幕間①~エーシェとケーキと思い出と願い~
これは、初めての依頼を受ける前の話。
冒険者組合登録の少し前のお話。
エルドナスとエーシェが出会うちょっと前。
エーシェが冒険者になろうと決心したそんなお話。
目の前には弓を構える少年。その弓は私に向けられている。
「エル君も…そうなの…?みんな私を…やっと仲間ができたと思ったのに…いや…いやああああああああああああああああああああああああ!」
叫びに対しての返答は残酷なものだった。彼の右手が弦から離れていく。景色がすべてがゆっくりに見える。ああ、そうか…私はこうして死ぬんだ。やっと…やっと手に入れられたのに。諦めて目を閉じる。
瞼のを閉じると走馬灯というやつかこれまでのことが自然と思い浮かんでくる。
思い出したくもないことも多い。特に実家に居たころなんてのは思い出したくもない。せめて最後くらいはいい思い出共にこの世を去りたいものだ。
これは…そうか…実家を飛び出して…それで、私は。
☆ ☆ ☆
今日まで何度も何度もこの計画を成功させるために準備をしてきたんだ。息の詰まるようなこの家から出ていくために何年も前から魔法の勉強に打ち込み、一人で外に出ても大丈夫な力をつけてきた。
すべては、家を出て自由を得るために。
家を出てから1カ月たったころ。私は、エリーの村に到着した。
この村にたどり着くまでいくつかの村や町に寄ったが、生活の拠点としたいと感じたことはなかった。
王都は皆笑顔だった。華やかな場所だったと思う。
それに対してこれまでに訪れた村は息の詰まる場所だった。
人々に笑顔はなく、今日を生きるのに精いっぱいというような鬼気迫る様子を感じた。これが現実だった。この国は豊かな国だったと聞いていたがそんなのはまやかしだった。
文章だけで学べることなど体験することに比べれば微々たるものだと実感した。
何が豊かな国だ。何が華やかな国だ。そんなのは王都だけだったと、私の目の届く場所だけだったと思い知ってしまった。そのころからだった、人の笑顔には種類があるんだと気が付いた。
そして、私に今まで向けられていた笑顔は本当の笑顔ではなかったと気が付いてしまった。
それに気が付かせてくれたのはエリーの村だった。この村には笑顔があり、活気があった。何よりみんな楽しそうだった。
「この村にしよう。生活をするならみんなが楽しそうな場所がいいもんね」
そんな理由で私はこのエリーの村で生活をすることを決めたのだった。
生活の拠点をこの村にすることはいいのだが、今後のことなど全く考えていなかった。今のところ家を出るときに持ってきたお金で何とかなっているが、それも持って数か月だ。
頭が回らない時は甘いものを食べることにしましょう。どこかにいいお店はないかしら。
村の入り口からまっすぐ歩いたところにある中央広場に甘味処と書かれた店を見つけたので入ることに。
どう見てもここ王都にあったな同じ店…。
「すみません。もしかしてここ王都のお店の…」
「そうです!王都で人気だったのでこのエリーの村にも出店したんです!王都の本店の方にいらっしゃっていただいたことがあるのですか?」
「ええ、まぁ…はい」
正直に言えば、実際に入ったことはない。資料で店の内観を見たことがあったのとケーキを取り寄せてもらったことがあっただけである。あのケーキはおいしかったからラッキーかもしれない。
席についてメニューを見たけど、どれがどれだかわからない…。あの時テキトーに持ってきてもらったから名前なんて覚えてないんだよなー。
困ったらお店のおすすめを頼んでおけば問題ないか。
「すみません。このおすすめティーセットをお願いします。ケーキはおすすめのもので大丈夫なので」
「かしこまりましたー。少々お待ちください」
数分後に出てきたのは紅茶とショートケーキだった。
そういえば、あの時もショートケーキがあったような。でも、あの時はイチゴが旬の時期じゃなかったから結構酸っぱかったんだよね。酸っぱいイチゴは苦手だけど、今はイチゴが旬の時期だから大丈夫だろう。ほら、甘い。いいわね。
さて、紅茶でも飲みながら今後について考えていきましょう。
