また逢いましたね
何やら受付嬢とテュールがざわざわと騒いでいる 二人がそこに辿り着くと魂の水晶の前に1人の男が佇んでいた
その男はこちらに気づくと、嬉しそうに不気味に微笑み、ゆっくりと振り返る その瞳は白目の部分が黒く、黒目の部分は紫になっていた
「よお?昨夜ぶりだねェ?頬っぺたの傷はもう大丈夫かいィ?心配してたよォ?」
「あんた、昨日の…」
聖職者は特に警戒を示さなかった、相手はヘルンの奇跡を使う男だ
慈悲深い女神の加護を得た男がそんなことをするはずがないと思っていたからだ
その証拠に聖職者の肩に止まっていたフギンとムニンが飛び立ち、羽織を着た男の周りをゆっくり旋回してから肩に止まった
そして、フギンが男の頭の上に止まり、ムニンが羽ばたいて彼の耳元で小さく鳴いた
[この人、悪い人じゃないよ!] と言いたげに
男はまた不気味な笑みを浮かべて口を開いた それはまるで、何か面白い事を見つけた様だった
「本当に可愛い鴉だねェ、人懐こいのかィ?」
そう言ってムニンに手を伸ばすと、ムニンはその手に止まりクゥクゥと甘えた様に鳴きながら頭を撫でられている
こいつは悪人ではない、むしろ善良な人間だと聖職者は思った
「吾もギルドに登録しようと思って来たんだけどなァ、登録料って高いねェ……困ったなァ……」
そう言って男は懐に手を入れる、テュールが警戒して身構えるが
男が着物の懐から出したのは皮の財布だった
「なんだィ?やばいもんでも入ってると思ったのかい?残念でした、ただの金だよォ」
そう言って男はケラケラ笑う 聖職者が呆れた様にため息を吐きながら肩の力を抜く
「テュール、そう警戒してやらないでくれ、この人は俺達を騙そうとなんてしてないさ」
「…………まぁ、そうだな」
テュールはまだ納得いっていないようだが、渋々といった感じで武器を下げる
妙な口調の男は愉快そうに笑っている
「まあ、受付嬢が俺を呼んだのは何もこの男が怪しいからじゃないと思うぜ」
テュールが苦笑いしながら言う
受付嬢は先程から何かに怯えているかのように震えている
「魂の水晶が、水晶の色が…」
聖職者は受付けに置かれた水晶を見る、魂の水晶は触れた者がアースガルズのどの神の加護を授かっているのか分かるのだ
テュールがため息をついて侍風の男に問いかける
「悪いがもう一度。魂の水晶に手をかざしてくれないか?」
「いいよォ」
侍風の男は言われるままに手を差し出し、水晶に触れる すると、水晶の色はみるみると変わっていく
それは目映いばかりの金色の光を放ち始める 金色に輝く魂の水晶を見て
その場にいた全員が驚愕の声を上げる
特にテュールと聖職者は驚きを隠せない様子だった
男は水晶から手を離してニヤニヤと楽しそうに笑う
「ぴかぴかした金色で綺麗だろォ?これが俺の神さまからの加護だよォ」
この金色の光は女神ヘルンの加護を授かった証である
しかも、ただの加護ではない
寵愛の域に達している
それを見たテュールと聖職者は言葉を失う
「どういうことだよ!?アースガルズの3神の!よりにもよって愛の女神ヘルンの寵愛だと!ありえない!!ありえるわけが無い!!!!」
テュールは声を上げて叫ぶ、
女神ヘルンはオーディンの二番目の娘にして
愛の女神、慈愛の女神であり彼女の愛はあらゆる傷を癒し毒を清める
ミズガルズ中、最も信仰を捧げられている女神である。
そんな女神の寵愛を受けるなど、ミズガルズの人間にとって最大の名誉である。
しかし、目の前の男の異様な口調と姿が完全にミスマッチでテュールは混乱していた。
「まあまあ、そう興奮しなさんなァ、水でも飲むかィ?ほれ」
男はそう言いながら、コップに入った水をテュールに差し出す。
その仕草はまるで、親しい友人に接するように自然だった。
「あ?あぁ、悪いな」
男の姿は見れば見るほど異様である、
瞳は白目の部分が黒く、黒目の部分は紫、髪の毛は白髪と言うよりねずみ色というか、良くて水銀色
壮年を通り越して老人に近い様な顔をしているが、鼻筋も通って顔立ちは整っている
「あんたが女神ヘルンの寵愛を受けてるのはわかった…少なくとも決して悪人ではなさそうだな」
テュールは警戒しながらも、冷静さを取り戻していた。
この男が何者かはわからないが、少なくとも悪人ではないようだ。
それに、この男から敵意や悪意を感じない。
それは、今までの経験上間違いなかった。
テュールの言葉を聞いた男は、ニヤリと笑う
「だからさっきから言ってるだろォ?吾は善人だってよォ、まァ、信じてもらえねェのも無理はねェけどなァ」
「いや、信じるよ、あんたからは敵意を感じないし、何よりあんたは聖職者や薬師を助けてたんだろ?」
テュールは先程、二人から聞いたことを胸の中で繰り返しながら言った。
「あァ、そォいうこった」
男は満足げに笑みを浮かべた




