迷子の森の子と雷神と
アースガルズ
最高神オーディンが統治する国。神々が住む世界の中心にある。
其処に住むのは主に神々だが、中には幻獣や精霊も住んでいる
皆オーディンの元では等しい存在であった
さて、心優しき主神の統べるアースガルズにある小さな森があった
其処には森の精霊たちが住んでいる、見た目こそ人に近いが皆一様に髪が美しい緑色をしていた
ある日のこと、森の精霊の子が迷子になり泣いていた
「お母さん!お父さん!」
泣きながら森の中を彷徨うその子はやがて疲れ果て倒れ
「もう歩けないよぉ」と座り込んでしまった
すると目の前に一人の男が音もなく降り立った
その男は背が高くとても美しかった
ひときわ目を惹いたのはその腰まで伸ばされた赤い髪だった
「……迷い子か」
そう話しかけられた森の子は、男の姿に怯えてしまった
男の白い装束には赤い血が滴っていた、その手には同じ赤が滴る巨大な槌が握られていた
「あ、あ、あの……あなたは…?」
震えながらも問うた問いに、男は言った
「トール、オーディンの息子だ」
その名を聞いて森の子は震え上がった、父や母から聞いたことがある
この森からずっとずっと遠くにある巨人の海から無数に這い出る巨人を巨大な槌で叩きのめし、世界を守護する雷神の話を
神の王様を守っている恐ろしく強い神様の話
「お前の名前は?どこから来たのだ?」
問われても答えられなかった、ただ恐怖で体が動かなかった
だが、トールは構わず質問をする
「親は何処だ、はぐれたのか?」
「えっ、あっ、はいぃ」
ようやく声が出た、震えていたけれど
「では、探してやる」
「へぇ!?いいんですか!?」
驚いて顔を上げた森の子を見て、トールは少し微笑んだ
「親とはぐれてさぞ不安であったろう、私が送ってやろう」
そう言って森の子を優しく抱き上げ、己の肩に座らせた
恐ろしい話ばかり聞いていたから、とても怖い神様なのだとずっと思っていたから
トールがこんなにも優しい神様だったなんて知らなかったからだ
「ありがとうございます!」
森の子が礼を言うと、トールは笑った
「礼など良い」
森の子を肩に乗せ、歩みを進めるトールは森の子と色んな話をした
「名前は何というのだ?」
「ぼくですか?ぼくは、ミュルクヴィズといいます!」
「ほう、『暗い森の子』か、変わった名前だな」
「はい! でもみんながつけてくれたんですよ!」
「なるほど、それは良き名だ」
「はい! それでですね、ぼくのおうちは『宵闇の森』にあって、いつも暗くて静かなところなんですけどね、そこの木の実がすっごく美味しいんですよ!」
「ふむ、ならば今度私も食べに行くことにしよう」
(宵闇の森か、少し遠いな…まぁよい、行くとするか)
しばらく考える様な仕草をしたが
トールは再び森の子を肩に乗せたまま歩き出した。




