喧嘩じゃ喧嘩!!南①〜やっぱりガス欠〜
レオンハルガから過去のユールスニアの話を聞いたエルドナスは、今のこの国を牛耳る4つのグループが気に食わないので、宣戦布告をしたのだった。
目的を果たすため、エルドナスとエーシェのチームは南へ、ヒスイとカミラのチームは北へ向かった。
南に向かったエルドナス達は…
エルドナスが意気揚々と宣戦布告してから半日が経ち、時刻は夕飯時。
ユールスニア南最大の街トーポにエルドナスとエーシェの姿があった。
グラスに入っている葡萄酒を転がすように眺めるエーシェと机に突っ伏しているエルドナスという謎の構図が町中の飲食店にあるのであった。
「エル君。頑張ったのはわかるけど、ずっとそうしてたらつまらないわよ」
「あー…いや、そうなんだけどね?わかってるけど、体が動かないときってあるじゃん?」
机から顔を上げずにエルドナスはつぶやく。
「一日でこの国の半分くらいを移動したのはすごいと思うわ。ほんとにどうなってるのかしらその体って思うけど、暇」
暇と言われてもこちらは半日馬車を飛ばして魔力をすっからかんにしながらも夕飯時までにこの街に着いたのだからもう少し褒めてくれても良いんじゃないかなんて思ったりする。
「なんとかしたい気持ちでやまやまなんだけど、こればっかりは無理みたいだから許して…」
「わかってるわよ」
そう言いながら葡萄酒をぐいっと飲み干してグラスを机に置くエーシェだが、机に置くときの音が怖い。
「この街に入る前からすでに僕は満身創痍なんで、この街の様子とかは全く見ている余裕が無いんだけど、エーシェから見たらどう見える?」
「そうね。不思議なほど平和な雰囲気はあるわね」
不思議なほどというのが引っかかる。
「それってどういう?」
「私達がこの国に来てからすぐに絡まれたのは別の派閥だったかもしれないけど、この街を治めているのは実質彼らと同じような人たちのはずよね。その割には表面上に見えるこの街はとってもきれいなのよ」
その言葉を聞いてエルドナスは頭の位置を変え、店から見える街の景色を見た。
夕飯時だと言うのに店の中はほぼ満員状態。
加えて、道を行き交う人達は忙しそうに家路につくわけでもなく、皆楽しそうに通りを歩いている。
この街の一番大きな通りに面したこの店も含めてどの店にも明かりが灯り、忙しそうに営業をしていた。
実際この店に入る前に訪れた数件の店は満員でと断られてしまったのだ。活気がある街には思える。
「ただ、この端から見たら活気のある町も何故か素直に受け入れられない私が居るのよね」
手前であんな話を聞いてしまえば誰だってこの街の笑顔の奥には何かがあるのではないかと思ってしまう。
「ここに住んでいる人たちはその事実を知っている人が少ないのかもしれないよね。まぁ、きっと、こういう話ってだいたいが脚色されるものだから良いように伝わっているんだろうけど」
世界中のどんな国にだってその国に伝わる昔話というものは存在する。
例えば日本のカチカチ山がいい例だろう。
元はと言えば、たぬきが悪さをしたのを知ったうさぎが良くしてくれた老夫婦のために仇討ちをするという物語だが、僕が初めてその話を前世で聞いたときと転生直前に聞いたその話では若干テイストが違った。
大元はたぬきがおばあさんを殺したことと、その後に行ったおぞましい行動がうさぎからすれば憎悪の対象なのであるが、その憎悪の対象であるはずのたぬきの行動が時代とともにかなりマイルドに表現されたのだった。
そのマイルドになった話だけを聞いて育った世代としては、なぜうさぎはこれほどまでにたぬきに対して非道な行いができるのかと思うほど、悪ではないはずのうさぎが悪に見えてしまう現象が起きざる得なかった。
そんなわけで、物語というのは、その時代に合わせて姿を変える。
それが、誰かが意図的に操っているものもあれば、時代の流れに合わせて自然とということもあるだろう。
つまりは、僕らがさっき聞いた話は原典であり、脚色をされた可能性の低い話だったが、ここに住む人達からしたらそれは知っている話と違うから、昔に何が起きていたのか、この街を守っている自警団はどういった目的でできたのかを知らないという可能性が高いのだ。
「知らぬが仏って言葉もあるからね」
「なにそれ?また異世界の専門用語?」
「そんなところだよ。世の中知らなくても良いこともあるからね」
「それもそうね。あ、すいません。葡萄酒をもう一つおねがいします」
しれっと葡萄酒のおかわりを頼んだエーシェをよそにエルドナスは思考を巡らせる。
「んー。ぶっちゃけこれは僕らが考えたところで国も違えば考え方も違うってことで、考えること自体が無意味なんじゃないかって思ってきた」
