残ってるから、ね!」
「……う、うん」
すっかり子供に戻ってしまったファーリをあやしながら、僕は内心で冷や汗をかいていた。
(こ、これでもし、水属性がBとかCだったら気まずいよね!?)
で、でも、仮にも彼女は原作ゲームが誇るヒロイン(推定)。
能力的に強みがないはずがない……と思いたい。
「じゃ、じゃあ水トーテムを作ってみてね」
どうかせめて、水属性だけはSであってほしい。
そんな願いのもと、ファーリが水属性トーテムを作っていくのをみんなで固唾を飲んで見守って……。
(あ、あれ……?)
なんだかんだ言って、彼女は水属性Sで確定だと、そう思っていた。
でも、何度計算しても、Sランクであるはずのセイリアの火属性や僕の光属性の結果とは、数値が合わない。
「レ、レオ……? ど、どうだった、の?」
その雰囲気を感じ取ったのだろうか。
泣きそうな目で僕を見上げるファーリに、僕は無言で検査結果を突きつけた。
【魔法適性 ファーリ】
火:―
水:SS
土:F
風:F
超特化型!!
そういえばこっちで触れたことなかったですが、ゲーム製作の方はci-enでページ作ってます
https://ci-en.net/creator/16826
興味のある人は覗きに来たり来なかったりしてください!





