第百八話 詐術
――刀技の十五〈絶禍の太刀〉。
これが僕が見出した、「シギルにも通用するだろうという技」の正体だ。
この〈絶禍の太刀〉は抜き撃ちを放って一拍後、フィールドの敵全員に必中ダメージを与えるというぶっ壊れ技。
攻撃が当たれば勝ち、という大会のルールにおいてはこれはとんでもなく強く、これを撃てさえすれば相手の動きがどれだけ速かろうと勝ち確定なのだが、いくつか問題もあった。
まずは、全体攻撃が発生するまでにかなりの隙があること。
刀をちょっと抜いたと思ったらいきなりワープする〈絶影〉などとは違って、この技は刀を最後まで振り抜く必要があるし、そこからさらに一拍待つ必要もある。
要するにその間は隙だらけな訳で、シギルの速度ならその時間で僕を十回は殴れるだろう。
それから、もう一つ。
人前で第十五武技なんて使ったら、きっとめっちゃくちゃ目立っちゃう、ということ。
武技も魔法同様十五まで習得出来るのは確認済みなのだが、段階が上がれば上がるほど次の技を覚えるまでの熟練度は膨大になる。
十くらいまでは割とサクサク上がるのだが、十一、十二、となっていくうちにドンドンとマゾ度が上がっていき、特に十四以降の武器レベル上げはマゾゲーなんてレベルではなく、正直全部の武器を十三まで上げるより、一つの武器を十四まで上げる方が苦労するほど。
その分だけ十四以降の技ははっちゃけた性能のものが多くて楽しいのだけれど、少なくともゲームスタートして一ヶ月も経っていない原作アルマくんが使えていい技じゃないのだ。
今の僕は、何も考えずに第十三階位魔法を使って変な二つ名をつけられた時の軽率な僕とは違う。
常識と慎重さを兼ね備えた絶対原作守護るマンなのだ。
間違っても、ここで第十五武技を使えるなんて全校生徒に公開する訳にはいかなかった。
――ならばどうすればいいか。
そこで着目したのが、僕の特殊性。
本来、武技を放つにはしかるべき姿勢を取って、技名を正確に口にしないといけないらしいのだけれど、僕にはそれは関係ない。
一応目立たないように技名も口に出しているが、あれはただのポーズ。
実際にはメニュー画面から使いたい技をポチッとするだけで、簡単に魔法も武技も使えてしまうのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、刀の第十一武技〈次元断ち〉だ。
途中のモーションは〈絶禍の太刀〉とほぼ同じだから見た目からバレることはほぼないし、この世界の人間は技名を口に出さなければ技は発動しないので、〈次元断ち〉と口にしながら〈絶禍の太刀〉を放ったら、誰もそれを疑わない。
――それに、この技はその性能すらもちょうどよかった。
問題点の一つ目は、〈絶禍の太刀〉が強すぎること。
まあいくらシギルでも、「今から必中の攻撃撃ちますね」って言って技を出そうとしたら、先制攻撃で潰すに決まっている。
でもそれが必中攻撃ではなく、「相手の位置を先読みしたら命中するかもしれない技」だったら?
そのくらいならちょっと遊んでやるか、と無駄に勝負に乗ってくるんじゃないだろうか。
そんな読みがあって、僕の一世一代の大芝居は始まったのだ。
(ディークくんには、悪いことしちゃったなぁ)
僕がディークくんとの戦いや、シギルとの決勝戦で無駄な動きを入れたり、まるで相手の行動を予測しているように見せたのは、僕が〈次元断ち〉を使って勝った、という嘘に信憑性を与えるための「仕込み」だ。
例えば、僕が開幕でいきなり〈絶禍の太刀〉を使って不規則に避けたシギルに攻撃を当てたとしたら、本当に〈次元断ち〉を使ったのか疑問に思う人も出てくるだろう。
つまり、シギルとの戦いで死角を消したり左右のスペースを不均衡にしたのは、確かにセイリアの言う通り、相手の動きを制限するため……という言い訳を作るため。
ぶっちゃけ結果として命中するのはもう分かっているので、あとは逆算して、何か動きを読んでそうな説明が言えればいいのだ。
相手が左から来るなら、「あえてスペースを広くして左から来るように誘導した」と言えばいいし、右から来るなら、「あえて左のスペースを広くして警戒させ、逆側から来るのを誘った」と言えばいい。
まあ実際は「左でも右でもなくジャンプで上から来る」が正解で、あれを見た時は心臓が飛び出すほどびっくりしたんだけど、まあそれもセイリアの言う通り「左も右も怪しく見えるようにして、上から攻撃が来るように誘導した」と言えばいくらでも言い訳は立つ。
いや、まあ上から来るのが分かったからと言って、その高さとか距離とかを誤差なく予測しなきゃいけないからほぼ無理ゲーだと思うんだけど、「実際に命中した」という事実の前では、そんな疑問程度は些事となってしまうのだ。
……と、まあ、あの戦いの顛末はそういうことなんだけど。
「――それで、これ、どうしよ」
そこでようやく、僕は現実逃避をやめた。
目の前には、血だまりで倒れるシギルと、刀を構えて立っている僕というあまりにもやばすぎる状況。
正直返り討ちにしたのはいいけれど、そのあとのことを全く考えていなかった。
こんなところを一般の人に見つかったりしたら絶対に面倒なことになる。
(こんな時、兄さんが来てくれたらなぁ)
思えば、僕が前にランドたちを倒した時もめちゃくちゃいいタイミングで兄さん……とネリス教官がやってきてくれた。
その奇跡が、もう一回起こってくれたら……。
そんな風に思ったのが、神に通じたのか。
背後から、人の足音。
「にいさ……あ」
僕は期待を込めて振り返ったのだけれど、
「――おいおい。どういう状況だよ、これ」
そこには、全く予想外の人物――剣聖グレン・レッドハウトが立っていた。
アルマくん大ピンチ!?





