国と歴史④〜名声と裏切り〜
ユールスニアの成り立ち後編です。
レオンたちの思いはどうして今のユールスニアのような形になったのか…答え合わせといきましょう。
その五匹の獣の今後の運命を決めることになる話し合いはこれまでに無いくらい長いものとなった。
「じゃあ、皆の意見をまとめるよ。僕達は今後、ここだけではなく少しずつ守るものを増やしていく方向にしていく。これで異論は無いか?」
長い話し合いの末、5人の意見は活動範囲を広げる方向で決まったのであった。
レオンからの問いかけに対して4人は静かに頷く。
「では、明日から忙しくなるぞ。今日は長くなったな。皆ゆっくり休んでくれ」
レオンがそう伝えると、相当疲れていたのか誰も口を開くことなく静かにレオンの家を後にしていった。
レオン以外が居なくなったのを見計らってレーナが部屋に入ってくる。
「あなたはそれでよかったの?」
コトンとコップをレオンの前に置きながらレーナは問いかける。
「ああ…今はあれが最善だと判断した」
昨日と同じようにレオンはつかれた様子で天を仰ぎながら静かに答える。
「でも、あなたは今でもここだけを守るだけに集中したいように見えるけど」
「やはりそう見えるか…レーナには隠し事など出来ないな」
「何年一緒に居ると思ってるのよ。そうね…無理だけはしないでね」
それだけ言い残してレーナは自室に戻っていった。
「無理はするな…か。今の時点でもうしていると言ったらあいつはなんて言うんだろうな」
1人椅子に座りながら再び天井を見上げるレオン。
これまでの活動の成果だけでも十分に満足している。ただ、それは自分だけだったのかもしれない。
トーポは…ウッチェロは…コニーニョは…カヴァッロは…
同じ方向を見ていた。
ずっとそうだったと思っていたのは自分だけだったのかもしれない。
そんなことを考え始めると、自然とため息が出てしまう。
静かに…1人考え続ける。
本当に先程の話し合いの結論は最善であったのか、他にもまだ最善の可能性はあったのではないか…
その日、レオンの家から明かりが消えることは無かった。
〜それから数カ月後〜
ユールスニア王国は未だ混乱の中にあった。
あの日から何も変わってなど居なかった。
変わったことといえば国でも有名な集団がいるという話題が国中で囁かれ始めたことくらいであった。
【五匹の獣大活躍!またも近隣の村の諍いを鎮める】
【五匹の獣の快進撃は止まらない】
【早く来てくれ五匹の獣!我らも救ってくれ】
などと言った謳い文句と共に新聞でも取り上げられ始めた者たちが居たのであった。
決して彼らから戦闘を始めることがなく、できる限り穏便に物事を済ませるユールスニア王国でここ最近で一番の成果を上げている自警団がある。そんな話が国中に広がりつつあった。
彼らは少しずつ活動の範囲を広げ、仲間を増やし続けていったのであった。
〜さらに数年後〜
ユールスニアに住んでいて五匹の獣を知らぬ者など居なくなった。
正義の味方で悪事を働こうとするものを許さず、仲間を守るために、笑顔を守るために活動を続ける者達として国一番の人気を誇る集団にまで上り詰めたのであった。
始めは5人で始めた彼らの活動も今では数百人規模で動き、国中に仲間が居る状態にまでなっていた。
彼らはいつの間にかユールスニアで一番信頼を得ている自警団になっていた。
トーポ、コニーニョ、ウッチェロ、カヴァッロはそれぞれの拠点を持ち、4人は頂きの獣として国民たちからの厚い信頼を勝ち得ていた。
そんな折に彼らのところにとある手紙が届いたのであった。
【招集命令:五匹の獣の中核を担う5名は国王の名のもとに王城への招待に応じるべし】
5人は喜んだ。
これまでやってきたことがついに国に、国王に認められたのだと。
ついに我々が国に対して個人の意見を伝えることができるところまで登ってきたのだと
そして、手紙に書かれていた期日の前日に5人は久しぶりにレオンの家に集まった。
「こうやって皆で顔を合わせるのも随分と久しぶりに思えるな。元気にしていたか?」
レオンの言葉にみな口は開かないが首を縦に振って答える。
「明日はついに国王に我々の意見を伝えることができる。内容に関しては俺の…いや、俺達のエゴでしか無い。だが、これはこの王国が始まって以来の珍事だ。その珍事の当事者であることを俺は誇りに思う。皆で明日を迎えられることを1つ喜ぼうではないか!」
レオンが盃を掲げると皆が同じように盃を掲げる。
それからは全員が近況についての話などをし始めるがレオンはソレにどこか違和感を感じていた。
離れていた間に自分たちの間に何か溝のような物が生まれてしまったのかわからない。だが、その違和感に確信は無い。それが何かを言葉にすることはできないが確かに違和感を感じていた。
