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短編集

転生したくない俺と転生させたい管理官の話

作者: メグル

 空間――。

 何もない真っ白な空間は、自分がどこにいるのかさえわからず、前後左右と言う言葉すらも意味をなさないほどだった。


 ひとまず、歩ける感覚はある。


 自分の存在すら認識出来ないこの空間で、どうして動けるのかはさておき、立ち上がって辺りを見回せば、正面でチカチカと何か光った気がした。


 とりあえず、そこに向かってみることにする。


 どれくらい歩いたか分からないが、光った場所にたどり着くと一枚の扉が浮いているので、ドアノブに手をかける。

 鍵は開いているようだ。


 オレは扉を押した。


 ガンッ‼︎


 押してダメなら引いてみる。と、扉は開いた。

 キィィと耳障りの音がして開いた扉の中を見て、オレは絶句した。


 祖父母の家、昭和の家とでも言えそうな空間が広がっていたからだ。

 コタツ、みかん、畳、ブラウン管テレビ、植物を編んで作られた棚――そして、そこにじーさんが一人。


 コタツに入ってくつろいでいる。


「誰じゃ、お前さんは」

「オレは――」

「とりあえず中に入れ、ほれ」


 誰何の声を上げといてどうでもいいと言うように、じーさんは自分の右隣の畳を叩く。そこに座れと言うことだろう。


 座るとみかんを差し出される。


「サンキュー、じーさん」

「で、誰じゃお前さんは?」

「オレ?オレはむ――高橋だ。じーさんは?」


 一応警戒心はあるので偽名を名乗っておく。

 みかんの皮をむく手を止めたじーさんは、じーさんの顎を触ってわずかに悩んだ後口を開いた。


「そうじゃな、世界を管理しとる管理官というところじゃ」

「ふーん、管理官か。ところでここはどこなんだ?」


 みかんを一房口に放り込むと結構甘くて美味い。


「一応、わしの部屋。わしの部屋に入るなんてちょーレアなことじゃよ」


 じーさんは茶を啜って、一息つくとオレの方を見た。


 つーか、最近流行りの異世界転生みたいだな。


「まあ、お前さんは手違いのようじゃがな」

「は?」

「手違いじゃ、手違い。今、地球は新人さんが管理しとるからな、間違いもあるもんじゃろ」


 心を読まれたな。いま、そんなことはどうでもいい。

 それよりも、だ。


「間違いってなぁ」

「そういうわけじゃ、詫びに剣と魔法の世界に転生させちゃるわ。なんと前世の記憶付き」

「剣と魔法、ね」


 歯切れの悪いオレにじーさんは追加で付け足す。


「チートとやらをつけてやってもいいぞ。わし、それなりに偉いから自由自在じゃし」

「そりゃ、助かるけどさ……」

「なんじゃ煮えきらんのぅ。ハーレムもつければ満足か?」

「いや、そうじゃなくて」


 オレが首を横に振ると、じーさんはオレの言葉を遮って次々に追加の話を出してくる。


「あー、お前さん(おのこ)の方がタイプじゃったか。それとも両刀か」

「いやいや、フッツーに女の子が好きですけど⁉︎」

「お前さんの好みがわからん。要望はなんじゃ」


 異世界転生よりもまず、手違いならさ――。


「元の世界じゃダメなわけ?」

「そりゃ無理じゃな」

「即答かよ」


 じーさんに無理だと即答されて、へこんだ俺にじーさんは茶を淹れてくれる。


「お前さんに言うなら、天国と地獄の地獄の部分ってことになるんじゃが、なにせ片道切符なわけ」

「つまり、新人が行き先を間違えたと、そう言うことか」

「そ、次の切符は転生するときにしかもらえんわけよ。これ、わしの力でもどうにもならんやつ」


 絶対的な力ってやつらしい。

 ちなみに、新人が間違えてなきゃオレは乙女ゲーム似の世界で悪役令嬢の下僕だったらしい。前世の記憶はなしでだ。


 オレは仰向けに寝転がる。

 転生が嫌だとか、自分にショック受けたとかそんなじゃないけど、なんつーかな。


「さ、お前さんはどんな世界に行きたい?わしのことにきたんじゃ、出来るだけ要望は聞いてやるぞ」

「……転生しないってのはなし?」

「輪廻から抜け出しておるなら、可能と言うがな」


 仏になれと?

 不可能に近くないか、それ。


「転生したくないってのは理由でもあるのか」

「うーん、いや。なんかさ、オレはオレでいたいし、それなりに恵まれた人生だったからそれ以上も必要ないかなって思うだけ」

「謙虚じゃな」


 起き上がったオレは茶を一口飲む。

 色々と大変だと思うこともあったし、人を信じられなくこともあったけど、それでもいい人生だって思えたからな。

 心残りはあるけど、帰れないなら仕方ない。


「お主はどんな世界で生きていきたい?」


 真面目な顔してじーさんが尋ねてくる。

 これが最終確認ってことか。


「そう、だな。適当に人様に迷惑かけて、そんで、適当に人様の力になれるような世界(じんせい)かな」


 たった一人で生きていけるほど強いわけでもないし、助けて助けられてでいいんだと思う。


「ふむ、あいわかった」


 じーさんが両手を合わせてパチンと鳴らすと、オレの視界は白く染まり目を開くと見たこともない場所にいた。

 おそらく、林道だ。


 子供姿になったオレはなぜか旧型の折りたたみ式携帯電話を持って。


 ピロリン。


 携帯電話が鳴って開くと一通のメール。

 アイコンはさっきまでオレがじーさんといた部屋の写真。


 メールを開く。


『Re:転生おめでとう‼︎

 困ったことがあったら連絡してくれ、その都度、能力を渡すのでな』


 オレは返信をせずに携帯電話をたたんでポケットに突っ込むと林道を抜けるべく歩くことにした。


お読みいただきありがとうございます。

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