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侍もどきとの遭遇

テュールの依頼を受けた翌日、三人はその和国の冒険者に決闘を申し込んで来た侍もどきが目撃され被害が出ている場所へと向かった そこは人気のない路地裏であった

聖職者が路地裏を注意深く観察しながら言う


「テュールの話だと和国の冒険者に決闘を申し込んで来る侍もどきは実力は本当にたいしたことはないらしいな…あんまりにも弱いんで他の冒険者たちも襲われたからっていちいち相手にしないらしい……」 


「ふぅん?でもよォ?もしその侍もどきが本物だった場合はどうすンだい?」


「そこは侍もどきが出てきた時に、侍がしっかり強いか弱いか見極めりゃ良いだけの話だろ?お前は相手の強さをある程度測る事が出来るみたいだし、大丈夫だろ?」 


「まあねェ?一応気をつけておくよォ?」


つかつかと路地裏を歩くとフギンがカアと鳴いた

警戒してると言うより【なんかいるよ】と聖職者に伝える風だった


「何かいるのか?」


聖職者はフギンに問いかける

フギンはパタパタと翼を羽ばたかせた

ん?と三人が目の前を見ると…


和国のおとぎ話に登場する桃から生まれた英雄を間抜けにしたらこんな顔になるだろうなと思うようなマヌケ面をした青年がいた 服装こそ侍っぽいものの、聖職者たちの仲間の侍とは雲泥の差があった テュールが言うにはこの侍もどきは刀を持っているとの事だったが……

聖職者の仲間である侍は腰に二本差していたが 今、そこに立っている侍は一本しか持っていなかった 


侍を見て青年が意気揚々と名乗りを上げる


「俺の名は鯖丸!!いざ尋常に勝負!!」


「いやァ、例の侍もどきってのは何処にいるのかねェ?」

「被害が広がる前に捕まえないとな」

「早く行こうぜ」


鯖丸とか名乗った侍もどきを三人は素通りしてスタスタと路地裏の奥へと進んで行く すると無視された鯖丸とやらが侍の足にしがみつく


「無視するなァッ貴様ァッ!」


「吾は見てないよォ、見えてないよォ、足にしがみつかれてもないよォ…」


聖職者たちはそのままスタコラサッサと逃げて行こうとするが 侍(?)は怒り狂いしつこく食らいつく


「待て待て待て!せっかく名乗り上げてやったのに!何で無反応なんだ!俺は侍だぞ!侍!侍と言えば侍!侍もどきとはなんだ!しかも、わざわざ鯖丸と名乗りを上げてあげたんだ!ちゃんと見ろ!名前!ほら!鯖!丸!さ!ば!だ!わかったか!おい!こら!逃げるんじゃねぇ!おい!おーいっ!聞いてるか!?」


聖職者たちが立ち止まって振り返る


「なんなんだ…本当に」


聖職者が疲れきった様に呟けば肩に乗っているムニンが【元気を出して】と言いたげに聖職者の頬に頭をすり寄せてくる


げっそりしながら薬師が問いかける


「あー、なんだ…お前さんがそのぉ…最近、和国の冒険者に決闘を挑んでる侍もどきって奴かい?」


侍は得意気に胸を張って答える その姿はまるで子供が褒めて欲しいと親を見上げる姿に似ていて、どこか微笑ましい


「和国一の強者を目指す鯖丸の武勇がここまで届いているとは光栄至極!!」


「そうじゃなくてェ、お前さんのその格好?侍にしては随分と派手じゃないかィ?」


「む?ああ、これは南蛮から取り寄せた衣装だ。どうだ?似合うか?」


聖職者の仲間の侍は毒々しい紫色をした着物に、枯れた葉っぱの様な色をした羽織と言う出立だった しかし、目の前にいる侍は真っ赤な袴に、鮮やかな模様が入った白い羽織を着ていた 聖職者は、うわぁ……とドン引きした表情を浮かべていた


「おしゃれさんだねェ」


皮肉とか小馬鹿にした風にではなくまるで幼い子供に話しかけるような口調で侍が褒めれば薬師が突っ込む 


「いや、優しいかよ、お前」

「ふふん、当然だろう」 


ドヤ顔する鯖丸を見て侍は何やら暖かい心がこみ上げて来ているのか穏やかに双眸を和らげる


「吾が昔先生をやってた道場に通ってた子の七五三を思い出させるなァ」

「七五三って…」


薬師が笑う、どうやら侍の目には鯖丸は叩き斬らねばならないほどの悪人として映っていないようだ 聖職者は少し考え込んでから口を開く


「で、鯖丸とか言ったか?なんだ、自称和国一の強者?とかって言うのを証明したくて冒険者に決闘を挑んでるらしいが勝ててるのか?」 


聖職者の言葉に鯖丸は胸を張って答える


「ふふん!だいたいの冒険者は俺をタコ殴りにするが暫くすると疲れはてて根を上げて参った!と言って去って行くのだ!これこそまさに勝利!この鯖丸こそが真の侍なのだ!」

「…………」

「なんだその目は!貴様!俺のことをバカにしているな!」


薬師が叫ぶ


「お前それって単にお前に喧嘩をふっかけられて頭に来てタコ殴りにするけどお前のタフさに疲れ果てるって事じゃねえのか!?」

「なんだと!?」 


聖職者が頭痛がするのか目元を押さえる


「なるほどな…冒険者たちからギルドにどうにかしてくれと依頼が来る訳だ…」


それを見て侍がうーん、と考える様な仕草をする

そしてぽんっ、と掌を拳で叩いた


「なァ?鯖丸よォ?吾と決闘しちゃくれないかィ?」


侍の言葉に聖職者と薬師が驚く まさか、そんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ 侍は続ける


「ほら、路地裏の向こう側に広場があるだろォ?一手手合わせ願えねぇかなァと思ってさァ」

「ほう、面白い。いいぞ、受けようではないか。ただし俺は強いぞ」

「そうかいそうかい。楽しみにしてるぜェ」 


そう言って鯖丸は先に広場へ向かう

薬師が侍に小さな声で叫んだ


「何を考えてんだよ侍!どう見たってありゃあザコ中のザコじゃねえか!!あんな奴とまともにやりあっても意味なんか無ぇだろ!!」

「まぁ確かに吾が楽勝で勝つだろうなァ」


侍の真意がわからず聖職者は首をかしげる、侍の実力は聖職者がよく知っている

以前の辻斬り騒動の際には辻斬りが構えた刀を一閃振り払っただけで粉々に砕いたのだ

あれだけの力があれば並大抵の相手など物の数ではない


万に一つにも鯖丸とか言う自信だけしかない男に負ける事は無いだろう

だからこそ、侍の真意がわからない

弱い者をいたぶるなんて性分では決してないし、ましてやあの侍が弱者をいたぶる姿等想像すら出来ない 聖職者が侍に問う

侍は穏やかな表情のまま答える


「なあに、ちょいともんでやるだけだよォ?」


その表情に一切の陰りは無く、むしろどこか嬉しそうな表情を浮かべていた

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