宜しいでしょうか?わたしたちは見ていましたが、アメリア様は無実です。
煌びやかな装飾、美しく着飾った子息令嬢たちとその両親。学園生活を締めくくるに相応しい盛大な卒業パーティー。そんな華やかな雰囲気にそぐわないアメリア公爵令嬢の大きな溜息。
「あぁ、この時が来てしまったわ」
ハンスが言うには今日のパーティーには馬鹿馬鹿しいイベントが予定されていて、それがアメリアに対する断罪だという。
「わたくしったら一体何をしてしまったのでしょう?」
美しい金髪の真っすぐ艶やかな髪はしなやかに揺れ、エメラルドブルーの濡れたような儚げな瞳に透き通るような美しい肌は十分に庇護欲を掻き立てた。そんな彼女の一挙手一投足を逃さずに見つめる数多の目に気が付くことはない。
辺りを見回してもハンスの姿はなく、婚約者であるマクロン王太子の横にはピンクの髪に黄色い瞳の可愛らしい少女、エリアーナ・キャメロン男爵令嬢が寄り添っている。
マクロンは国王と第二夫人である側室との間に生まれた子で、王妃との間に子が生せなかったことで王太子になった。その側室はマクロンが10歳の頃に儚くなった。
「断罪と言うからには、マクロン様がわたくしに言いたいことがあると言うことかしら?それにしても、こんなパーティーで言うようなことかしら?」
癇癪を起しやすいマクロンは失言も多く、王太子である自分が全てにおいて優先され、全ての行動に罪はないと思い込んでいる節があった。隣国カイロン皇国の留学生であるマハニア第二皇子に対して、カイロン皇国の特産で非常に貴重な黒真珠を、真珠の紛い物と言い放ち国際問題に発展しそうになったこともある。
そんな問題を起こすたびに尻拭いをしてきたのはアメリアだ。そして、出来るだけ機嫌を損ねないように細心の注意を払ってマクロンに苦言を呈してきた。
エリアーナの件にしてもそうだ。堂々と公衆の面前で浮気をしているマクロンに、幾度となく注意をしてきたが一切の聞く耳を持たず、「可愛げのないお前よりエリアーナの方がよほど俺を分かってくれる」と言い放ち、アメリアを睨み付けた。
「はぁ、頑張ってきたつもりだったけど」
もう一度大きな溜息を吐いた時、高らかな声が響き渡った。
「この場に居る諸君。君たちにはぜひこの素晴らしい日の証人になって頂きたい!」
声のする方に人々が注目すると、そこにはマクロンとエリアーナ。その後ろには宰相の息子のガレット・ウォーク。騎士団長の息子のアスター・ウィルソン。そしてアメリアの弟のハンス・クリアード。
「まぁ、ハンスったらあんなところに」
アメリアはにっこり笑ってハンスにこっそり手を振った。ハンスもそれに気が付き小さく振り返した。
「アメリア・クリアード!貴様との婚約を破棄し、ここにいる我が最愛の女性であるエリアーナと婚約を結ぶこととする」
「まぁ、そう言うことでしたの」
アメリアはホッとしてつい微笑んでしまった。変なことを言われるより婚約破棄の方がまともと思えるほどマクロンには手を焼かされていたし、婚約破棄ならありがたくお受けする。
「畏まりました。それは、国王陛下もご存知のことと理解して宜しゅうございますね?」
「ふん!父上にはこれから言うんだ」
「まぁ、根回しもしないまま話をしてはいけないとあれほど言ってきましたのに、こんな大切なことを事後報告なんてありえませんわ」
「煩い!それだからお前は可愛げがないと言うんだ。婚約破棄だぞ!堂々としているな!」
困ったわ。わたくしは泣いた方がいいのかしら?
