ユールスニアへ!①〜やっぱり馬車は嫌い〜
ナーシャを救い出してから山賊のアジトで見つけた獣人の少女ミナ。
彼女を家族のもとに連れて行くことを決めてから数日が経ち、ついにエルドナスたちはユールスニアに向けて旅立ったのだった。
僕達がミナを親のもとに連れて行くと決めてから数日の時間が経っていた。
その間に僕達は屋敷の件を片付けたり、カミラの冒険者登録を済ませたりと暇なようで忙しい日々を送っていた。いつもなら毎日の様に何かしらの依頼を受けていたと考えれば暇な方だったのだろうが、一日で何の予定もないのはなんか落ち着かなくて毎日何かしらをしていた。これをワーカーホリックと呼ぶ…
「エル君準備できた?」
エーシェの声に急かされて荷物をまとめて宿屋の部屋から出る。
王都から戻ってきたらまさか自分の家が燃えているなんて思っても居なかったので、まさかの宿屋ぐらしは想定外の出費だったが、こういうのも悪くなかった。というか僕…まともに家で過ごしたことほとんどないんじゃないかな?
お世話になった宿屋の主人に挨拶をして、僕らは冒険者組合に向けて歩き出す。
今回の仕事は完全に自主的なものだからとりあえずエドガーさんにも報告をしておかなくてはいけない。
僕とエーシェが冒険者になった頃から変わらない重たい入り口の扉を開けて冒険者組合に入ると、珍しくカウンターのところにエドガーさんが居た。仕事しろよ。
「おう!そろそろ来る頃だと思ってたぞ」
なんか気持ち悪いなこのおっさん…
「前にも報告しましたけど、また長い期間この村を開けそうなのでとりあえず出発しますよーって報告しに来ました。そんじゃ、行ってきます」
「前のときとは違って今回はナーシャも居るし大丈夫だ。ゆっくりしてこい」
いや、ゆっくりしてこいと言われてもこれ仕事なんだよなぁ…
「お前らは行くところ行くところでいろんなことに巻き込まれるだろうからどうせ帰ってきたくてもなかなか帰ってこれないだろうからゆっくりしてこいって意味だよ」
何だその嫌な理解は…今回はミナを送り届けたらすぐに帰ってきますよぉ〜だ。
「エーシェ、ヒスイ、カミラ。どうせこいつは暴走するだろうからその時は頼んだぞ」
「その時は置いて帰ってきます」
「僕も面倒事はごめんかな〜」
「私も嫌ですわ」
このチームほんとに大丈夫なんだろうか?
「みんな仲悪いの?」
ほらー!ミナが心配してんじゃん!
「はっはっは!大丈夫だ。こいつらは口ではそう言っているが、なんだかんだで仲がいいからな。お前も安心してこいつらと一緒に度に行ってこい」
なんだかんだ仲がいいとはこれいかに…
そんな話をしていると、コンコンっと冒険者組合の入り口の扉を叩く音が響いた。
「エルドナス様、馬車の用意ができました」
どうやら出発の最後の準備が整ったらしい。
「それじゃ、行ってきま〜す」
「おう!無事帰ってこいよ。こっちの心配はしなくていいからな」
エドガーさんはそう言いながら笑顔で見送ってくれた。
エーシェとヒスイ、カミラ、ミナの4人は馬車の中へ、僕は運転席といえば良いのだろうかよくわからないけど、御者の人が座るところに座って馬車を動かす。
僕とエーシェが一緒に仕事をするようになってから、というかエルドナスになってから初めての国外旅行が始まったのであった。
(数時間後)
「おかしい…運転をしているはずなのに…気持ち悪い…」
馬車を走らせ始めて数時間…運転手酔う!
「エルくんまたなの?一週間くらい馬車での移動なんだから頑張ってよ」
そんな事言わないでくれよヒスイ君…僕は人よりも三半規管がちょっとだけ敏感なんだよ…
胃の中身が重力に逆らって戻ってきそうになるのを必死に堪えながらの旅になると考えると今から胸焼けしそうですよ…はぁ…
それから数日間は僕が毎日のように馬車に酔うこと以外は全く問題はなく移動を続けることができた。やっぱり馬車での移動は嫌いだなと毎日のように感じながらも移動手段がこれしかないので仕方なく、諦めて移動だけの日々を過ごしていた。
ヒスイの魔法の助けもあって、僕らの旅は想定よりも順調に進むことができていた。予定をしていた3日目の夕方よりも早く昼過ぎには国境のところにある関所に到着することができたのだった。
「身分証もしくは冒険者登録証のご提示をお願いいたします」
エーシェに話を聞いていたので、手前で全員分の冒険者登録証を預かっておりスムーズに衛兵さんに渡すことができた。それにしてもこの人の声聞いたことがあるような…
「えーっと?エーシェルドにカミラにヒスイと…何だ何だお前ら前よりも人数増えてんじゃねーか」
なんだこの人…なんでそんなこと知ってるんd…
「おいおいお前俺のこと忘れちまったのか?」
クイッと兜を上げると久しぶりに見る顔がそこにあった。
「あれ?ナデランさん!?なんでここに居るんですか?王都で暇そうにしてるのが仕事のはずじゃ!」
「おいおいひどいな…まぁ、それが理由でここに配置換えになったんだけどな。お前らがあの事件を解決した後の王都は平和そのものでな。俺のやってた仕事いらなくねーかって話になったらしくて俺はこの国境の警備に当たってるわけよ」
行政改革ってやつですかね?無駄は省きましょう的な?
