赤茶けた雄鶏
死者の目覚めを告げる赤茶けた雄鶏
そんな会話をしていると死者たちが少しざわめく、向こうから赤茶けた雄鶏がトコトコと歩いてきて
とんとんと主神の椅子に続く階段を上る
そうしてたどり着いたら椅子に登り、主神の腕を伝って肩から頭の上へと移動する
二神と死者たちが青ざめる
そりゃそうだ、鶏が主神の頭に止まったら誰だって驚く
「こっ!これ!不敬であるぞ!」
グリームニルが慌ててそう言うもオーディンは何処吹く風だ
「そこからの眺めはどうかね、我が友よ?」
オーディンが尋ねれば赤茶けた雄鶏は答える
『辺りが見渡せてとてもいい景色です』
「それは良かった」
「ちょっ!?ちょっと待ってくれ!」
グリームニルが慌てる
「えっ?何言って…鳥…いや、鶏が喋ったことも驚きだが、貴様なに平然と主神の頭の上に止まっているんだ!」
オーディンは呆れたようにため息をつく
「グリームニル、こやつはグリンカムビと言うてなヴァルホルの番人であり時を告げる鶏だ」
「時を告げるなら普通の鶏も居るでしょうに、なんですかこの変なのは?」
ヘルンの言葉にグリンカムビは憤慨する
「いやいや!ただ時を告げるのではありませんぞ!私の鳴き声と共にヴァルホルを訪れる死者たちは目を覚まし、生者とともに新たな一日を迎えるのです!」
「えっと…つまりどう言うことだ?」
「つまりです、死者たちはヴァルホルの宴が終わってからは皆が一様に眠ってしまうのですよ、なので私がこうして起こしに来ているわけですね」
トールが補足説明をする
「眠る死者たちを目覚めさせて、下界に居る死者たちを宴が開かれる頃に呼び戻す、それがグリンカムビの役目だ」
「私が鳴かないと死者たちがどのタイミングでヴァルホルに戻れば良いか分からないんですよねー」
オーディンが苦笑しながら付け加える
「こやつは巨人の討伐をしてから城へ戻る途中トールが巨人の海の近くにある洞窟を通りかかった際に巨人どもに脚を棒に括られていて動けない状態で放置されていたのだ」
トールが続ける
「ちなみに括られたグリンカムビの下には薪と何やら香草の様なものが置いてあった」
トールの説明を聞いたグリームニルがうわぁ、と顔をしかめる
「括られた鶏、下に置かれた薪、香草の様なもの……明らかに調理する気満々じゃないか」
「トールが言うには…物凄い悲痛な声で《たすけっ、助けてもらえませんか?!そこ、そこの赤い髪の綺麗な神様!誰か存じませんけど!》と言われたらしい……」
「オーディン様…あの…わざわざ声真似までしていただいて申し訳ないのですが、私そんな事言いましたっけ?」
「疑うならば見せようか」
オーディンが指を鳴らせば一枚の大きな鏡が現れ、過去の記憶を映し出す
《ああ!そこの赤い髪の綺麗な神様!誰か存じませんけど!たすけっ、助けてもらえませんか?!喰われ…ぎゃー!塩が目に!しかも胡椒まで入ってるぅ!!喰われるぅ!》
そう叫びながら脚を棒に縛られジタバタするグリンカムビを見てはぁ、とため息をついたトールが瞬く間に巨人たちを拳で叩き潰し、肉塊に変えてしまう映像が流れる
「トール様に助けていただいて、そのままオーディン様の元へ連れて行かれまして」
過去の映像の続きはトールがグリンカムビを小脇に抱えてオーディンに《拾いました》とただ一言だけ告げ
オーディンが眉間を指で押さえて
《何故よりもよって言葉を解して言葉を放つ鶏なんぞを拾ってくるのか……まぁよい、好きにせよ……》と言ったところで途切れている
「と言うことがあって今はヴァルホルの門番兼死者たちの目覚めと帰還を知らせてくれる鶏として働いてもらっておるというわけだ」
グリームニルは頭を抱えながらトールに問う
「兄上…なぜ喋る鶏なんて不気味極まりない生き物を平然と拾って来たんですか……?」
「いや、巨人から助けてやって紐をほどいて解放したら…羽を閉ざしてまん丸になってぶるぶると震えていたのでな、つい」
「可哀想に思って連れて来たのだろう?そなたは本当に優しい子だなトール」
「いえ、私はただ単にこの変なのが居たら宴の時に多少は死者たちの慰めになるかと」
「トール様ァッ?!変なの?!変なのと言いますか!?今変なのと言いましたよね?!」
「ああ」
「ああって!そんなイケメンな顔をしてあっさり肯定しないでくださいよ!傷つきます!」
「変なのは事実だから仕方ないだろう?」
「わーん、ひどいじゃないですかあ」
「これ、グリンカムビよ、私の頭の上で泣くでない…私の頭が涙で濡れてしまったではないか…これ地団駄を踏むでない」
オーディンがグリンカムビを頭から下ろして膝に乗せ宥める様に赤茶けた雄鶏の頭を撫でてやる するとグリンカムビはオーディンの手の中でくるりと向きを変えて甘える
「オーディンさまぁ~」
「よしよし、そなた甘え出すと人懐こい鶏にしか見えぬのう…」
その撫でる仕草は本当に慈しむ様な手付きだった。