「申し訳ございません。突然のことに驚いてしまいまして」
「ふん!まぁいい」
「では、陛下にはマクロン様からしっかりご説明下さいませ。わたくしは父と今後について相談をしますのでこの場を辞させて頂きます」
「ま、待て!」
「はい?」
「まだ、理由を説明していない」
「はぁ」
長くなるのかしら?せっかくのパーティーなのに皆様に申し訳ないわ。
「アメリア、貴様はここにいるエリアーナに数々の嫌がらせをし、苦しめた。その悪行は許しがたい程非道である。それを認めるか?」
非道?何について仰っているのかしら?婚約者がいる殿方に、そんなに身体を密着させてはいけないと注意したことかしら?もしくは……。
アメリアはエリアーナに注意した内容を思い出してみたが、どれも非道な行為と言うには無理がある。
「アメリア、貴様認めないつもりか!」
「いえ、マクロン様。宜しければわたくしの何が非道な行為だったのか、お教えいただきたく存じます」
「最初からそう言えばいいのだ。よく聞け。お前は放課後の人がいないところ見計らって、エリアーナのノートをナイフで刻みゴミ箱に捨てたな。更に階段から突き落とし、学園の池に落としたこともあるな。エリアーナは震え怯えていた。よくそのような非道なことが出来るな!」
「お待ちください!」
そう言ったのは、アメリアの弟のハンス。
「なんだハンス、今は貴様に発言を許していないぞ」
「はい、ですが少々宜しいでしょうか」
「な、発言を許さんと…」
「エリアーナ嬢のノートですが、わたしはノートにナイフを立てているエリアーナ嬢を目撃しています。その日は、ダンスの特別講師がいらっしゃった日で、帰宅時間が早かったため覚えています」
「な?ハンスなんてことを言うの」
突然のハンスの言葉にエリアーナは驚いて顔を赤くした。
「そうだぞ、ハンス。姉を庇いたい気持ちは分かるが、言っていいことと悪いことがある!」
「宜しいでしょうか?」
「誰だ?」
気が付くとアメリアの周りには多くの学生が集い、その中の一人の男子生徒が手を挙げた。
「貴様、誰だ?」
「はい、わたしはオランジュ男爵家が次男ダレン・オランジュと申します。ハンス様の言葉に付け足させて頂きますと、エリアーナ嬢のノートがナイフで切り刻まれたと言われる日、アメリア様はご友人の令嬢達とカフェに行かれ、楽しい時間をお過ごしになられています。ちなみにその日召し上がったのは、チーズケーキとアールグレイの紅茶で、チーズケーキの美味しさに頬を緩められ、それはもう可愛らしい笑顔でわたしの心臓は止まるのではと思うほどでした」
「…は?」
「わたくし、チーズケーキには目がないんですの」
そう言って恥ずかしそうにするアメリアを、周りの学生は目を潤ませながら見つめた。チーズケーキ、美味しいですよね、アメリア様。
「報告は以上でございます」
「何を言っているのだ?」
「さらに宜しいでしょうか」
またもやハンスが口を開いた。
「許さん!」
そう言ってマクロンがハンスに掴み掛ろうとした時、騎士団長の息子のアスターがハンスの前に立ちマクロンを制した。
「どけ、アスター」
「殿下、ハンスの言葉を最後まで聞くべきです」
「なに?」
「続けます。エリアーナ嬢が階段から落ちたと言う話ですが、わたしはその時も現場を見ていました」
「え?なんで?」
「ちなみにその日は春季休暇の前日で帰宅が早く、皆さまウキウキされていたので覚えています」
ハンスの言葉にエリアーナは顔を蒼くした。
「エリアーナ嬢が、階段を二段ほど登ったところから叫びながらジャンプして下に降り、転がり落ちたように演技をされていました」
「嘘よ!」
「わたしが駆け付けた時には涙を流され、姉に突き落とされたと言っていましたが、姉の姿はどこにもありませんでした」
「宜しいでしょうか?」
今度は、アメリアを囲む学生の中で一際目を引く真っ赤なドレスの女子生徒が手を挙げた。
「宜しくない!貴様ら、一体何のつもりだ?」
「わたくしは、ガーネット侯爵家のフローラと申します」
「勝手に話し出すな!」
「エリアーナ様が階段から突き落とされたとされる日は、アメリア様にご招待いただき数人のご令嬢と公爵家のお庭でお茶会をしていました。その時、最近飼い始めた子犬を愛でていらしたアメリア様が、「大人しいでしゅねー、いい子でちゅねー」と赤ちゃん言葉で子犬に話し掛け、それはそれは可愛らしいアメリア様にわたくしたちはほっこりとしてしまいました。子犬とアメリア様のコラボレーション。最高でございました」