「まぁ、俺が暇そうにしていただけってわけじゃないんだけどな。ユールスニアか…できるだけ長居しないほうが良いぞ」
いつでもアドバイスをくれる優しいお兄さんナデランさん。今回はどんな情報をくれるのでしょうか?
「向こうの国で今問題になってるのが人身売買だ。最近また活発になってきたって話があるからな。お前なんて今言っちまうと俺がアブねぇんだが、貴族様何だから狙われる可能性は高い。この国では起きねえようなことが当たり前に起きちまうのさ。気をつけて行ってこいよ」
「ふふっ。ナデランさんはどこでもナデランさんですね。ありがとうございます。大丈夫ですよ。僕らそこそこ強いんで」
「そりゃ間違い無いわな。噂程度でしかないんだが、勇者を倒しちまったのってお前らだろ?」
なんでこの人はそんな情報まで持ってるんだろうか…この人将来情報屋としてでも食っていけるんじゃないだろうか?
「はて、なんのことでしょうか?」
「ま、そうですとは言えねーわな。俺はそうだと信じてるからよ。お前らなら大丈夫だろ。ほれ、通行許可証だ」
ぽんっと書類を渡してくるナデランさん…この人僕らがついてからずっと喋ってたけどいつの間にそれ用意してたの?なんでそんなに喋りながら仕事ができるんだよ…
「ありがとうございます。それじゃ行ってきますね」
「無事で戻ってこいよ〜」
まさかの知り合いに会うサプライズはあったが、無事僕達はユールスニアに入国することができたのであった。
「ナデランさん全然変わってなかったね〜」
馬車の中からヒスイが声をかけてくる。
「あの人はどこに行ってもお節介焼きのナデランさんなんだろうね」
「あ、それいいね。お節介焼きのナデランさん」
そう言いながら二人で笑っては居たものの、すぐに異変に気がつく。
「エルくん…そのまま真っすぐね」
「りょーかい。すごいねー入ってすぐなのにもうお客さんとは…ヒスイ探索範囲広げてもらっていい?」
「わかったよ〜」
ブワッとヒスイを中心に魔力の流れが増す。ヒスイには常に警戒をしてもらう観点から半径20メートルくらいの広さで探索をかけ続けてもらっていたのだが、もう少し遠いところから視線を感じたため僕とヒスイは臨戦態勢に入る。
「嫌な視線ですわね」
さすがはカミラさん。すぐに気が付きましたね〜。
「今回のお客さんはどうする?エーシェは馬車の中でミナを守ってあげてね。僕はこの馬車が壊されると困るから…お客さんの人数にもよるけど、ヒスイとカミラで行ける?」
「そうだね〜。近くに居るのは10人くらいかな?それなら僕ら2人でもなんとかなると思うよ。危なかったらエルくんもお願いね」
「りょ〜」
周りが的に囲まれているというのに我ながらなんとも気の抜けた返事である。
「それじゃ、向こうが仕掛けてくるまで道なりに進んでいくねー。動きがあったらヒスイよろしく」
「りょ〜」
ごめんて…さっきのは僕が悪かったから気の抜けた返事を続けないでくれよ…
「みんなどうしたの?」
「私達がユールスニアに入ったのを歓迎したい人たちが居るみたいなの。でも、仲良くしたくて来てくれた人たちじゃなさそうなだけよ。大丈夫よみんな強いから」
そんなミナとエーシェの会話が馬車の中から聞こえてくる。
まぁ、こんないきなり殺意のこもった熱視線を送られたら誰でも気がつくわな…
それにでかでかと馬車の車のところには家紋まで刻まれている。どう見てもボンボンがこの国に入ってきたとなれば、どういう奴らかは知らんけど鴨が葱を背負って来たと思うわけだよな。
僕らの場合は…殺意高めな鴨なんですけどね。
それから数分間は特にこれといって何もなく馬車を勧めていた。
何だただの監視かなにかかと思っていたところで、馬車の中からヒスイの声が響く。
「エルくん。この先の茂みの中に居るよ。たぶん仕掛けてくるならそこだと思う」
ヒスイの言うように、十数メートル先にちょうど人が隠れるのに良さそうな茂みがある。ちょうど良すぎる茂みなので、今後のことを考えるとエーシェに頼んで燃やし尽くしてやったほうが今後のために鳴るのではないだろうか…
「りょうかい。ヒスイとカミラはいつでも外に出れる準備をしておこうね」