この村のことは資料で読んだことがあるのだが、王都からは距離があるものの客商売をして生計を立てている世帯が多かったはずだ。農業とかで汗を流してというのは性に合わないので、客商売…とも思ったが、誰かに笑顔を振りまきながら日々生活をするなんて…無理。
となると、せっかく魔法を覚えたのだから冒険者にでもなって生活をするのもありなのかもしれない。必要な時に必要な分だけ働いて気ままに生活をする!ああ、自由だ!これこそ私の思い描いていたものなのではないか。
たしか、ここの冒険者組合の組合長は昔王都で活躍をしていた冒険者だったと聞いたことがあった。一度見かけたことがあったような気もするが…記憶がない。どんな人だったかしら…。
考えてもしょうがないから、冒険者の登録に向かうことにしましょう。
お店の人に冒険者組合の場所と営業時間を聞いたのでもう少しゆっくりしていても大丈夫だろう。ケーキを食べてからすぐに運動をしようとか考えられないので、噴水のところでちょっとまったりしてから行くことにしましょう。
噴水近くに腰かけると、通りに私と同じくらいの年頃の男の子を見かけた。私くらいの年頃の子はみんな働いている時間帯だから珍しい。ちょっと観察してみましょう。
(10分後)
あの子キョロキョロして肩を落としているけどどうしたんだろう。あ、また動き出した。私もまだ動きたくはないかな。
(さらに10分後)
あの子、何回もこの道に出ては肩を落としている。何してるんだろう。
「どこなんだよ冒険者組合って!ぜんぜんたどり着けないんだけど!」
うそでしょ?ここから5分もかからないって聞いたんだけど。え、方向音痴?
しかも、たどり着けないことにキレてるって何この子面白い。
どうせ私も冒険者組合に行くんだから案内してあげましょうかね。
「あの、あなたも冒険者組合に用があるの?」
ああ、なんと優しいんでしょう私は。ほら感謝しなさい。ほら。
「お嬢ちゃんどうしたのかな?もしかして、冒険者組合までの道を教えてくれるのかな?」
ん?聞き間違いかな?
この子今、私のことを見てお嬢ちゃんって言った?間違いなく言ったわよね?
どう見ても私の方が歳は上よね…親切に道を教えてあげようとしたのに…失礼な子ね。
それが私とエル君との出会いだった。こんな愉快で失礼な子はこれからも出会うことはないんでしょうね。
あ、そうだった。私、もう、これからほかの人に出会うこともないのか。
みんなそう。
誰も私のことなんて見てくれようとしてない。
信じられる仲間なんていない。
みんな考えているのは自分のこと。
活用できるものを活用して、利用できる人を利用して必要がなくなったら切り捨てればいい。
そして、私は利用される側だったのね。
利用される側だったとしても最後は楽しい時間を過ごすことができたのは良かったのかもしれない。
これといった後悔はないし、誰に最後の挨拶をしなくてはというのもないからこのままいくのならそれでいい。
さようならこのくそみたいな世界。次はもっと息の詰まらない生活ができる人生がいいわね。
「幕間①」最後までお読みいただきましてありがとうございました。このお話の最初の部分もそうなんですけど、前回の終わり方なかなかシリアスな感じでした…よね…?
僕今回書いてみて初めて幕間の読み方知ったんですよね。ずっと読み方間違えてました。変換で出てこなくておかしいなーと思って調べてびっくり。そんなことよくあるんですよね。
それはそうと…次回予告を完全に無視してしまって申し訳ございませんでした…。
ちょっとした出来心で、マンガとかでたまにあるじゃないですかすっごいいい感じのところで急に入ってくる過去話!あれ、やってみたいなっていう出来心で…。
実はこの話も用意していたものではあったのですが、タイミングがちょっと違ったので結局ほぼ全部改めて考えることになってしまいましたが、後悔はしていないです。
ちなみに、今後ですが熊はメインじゃないんで、この後一回盛り上がるパートが作れたらと考えてます。
次回こそ、前回と今回の続きになりますので!