「ま、まぁ、恥ずかしいですわ。わたくしったらそんな言葉を…」
アメリアがポッと頬を染めると、周りの学生からため息が漏れた。
「ふざけるな!誰がそのようなことを信じるか!」
「わたくしはガーネット侯爵家に誓って嘘など申しません」
「くっ!」
マクロンは悔しそうに顔を歪め、マクロンの腕にしがみ付いていたエリアーナは顔を更に蒼くした。家の名に誓ったものを簡単に否定は出来ない。
「引き続きよろしいでしょうか?」
「いい加減にしろ!ハンス」
「いえ、折角殿下がこのような場を設けて下さったのですから、有効活用しなくてはなりません」
「こんなバカな話を聞くための場ではない」
「エリアーナ嬢が、池に落ちた話ですが」
「やめて、ハンス!」
エリアーナが涙ながらに訴えた。
「なんでこんな酷いことをするの?わたしはアメリア様に酷いことをされたのよ。まるでわたしが嘘つきみたいに、みんなでよってたかって」
エリアーナを見る周りの学生の目はとても冷たい。
「まったくだ。それもこれも、全部アメリアが手引きしているのだろう。なんと狡賢い女だ。こうまでして自分の罪を認めないとは」
「はぁ」
アメリアには間の抜けた声しか出すことが出来ない。手引きも何もない。全て身に覚えがなく、周りの皆さまが無実を証明してくれているだけ。
「続きですが」
「ハンス、貴様!」
「エリアーナ嬢が池に落ちたとされる時、わたしは一人で池に落ちそうになっているエリアーナ嬢を間一髪のところで手を引き、池に落ちるのを阻止しました。そして、エリアーナ嬢に、池の近くは危ないので、離れて下さいとお伝えしたはずです。わたしはそのまま帰宅いたしましたが、その後池に落ちたのなら自業自得かと」
「違うわ!わたしはアメリア様に突き落とされたのよ」
エリアーナの悲痛な訴えは、心に響くものがある。いや、マクロンの心にだけは響いた。
「そうだ!ハンスはエリアーナが池に落ちたところを見ていなかったのだろう?なら、誰がアメリアがやっていないと証明するのだ!」
「マクロン様」
二人は何故か抱き合っているが、やはり周りの学生の目は白け切っている。
「宜しいでしょうか?」
そう言ったのは、宰相の息子のガレット。
「なんだガレット」
マクロンは漸く、自分たちの味方が口を開いたことに安堵した。
「エリアーナ嬢が池に落ちたと言う日、アメリア様は王妃教育の為王宮にいらっしゃいました」
「ガレットぉ!!」
マクロンは顔を真っ赤にして、暴れ出した。それを止めるアスター。
「貴様、裏切る気か!」
「裏切るなんてとんでもないことです。わたしは常に王国の為に尽くす臣下であると自負しています。それに、アメリア様が王妃教育の為に王宮にいらしたことは王妃殿下もご存知です。そうですよね?殿下」
ガレットが会場の入り口に目を遣るとそこには国王、王妃、そして国王の弟のアーバイン。
「ええ、間違いないわ」
「お、王妃殿下」
三人の姿を確認すると、学生やその両親たちが頭を下げた。
「今日は折角のパーティーを愚息が台無しにしたようだな。申し訳ない」
国王が学生たちに謝ると会場は大いにざわついた。
「父上、何を仰っているのですか。台無しにしているのはアメリアです」
「バカモン!貴様は、何故この状況でアメリアの責任に出来るのだ!すべては貴様が不貞を働き、勝手に騒いだ結果であろう!」
国王の怒気を含んだ声に、マクロンは竦み上がり顔を蒼くした。
「アメリアよ、本当にすまなんだ。わしの目が届いていなかったとはいえ、ここまで勝手をするほど愚かだったとは」
「とんでもないことでございます。わたくしの力が足りないばかりにこのようなことになってしまい、わたくしこそ王太子妃に相応しくないと実感しております」
「そんなことはない!」
「父上、俺は何一つ間違っていません。アメリアのような可愛げの欠片も無い女など、国民も付いては来ますまい」
マクロンが唾を飛ばしながら叫んだが、その姿を見た国王の目には諦めの色が浮かび溜息も殊更大きい。
「その言葉、そのままお前に返そう」
「え?」
「お前のような愚かな男に国を任せることは出来ん!」
