第百十八話 リザルト
(いやぁ、何度見てもいいもんだなぁ)
僕は登校しながら、ニヤニヤと自分のステータス画面を見る。
LV28 アルマ・レオハルト
昨日のレベル上げによって、僕のレベルは25から28まで一気に上がっていた。
(格下ダンジョンだったから、1レベル上がればいい方、と思ってたんだけど……)
かつて「スライム焼き」で検証したように、格下の相手からはもらえる経験値が減ってしまう。
レベルが1のスライムだけを倒してレベル6以上になるのは実質不可能……というような話だったが、逆に言えば敵と自分のレベル差が3くらいまでの間なら、効率は悪いがそれなりの経験値は入るとも言える。
(やっぱり、ソロだったのがよかったんだろうな)
この世界は、魔物の経験値を貢献度に応じて複数人で分配するシステムになっている。
つまり、本来はパーティで分配されるはずの経験値を一人で総取りしたということ。
本来は五人か六人くらいのパーティを組んで冒険すると考えると、僕は一回のレベル上げで、冒険五回分以上の経験値を稼げたことになる。
(あとは、なんかボスの経験値が思ったより多かったんだよね)
一回目の〈絶禍の太刀〉を放った時点では、僕のレベルはまだ27だった。
次のレベルまではまだ遠かったし、ちょっと格上のボスを倒した程度ではそこまで経験値は入らないと思っていたんだけど、なぜだか二回目の〈絶禍の太刀〉を使ってボスを倒したところ、レベルがさらにもう一つ上がったのだ。
もしかして、あのあとボスが取り巻きでも召喚してたのかな、なんて思うけれど、真実はもう闇の中。
全ては、ティータと食べたあのサンドイッチがおいしすぎたことがいけないのだ。
「――あ、アルマくん! 昨日の位階上げ、どうだった?」
考え事をしながら教室に入ると、それを目ざとく見つけて声をかけてきたのはセイリアだった。
「うまくいったよ! おかげ様で怪我もしなかったし、レベルも三つ上がったんだ!」
満面の笑みで僕が答えると、
「え、えぇ!? 一日で!?」
セイリアは驚いて目を見開いたし、気のせいだろうか、クラスの人たちもざわついた様子を見せた。
(……まあ、でも、それはそうか)
大会を見ても分かるように、この学園では一年かけて上がるレベルは20程度。
平均すれば一ヶ月に2レベル上がればいい方なのだから、そう考えると一日で3レベルというのは驚異的なペースだ。
けれど、驚くだけで終わらないのがセイリアだった。
僕の近くに寄ると、気遣わしそうに尋ねてくる。
「その、さ。無理……したんじゃないよね?」
「あはは、格下のダンジョンだからさ。技も噛み合って、魔物はほとんど一発で倒せたんだ。まあボスだけには二発目が必要だったけどね」
今までの僕だったらごまかすような場面。
けれど僕はあえて、自分の力を誇示するような言葉を吐いてみせた。
「ボ、ボスまで倒したんだ。それに、ほぼ同格の魔物を一発……。流石はアルマくんだね!」
セイリアは驚いてはいるようだったけれど、それ以上に感心しているようだった。
(ヨシ! 思った通りの反応だ!)
不本意ながら、少なくともクラス内においては、僕は「それなりの実力者」という立ち位置に落ち着いてしまっているように感じる。
今さら原作の「落ちこぼれアルマくん」を演じるのも無理だから、ある程度オープンに実力を見せて「周回プレイアルマくん」を目指していこうと思うのだ。
(ま、周回プレイ中の主人公がどんな扱いになってるのか、僕は全然分からないんだけどね!)
そこがミリしらのつらいところだけど、とにかく最善を尽くすしかない。
とりあえず今は感触は悪くない。
このままこの路線で進めて……と思ったところで、ポン、と肩を叩かれた。
振り返ると、そこには笑顔を浮かべたトリシャの姿。
けれど、不自然なくらいに顔を寄せてきた彼女の眼は、全く笑っていなくて……。
「――あのさ、レオっち。〈ノビーリ平原〉で異常事態が発生したって冒険者ギルドが大騒ぎしてるみたいなんだけど、何か知らない?」
※ ※ ※
「つまり、その人たちが偵察したあとに広範囲魔法で一気に攻略した結果、強いボスが出ちゃったってこと?」
「ま、まあたぶんそんな感じかな?」
放課後、例の部室でのトリシャの地獄の取り調べを受けた結果、事態がおぼろげながら見えてきた。
どうも僕が一回目の〈絶禍の太刀〉を放ってから、二回目の〈絶禍の太刀〉を撃つまでのほんの五分間の間に〈ノビーリ平原〉に入り込み、いきなりボスと遭遇してしまった不運なパーティがいたようだった。
(なんでそんな神がかったタイミングで……!)
なんて嘆いてしまうが、起こってしまったものはしょうがない。
ただ……。
「あ、あのねレオっち。レオっちの強さを当てにしてるわたしたちが言えたことじゃないけど、これ以上目立つとほんとに収拾つかなくなっちゃうよ! 今でさえ部活のこととかでめちゃくちゃ人が来てるのに、それ以上のことが出来るって分かっちゃったら……」
何を想像したのか、身震いをするトリシャに言われるまでもなく、分かっている。
流石に〈絶禍の太刀〉の効果は公開するにはやばすぎるし、僕が第十五武技を使えるなんて公開したら原作がどう破壊されてしまうか分からない。
騒ぎを起こしてしまったのは申し訳ないけれど、犠牲も出ていない以上、白を切り通すしかない。
(とはいえ、参ったなぁ)
帝都ならダンジョンの数が膨大だから、ちょっとくらい無茶をしても大丈夫、と思ったんだけど、これじゃあ似たような状況が発見されるとまた騒ぎになってしまうだろう。
普通に考えるなら、〈絶禍の太刀〉は封印するべきなんだけど……。
「……中で何しても、誰にも気づかれないダンジョンなんかがあればなぁ」
思わず、そんなありえないことをつぶやいた時だった。
「――あるよ」
驚いて顔を上げると、道場の端っこで魔法を練習していたファーリが、こちらを見ていた。
「中で何をしても、誰にも分からないダンジョンなら、ある」
「え……?」
そんな都合のいいダンジョンが、本当にあるんだろうか。
僕の疑問に答えるように、
「――謎の碑文に守護された魔窟、〈終焉の封印窟〉」
彼女は短く、そのダンジョンの名を告げる。
「ま、待って! そこは……」
驚いたようなトリシャの言葉に、ファーリはにやりと容姿に似合わぬ不敵な笑みを浮かべて、
「これまで数多の冒険者が挑んで、誰一人入ることすら出来なかった未踏の地。……レオも、挑戦してみる?」
そんな挑発的な言葉を吐いたのだった。
冒険は新たなステージへ!
次回、アルマくんがアトランチスの謎に挑む!?