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第九話 はじめての魔法

魔法です。よろしくおねがいします。


 ぼくが事実上の学園行かない宣言をすると、あんまりにもあっさりと決めすぎたせいか、父さんもちょっと動揺した様子を見せた。


「そ、そうかい? ま、まあまだ時間はあるんだ。よく考えてから、後悔のない選択をしてほしい」


 しかし、そこは大貴族にして人格者。

 すぐにいつもの優しい表情に戻って、


「何度も言うけれど、アルマがどんな選択をしたとしても、君が私の大切な息子なのは変わらないんだから、ね」


 と締めくくって、今日の執務室訪問は終了した。


(うーん。学園、ねぇ……)


 廊下を自室へと歩きながら、ぼくは首をひねっていた。


 そりゃ、英雄学園とかいうところが、この世界ゲームの舞台だろうってのは分かるし、そこに行けばゲーム本編が開始されるんだろうとは思う。

 ただ、なぁ……。



(――それ、わざわざ行く必要ある?)



 そりゃあこのゲームがどんなゲームなのかは分かってはいないが、ヒロインっぽいルリリアちゃんが出てきたから恋愛要素はありそうだし、魔法だの魔物だのがいるんだから戦闘はありそうだ。


 学園に行けば、個性豊かな面々との恋愛やら、ファンタジックなモンスターたちとの熱いバトルが繰り広げられるんじゃないかなーと想像はしている。

 している、けれど……。


(そんなの、命の危険を覚悟してまでやることか、ってのが本音なんだよね)


 例えば、恋愛がメインのはずの〈フォースランドストーリー〉でも、たまに起きるイベントなどでは普通に生徒が死んでいたし、当然ながら主人公たちだって戦闘で負ければ殺されてしまっていた。

 現代日本人としての感覚が戻ってきた今、そんなサツバツとした学園にわざわざ向かう気力は湧いてこなかった。


(ぼく、次男だしなぁ)


 幸いにも、と言っていいのか、兄さんは怖いくらいに優秀だ。

 家を継ぐ継がないの話は、元から考えなくていい。


 となると、ぼくがどうにか手に職をつけられるなら、学園に行くメリットはそこまで大きくないように思える。


(学園に通わない、っていうのが貴族にとってどの程度不名誉なことなのか分からないのが怖いけど……)


 ドロップアウト組扱いされるのはまあいいとして、親や家族に迷惑がかかるほどだと流石にちょっと考えてしまう。


(まあ、いいや)


 とりあえず、学園に通うのは十五歳になってから。

 それまで、時間はたっぷりある。


 学園についてはゆっくりと調べてみればいいだろう。

 それよりも……。


(魔法! 光魔法の実践だ!)



 ※ ※ ※



 ということで、自室にこもって内側から鍵をかける。

 この時間は誰も訪ねてはこないと思うが、念のためだ。


 ――光の魔法は、どうやらめちゃくちゃレアらしい。


 まだ今後の方針が決まらないうちは、軽々しく使わない方がいいのかな、とも思うが、今までずっと憧れ続けた魔法だ。


 子供の「ぼく」は「細かいことはどうでもいいから試したい!」と叫んでいて、大人の「俺」は用心深く、「光魔法なんて試すのはやばいぜ! ……ちゃんと誰にも見られてないとこでやらないと!」と言っている。


 ……うん、まあどっちも自分だし、結局魔法を使いたい欲に人は勝てないのだった。


 それでもせめてもの安全対策として、頭から布団をかぶりながら実験開始だ。


「あれ? 光の魔法って、どうやって使えばいいんだ?」


 ただ、実験は開始二秒で行き詰まった。


 まあ元がゲームなんだから当たり前だけれど、この世界での魔法は「魔力操作とイメージでなんでも好きに出来る!」とかって訳ではなく、割とかっちりと型が決まったタイプだ。

 魔法はキーワードによって発動され、その威力や消費魔力は術者のイメージには左右されずに毎回同じものが出る。


 つまり、キーワードが分からないと使いようがない訳だが、今は使い手のいない光魔法の魔法名なんて知っているはずがない。


「あ、そうだ」


 しかし、そんなぼくには心強い味方がいた。


「今回も頼みますよ、っと」


 もはやおなじみとなったメニュー画面を呼び出す。

 これはどうやらぼくの視界に直接浮かび上がっているようで、狭い場所でも暗い場所でもいつも同じように見えるという便利設計だ。


(これも不思議なんだよね)


 他人に見えないのは確認済みだし、原理的に魔法によって表示されているというのでもなさそうだ。


 どうもこれは神様が「ぼく」を転生させる時に身体に直接埋め込んだ機能らしく、意識するだけで操作が出来るし、「俺」の部屋のパソコンのようにマウスの利きが悪くなって誤操作をすることもない。

 まさに神のインターフェイスだ。


(落ち着いたら、このメニューも検証していかないと)


 とは思うが、今の興味は完全に魔法一択。

 それっぽそうなところを勘で探っていると、やがて【魔法】の項目に行き当たる。


(あ、あれ……!?)


 そこに表示された内容に、ぼくは思わず自分の目を疑った。


【魔法】項目は属性別に分かれていたのだが、ぼくが今まで何度やっても使えなかった火などの項目にも、すでに一個だけ魔法名が記されていたのだ。


 しかもそこに書かれた〈トーチ〉という魔法の名前は、ぼくが何度試しても発動しなかった火の魔法のもので間違いがない。


(ここにあるってことは、もう習得したってことじゃないのか? じゃあ、なんで使えなかったんだろ)


 そんな疑問の答えは、〈トーチ〉の項目に意識を集中させるとすぐに判明した。


(こ、こりゃひどいや)


 なんと〈トーチ〉の魔法、魔法成功率が0%になっていたのだ。

 魔法の成功率は、その属性に適性があったり、魔法を発動させると習熟してだんだん上がっていくようだが……。


(一回も魔法が成功しないのに、どうやって熟練度上げろって言うのさ)


 そりゃ成功しない訳だ、とぼくは肩を落とした。


 そして、肝心の光魔法。

 そこにもちゃんと〈ライト〉という魔法が書かれていて、その成功率は、堂々の100%。


(すさまじい格差を感じる……)


 これはメニュー使えなかったら落ちこぼれ確定だったなぁ、とアルマくんに同情しながらライトの魔法を見ていると、〈ライト〉の項目をもう一度選択出来ることに気付いた。


 もしかしてさらに追加情報でもあるんだろうか、とボタンを押すようなイメージで〈ライト〉にさらに注目すると、



「みぎゃっ!?」



 突然、布団の中で光が爆発した。


 それが〈ライト〉の魔法の発露だということも分からず、もちろん初めての魔法成功を喜ぶ余裕なんて欠片もないまま、ぼくは、



「目がぁあ! 目がぁあああああ!」



 と小声で叫びながら、ベッドの上を転げまわったのだった。

祝、はじめての魔法発動!




アルマくん、なんだかんだでエンジョイしてる気がしてきた

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かっこいいアルマくんの表紙が目印!
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二巻
ついでににじゅゆも


― 新着の感想 ―
僕くんと俺くんの掛け合いに見覚え何あると思ったら、あれだ、腕にシルバー進めそうなんだ
才能がないと不可能な感じか
[気になる点] その台詞は主人公じゃない!
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