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帰還

やがて二人はヴァーラスキャールヴの城に着いた。門番が二人を見て慌てて中に入っていく。


「オーディン様とトール様が戻られたぞ!」


その声を聞いた兵士達が慌ただしく動き出した。


オーディンは息子の体を抱き抱え城内へ入っていった、そうして兵士に一言命じた


「兄弟たちには来るなと伝えよ」


弱った姿を見られるのをトールは何より嫌ったからだ。

そうして傷付いた息子を癒すために神殿へ入って行った

集まっていた神々はトールの姿にざわついたがオーディンは厳しい声で下がる様に命じた。



そして、ゆっくりと歩みを進めて行き 祭壇にトールを横たえた、そして静かに祈りを捧げ始める、オーディンの癒しのルーンの光が傷付いたトールの体を包み込むとトールの体は見る間に治っていき元の美しい体を取り戻していった

失った腕も再生していた


まるで何事もなかったかのように元通りになったのを見てオーディンは安堵の息をついた

そうして再び意識を失ったトールを抱き上げて神殿を出た


そうして彼の寝室にある寝台に横たえた、失った血までは戻らないからかまだ顔は青白く

手は冷えきっていた、オーディンは彼の手を握りしめながら 再び目を覚ますのを待った。


どれくらい経った頃だろう、不意に握った手が温もりを取り戻したのを感じた

そして閉じられていた瞼が僅かに動いたのを見た。オーディンはすかさず声を掛けた


「目覚めたのか? トール」


すると彼は薄らと瞳を開きこちらを見つめた

掠れた声で囁いた言葉を聞き逃すまいとして耳を傾ける


「申し訳、ありません…とんだ醜態を…」


辛そうに、悲しそうに吐息の様に吐き出した言葉にオーディンは我が子の頭を撫でた

謝ることなど何もないのに


その後また暫く眠り続けた彼だったが

やがて意識を取り戻し起き上がれるようになった頃には

すっかり元気になっていたようで

オーディンは安心したように微笑みを浮かべていた。


フリズスキャールヴの玉座の傍らに今日もトールは佇んでいる

主神を守る様に

その玉座の傍らに在ることを許された唯一の神

トールは玉座に座るオーディンを見つめた、少し疲れている様に見えたのだけれど大丈夫だろうかと心配になりそっと声をかけることにした



「父上?お加減が優れないのですか?」


心配そうな我が子の声にオーディンは小さく微笑んだ後首を振って見せた

この子は本当に良く見ていると思ったからだ


「お前には隠し事は出来ないようだな」


穏やかに笑って言った


「やはり、何処か…」


トールの言葉に、いいや、と首を左右に振る


「お前が無事で安心したのだ、だから」


そこまで言って言葉を切ったオーディンの顔色は悪かった

やはりルーンの力を使うのは消耗が激しかったからだろうか


こうしていることが不思議な程なのに無理をしているのではないかと思うとその身を案じずにはいられない

そんな自分の思いに気付いたかのようにオーディンは再び口を開いた

 

「無理をするなよ…我が子よ」


その言葉にトールは小さく頷き、オーディンは慈愛に満ちた笑みで応えた

その微笑みを見て雷神は天に輝く静かで穏やかな月の光を思い出した

己の父を思わせた、あの柔らかな明かり

帰ったら、伝えようと思って胸にしまい込んだ言葉


トールは穏やかな瞳で

自分を見るオーディンに微笑み返して言った


昨日の宵の月は貴方に似ていましたと―――……。


オーディンはその言葉に、少し驚いた後

トールが思った通り少し困った様に笑った。

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