第百二十二話 妄想と現実
「――ん、選考結果のお知らせ、ってなんだろ?」
薄暗い部屋の中、ぼんやりと光るスマホ画面に映ったあからさまに胡散臭いメールのタイトルに、私は首を傾げた。
「理想の世界製作委員会? ……あー」
よくよく見ると、そのメールの差出人の欄に書かれた団体名に、見覚えがあった。
脳の端っこにかろうじて引っかかる記憶を、何とか手繰り寄せる。
(あ、そうだ! 転生が報酬のアンケート!)
確か、「皆さんの理想の世界を教えてください」とかいう怪しいアンケートで、一番いいアンケートを書いた人に「創った世界への転生権」がプレゼントされるとかいうとんでも企画だったはずだ。
バカらしい、と思いつつも、私はちょっとだけワクワクしながら昔めちゃくちゃハマっていたゲームについて熱く書き連ねたのだけど、今回のメールを見たところ、残念ながら結果は落選、ということらしかった。
(……ま、そりゃそうだよね)
転生なんて現実にある訳がないんだから、報酬が本当な訳がないというのもそうだし、どれだけの人間が応募したものか分からないんだから、自分のアンケートが選ばれる訳もないというのもそう。
どっちにしろ、ありえるはずがないことだった。
それに、実際にゲームの世界に行ける、なんてことになっても、この世界の全てを放り捨てるだけの勇気が自分にあったとも思えない。
ほんのちょっとだけ、楽しい夢を見れたと思えば悪くないだろう。
「まあいいや! 忘れよ忘れよ!」
せっかくの貴重な休日。
こんな訳の分からないアンケートのことで時間を無駄にするのはもったいない。
「さって、パーッと出かけるか!」
私はポイッとスマホをベッドに放り投げると、外出の支度を始めた。
※ ※ ※
(……たぶん、この辺だと思うんだけど)
せっかくの貴重な休日。
外に行くはずの私はなぜか、埃まみれになりながら押し入れに頭を突っ込んでいた。
朧げな記憶を頼りに、積み重なった段ボール箱の中を漁って、
「あ、あったあった!」
手にしたのは、懐かしのゲームソフト。
それが今回の探し物。
あのアンケートに書いた、私がこれまでの人生で一番と言っていいほどに夢中になった、魂のゲームだ。
(……まったく、何やってんだか)
外に出かける準備をしていたはずが、なぜだかアンケートに書いたゲームのことが急に懐かしくなって、衝動的に押し入れを探し始めてしまったのだ。
自分でも本当に、バカだと思う。
思っていたけど、
(……ほんと、懐かしい)
少しだけ色あせたそのパッケージを見た途端、そんな気持ちが吹き飛ぶほどに思い出があふれてきて、胸が詰まる。
(案外、覚えてるもんだなぁ……)
パッケージに書かれた男女の絵を、軽くなぞる。
ここ数年、ほとんど思い出すことすらなかったはずなのに、今でもどのキャラがどんな人物でどんなエピソードがあったのか、全部そらで言えるほどに、そのゲームは私の心に根付いていた。
「……ま、苦労させられたしね」
普段はガチなSLGなんかを作っているメーカーの作品だけあって、「かんたん」モードでもめちゃくちゃ難しくて何度も投げ出しそうになった。
でもその度に魅力的なキャラに救われて、何度も何度もゲームオーバーになりながらクリアした、思い出の作品。
(たぶん、このゲームはきっと「名作」ではないんだろうけど……)
例えば知名度とか完成度で言うなら、確かにこの作品よりも、同じ会社がこのノウハウをもとにお客さんのニーズに寄せて作り上げた後継シリーズ〈遥かなるプリンスさま〉の方がずっと上だと思う。
(……でも、「面白いゲーム」と「心に残るゲーム」は、イコールじゃない)
たとえ百人のうち百人が「別のゲームの方が面白い」と言っても、やっぱり私にとっての一番は、このゲームなんだ。
だって、私がかつて誰よりもやり込み、隅々まで知り尽くした魂のゲーム、この〈フォールランドストーリー ~夢見るワタシは恋の闇夜に堕ちる~〉は――
「――私が初めて遊んだ『乙女ゲーム』なんだから、ね」
悲報:アルマくん間違える
ずっと書きたかったパートまでようやくたどり着きました!
では、フォールランドストーリーの真実を暴き出す現代編、始まります!!