第百二十六話 真エンド
(――ハルト様が死んじゃった時は、やっぱり衝撃だったなぁ)
何しろ、エンディング直前まで本当に甘々で、そんな鬱エンドの気配なんて微塵もなかったから、余計にびっくりしてしまった。
いや、結末を知ってから再プレイすると意味深な台詞もいくらかはあったんだけれど、当時は全く気付かなかった。
しかも、死の詳細が語られず、いきなり「ドン!」と目の前にハルト様の死だけを放り投げられるようなエンディングだったので、余計に混乱させられた。
(そこからが本当の地獄だったんだよねー)
もしかして何か選択肢を間違えたのかとやり直したけれど、ハルト様ルートにはエンディング分岐はなく、どう足掻いてもハルト様死亡以外の結末がない。
なのでハルト様に思い入れのあるプレイヤーほど、事件の真相とハルト様の生存を求めてゲームを周回するほかなくなるのだ。
(ほんと……ほんとさぁ!)
あえて一番攻略しやすいルートに絶対に死んでしまう攻略キャラを配置することで、周回のモチベを上げるという鬼畜の所業。
まんまと術中にハマってしまった私が言うことでもないけれど、よくやるよ、と思う。
ただし、鞭一辺倒じゃないところがまたいやらしい。
最初は「ハルト様を救うため」と始めた別ルートであっても、なんだかんだ魅せる作りになっているし、憎たらしいことにほかの個別エンディングは全て攻略キャラと主人公がきちんと結ばれる終わりになっているから、それはそれとして満足感はあるのだ。
ただ、物語の中で主人公たちがどれだけ幸せになっても、どのエンディングでもハルト様だけは死んでしまうし、その理由は色んなエンディングを見ることで少しずつ明らかになっていく。
どのエンドでも救われない、ハルト様を救済する方法はただ一つ。
――全ての攻略キャラの重要イベントを最高の結果でこなし、この手で「魔王」を撃ち滅ぼす真エンド……いわゆる「グランドエンディング」に到達するしかない。
ただ、そのハードルはとてつもなく高かった。
データ引き継ぎで初回とは比べ物にならないくらい強くなっているし、難易度は当時の一番下の難易度である「かんたん」だったのにもかかわらず、何度もゲームオーバーになった。
仕方なくレベル上げのためだけに同じエンディングで周回を繰り返し、途中からはネットで「ペンダント周回」なんて言われる強化法でキャラを鍛えて……と、めちゃくちゃ苦労したのを覚えている。
(……そう思うと、この世界に転生なんてされなくて、やっぱりよかったかな)
もちろん転生なんて本気で信じている訳ではないけれど、想像はしてしまう。
難易度「かんたん」でも地獄だった世界に、もし難易度「ふつう」なんかで投げ出されてしまったら、と思うと流石に身震いがする。
(ありえない、とは思うけど……)
もしあのメールが本当だったら、フォルストの世界に本当に転生させられてしまった人がいるのかもしれない。
その人が、私くらいゲームを熟知していればまだいい。
ゲームを理解した上で、私なりに生き残る算段だって立ててからあのアンケートを書いたから。
でも、例えばまだプレイ途中だったとかで、このゲームをよく知らないままフォルストの世界に転生させられてしまった人が万が一いたとしたら、きっと大変だろうと思う。
(このゲーム、世界観は割とシビアなんだよね)
前半は平民の少女が雲の上と思っていた人たちと出会って起こるドタバタ劇、だけれど、後半になると物語はまた別の色を帯びる。
だって、このゲームのタイトルは「フォールランド」ストーリー。
――魔物の手に落ちた世界で必死に生きる人々を描いた、極限の愛の物語だから。
ストーリー後半のシナリオはどのキャラと親しくなったかによって大きくルート分岐するけれど、どのルートのエンディングでも世界は救われないし、魔王の脅威は依然残ったまま。
クラスメイトがイベントによって全滅してしまうものもあるし、最終的に魔物に国を追われるものだってある。
現実でそんな暮らしをするのはとてもじゃないけど私は無理だし、仮に比較的ハッピーなエンディングを迎えたとしても、その先、「物語に描かれなかった続き」では無残に殺されてしまうかもしれない。
例外があるとすれば、真エンドルート。
まるで王道RPGのごとく、本当に人類の希望である「勇者」となって、「魔王」さえも討ち果たすこのエンドに辿り着ければ、そりゃあ未来に希望だって抱けるだろうけど……。
(――いやぁ、ムリムリムリ!)
真エンドルートは、全ての個別エンドを見て、知識も戦力も充実していることを最低条件にした難易度になっている。
このルートを引き継ぎなしでクリアするなんて、正気の沙汰じゃない。
(それに、精神的にも、なぁ)
あの世界が現実になったとしたら、真エンドルートに向けてイベントをこなすのは、ちょっと厳しいものがあると思う。
なぜなら、真エンドに行くには攻略対象キャラ全ての同時攻略が必須。
――つまり、たとえお気に入りの女性キャラがいたとしても絶対に絆されず、恋敵である女性たちを全て見捨てて、必ず攻略対象である男性キャラを勝たせ続けなければならないのだから。
原作「詰みです!!」
というところで、「私」の視点は終わり!
ちょっとしたオマケを入れてアルマくん視点に戻る予定です