第百二十四話 オープニング
この熱量を全開にしていたら、異世界に行っていたのは彼女だったかもしれない
(でも行ったら死んでそう)
フォールランドストーリー
~夢見るワタシは恋の闇夜に堕ちる~
デデーンと題名が表示されたタイトル画面にしばし見惚れ、始まろうとするデモムービーを無情のスキップ。
(見たい気持ちはあるけど……)
ここのデモムービーはゲーム内のオープニングで流れるものと一緒なので、今は我慢してゲーム内で見た方がきっと楽しいだろう。
誘惑を振り切って、「新しく始める」を選択。
(引き継ぎは……今回はなしかな)
今は攻略ではなくて、また一からフォルストの世界を楽しみたい。
前のデータは残っていたので、クリアデータの一部を引き継いで強くてニューゲームも出来るけれど、今回はあえてまっさらな状態からスタートを選んだ。
(難易度は……どうしようかなぁ)
というのも、よくあるSRPGだと、どうしても困った時はボスをチクチク刺したり味方同士で殴り合ったり回復し合ったり、みたいなレベル上げが出来るけれど、その辺りは割とガッツリと対策されている。
敵を撃破した時に初めて経験値が分配されるという仕組み上、千発かけて倒そうが一発で倒そうがもらえる経験値の総量は同じだし、ターン数をかけすぎるとゲーム内日数が進行するというシステム上、無限稼ぎ系のレベル上げはデメリットも大きい。
もちろん、それを踏まえた上でも効率のいいレベル上げ方法はあるけれど、適当に遊んでいると「詰み」の可能性が出てくるのは間違いない。
(んー。ま、緩くやりたいから「おてがる」でいいか)
私は戦闘パートありの難易度では一番簡単な「おてがる」を選ぶと、次は名前入力。
オンライン要素なんてないし、ここはもちろん臆さずに本名を入れていく。
乙女ゲーは没入感が命。
ここで妥協はしない(キリッ!)
(なぁんて……)
あとは誕生日なんかも決めたら準備は完了。
最後に出てきた「オープニングを飛ばしますか?」という選択肢にノータイムで「いいえ」を選ぶと、ついにゲームが始まった。
「おおー」
最新のゲームと比べるとちょっとだけ粗い、けれど今見ても味のあるゲーム画面が私の前に姿を現す。
目に映ったのは、同年代の少年少女が集まる試験会場。
(あー、そうそう。こんな始まりだったなぁ)
この物語は、孤児だった平凡な主人公(でもグラフィックでは美人)が、学園の受験をするところから始まる。
初めてフォルストをやった時は、目を輝かせてプレイをしていたものだけど……。
(二周目以降はオープニングは飛ばしてたからなぁ)
はっきり言うと、このオープニングでの行動はゲーム的には特に意味がない。
最後の精霊契約までは特に変わったこともないし、適当に流してしまおう……と私は思っていたんだけど、
「……あれ?」
試験会場のイベントスチルの端に描かれた人物を見て、私は固まった。
(あの隅で何か食べてるデ……ぽっちゃりした男子は、もしかして!?)
あまりにもさらっと描かれているから、すぐには気付かなかった。
でも、学園生徒で太っちょキャラは一人しかいなかったはずだから、間違いない。
あの独特のフォルムとキャラクターから、攻略掲示板では名前をもじって「マルマイン」と呼ばれてオモチャに……こほん、愛されていた、のちの主人公のクラスメイトだ!
(って、待って待って。じゃああっちで取り巻きに囲まれてるの、もしかして腹黒姫? あ、こっちの男子は顔は見えないけどたぶん陰キャバスくんだよね!? それにそれにそれに、あそこで自慢げに剣を持ってるのって、まさかあのイベントが起こる前の……)
一度気付いてしまえば、出るわ出るわ。
ただ試験前の喧騒を映しているだけの絵が、途端に宝物に変わる。
(うわああああ! 既プレイ者へのサービスたっぷりじゃんこの一枚絵!!)
毎回オープニングを飛ばしていた自分を、殴りたくなる。
さらに……。
《どうしよう。誰かに話しかけてみようかな?》
表示された選択肢に、硬直する。
(えっえっ? いいんですか? 話しかけちゃっていいんですか? 無料で?)
攻略に関係ない選択肢だから全く覚えていなかったけれど、何周もこのゲームをした今だからこそ、その価値が分かる。
これ、まだ関係の固まってないメインキャラに絡める奴だ!
