幕間⑤〜男同士の飲み会〜
今回は3章と4章の間のちょっとまったりしたお話です。
ミナをユールスニアの両親のもとに連れて行くことが決まった次の日、僕は非常に珍しく太陽が登り切る前に目を覚ますことになったのであった。
理由は明白…身の危険を感じたからである。
目の前には素晴らしい笑顔をしているエーシェさん。
「あら?おはようエル君。もう少しで串刺しにできたのにちょっと残念」
おかしいな…なんでこの人は朝から僕に向けて杖を構えているのだろうか?そして、どうしてヒスイくんは部屋の隅っこでちょっと震えているんだろう?
「お、おはようエーシェ。なんか暑いなぁって思っていたらこういうことだったのね?」
「そうなの。私とヒスイで頑張ってエル君を起こそうと思ったのに、エル君ったら全然起きないからちょっと一発くらいなら許されるんじゃないかしらと思って【火槍】をお見舞いしてあげようとしていただけよ」
素晴らしい笑顔なのになんでだろうぜんっぜん笑えない…
「でも、部屋を壊すことなく起きてくれてよかったわ。私はこれからカミラと一緒に冒険者登録に行ってくるから家の件とかお願いね二人とも」
それだけ言い残すと暴君は部屋から出ていってしまった。
エーシェが出ていくことにも気が付かずずっと部屋の隅で壁を見つめているヒスイ君…大丈夫かこいつ
「ヒスイ?おーいヒスイ君?」
僕の言葉で我に返ったのか体をビクッと震わせてこっちを向く。
「良かったエルくん無事だったんだね」
「僕が寝ている間に何があったの!?」
「世の中知らなくても良いことはあると思うよ」
ほんとに何をされるところだったんだろうか…え?最後の【火槍】以外にもなにかされるところだったの!?
「まぁ、僕は生きているからそれでいいか。さて、それじゃ役場まで行ってさっさと屋敷の件を片付けに行こうか」
「そうだね~。このままエルくんが二度寝なんてしちゃったらエルくん二度と目を覚ますことができなくなるかもしれないからね」
ヒスイの事言葉はまったくもって冗談じゃないんだから恐ろしいったらありゃしない。
「あれ?そういえば屋敷の資料ってどこやったっけ?」
「それならエーシェがそこに置いてたよ」
ヒスイが指し示した机の上を見ると僕がバラバラに置いていたはずの資料がすごくきれいに並べられていた。
パラパラと資料を見てみると一枚だけエーシェの字でメモが書かれていた。
『これがいい』
はいはい。わかりやすくて助かるわ。お姫様の仰せのままに。
「よし、じゃ、資料も持ったしさっさと提出してお昼ごはんでも食べに行こうか」
「わかったー」
宿を出てヒスイと二人で歩いていると、遠くの方から何やらズズンっと低い地響きのような音が聞こえてくる。方角は…考えなくてもわかるよな…冒険者組合の方向だ…
「カミラ大丈夫かな〜…カミラも強いからエドガーさん楽しくなっちゃうんじゃないかな?」
「あーありえる。まぁ、大丈夫じゃないかな?エルくんも毎回ギリギリ死なないように調整されてるから」
あれってちょうどいい具合に調整された結果なのだとしたらその調整の精度半端ないよね!でも、もう少し強度は弱めにしてくれて良いんだよエドガーさん!
