帰る場所
慈しむ思いはきっと同じ
さて、一方その頃、スレイプニルに乗って
ヴァーラスキャールヴへの帰路についていた主神と雷神
「しかし、巨人を倒しに行ってからいつまで経っても戻って来ぬから心配して来てみれば……迷子の森の精霊を助けておったとは」
オーディンは瞳を優しく輝かせ後ろに乗っているトールに笑いかけた
「巨人を叩き潰してから、少し疲れて樹の上で眠っていたら下から泣き声が聞こえてきたのです、それに目を覚まして樹の下を見てみるとあの子が泣いていました」
苦笑しながら答えた
「そうか、それで泣く森の精霊を放って置けず助けたのか」
オーディンの言葉にトールは小さく笑って頷いた
「優しい子よ」
オーディンは嬉しそうに笑う
「私はただ幼子に泣かれるのが苦手だっただけです」
トールは恥ずかしそうに俯きながら言った
「それでもだ、そなたが助けなければ今頃あの森の精霊は死んでいたかもしれんぞ?」
オーディンは微笑みながら言うと、トールは
「はい、それは分かっています」
と答えた
「ならば良いのだ」
オーディンは満足気に笑い再び前を向いた
トールは父の背中にその額を擦り付ける
「父上……来てくださり……ありがとうございます」
「礼には及ばぬ、私の可愛い息子よ」
オーディンはトールの感謝の言葉に笑顔で返す、するとスレイプニルが少し歩みを遅くした
この親子の会話を邪魔しないように気を使ってくれているようだ
オーディンはそんなスレイプニルに感謝すると、スレイプニルは嬉しそうに鼻を鳴らした
ただこの一時、戦や惨たらしい血の臭いを忘れ穏やかに親子で話をしながら進む
やがて、少し遅くヴァーラスキャールヴに辿り着いた
「帰ったぞ」
トールの声に真っ先に女神ヘルンが駆け寄ったそして、トールの無事を確かめるように抱きしめる トールは照れくさそうに頬を染めると、優しく抱きしめ返した
その様子を見てオーディンもまた穏やかに笑う
「遅いわよ!巨人の討伐に行くだけでどれだけ時間掛かっているのよ!」
ヘルンはトールから離れると、トールに文句を言う
トールは困ったような表情を浮かべ頭を掻いた オーディンはそんな二人を見ながら楽しそうに笑っている
「まぁ、良いではないか、無事に帰って来たのだから」
オーディンがヘルンを宥める
「私やグリームニルがどれだけ心配したと思っているのよ!」
ヘルンは不満そうに唇を尖らせる
「すまなかった」
トールは素直に頭を下げた
「もう、いいわよ…………無事なら…………それで…………」
ヘルンは拗ねるように顔を背けた そんな様子をオーディンは優しい眼差しで見つめている そんな時、ふと、オーディンが何かを思い出したかのような顔をした
先ほどの迷子になった森の子を迎えいれた森の精霊の両親の姿が二人に重なった
「神も、精霊も…家族を想う心に違いはないか」
そう呟くと、穏やかに笑った
「お兄様!明日は心配をかけた罰として私の遠出に付き合って貰うから!分かった?」
「…………わかった」
トールは渋々と言った感じで返事をした
「よろしい!それと、今日はもう休むわよ、明日も朝早いんだから」
ヘルンは笑顔で言うとオーディンとトールの背中を華奢な手でぐいぐいと押しながら歩き始める
「「我が妹(娘)には敵わぬ……。」」
神々の王と最強の雷神は愛の女神に背中を押されながら苦笑いを浮かべた。