それから私は謎の(?)ぽっちゃりくんに話しかけて「このお菓子はあげられないよ」と何も言ってないのに拒否られたり、腹黒姫に話しかけて笑顔で皮肉を言われたり(ありがとうございます!!)、陰険眼鏡(誉め言葉)に話しかけようとしてあまりの独り言の多さにビビって引き下がったり、と、全部の選択肢をたっぷり三周ずつ堪能して、
「――そこ、何をしている」
突然耳に飛び込んできたボイスに、脳を溶かされる。
まさか、と思いながら慌てて決定ボタンでメッセージを送って、
「ぎゃあああああ炎帝さまああああああ!!」
表示された立ち絵に驚き、私は思わずゲーム画面に向かって叫んでしまっていた。
(こ、こんな分岐があったなんて……)
炎帝様は、本来ならもっとあとで初登場するキャラだ。
今は名前も「上級生?」になっているし、システム的な初対面はまたあとになるんだろうけど、推しキャラの一人とちょっと早く出会えたのは、なんだかお得感がある。
おそらく、周りの人に話しかける選択肢をしつこく何度も選ぶことが、この分岐発生の条件なんだろう。
こういうレアイベントがあるからフォルストは侮れないのだ。
「……チッ、愚民が!」
ゲーム画面上では、炎帝様がずいぶん上からな台詞を吐いているが、それもそのはず。
彼こそが鬼の風紀委員長であり、〈フレイムマスター〉と呼ばれる学園最強の魔法使い。
魔術至上主義を掲げる冷血な三年生で、ゲーム屈指の悪役キャラなのだ。
……が、実は彼、とあるキャラのエンディングを見ることで攻略選択可能になる、いわゆる隠し攻略キャラだったりする。
個別ルートに入って、彼の抱える闇と秘めた覚悟を知った時、彼に対して感じていた印象は百八十度変わること間違いなしで……。
(はぁぁぁ。尊いぃぃ)
それからも、全クリしたからこそ分かるキャラの言動や、ほかでは見られないキャラ同士の絡みを見ているうちに、私はすっかりへにゃへにゃになってしまっていた。
(って、ダメダメ!)
まだ試験が始まってすらいないのに、すっかり興奮してしまったけれど、オープニングはまだ終わっていない。
いや、むしろ……。
(まだ「メインディッシュ」が残ってるもんね!)
私は気を引き締めると、コントローラーを握り直すのだった。
※ ※ ※
孤児でありながら、魔法の才能にあふれた主人公は様々なことに戸惑いながらも順調に試験をこなしていくが、試験の最後に行われる〈精霊の儀〉で事件は起こる。
「まさか、あれは光の精霊!?」
「バカな! じゃあ彼女は……」
この試験で唯一「光の精霊」と契約してしまったことで、ただの平民(だと本人は思っている)だった主人公の運命は急変。
大きな運命の渦に飲み込まれていくことになるのだ。
(やー。絵に描いたような成り上がりモノだよねー)
よくある展開、と言えばそうだけど、どちらかというと大好物だ。
ただ……。
(出る杭が打たれるのも、定番なんだよね)
もちろん、ポッと出の平民が「光の精霊」と契約したことを、不満に思う者はいる。
その筆頭である偽聖女の子飼いたちに学校の校舎裏に追い詰められ、囲まれてしまう、というのが次の展開だ。
当然、ただ魔法が少し得意なだけの少女に、抗う術はない。
絶体絶命の窮地!
しかし……。
「――今すぐ彼女から離れろ」
そこに降り立ったのは、一人の男子生徒。
煌めく金色の髪と、憂いを帯びた眼差し。
整った顔立ちに、どことなく気品と凛々しさを感じさせる、彼は……。
「――きちゃああああああああああああああ!!」
彼こそが、私の一番の「推し」。
その「特異性」ゆえに、様々な事件を引き込み、物語を牽引する最重要キャラ。
(ああ、そうだ。確か……)
才能あふれる者が集まるこの学園において、ただ一人……。
一切の魔法が使えない彼のことを、人々は嘲りと憐みの念を込めて、こう呼ぶのだ。
――〈零光のレオハルト〉、と。
粉々になった原作!!
いやぁ、現代編は書きたいこと多すぎて一話に時間がかかるんですよね!
ほどほどに頑張っていくので評価や感想なんかもお願いします!