彼はその後、その違和感を確かめるべきだったと公開をするべきだったと思うのだが、それはまた別の話出あろう。
日が明けてついに王への謁見の日になった。
ついに、自分たちがこの国を変えるための機会を…一端を担うことができるのだと思っていた。
レオンは普段感じることの無い高揚感に包まれていた。それも無理もない。あの日、自分たちの活動を更に広げていくことを決めた日にもっと多くの人達を笑顔にしようと決めた日に、いつかこんな事があれば良いなと頭の片隅に思ったこともあったりした。
それが実現したのだ。高ぶらずに居る男がこの世に居るのだろうか。
そんなことを思いながらレオンは王の間が開くのを見つめた。
王の間に通された5人はこれまでの王国の状況、自分たちの行ってきたこと、これからの王国の向かう先について熱く語った。その言葉に王国の重鎮たちは頷きながら聞き入る様子を見て彼らも確かに自分たちの言葉が届いているとう確信を得ていた。
王が口を開くまでは…
彼らの演説が終わったタイミングで自然と王の間は拍手に包まれた。その拍手を遮るように王は1人手を上げる。
「汝らに1つ問いたい。なぜそのようなことを願う?」
レオンはその言葉の意味がわからなかった。
自分たちの意見はまとめれば人々が笑顔で過ごしてほしいというものだった。
その願いに何の間違いがあるのか、レオンにはわからなかったのである。
「む?伝わらぬかったか。もう一度問おう。なぜ平和を願う?」
レオンはその言葉に絶句した。
絶句したレオンに対し王は問を続ける。
「お主らはこの戦乱の中で武功を立てたのであろう?この戦乱が無ければそなたらには何もないただの一般人に過ぎん。今一度問おう。平和に何の意味があるのであるのだ?」
考え方の違いにレオンは、皆誰もが口を紡いだ。
「平和な国に何の意味があるのかは余はわからぬ。戦乱こそ最高の利益をこの国にもたらすのだ。そなたらもそうであろう?戦乱の世であったからそなたらはこの国で有名になったのだ。戦乱の世であったからそなたらがあるのだ。そも、人というものは戦乱を好む生き物である。そなたらも思ったのではないか?自分たちは他の者よりも優れた存在であると。それは他者と比較したからこその優越感であろう。戦乱があるからこそではないか」
王の言葉に誰も意見をすることは無い。そのまま王は続ける。
「お主らが何も答えぬのは思うところがあるからではないのか。お主らは守るためだと何だと言ってどれほど手を汚してきた?何も答えられぬだろう。そこには人は争いを好むという根幹があるのである。何か意見がある者はおるか?」
レオンはただ何も言えずに震えていた。
ここまで何も言い返せないことがあるのかと。自分はいかに無力だったかということを。
これが国を動かすということだと理解はした。だが、それを正しいとは思えなかった。そして、王の威厳の前に誰もが萎縮をして何も言えなくなってしまう自分たちの無力さにただ失望した。
「誰も何もないようだな。それであれば、この会は終わろう。実に無駄な時間であった」
それで王への謁見は終わった。
本来であれば立ち上がるべきだった。
立ち上がって一言物申すべきだったのだ。
「それがこの国のあ主としての言葉なのか」と。
そうすれば変わったのかもしれないが、それができずに居たことを彼らは悔やんだ。
王が立ち上がる時にふと謁見に来た者たちの中に雰囲気が変わったものが居た者が1人居た。
「まだ何かあるのか?」
そう再び問を投げかけた先に居たのはレオンだった。
「私は…このまま変えるわけにはいかないのです!」
立ち上がったレオンの体は炎に包まれていた。その炎に怯えることなく1人レオンは一歩前に出る。
「王よ。先程の言葉は国民の総意として受け取ってよろしいのであろうか?」
「我が王である。我の意見が国民の総意と違うわけがなかろう」
二人は言葉を交わして見つめ合う。
「皆、これでこの話は終わりだ。出るぞ」
戸惑う4人をよそにレオンは1人王に背を向けてあるき出す。
残りの4人も無言で立ち上がりその後をついていこうとしたその時、再び王は口を開く。
「なぜ、許可なく立ち上がる?なぜ、許可なく背を向ける?」
レオンはその言葉に足を止め振り返らずに話し始める。
「この時間に意味を見いだせなかったからです。私達の願いは目の前に居る人々の笑顔を守り続けること、王の願いはこの戦乱が長く続きこの国が潤うこと理解しました。まるで逆ではないですか。ならば私達は面と向かって話すことなど何もないと悟ったのです。これ以上何かを語る必要がありますか?」
その言葉だけを残してレオンたちはその場を去った。1人を除いて振り返ることもなく。
城から出たその足でそのままレオンの家まで全員が口を開くことは無かった。
誰も何も語ろうとしようとしなかったというのが正解かもしれない。