「唐突にどうしたのよ」
エーシェは暇なのか相槌を打ちながら、新しく届いた葡萄酒のグラスをエルドナスの頭にのせて遊びはじめる。
「あのーすいません」
「は、はい?何でしょうか」
まさか机に頭を乗っけながら話しかけられることなど無いだろうと思っていた店員はエルドナスに声をかけられ動揺で声が上ずっていた。
「僕らこの街に初めてきたんでこの街のことあんまりわかんないんですけど、ここってどんな街なんですか?」
「あら、そうだったんですね!ようこそトーポの街へ!この街は古くからトーポスクアーダと呼ばれる自警団の方々に守られて来た街なんです」
あーそれを知っていたから来たんだけどね。あんまり知らないふりしとこ。
「その話は噂で聞いたことがあります。その方々に守られているからこの街はこんなに活気に溢れているんでしょうか?」
「そうですね。ユールスニアは自由の国なので、町ごとに自治権があるらしんです。だから、街独自の決まりがあるんですよ。この街は商売が盛んになるようにと商売をしているところの税が少なくなっているんです。だから、みんなこぞって自分の得意な分野で商売をしているんです」
商売をすれば減税。つまりは商売をはじめる際のハードルを下げて新しい才能が芽吹く可能性を増やしているってことか。どっかの愛知あたりで活躍した武将みたいなことをするんだな。
「それはいいですね。ちなみに、この街の自警団の人たちってどんなことしてるんですか?」
「この街は平和な方なのでそう多くは事件も起きませんけど、街の中で揉め事があったりしたときには解決するために手をかしてくれるんです。うちみたいなお店はたまに酔ってしまったお客さん同士でなんてこともありますから、そういう時はすぐに連絡するようにしてますよ」
なんだ、ちゃんと自警団みたいなことやってんじゃん。
「へーすごいっすね。ちなみに、この街がトーポなのと、そのトーポスクアーダって自警団が居ることってなんか関連があるんですか?」
「私も詳しくは知らないんですけど、この国が大きく変わる前からこのあたりを守ってくれていたのがトーポスクアーダの人たちらしくて、それがきっかけでこの街の名前もトーポになったって聞いてます」
「そうだったんっですね。ところで、話は変わっちゃうんですけど、僕達他の国で冒険者っていう仕事をしてて、魔法を使うことがあるんですけど、なんかこの国には珍しい魔法を使う人が居るって聞いたんですが、この街に居たりしますか?」
「あ、それならトーポスクアーダの現当主の方が珍しい魔法を使うって聞いたことがあります」
ほほう?噂話程度でも情報は探っておいたほうが良さそうだな。
「それってどんな魔法なのか聞いたこととかってありませんか?」
「えぇ…私そんなに詳しいわけじゃないですよ?」
「大丈夫です。この国に来たのもそれが理由なので、ぜひ聞かせてもらいたいんですけど」
ちょっと困ったようにする店員さんを見ながら、さて次はどう攻めたものかとやっと体を起こしたエルドナスにエーシェはグラスを振って見せる。
あーナイスフォローだよエーシェさん。
「そしたら、このチーズ焼きと蒸留酒を注文するんでぜひ聞かせてほしいです!」
「あ、はい。私なんかが知っていることで良ければ。じゃ、待っててください」
そう言うと店員さんは注文を通しに店の奥に歩いていった。
「エーシェありがとー。ナイスフォロー!ナイスアシスト!」
「半分以上何言ってるかわかんないけど、褒めていることだけは伝わったわ」
「いやーどうすれば話してくれるか迷ってたんだよね〜」
強引に聞き出すのもありだったが、ここは飲食店だからね。ずっと机に突っ伏してたやつに話すことなんて何もないよ。
「今の所、あの人の話が確かだとすれば、だいぶ話の内容は柔らかく伝わっているみたいだね」
「そうね。どちらかといえば、この街を守ってくれるありがたい存在っていう感じが強いわね。後はエルくんがうまく血糖魔術のことを聞いてくれれば少し楽になるかもしれないわね」
僕やエーシェからすれば未知の魔法である血糖魔術は今回の作戦の脅威になりかねない。
初代であるトーポが得意としていたのは罠をはること。自分が表に立つのではなく、相手を罠に誘い込むことを得意にしていたと聞いた。それがどの程度関わってくるのかはわからないが、関わりが深い可能性は高いだろう。
「おまたせしました。こちらチーズ焼きと蒸留酒です」
店員さんが持ってきてくれたチーズ焼きは単純に鉄板の上にチーズを載せ、焦げないように溶かしながら焼いた物だが、これはこれで酒飲みとしてはかなり刺激的な匂いが飲酒浴をくすぐってくれる。
