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第百十三話 告げられた未来

 部室に向かう道には、異様な緊張感が張りつめていた。


「…………」

「…………」


 無言で見つめ合う、セイリアとグレンさん。


 大会によって少しだけ親子の仲が進展したと思ったのだけれど、それでもいまだに良好な関係を築いているとは言い難い。


 親子の間に生まれた微妙な膠着状態に、誰もが息をするのも躊躇う中で、


「……じゃ、わたしは先に部室行って練習するから」

「あっ! ファーリ!?」


 さらっとその場を抜け出し歩き出したのは、ファーリだった。


「えっ? あっ、おう」


 そのあまりにも鮮やかな脱出劇に、脇を抜かれたグレンさんも心なしか困惑気味だ。


(ひ、一人だけ逃げた!!)


 いや、それとも二人が会話出来るように気をまわして離れたのか。

 もう律儀なんだか薄情なんだか分からないが、とにかくファーリにはそういうちゃっかりしたところがある。


(き、気まずい……)


 僕も逃げたかったのだけれど、完全にタイミングを逃してしまった。

 それにグレンさんの視線が、「お前は行くな」と暗に訴えているような気がした。


「あー。グレンさんは、一体どうしてここに? そもそも、すぐに最前線に帰るって話じゃ……」


 このまま二人に任せていてはいつまで経っても話が始まりそうにない。

 仕方なく口火を切ると、グレンさんもどこかホッとしたように話し出した。


「ま、ちっと忘れもんを思い出してな」

「忘れ物?」


 答えになっているようななっていないようなことを言う。

 そもそも、忘れ物とここにいることが全くつながらない。


 いや……。


「もしかして、用事のついでにセイリアに会いに……」

「ハッ! ついでで娘に会いに来るほど、剣聖ってのは暇じゃあねえよ」


 ぶっきらぼうにグレンさんが答えると、隣のセイリアは目に見えてしゅんと肩を落とした。


(こ、この人は……)


 もう少し、言い方ってものを考えられないのか。

 僕がグレンさんに一言物申そうと前に出た時だった。



「――ほら」



 グレンさんは唐突に、セイリアに向かって手に持っていた細長い包みを突き出した。


「え? 父様?」

「いいから、受け取れ」


 混乱する様子のセイリアに押し付けたそれは……。


「……刀?」


 美しい装飾の鞘に入った、刀だった。

 話が見えないのか、不安そうに父親を見上げるセイリアに対して、グレンさんはばつが悪そうな顔で早口に言う。


「そいつはオレの家に伝わる家宝……らしいぜ」

「らしい、って」


 そんな他人事みたいな。

 僕が思わず口をはさむと、グレンさんは「ちっ」と行儀悪く舌打ちすると、つまらなそうに話し出した。


「前に親がいねえって話はしたろ。正確に言うと、オレは孤児院の前に、ちょっとした荷物と金、あとは手紙だけを残して捨てられてたそうだ」

「え……」


 突然の重い話にぽかんとする僕に、グレンさんは刀をあごでしゃくった。


「で、その時に置かれてたうちの一つが、そいつってワケだ」


 つまり、その刀はグレンさんの親が残したもの?


「渡された経緯がどうあれ、武器に罪はねえ。かなりの業物らしいから一度使おうとはしたんだがな。握ってみてもどうにもしっくりこねえ。『刀』なんておかしな武器を今さら一から鍛える気もなかったから、そいつも死ぬまで抱えて生きていくつもりだったんだが……」


 そこで、グレンさんの視線が僕を捉える。



「――この前の大会を見て、気が変わった」



 それはもしかしなくても、僕の戦いを見て「刀」の可能性を見直したから。

 いや、それだけじゃなく、セイリアが自分の予想以上に戦えるようになっていたことも大きいのかもしれない。


「ま、そいつをどうするかはお前の自由だ。自分で使ってもいいし、誰かにくれてやっても、いっそ売り払っちまってもいい。好きに使え」


 そう、好き勝手に言い残すと、


「用事はこれで済んだ。じゃあな」

「えっ? あ……っ」


 グレンさんは躊躇いなく僕たちに背を向け、歩き去っていこうとする。

 いや、ということは……。


(最初から、セイリアにこれを渡すためにやってきたのか)


