招かれざる客
「はいはい、今日も仲良し家族ごっこか?飽きないねぇ?」
ひゅん、と何かが銀色の光を放ちそれがオーディンに当たる寸前にトールが手で掴んで止めた それは一本のナイフだ
刃を握るトールの拳から血が流れる
「……貴様は何時だって場を乱すのが好きだな」
トールの手の中のそれを睨め付ければそれはぬっと現れた
「やぁ、お邪魔するぜぇ」
「ロキ……何用だ……」
「そんな怖い顔しないでくれよぉ?ほんの悪ふざけじゃないか」
「悪ふざけですって?主神に向かって刃物を投げつけるなんて……悪ふざけ何かで済む問題ではないわよっ!」
ヘルンが怒りに震える だが当の神であるロキは全く気にしていない様子だ
「いやまあ、確かに喉笛にでも突き立ててやろうと思ったんだけどさぁ……あんたら隙だらけだしぃ?これくらいなら当たるかなァって」
言い終わる前に巨大な槌が横薙ぎに振り抜かれる しかしそれもひらりとかわされる
「おー、こわ、ファザコンもここまで来るとおっかねえなぁ」
「黙れっ!!この痴れ者がっ」
トールがミョルニルを手に駆け出そうとするのをオーディンが手を掴み止める
「離してください!」
「落ち着け、トール、お前らしくもない……」
「これが落ち着ついて…」
トールを、いや、我が子たちを後ろにやりオーディンが一歩前に進み出る
コツンと大理石の床を鳴らし、ロキの前に立つ
「それで?私に一体なんの用だ?死者たちを慰める大切な宴の席で、しかも、私の息子の手に傷まで負わせてくれたのだ、それなりの理由があるのだろうな?」
「おお怖っ!別にぃ?ちょっと悪戯しにきただけだぜ?」
広間に響くロキの笑い声は、酷く、《中身がない》ように聞こえた。
その事に気づいた者はいただろうか。
「…悪戯…悪戯か……お前は本当に悪ふざけか好きだな…私に当たる悪戯ならばまだ許そう……だが……」
オーディンの声が低くなる
「私の息子たちを傷つけた罪は、貴様の心臓を引き裂いて償ってもらおう」
宴の場に集う死者たちが頭を抱え地に伏せる、隠す気など毛頭ない明確な殺意が空気を凍てつかせる
流石のロキもふざけた笑みを引っ込めて、冷や汗を垂らす
先ほどまで鶏を抱きしめて幸せそうにしていた男とは到底思えないほどの威圧感と殺気が辺りを支配する。
「何でそこまでの《力》を持ってるのに、あんた普段はふにゃふにゃと頼りないんだよ」
「私は争い事が嫌いなのだ、だから普段から力を殆ど使っていない」
「おいおい!嵐と闘争の神が!聞いて呆れるねぇ!!」
今にも腹を抱えて爆笑しそうに表情を歪めるロキの頬に一閃が走る。
「…………は……?」
「私の子供たちに手を出せば容赦はせぬ」
ロキの頬からボタボタと鮮血が流れ落ちる、オーディンの手には神槍が握られていた
鋭く大きな穂先、美しい金の蔦の装飾
ドウェルグたちが最高神のために作り出した槍
神々の至宝
使われず久しい筈のそれは神々の王の魔力を受けて鈍色に輝いていた
「失せろ、ロキ」
その一声だけで空間が揺れる
ビリリとした痛みすら感じる程の圧倒的な覇気に神々の王以外の全てのものが動けなくなる
「ちっ」
舌打ち一つ、そしてその姿が掻き消えた。