「それじゃ、知ってる範囲で大丈夫なんでよろしくおねがいします」
「えっと、正直なところ、この街に住んでいる人たちも現当主が使う魔法がどんなものなのかあまり良く知らないんです。特殊な魔法を使えることは知っているんですけど、使っているところを見たことがないんです」
見たことが無いのに、特殊な魔法を使うことを知っている?それはそれは不思議なこともあったもんだ。
「噂話程度なんですけど、何度かこの街も他の地域のスクアーダと抗争が起きたことがあったと聞いています。そのときに何度かこの街の奥にあるトーポスクアーダの館まで攻め入られた事があるらしいんですけど、誰もその館の奥にたどり着くことができなかったと伝わっています」
へースクアーダの抗争なんてあったんだ初耳。
「どうして誰も奥までたどり着けなかったのか詳しい話は誰も知らないです。でも、それが代々の当主が受け継いでいる特殊な魔法によるものではないかと噂になってるんです」
あーそういうこと。なんでかわかんないけど、不思議なことが起きたし、なんかそういうことできるらしいってので、そのあたりがイコールになったのね。オーケーオーケー理解した。たぶんそれで合ってるし。
「そういうことで、私達は正直見たことも無ければ実際にあるかもわからないんです」
「ありがとうございました。確かに可能性はありそうですね」
ごゆっくりと言い残して店員さんは去っていった。
「エーシェはどう思う?」
「そうね…十中八九噂通り何でしょうね。ただ、どういうものか全くわからないわね」
葡萄酒を眺めながらエーシェは先程までの話をまとめる。
「そうだね〜。わかったことといえば、僕らが攻め込もうとしているあの場所ってのは難攻不落の城っていうことだけだよね〜。困った困った」
ケラケラと笑いながら困ったと話すエルドナスを見てエーシェは呆れたようにため息をつく。
「エルくんが全く困ったように見えないんだけど?」
「いや?実際情報がなくて困ってるのはホントだよ?でも、難攻不落の城って聞いたらちょっとワクワクしない?」
「しないわね。私はできるだけ疲れたくないわ」
「それはたぶん無理だね〜。きっと明日行くところは数歩も歩けば罠だらけの可能性が高いんだから普通に行ったら息をつく暇も無いだろうね」
「それは普通に行けばでしょ?」
エルドナスの言葉に不敵に笑みを浮かべるエーシェ。
「僕は普通に扉を開けて、普通に歩いて、普通に奥に居るであろう現当主に会いにいくだけの予定なんだけどなぁ」
「たぶんエル君の考えているそれは普通じゃないわよ?普通は難攻不落の城って聞いただけで入ろうとしないもの」
えー?ちょっとハードル高いほうがワクワクするのわかんないかなぁ?
ゲームもイージーモードじゃ楽しくないから最初から上の方でやりたい系男子だから難しいって聞けば聞くほど楽しみになっちゃうんだよね〜。
「そんなわけで、作戦会議なんだけど」
「さっきほとんど作戦言ってたわよね?普通に入って普通に会うんでしょ?」
まぁ、そうなんだけどさ…
「とりあえず、明日準備できたら殴り込みに行く感じで」
エーシェはエルドナスの言葉を聞いてはぁ〜と再び深い溜め息をつく。
「エル君。それは普通作戦って言わないのよ」
「そもそも、僕ら作戦立てて行動したこと無いから作戦の立て方よくわかんないことにさっき喋ってて気がついたんだけど、これどう思う?」
「それで良いんじゃないかしら?私達らしくて」
「それもそ~だよね。ところでエーシぇさん?僕宿屋まで歩いていけそうに無いんだけど、どうすればいいと思う?」
「私が魔法で宿屋まで歩けるように手助けしてあげるわよ?」
エーシェさん多分それ背中に炎の槍をってパターンですよね?
【喧嘩じゃ喧嘩!!南①〜やっぱりガス欠〜】最後までお読み頂きありがとうございました!
そんなわけで、終始ガス欠を起こしていたエル君とエーシェがただ居酒屋で喋るだけの回ということでした!まさか1話分もつとは思ってもいなかったんですけど、なんとかなっちゃうんですねぇ…
そんなわけで、まったくもって相手の能力もわからないままで行動しちゃうところはエル君だなぁなんて思いながらも、そういえば、こいつら行きあたりばったりでいつも行動してるから作戦なんて考え欄ねーんじゃなねーか?ってのが今回のお話でした。
今回から1話ずつ交代でエルチームとヒスイチームのお話をやっていきますので、次回はヒスイチームのお話です。たぶんまだ何も始まらない可能性が高いです。
まぁ、これまでに無かったヒスイとカミラのからみができたらなんて思ってます。
次回!【喧嘩じゃ喧嘩!!北①〜嗚呼、ヒスイ様の背中♡〜】です!お楽しみに!
…大丈夫かなぁ次回(´・ω・`)




