第百二十七話 次の戦いに向けて
(――ほんと、順調すぎて怖いくらいだなぁ)
初めの頃は、自分がきちんと原作を守護れているのか、不安で眠れない日々もあった。
しかし、今は魔王に行きつく鍵のうちの一つを無事に入手して、一年目の序盤の段階ですでにレベルは75。
メインヒロインと思われる五人のうち、二人ともうすでに信頼関係を築けている。
これを順調と言わなければなんと言えばいいのか、というくらいに順調だ。
(ま、全部この身体の性能と、メニュー画面がチート仕様だったおかげだけどね)
流石は主人公、と納得してしまうような特典が山盛りで、それに助けられているというのは否めない。
僕だけこんなに恵まれてていいのかな、と思ってしまうほどだ。
……逆にそのせいで周りからの僕への評価については、原作の「落ちこぼれ」からはほんの少しばかり外れてしまっているけれど、周回主人公と考えればきっと大丈夫。
だって、評判に差異があったとしてもそれはおそらく序盤だけ。
何しろアルマくんはこのゲームの主人公だ。
原作でも物語が進むにつれて評判が上がっていくだろうから、物語が進めば問題じゃなくなる……はずだ。
――ただ、順調すぎて困ったこともある。
次の大規模な学校行事はまだ一ヶ月も先。
そこまでガッツリと時間をかけてレベリングをするつもりだったのだけれど、〈終焉の封印窟〉のおかげでその必要も薄くなってしまった。
(ここまで来ると、レベリング出来る場所も限られてくるしなぁ)
格下の魔物からは経験値がほとんど得られないという仕様上、レベル上げをするならかなり強力なダンジョンに潜るしかないが、そうすると必然的に注目度も上がることになる。
それよりは時間を置いて、〈終焉の封印窟〉の魔物がリポップするのを待った方が無難だろう。
(まあ〈終焉の封印窟〉はラストダンジョン疑惑があるから、ちゃんと敵が復活するかは未知数だけど……)
とりあえずその辺りを確かめるまでは、レベリング自体の優先度は下がると考えてもいいはず。
それに、次のイベントは前回の武術の大会なんかとは毛色が違う。
――次回の学校行事は〈集団討伐演習〉。
集団と名の付く通り、チーム行動の課題なのだ。
幸い、メンバーについてはもう決まっている。
僕は顔を上げると、兄さんの力を借りてでっち上げた部活〈戦闘技術研究部〉の面々を眺めた。
まず目についたのは、道場の隅で一心不乱に初級魔法を唱え続けている青髪の少女。
ファーリ・レヴァンティン、LV85。
それから、道場の真ん中で燃え盛る刀を使ってリトルボムを斬りまくっている赤髪の少女。
セイリア・レッドハウト、LV84。
魔法の使い過ぎで疲れたのか、道場に持ち込んだ優雅なテーブルにぐてっと突っ伏す少女。
トリシアーデ・シーカー、LV57。
テーブルに潰れるトリシャを楽しそうに眺めながら、その髪を撫でている少女。
レミナ・フォールランド、LV32。
この四人が、僕のチームメンバーになってくれる予定だ。
本来、〈集団討伐演習〉はそこまで危険度の高い行事じゃない。
魔物のひしめく森のダンジョンで、実際にチーム単位で行動してその成果を競う。
簡単に言ってしまえば、それだけのイベントなんだけど……。
(――絶対、それで終わる訳ないよね)
どうせ何かしらのイレギュラーが起こって、それを僕らが解決しなくちゃならない流れになるに決まっている。
それに、次のイベントでもあの大会でのトロフィーのように、魔王へとつながる鍵が出てくる可能性はある。
だとすると、今は自分の強化よりもチームメンバーの強化を心がけるべきかもしれない。
(うーん。力になれるとしたら、やっぱりトリシャとレミナかな?)
ファーリとセイリアには色々とアドバイスをしたけれど、考えてみればトリシャとレミナにはまだ無限指輪を貸した以外に特に何もしてあげていない。
僕が強くなった方法は大体が特殊すぎて真似出来ないとしても、ちょっとした手助け程度なら出来るかもしれない。
(ちょうど、試してみたかったものもあるし)
頭の中で算段をつけた僕は、笑顔で二人に近付いた。
「トリシャ、レミナ。ちょっといいかな?」
「な、なに? どうかしたの、レオっち」
口調は気安げなのに、なぜかレミナを背後に庇って警戒するトリシャに首をかしげるけれど、すぐに「まあいいか」と思い直す。
トリシャは何か勘違いをしているみたいだけれど、僕はただ、ほんのちょっとした実験に付き合ってもらいたいだけ。
当然二人に害はないし、逆にやったからと言ってそこまで大きな得がある訳でもない。
そんな風に身構えるようなことじゃないのだと、トリシャもすぐに気付くだろう。
だから僕は、二人を安心させるようににっこりと笑いかけると、手にした古びた二枚の羊皮紙を前に出して、こう提案した。
「――二人とも、ちょっと新しい魔法を覚えてみる気、ない?」
悪魔のささやき!