第百十話 表彰
――表彰式には、なんとか間に合った。
というのも本来ならもう式が始まっている予定だったのだけれど、二位のシギルの不正が発覚したとして失格処分になり、進行が予定とだいぶ変わったからだ。
「何をやっていたの」とトリシャに怒られながら、滑り込みでリングの近くの待機場所に滑り込む。
僕の到着を待っていたかのように、リングではまさに表彰が始まるところだった。
「では、これから選手の表彰に移りたいと思います! まずは、準決勝まで勝ち抜いた、栄えある第三位の紹介です!」
表彰は、引き続きティリアさんが実況を務めるようだ。
あいかわらずの聞き取りやすい声で、けれど情熱的に選手の名前を読み上げる。
「――ディーク・マーセルド選手!」
声に呼ばれたディークくんが、リングに設置された即席の表彰台へと上がった。
「ディーくーん!」
「こっち向いてー!」
ディークくんがリングに登った途端に会場に黄色い声援が飛び交う辺り、一年生ながら順調に女性ファンを獲得していっているらしい。
彼に対して小さな銅のトロフィーを送るのは、シギルを担いでいたのに僕をあっさりと追い抜いて、しれっと先に会場入りしていたグレンさんだった。
グレンさんはディークくんの前に行くと、無造作にトロフィーを差し出す。
「まあ、お前も一年にしちゃそこそこ強かったぜ」
僕は「コメントざつぅ!」と思ったけれど、ディークくんにとっては剣聖様に声をかけてもらえるというだけで嬉しかったらしい。
「はいっ! 頑張ります!」
と、すごくいい笑顔でトロフィーを受け取っていた。
会場を温かい拍手が包む中で、次の選手の紹介が始まる。
「第二位の選手は、もちろん先ほどのディーク選手との二位決定戦を勝ち抜いたあの人!!」
そうして名前を呼ばれたのは、
「――セイリア・レッドハウト選手!!」
歓声を浴びて、笑顔でリングに飛び上がった、セイリアだった。
「セイリアちゃーん!」
「さっきの試合、かっこよかったよー!」
こちらはどちらかというと男率高めの声援が飛び交って、セイリアは照れたように観客席に手を振った。
(……準優勝、か)
主役のいない表彰式の時間稼ぎのためもあってか、急遽セイリア対ディークくんの試合が組まれ、激戦の末、セイリアが勝利したらしい。
その試合を見られなかったのは残念だけれど、笑顔で表彰台に上がるセイリアの表情は輝いていた。
それから、
「父、様……」
セイリアにとっては待ちに待った、親子の対面。
グレンさんは、さっき僕と話していた時の饒舌さが嘘のように視線をきょどらせると、
「あー、なんだ? ……まあ、強くなったんじゃねえか?」
そんな気の抜けたコメントをして、銀のトロフィーを娘に押し付けた。
それでもセイリアにとっては、父親から自分を認めるような言葉を聞けたことが嬉しかったらしい。
「……ありがとう、ございます」
と言って、トロフィーを抱えるように抱きしめていた。
(――よかったね、セイリア)
正直グレンさんに対しては呆れしかないけれど、セイリアにとってこの大会がいいものになったのだとしたら、僕も助力した甲斐があったというものだ。
そして……。
「ではではでは! 皆さんお待ちかねの、優勝者の登場です!」
いよいよ、僕の番。
(セイリアやディークくんと比べると華が足りないし、僕の試合は割と地味だったからなぁ)
準々決勝なんて塩試合すぎてみんなシーンとなってしまっていたし、これで会場が白けたら怖いなぁ、なんて思いながら、僕はリングに上がって、
「――アルマ・レオハルト選手!!」
その名前が呼ばれた瞬間に、会場が爆発した。
(え、ええぇっ!?)
音がそのまま圧力になるような、すさまじい歓声。
「レオ様ー!!」
「かっこいいー!」
「だいてー!」
みたいな分かりやすい黄色い声援や、
「見てたぞ坊主ぅ!」
「決勝戦、痺れたぜ!」
「お前は英学の柱になれ!!」
みたいな野太い声援まで、確かに会場中が僕を見て、僕に向かって声を送っていた。
(え? え? どういうこと?)
明らかに、前の二人以上の熱狂が会場を包んでいることに、僕は混乱を隠し切れない。
さらに……。
「いまだ一年生であり、位階もたったの25。そして武器は折れた刀というこの選手が優勝の栄冠を勝ち取るなどと、一体誰が想像したでしょうか!」
会場の熱狂が乗り移ったかのように、ティリアさんの言葉にも熱がこもる。
「しかし、身体能力によるハンデをものともせず、刀の第十一武技をはじめとした数々の未知の技を繰り出してあらゆる選手を退けてきた彼以外に、やはりこの称号にふさわしい人間はいないでしょう!!」
その言葉に押されるように、前へ。
表彰台の一番上に上がった僕の前には、大きなトロフィーを持ったグレンさんが、「だから言っただろ」と言わんばかりのニヤニヤ笑いで待ち構えていて……。
「――では、第百回、英雄学園捧剣練武大会優勝者……稀代の剣士にして次代の英雄、〈アルマ・レオハルト〉選手に、大きな大きな拍手を!!」
耳が壊れるほどの大歓声の中で、僕は優勝トロフィーを受け取ったのだった。
ねんがんの ゆうしょうトロフィー(と余計な名声)をてにいれたぞ!





