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閲覧ありがとうございます、新連載スタートです。
はじめましての方もお久しぶりですの方も、よろしくお願いします。
時は平安時代。
北に玄武、西に白虎、南に朱雀、東に青龍
四神に護られた場所に都を開き、平安京は繁栄の一途を辿っていた。
この時代神や仏等がまだ身近にあった頃であり、魑魅魍魎もまた身近な存在だった。
朝廷には陰陽庁と呼ばれ、陰陽師を纏める政府機関も設置されていた。
陰陽師は星を読み運気の流れを解き、神事を行ない神を祭り、魑魅魍魎を跋扈し払い除けたりしていた。
このお話は、そんな陰陽師になった青年のお話である。
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「獣臭いのう、獣臭い。神聖な宮のなかに、獣が紛れておじゃる。」
「本当に臭いのう、狐の匂いじゃ。」
宮廷の廊下に佇む官吏2人が扇を広げ、庭に佇む青年を見つつ悪態を交わす。
悪意のある視線に晒されているが、黙って庭に佇む青年はまるで人形のように、見る者達の目を引きつける。
丁度少年が青年に変わる間にあり、その身はまだほっそりとしている。
烏帽子を被っているが髪を結い上げず、長い髪を風に揺らしながら空を見つめていた。作り物めいた美しい顔は表情を映さず、微かに染まった頬の赤さで人であることを証明している。
「まるで女子のようじゃ、女狐じゃ女狐がおる。」
「誠にのう、如何わしい女狐じゃ。賀茂殿が連れ歩いておる、ご執心の若衆かのう。」
先程無関心を決め込んでいた青年が、流し見るように2人の官吏に視線を移した。
「なんじゃ、麿達に文句でもあるのか。」
視線を受けいきり立つ官吏に、スっと微笑んだ青年が初めて言葉を紡いだ。
「人相から陰の気がでております、今宵は暗闇にお気をつけください。」
言われた官吏達は怒りで怒鳴りつけるが、言いたい事を言い切った青年は、そのまま庭を突っ切り歩いて行った。
その日の黄昏時。
帰りの牛車に揺られている官吏は、昼間のやり取りを思い出し、怒りで扇子で掌を叩きつつ悪態をついていた。
『…せ』
官吏の扇子の音に紛れて、なにか聞こえた気がして扇子で掌を打つのを辞めて耳を澄ます。
『…こせ』
なんの音かと牛車内を伺いみるが、もちろん官吏1人しか居ない。
『…よこせ』
ズンと牛車が揺れて官吏が驚いて中腰になろうとするが、官服の裾を引っ張られてそのまま尻もちをついた。
引っ張られた裾の方を伺うと暗闇に浮かぶ人ならざる者の眼光が怪しく光っている。
声にならない悲鳴をあげて牛車内を這って移動すると、また耳元で声が聞こえた。
『よこせ!』
その瞬間足首を強い力で圧迫され、官吏はけたたましい悲鳴をあげてしまった。
陰陽師の仕事の一環に、夜間の市中見回り業務がある。
闇夜に紛れて人に害なす存在を滅する為に、人ならざる者達が活性化する夜に見回るのである。
昼間官吏に悪態をつかれていた青年も陰陽師端くれ、夜間警邏の業務に付き闇夜の市中を練り歩いていた。
日中人混みに賑わう通りも、夜は人影もなく静寂が辺りを包んでいた。
青年が歩いていると、どこからともなく声が聞こえてくる。
『…せ』
青年が立ち止まり、静かに佇むと更に声が聞こえる。
『…こせ』
『…よこせ』
青年が視線を正面に向け立つそばに、上から異形の鬼が3体降っておりてきた。
高さ1尺位の子供のような大きさで頭部が大きく、頭上には人では無い者の証のように角が付いている。
3体の鬼が地面を這うように移動しながら、青年に向かって移動を始めた。
『…よこせ』
『贄をよこせ』
青年は逃げる素振りを見せずに、懐に手を入れ鬼を見つめている。
鬼の手が青年に届くその瞬間…
「報酬だ。」
しゃがみ込んだ青年が袂から出したのは、小さなく紙に包まれたお菓子だった。
『ありがとうー!』
「なに人数増えてんだよ、1個しか準備してねーぞ。」
『仲間誘った、もっとよこせ!』
「とりあえず今回はそれを分けろ、また準備してやるよ。」
小鬼3体の前でにこやかに話す青年、名を安倍晴明という。
『あの官吏滅茶苦茶怖がってたー!』
小鬼達は清明に褒めて欲しそうに、得意気に依頼の結果を話す。3体の小鬼達は仲良く1つの包み紙を囲んで開き、中に入っていた金平糖を口にほおりこみガリガリと噛み砕いていく。
「あのクソジジイ共、毎度毎度嫌味を言いやがって。
おかげで少しスッキリした、また頼むよ。」
『あいよー!対価はまた食い物くれ。』
食べるのに夢中な小鬼を置いて、清明は立ち上がり夜間警邏に戻ることにした。
「お前達、百鬼夜行に参加したり人に障りだすなよ。そうなったらお前達でも、遠慮なく払うからな。」
『あいよー』
返事をしつつお菓子に夢中な小鬼をみて笑いつつ、清明は歩き出すと上からヒラヒラと紙で作られた鳥が落ちてきた。
げっと言いつつ手のひらを上に向けて広げると、紙で作られた鳥が手のひらに収まった。その瞬間鳥が文に変わり、見知った文字で言葉が綴られていた。
明日の出仕後顔を出しなさい。
簡潔に書かれた文は、師匠である賀茂忠行からの呼び出し状だった。このタイミングで文が届いたということは、清明は嫌な予感に襲われる。
本当に今日はろくな目にあわないと、悪態をつきつつ夜間警邏を続ける羽目になった。
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