 それを「忘れ物」だとか回りくどい言い方をするのは不器用というか、なんというか……。

 僕が思わず呆れていると、セイリアが意を決したように前へ出る。


「父様! ボ、ボクは……」


 そして、言葉にならない想いを、それでも必死に父親にぶつけようとしたところで、



「セイリア。武の道を行くなら、強くなれ」

「え……?」



 剣聖グレン・レッドハウトは、一度だけ立ち止まった。

 そして……。




「――オレの見立てじゃこの国、もう数年ももたねえぜ」




 国の最高戦力の一人として、あまりにも重すぎる忠告を口にして、いずこかへと去っていったのだった。



 ※ ※ ※



「まさか、父様とあんなにちゃんとお話できるなんて……」


 グレンさんが去ったあと、セイリアは感動したように刀を抱きしめてそんなことをつぶやいた。

 僕からするとひどい会話だったと思うんだけど、どうやらセイリアの感性だと違ったらしい。


「そ、それに、ボクに家宝の刀をくれたってことは、ボクのことを自分の娘だって認めてくれてるってことだよね!?」

「そう、なんじゃないかな」


 そんな僕の歯切れ悪い言葉も、今のセイリアは気にならなかったようだ。

 刀を抱えたままこれでもかとばかりに僕に近寄って、キラキラとした目で僕を見る。


「ありがとう、アルマくん! 大会で活躍できたのも、父様とこんなにお話が出来たのも、ぜんぶアルマくんのおかげだよ!!」


 セイリアはそう言ってまぶしい笑顔を浮かべるけれど、僕はそれに上手く答えることが出来なかった。


(……分かってた、はずなのに)


 その理由の一つは、ここで剣聖から刀を受け取るのは、どう考えても原作から逸脱したイベントだということ。


 こっそりと刀の説明を見ると、この刀はどこをどう解釈したって序盤で手に入るような代物じゃなかった。


 グレンさん自身、「大会を見てこの刀を渡すことを決めた」と言っていたし、僕の大会での活躍がトリガーになって、原作よりも早くこの刀がセイリアの手に渡ったのは明らかで……。



(……いや、目を逸らすのは、やめよう)



 ずっと僕は、この〈フォールランドストーリー〉は高難易度なゲームだという前提の下で行動してきたし、それを理解しているつもりでいた。


 ――でもそれは結局、理解した「つもり」になっていただけだった。


 剣聖が最後に残した予言じみた言葉。

 それから、この刀のフレーバーテキスト。



(――僕が思っていたよりも、この世界(げんさく)には猶予がないのかもしれない)



 胸を侵す不吉な予感と共に、僕はもう一度刀に視線を戻す。

 そこには小さな図鑑のマークと共に、到底看過出来ない文言が書き添えられていた。



《ヒノカグツチ(武器):遥か東の国の秘術によって、刃に炎の神霊を封じたとされる名刀。「父の形見をその手に、少女は何を思う」》


予告された死!





とまあちょっとした引きをしたところで、こちらの更新は少し休憩です!

というのもしばらく「主人公じゃない!」に戻ろうと考えていて、こっちの更新はそれが一段落してからになります!


ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました!!





あ、「主人公じゃない!」の最新話は今日の23時から更新予定(実はまだ書きあがってない)なのでよければ下のリンクからどうぞ!

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ついでににじゅゆも


― 新着の感想 ―
入手完全に前倒し、何というグリッチ。 そういや、儀で使わなかった炎竜の牙をセイリアにあげる流れになるかと思ってたけど、全く出て来ないね…?
フレーバーテキストがそのままだから未来予知みたいになってるw
[一言] ヒノカグツチで殴られて、太郎も次郎もほっこり。
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