「父上!」
「黙れ!我が弟アーバインの婚約者にと話が上がっていたにも関わらず、わしと王妃が頼み込んでアメリアに貴様の婚約者になってもらったと言うのに」
「え?」
「第二夫人が儚くなり後ろ盾の弱いお前の為に、アメリアとアーバインに頭を下げたのだ。それを全て台無しにしおって」
「そ、そんなこと…」
「アーバインは二人の邪魔をしないために辺境伯として国の為に働くと誓ってくれた。アメリアは、お前を支え国の為に尽くすと言ってくれた。それなのに、お前は何だ。この、恥さらしが!」
「ち、父上」
全ての事情を話したはずだった。それなのに、初めて聞く話かのような顔をしているマクロンに腹が立って仕方がない。
「お前の後ろにいる3人がわしの所にきて、お前の愚行を止めることが出来なかったと罰を求めてきた」
その言葉を聞いてマクロンは三人を睨み付けた。
「お前ら…!」
苦々し気なマクロンの顔とは裏腹に、三人の顔は冷静で涼やかだ。
「それまで、全てアメリアが上手く対処していてくれていたおかげで何も問題なく済んでいたが、わしはそれすら知らなかった。そして知らずにいつかはお前に王位を継がせようと思っていた。なんと恐ろしいことをしようとしていたのかと反省したわ」
「ち、違います、父上…」
国王は手を挙げマクロンの言動を制した。
「マクロンを廃嫡し、アーバインを王太弟とし、2年後に王位を継承させる」
「父上!なんてことを仰るのですか!お考え直し下さい!!」
「どういうこと?マクロン様は王子じゃなくなるの?」
エリアーナはキョトンとしてガレットに聞いた。
「王太子ではなくなるのです」
「なぁんだ、王子には変わりないのね、あれ?でも、王太子じゃないって…?」
「「「?」」」
エリアーナには事の重大さが分からないようだ。
「マクロンを王族から除籍する。その小娘とどこへでも行くがいい」
「父上、お待ちください。なにとぞ撤回を!俺は、父上の唯一の嫡子です」
「そうだ。だからこそお前に、素晴らしい国王としての姿を望み、アメリアこそがお前を支える次期王妃に相応しいと思っていた。だが、わしが間違っていた。アメリアが王妃になることは、わしの望みだ。だから、今度こそアメリアに相応しい男を選ぶことにした」
「それが叔父上ですか?」
「そうだ。アーバインはわしと年が離れていることもあって、わしが育てたようなものだ。実際、幼い頃のアーバインはわしのことを本当の父親だと思っていたほどだからな。そして、優秀な男だ。強くて賢い。そんな可愛い弟とアメリアが一緒になるのを邪魔したことをわしは恥じている。二人共許してくれ」
そう言うと国王は頭を下げた。
「兄上、顔をお上げください」
アーバインは先王と愛妾の間に生まれた子で、国王とは30歳の年の差があった。真っ黒な短めの髪に切れ長の黒い目、その立派な体躯と相まって誰もがうっとりする美丈夫だ。
妾腹であるアーバインはアメリアには相応しくないという思いがあった。その為、兄と義姉に頭を下げられれば、頷くしかなかった。悔しくないわけではなかったが、身分の卑しい母が産んだ自分を大切に育ててくれた兄の役に立てるなら、アメリアを諦めることが恩返しになるなら、辺境伯となり、防衛の要を担うのも悪くはないと思っていた。
「アメリア」
アーバインはアメリアの前まで歩み寄り跪き、その白く美しい手を取った。
「あなたが許して下さるのなら、今一度私との婚約を考えて欲しい」
「アーバイン様」
アメリアはまるで夢でも見ているのではと思うほどふわふわとした心地だった。アーバインとの婚約の話が無くなった時、声を殺して泣いた。翌日には泣き疲れて体調を崩したほどだった。そして、その次の日、アーバインへの想いを封印しマクロンに尽くし国に尽くす覚悟を決めた。
「わたしの心はずっとアーバイン様のものです」
「わたしと結婚してくださいますか?」
「はい」
アメリアがそう言った瞬間に、周囲で見守っていた学生たちがワッと歓声を上げた。拍手が起こり祝福の声が上がった。
「ありえない、なんでこんなことに」
マクロンが蒼い顔をして膝を突いた。エリアーナは事態が飲み込めずに呆然としている。
「何?一体みんな何を騒いでいるの?」
「王弟殿下がアメリア様と婚約をされることになったのです」
