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第百十七話 平和で安全なレベル上げ

この話、実は書くつもりはなかったんですけど「なんかもう口頭で説明するよりこっちのが早いか」ってなって急に生えてきました


「――アルマ! 見えてきたわよ!」


 先行していたティータの声に道の先に視線を送ると、目の前には大きなアーチの門があり、その向こうには大草原が広がっていた。


 間違いない。

 これが〈ノビーリ平原〉だ。


「ほら、はやくはやくー!」

「ああもう、しょうがないなぁ」


 草原の入口で、僕を急かして両手を振るティータ。

 彼女に合わせるように、僕も小走りで草原に足を踏み入れる。


 アーチの門をくぐった途端に草原から風が吹き、春の匂いを運んできた。


「んー! いい空気!」


 思い切り伸びをして、深呼吸する。


「空気にいいもわるいもないでしょーに! へんなアルマ!」


 なんていうティータも、口元はにやけていた。

 こうも和やかだと、目的を忘れてしまいそうだ。


(うん、ここまでは順調だね)


 ティータとおしゃべりをしながらゆっくりと歩いてきたおかげで、体力も気力も充実している。

 これなら今日の狩りも無事に済ませられそうだ。


(思った通り、敵の姿はない、か)


〈ノビーリ平原〉にはよく使われている入口が二ヶ所あるけれど、僕はあえて不人気な方を選んだ。

 ここのアーチ付近は敵の巡回ルートから外れているため、のんびり準備が出来る反面、敵を探すのに苦労するため敬遠されがちなのだ。


 でも、その方が僕にとっては好都合。

 僕はふよふよと僕の横を飛ぶティータに向き直ると、声をかけた。


「じゃあティータ。約束通り、偵察、頼めるかな?」

「ふっふん! 空も飛べないなんて、ニンゲンって不便なイキモノね! しょうがないからこのアタシが特別に力を貸してあげるわ!」


 なんて言いつつ、ウキウキとした様子でティータがぴゅーんと空へ飛んでいったかと思うと、すぐに見えなくなった。


(ティータ、張り切ってるなぁ)


 これが僕の秘策である、空からの偵察。

 ちゃんと人の言葉を話せるティータと契約している僕だからこそ出来る、究極の偵察術だ。


 数分と経たずに戻ってきたティータに話を聞くと、狩場は異常なし。

 モンスターは豊富にいるし、ほかに狩りをしている冒険者もいなかったらしい。


 ついでにイレギュラーなモンスターとかがいなかったか尋ねると、「小説じゃないんだし都合よくそんなもの出るワケないでしょ」と鼻で笑われてしまった。

 まあ、とりあえず、



(――安全確認、ヨシ!!)



 ほかの冒険者とバッティングしても困りはしないけれど、出来れば僕の技のことは秘密にしたいから、いないなら好都合。

 指さし確認を済ませたあとは、いよいよ本番だ。


 とは言っても、そう大層なことをする訳じゃない。


「じゃあ、技を使うから」

「むぅ、分かったわよ。中に入っておけばいいんでしょ!」


 ティータには僕の中に帰ってもらって、準備は万端。


 僕は平原の奥を眺めながら、〈折れた刀〉の柄に手を置く。

 近くに敵はいないけれど、問題はない。


 僕は、遠くに点々と存在する敵の影を眺めながら、右手に力を込めて、



「――〈絶禍の太刀〉!」



 なんとなく技名を叫びながら、刀を振り抜いた。

 すると、目に映る全ての魔物が同時に倒れ伏し、



 ――テッテレレレ!



 頭の中にクソデカレベルアップ音が鳴り響いて、僕は無事にレベルアップを果たしたのだった。



 ※ ※ ※



 僕はマナポーションを飲んでティータを再召喚しながら、様変わりした平原を眺める。


(うーん、あいかわらず、〈絶禍の太刀〉の範囲はぶっ壊れてるなぁ)


 刀の最終奥義である〈絶禍の太刀〉はフィールドへの全体攻撃。

 RPGでフィールドってなんだよ、とは思うけれど、とにかく見えてる範囲全部には攻撃が当たったらしい。


 ところどころに点在していた魔物たちは全てドロップアイテムと経験値に姿を変え、今目に映る範囲には魔物の姿はなかった。


「……ありゃ」


 ただ、今回はそれだけでは事が終わらなかった。

 確かにその場にいた魔物は全滅させたはずだけれど、目を凝らして遠くを見つめると、岩が重なった辺りに何か大型の魔物が生み出されたのが見えたのだ。



「――あぁ、やっぱりボスが出てきちゃったか」



 ダンジョンは、特別な条件を満たすとほかよりも強力な魔物、いわゆるボスモンスターが出現するものがある。

 この〈ノビーリ平原〉もそのうちの一つだ。


「おはよー! ……って、ボス出ちゃったの!? ア、アルマの強い技って、あと五分は使えないのよね! やばいんじゃないの!?」


 ちょうど再召喚されたティータが、僕のつぶやきを聞きつけて焦りだす。

 けれど、これも事前の調査で分かっていたこと。


「あー、大丈夫大丈夫。ボスって言っても相手はレベル28の〈オーガリーダー〉か、レベル32の〈オーガキャプテン〉だから、どっちみちそんなに強くないよ」


 このダンジョンのボスはちょっと特殊で、敵を倒した早さによってボスの種類が変わるらしい。

〈絶禍の太刀〉で素早く倒したから、レベルが高い〈オーガキャプテン〉の方が出てきた可能性が高そうだけれど、レベル32なら特に問題はない。


「だ、だけど、アルマのレベルってもっと低いんでしょ? だったら……」


 それでもまだ不安そうなティータに、僕はここからかろうじて見える、豆粒みたいな大きさの巨体を指さした。


「いやいや、よく見てよ。あの感じだとアイツはまだこっちのこと見つけてないみたいだし、それに、あそこからここまで、あと五分じゃ絶対辿り着けないでしょ」

「う、それは……。でも、油断は……」


 あと一押し。

 そう思った僕は、ここで秘密兵器を出した。


「それよりさ。こんなこともあろうかと思って、朝に食堂でサンドイッチを買ってきたんだ。ティータも一口食べない?」

「………………たべるぅ!!」


 こうして二人でサンドイッチを分け合って食べているうちに、五分はあっという間に過ぎた。

 結局こっちに寄ってくることのなかったボスを〈絶禍の太刀〉でサクッと倒したあと、



「じゃあ僕からね。リンゴ」

「ええと、ええと、ゴリラ!」

「ラッパ」

「ええと、ええっと、パン! ……あ! ず、ずるいわよ! アタシを嵌めたわね、アルマぁ!」



 二人で仲良くしりとりをしながら、帝都までのんびりと帰ったのだった。

平和回!

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かっこいいアルマくんの表紙が目印!
書籍二巻、11月29日より発売中!
二巻
ついでににじゅゆも


― 新着の感想 ―
ドロップもったいない
[一言] フィールドタイプのアクションRPGでフラッシュとかいなずまを使うようなモンだな。
[気になる点] 効果があるのは見えてる範囲とのことだけど、たぶん視認が必要ってわけではないよね。 もし必要だったら、だいぶ使い勝手が悪くなってしまうけど、単に「見えるところだけ」つまり近かろうと隣の部…
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