表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/69

救出完了

「……ありがとう、助かった」

「気にすんなって、お互い様だからな」

「……お互い様?」


首を傾げる聖職者を見て薬師は肩をすくめた

「お前の相棒のムニンが助けてくれたろ?それより怪我とかは無いか?」


聖職者がムニンの頭を何時もの様に撫でようと手をやろうとした時に痛みが走った

手を切っていた事を忘れていたのだ


乾いてパリパリになった血とまだ乾いていない深く切れた傷口から僅かに溢れる血が痛々しい


「切ったのか?」

「鏡を、叩き割った時に切ったみたいだ」


頭に上った血が下がり、落ち着いた途端に一定のリズムを刻み痛み始めた


「見せてみな」

傷に触らない様に聖職者の血に汚れた手を優しく取る


「ほう、こいつは派手にやったもんだな」

深く切れた傷を見て自身の羽織の懐に手を入れる

取り出した袋を開ければ中には包帯とガーゼ

そして割れない様に金属の板で補給された薬液に満たされた瓶を取り出す


「ちょいと染みるが我慢しろ」


コルクを指で弾いて薬液を傷口に振りかける

染みるのだろう、聖職者の目尻に涙が浮かび 小さな声で呻く

あらかた血も落ちて、消毒もできたところにガーゼを張り包帯を巻いてやる

薬師の手際が良く、手当てはすぐに終わった


「はいよ、一丁上がりだ。1日に二回は取り替えろよ。」

「だが…お前も怪我をしているのに」


薬師の胸にはうなされた時にかきむしった傷がまだ残っていた

こちらもまだ傷口が乾いて間もない


「気にするな、こんなもん唾つけときゃ治る」

「いや、薬師としてそれはどうなんだ…だが…、…ありがとう…。」


丁寧に手当てされた手を見て聖職者は少し気恥ずかしそうに、素直に薬師に感謝の言葉を述べた


「なんだよあらたまって、気にすんなよ」

照れ隠しに鼻の下を擦りながらそっぽを向く薬師に聖職者はくすりと笑みを浮かべた


「さて、と…屋敷の探索と行きますかね…ここまでいろいろあって収穫なし…何てことはないだろ」


広い屋敷の中を手分けして探す、薬師は上の階を、聖職者は下の階を探索した

幾つもある部屋を開けて調べるが人影1つ見当たらない


「まさか、もう喰われてるとか…」

考えが口から出てしまい、嫌な予感を振り払う様に薬師は激しく頭を振り再び捜索に戻った


聖職者が他に怪しいところはないかと下の階を調べているとカアカアと鳴き声がしてその方角を向いた、ムニンがしきりに金色に輝く獅子の像の周りを飛び鳴いている


「どうした?何かあったのか?」


ムニンはコンコンと嘴で像を突っついていた

フギンはカアカアと鳴きながら獅子の像の口の中に頭を突っ込んでいた


「其処に何かあるのか?」


獅子の像の口の中を覗き込むが暗くて見えない、意を決して獅子の口に手を入れる

何か硬いものに触れた、形状からしてレバーだろうか


「これか」

レバーを手前に引けば、ガコン、と何か重たいものが外れる音がして

ゆっくりと獅子の像が左に移動した

彫像の下から地下に続く階段が現れた、下からは生温くカビ臭い風が登って来ている


「地下か!でかしたぞムニン」


聖職者の言葉にムニンはえっへんと胸を張る仕草をして鳴いた

薬師を呼び、二人と二羽は地下へ降りた

中は牢屋になっていて何人も、どれも男性ばかりが押し込められていた


「食料代わりかねえ、おーい、生きてるかあ?」


牢屋の扉を開けて中に入り薬師が声をかける

誰も彼も地下室に押し込まれへなへなになって可哀想なくらいに精根尽き果ててはいたが

幸い命に別状はなかった


他にも何人か冒険者が捕まっていた

救出されたがサキュバスの魅了の虜になったら普通の生活はまず送れないので聖職者が魅了を解くために祈りを唱え続けた3日後


依頼人の少年は父親と再会を果たした。


「ありがとう!本当にありがとう!」

少年が何度も何度も感謝の言葉を述べる

「いーってことさ、俺たちは金をもらって依頼を受けたから当然の働きをしたまでさ」

薬師が笑いながら少年の頭を撫でれば、聖職者はその言葉に微笑みながら頷いた


「これ、父さんから」

少年が差し出したのはツボだった、何の変哲もないツボだ

「中身はイノシシ肉の塩漬けだよ、お礼に渡してって」

「お!こいつは嬉しい報酬だな、ありがたく頂戴するぜ」

受け取ったツボを大事そうに抱えた薬師を見て聖職者は穏やかに笑った


「父さんをさらった悪い魔物をやっつけてくれたんだ!聖職者さんは強いや!」

「やっつけれたのは、神の御加護さ。」

そう言って胸元で聖印を切る仕草をする聖職者を見て、薬師は顔をツボで隠しながら吹き出しそうになるのを必死に堪えていた


少年と別れ、聖職者と薬師は帰路に着いた


「はあ~やれやれ、やっと帰ってこれたぜ愛しの我が家よ。」

家に入って胸いっぱいに息を吸えば、薬の匂いが鼻腔に広がる


「疲れたな…」

疲労がため息になってもれた、主人の負担を減らそうと気を遣い

肩に乗っていたフギンとムニンが飛び立つ


薬師が安堵の息を吐きながら椅子に腰掛けた、野郎二人が住むにはいささか狭いが。多少は不便でもやはり住み慣れた場所が一番安らぐ


「たった3日とちょっとしか空けてなかったのに何だか久しぶりに帰ってこれた様な気がする」

聖職者がそう言いながらポットの湯を沸かして紅茶の缶を開けようとするが、手を怪我しているせいか上手く力が入らない


「無理すんなよ、今は怪我人なんだから。ほら、貸してみろ。」

そう言って取り上げて薬師が缶の蓋を容易く開けた

「…筋力なら俺の方がお前より高いはずなんだがな」

その言葉に薬師は悪ガキの様に舌を出して

「へっへーん、普段から俺をもやし呼ばわりしてるが今はお前の方がもやしだな」

その言葉に聖職者はじろりと薬師を睨み付ける


どこ吹く風と薬師はお湯を入れ紅茶を蒸すためにポットを蓋してから、自分の薬棚から薬草を潰して作った軟膏の入った入れ物とガーゼを取り出す


「紅茶が出来上がるまでの間に包帯を新しいのに取り替えてやるから手を出しな」

先ほどまでのふざけた雰囲気は何処へやら、優しく笑って手当てを促した


「……痛むか?」

「いや、大丈夫だ」


「我慢しないで言えよ?お前は何でも一人で抱え込み過ぎるところがあるんだから」

聖職者の手当てをしながら、薬師が心配そうな顔で覗き込む


「……ありがとう」

「いーってことよ、気にするな」


香る茶葉の香りが部屋に充満していく

暖かな光が照らす下で眠るフギンを枕にムニンがその光景を見ながら大きくあくびをして微睡んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