ガレットがエリアーナに説明をした。
「ふーん。それで何を騒いでいるの?」
「王弟殿下が王太弟となり次期国王になられ、アメリア様が王太弟妃となり次期王妃となられるからです」
「はぁ?なんですって??」
「いや、なんでここまで説明しないと分からないのか」
ガレットが頭を抱えた。
エリアーナはただマクロンが好きだった。美しく自信に満ち溢れた姿は自分が過ごしてきた平民街では見たことがない。エリアーナが見てきたのは、その日その日を必死に生きる薄汚れた自分と同じような可哀そうな子たちばかり。
それが、男爵に引き取られて、学園に通うようになったら全く別の世界が広がっていた。そして、美しいマクロンに出会い一目ぼれをした。だから挨拶をして近づいて仲良くなって親密になった。マクロンが王子であることはすぐに知ったが、貴族の婚姻の複雑さなどエリアーナが知るはずもない。
好きな人と結婚をして幸せな家庭を築き、さらに夫が王様で自分が王妃なんて最高だわ。マクロンが、エリアーナなら全国民が君を支持し、君は立派な王妃になると言ってくれた。平民が王妃になるシンデレラストーリーにきっとみんなが夢中になるだろう、エリアーナと俺は運命だったんだ、とうっとりとした瞳で言われれば、何が何でもマクロンと結婚するために頑張らなくてはと思ったのだ。
でも、何か違ったみたい。マクロン様の言うことを聞いて信じていたけれど、多分それは間違いだったんだわ。
エリアーナが気付いた時にはもう遅かった。自分は牢屋にでも入れられてしまうのだろうか。漸く現実が見えてきた時、体が震えだした。
「エリアーナ様」
目の前にアメリアが立っていた。
「ア、アメリア様…」
すると、アメリアがエリアーナの両手を取り、その美しい顔を僅かに赤らめた。
「エリアーナ様のお陰で色々と助かりましたわ」
「は?」
「マクロン様を引き受けて下さったでしょう?このまま結婚に至ってしまったらどうなるのか心配でしたが、漸く肩の荷が下りました」
「はぁ?」
「これから大変だと思いますが、よろしければ相談に乗りますので遠慮なく仰ってくださいませ」
「え?」
「それでは、失礼いたします」
アメリアが美しいカーテシーをし、アーバインにエスコートされて会場を後にした。
「はぁああああ??」
それからマクロンは国王の言葉通り、廃嫡、除籍された。市井に落とそうとした国王をアメリアが説得し、マクロンは子爵の地位を賜った。エリアーナと結婚したが、余計な争いの芽をつむ為、マクロンは子が出来ないように処置された。それを知らないエリアーナが、その出来事から2年を過ぎた頃に子を身籠り屋敷を追い出された。
泣きながらアメリアを頼ってきた時にはさすがに頭がクラクラしたが、二人を説得し仲直りをさせ、子供は二人で育てることになった。
こぢんまりとした部屋に、アンティークで揃えられたソファとテーブルにそのほかの調度品。夜、寝る前にアメリアとアーバインがゆっくりとした時間を過ごす大切な空間。今日も、二人は寝る前のひと時を楽しんでいる。
「アーバイン様」
「なんだい?」
「実は、今日慰問した教会でとても嬉しいことがありましたの」
「そうか。どんなことがあったんだい?」
アーバインは知っている。アメリアが教会の子供達が作ったクッキーを食べ、それがとても美味しかったこと。子供達が週に一回マーケットで売っているハンカチに、アメリアの大好きなチューリップの刺繍を入れてくれたこと。そのほかにもいろいろ。
アメリアが歩けば人々が振り返る。アメリアが微笑めば人々が頬を染める。そんな誰もが目を奪われるアメリアの行動は、誰かに聞けばその表情まで細かく私情を挟みつつ説明してくれる。
アメリアはいつも誰かに見守られている。
最後まで読んでくださいありがとうございます。
またまた誤字報告ありがとうございます。とても助かります!
王妃は国王の妻であって支配者ではない為、『王妃殿下』が正しい。そうだったんですね。
調べると国によって陛下であったり殿下であったり。勉強になりました。ご指摘ありがとうございます。
13話完結の新作です。
是非お立ち寄りください。
マレーナ・ウェストモント伯爵が本当の幸せを掴むまで
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