「わかったー」
「わかりましたわ」
こっちの準備も万端の状態で茂みの近くを通りかかろうとすると、予想通りめんどくさそうなのが出てきた。
「おうおうおうおう!誰の許可を得てこの道通ってんだお前ら」
うっわ〜…めちゃくちゃ三下のセリフじゃん。きっと最後のセリフは「ぐぁっ!何なんだお前ら!」とかなんだろうな…
「許可?何の話ですかね?僕らはこの国に入る許可はもらっていると思うんですけど」
「この国に入る許可じゃねーよ。この道を通る許可って言ってんだよ。頭ついてねーのかお前」
めんどくさすぎて話聞いてなかったら揚げ足取られた…イライラすんなこいつの喋り方。
「おい。無視してんじゃねーよ!この先に行きたかったら通行税を収めな。一人あたり金貨1枚な」
あーはいはいわかった。俺らがこの国に入ってきたばっかりだから普通に考えればまだこの国の金を持っていることはないと踏んで突っかかってきたんだな。払えなければ…ってやつだろ?面白いから乗ってやるか。
「僕達はまだこの国に来たばかりなのでそんなお金は持ってませんよ!それに通行税なんて初めて聞きました。なんとかなりませんかね?」
僕の言葉ににやーっとクソみてぇな気色悪い笑顔をこちらに向けてくるゴロツキA。こっち見んな。
「通行税が払えないなら仕方ねぇよなぁ…野郎どもやっちまえ!」
ゴロツキAの声を聞いて色んな所からゴロツキBからゴロツキJまでが現れる。
「何なんですか急に!?何をするつもりなんですか!?」
僕の迫真の演技に馬車から批判の意見が飛んでくる。
「エル君は役者にはなれなそうね」
「エルくん棒読みだねー」
「はっきり言って下手くそですわ。さっさとその茶番終わらせてくださいませ」
前も後ろも敵しか居ない…四面楚歌ってこういうことですかね?
「野郎どもやっちまいな!!」
「「おう!」」
ゴロツキAの発声でゴロツキBからJまでが一斉に馬車に向けて襲いかかってくる。
「【全方位魔法障壁】」
僕がそう唱えると馬車を中心にして円形に魔法障壁が展開される。
バチィっと残念な姿で魔法障壁に張り付くゴロツキ達…これは滑稽。
「ヒスイ!カミラ!よろしく!」
「りょー」
「わかりましたわ」
二人が馬車から飛び出して馬車の左右に立つ。
それを確認した僕はあえて魔法障壁を解いて再び魔法障壁を展開する。
カミラの方にゴロツキが4人。ヒスイの方にゴロツキが5人。一人取り残されるゴロツキA。
「二人ともやりすぎないようにね」
「わかってるって」
「当たり前ですわ」
ヒスイは道具箱から自分の身長よりも大きな大釜を取り出し、カミラは地面の影がヌルヌルと動き始める。
この異様な状況にゴロツキたちは怯え始めるが、逃してやる義理などない。そのための魔法障壁である。
それからは一瞬だった。
逃げ場を失って突っ込むことしかできなくなったゴロツキたちはそれぞれヒスイとカミラに向けて突っ込んでいくが簡単に二人に倒されていく。
それを見ていたゴロツキAが逃げ出そうとしたので魔法障壁で退路を塞ぐ。これ便利だなぁ。
「こらこら、逃げちゃだめでしょ〜?何のために君だけ特別待遇で一人閉じ込めたと思ってるんだい?」
僕の言葉で恐怖で顔を歪ませるゴロツキA。
「な、何なんだよお前たち。ただの貴族じゃねーな!」
「何言ってるんだよ…僕らはただの冒険者だよ」
僕の清々しい笑顔を見てゴロツキAは悲鳴を上げるのだった。
【ユールスニアへ!①〜やっぱり馬車は嫌い〜】最後までお読みいただきありがとうございました。
そんなわけで始まりました4章です!久しぶりの登場人物も居ましたが、初回からゴロツキたちに絡まれるなんて彼らは色んな意味で持ってますね(笑)。
さて、4章に入るまでかなりの時間を要してしまいましたが、その間にも色々とありました。急に引っ越しをしなくてはいけなくなったり、引っ越してから2周間でコロナにかかったりと怒涛の日々でした。
症状も落ち着いてきたのでやっと更新をすることができたという運びになります。やっと本編も動き出しましたので、今後もよろしくおねがいしまーす。
…次回予告とか今後どうしていこうかしら…