いつものように5人が席についた時、慌ただしい声が外から響いてきた。
「て、敵襲だー!」
5人はすぐにレオンの家を飛び出し状況の理解をした。
これまでの敵たちとは違い明らかに統率の取れた動き、揃った装備を見て確信に変わった。
「邪魔者は排除すれば良いということか…」
レオンはすべてを理解し言葉にした。
「皆、久々に5人で迎え撃とうではないか。敵はこの国だ。これまでとは比べ物にならないほど強敵であろうが、俺たちなら…できる」
レオンの言葉に4人は頷き、それぞれが自分の持ち場につく。北にカヴァッロ、南にトーポ、東にコニーニョ、西にウチェッロと懐かしい配置についたところで、レオンが村の中心に立つ。
いつもならここでレオンからの指示が飛ぶのだが、この日は何も聞こえて来ない。
不審に思う者も居たが、眼前の敵に集中するため面倒な思考を捨て、それぞれが戦った。
戦いは長く厳しいものになると予想されたが、王国軍は少しするとすぐに帰っていった。何がしたかったのかと疑問を持ちながらも皆レオンの家に戻ろうとしたところで、彼らが何をしたかったのかを理解した。
「レオン!」
持っていた武器を投げレオンの元に駆け寄ったのはカヴァッロだった。
カヴァッロが抱きかかえ、何度名前を呼んでも一向に目を開けることの無いレオン。
その腹には大きなキズが残っていた。
「一体…誰が…俺達は誰一人ここに奴らを通していないはずなのに…」
カヴァッロは絞り出すように声を出す。
その異様な様子から、戦闘が終わったことを察した住人たちはぞろぞろと家から出てくる。
「俺…見たんだ」
悲しむカヴァッロの後ろから1人の少年がそうつぶやく。
「どこからともなく現れた王国の騎士たちが俺たちの家の方に来たのを見てレオンさんは必死に戦っていたんだ。でも、そしたら急に黒い何かがレオンさんを貫いて…それで、それを見て奴らはどっかに行ったんだ」
王国の兵が村の中心部に現れたこともそうだが、レオンが罠にはめられ命を落としたことに4人は言葉を失った。
その言葉より後には沈黙が流れた。
「僕達はこのままで良いのかな?」
その沈黙を破ったのはトーポだった。
「このままとは?」
レオンを抱きかかえながらカヴァッロはトーポを睨みつける。
「王国のやり方は汚い。見ればわかるだろ?僕達は完全に嵌められたんだ。その結果がこれさ。だからこそ、このままじゃだめだと思うんだ」
「じゃあどうしろってんだよ!やっとの思いで王国に認められたと思って王と話すことができた。でも、俺らの言葉は一切届かなかった。さらには、大切な…家族とも呼ぶべき友を…」
その言葉を聞いてトーポは邪悪な笑みを浮かべはじめる。
「正々堂々とやろうとしたからだめだったんだよ。僕らだってもうただ逃げ回るだけの弱者じゃないんだ。だったら、この国を乗っ取ってしまえば良い」
「乗っとるだと?」
「僕らは今皆街を治めてるじゃないか。そこからじわじわとこの国を乗っ取ってしまえば良い。東西南北各方面から同時にこの国を裏から崩していくんだよ。これ以上無い復讐になる。王としたらこの国が自分の国じゃなくなるんだからね。もう前までの僕達じゃないんだ。徹底的にやってやろうよ。何年かかっても良い。だけどいつかこの国を完全に乗っ取ってしまえば僕らの勝ちだよ」
4人は無言で手を合わせた。
「それじゃ、何代かかるかわかんないけど、僕達の手で始めようじゃないか。国盗りを!」
そして、4人は皆自分の街へ歩みを進め始めた。
それからしばらく経って国中に噂が流れ始めた。東西南北の4つの街に新たな自警団が生まれたと。誰よりも悪を憎み、どこまでもやるその異常さから彼らは【狂った4匹の獣】と呼ばれるようになった。
それからというもの彼らが抑止力となり、国内の争いごとは少しずつ減っていった。ただ、どこからともなく王国の黒い噂が流れ始めた。
数十年の月日が経った時、王国は倒れた。国民たちの手によって国王が暗殺されたのであった。それ以降は王を立てずに国民たちの手によって政治が行われるようになったのであった。
国の中枢に居るすべての者たちには4匹の獣たち誰かしらからの息がかかっていると噂されるようになったのもそれから少ししてだった。
そうして、初代狂った4匹の獣の国盗りは成功し、最後に彼らを動かした恨みの部分だけが代々受け継がれていくようになったという。
【国と歴史④〜名声と裏切り〜】最後までお読みいただきましてありがとうございました。
そして、随分とお待たせいたしました。すみません…
そんなわけで、過去編終了です。ちょっとぼやっとしたまま終わらせちゃった感ありますが、だいたい何が起きたかはわかっていただけたかと…。
次回からエルくんたちが戻ってくる予定ですので。今回は短めにします。
次回!【喧嘩じゃ喧嘩!!①〜宣戦布告してみました〜】です。お楽しみに!