そんな話をしていると意外とすぐに村役場についたのだった。
中に入ると今日も今日とて役場の職員の方々は忙しそうにお仕事をしていた。
「あら?エルドナス様!礼の件のお返事でしょうか?」
「あ、そうです〜。今ヒックイ氏はお時間大丈夫でしょうか?」
「ただいま確認してまいりますので少々お待ち下さい」
僕に声をかけてくれた役場のおねえさんはぴゅーっという効果音がぴったりな感じで移動していった。この人…できる。
「おまたせしました!今ちょうど手が空いたようなので今ご案内します」
ほんとにすぐに戻ってきたお姉さんに連れられて村長室に入りヒックイ氏と簡単にではあったが屋敷の件での契約を交わしたのだった。
「それで皆様はこれからのご予定などはあるのですかな?」
「ちょっと長期でこの村を開けそうな依頼を受けているんですけど、何年も帰ってこないとかそういうものではないので大丈夫だとは思います。何かあればエドガーさんにお願いします」
「そうでしたか。それでは健闘を祈ります」
がしっと握手をして僕とヒスイは役場を後にしたのだった。
こういうのは意外と時間がかかるもので時間はすっかりお昼すぎで、僕のいつも起きる時間くらいになっていた。
「エルくーん。僕お腹へったよ〜」
「そーだなーそろそろ昼飯でも食いに行くか〜」
「エルくんも僕も今日この後予定ないよね?」
えーっとどうだったかなぁ…きっと無かったはず…うん。ないよな。
「無かったと思うよ」
「じゃあさ、前にしてた約束覚えてる?」
約束?何のことだっけな?…あぁ、前にそんな約束してたような気がしたな。
「前に約束したじゃん!飲みに行こうって」
あーそうだそうだ。それだ!
「覚えてたよ当然」
「絶対ウソだ…忘れてたなら忘れてたでいいんだけど、これから行こうよ」
あら、珍しく積極的ねヒスイ君。
「わかったよ。どうせこんなにまったりできるのは今くらいしかないかもしれないからね」
僕らは二人で林檎亭に足を運んだのだった。
「いらっしゃーい!あれ?今日は珍しい面子だねぇ。いつもの席あいてるから使ってくれていいよ」
店に入るなりそんなふうに声をかけられる僕らはどれだけここに通い詰めているのだろうかと考えてしまった。
「おにーちゃんたちだけで来るの初めて見た!今日は何にするの?」
ターシャちゃんにもそんなふうに言われるということはこの二人で来るのは林檎亭にとってはなかなかの衝撃だったらしい。
「んーじゃあ、今日はヒスイが飲むものと一緒にしようかな」
「え?何急に…ちょっと気持ち悪いんだけどエルくん」
気持ち悪いとか言うなよひどいなぁ…
「それじゃ、この果実酒2つと肉盛りとオムライスでお願いしようかな」
僕がいつもお昼に頼むものを熟知しているヒスイ君。ちょっと嬉しかったぞ♪
「わかりました~!って、あれ?お兄ちゃんたちお昼からお酒飲むの?」
「うん。今日は良いんだ。たまにはそういう日があってもいいかなって思ってね」
「そうなんだ。じゃあ、今日もゆっくりしていってね」
はじめの頃はだいぶ幼く感じていたターシャちゃんだったが、随分と仕事が板についてきたなと思ってしまったりした。
この村に来てからそんなに経っていないと思ったけど僕が変わっていないだけで周りは刻一刻と変わって居ることを実感するとそれなりに時間が経ったと実感するのだった。
「そういえばヒスイと初めて会ってからどれくらいだっけ?」
「うーん僕は日付の感覚がエルくん以上にないからよくわかんないなー。エルくんたちに会ったのだってかなり最近だとしか思ってないかなぁ」
それもそうか、こいつこんな格好してるけど悠久の時を生きるドラゴン君だった…そりゃ僕らと会ったのなんて最近も最近の話だろうよな。
「おまたせしましたー!お先に果実酒2つでーす」
コトンとテーブルに置かれたグラスが僕らの目の前に置かれる。
「ありがとうターシャちゃん。それじゃ、ヒスイ」
「「かんぱーい!」」
カチンとグラスをぶつけて果実酒を口に含む。
爽やかな果実の香りが鼻を抜けて口の中に甘みが広がり、その後にちょっと強めにアルコールが来る。意外と美味しいなこれ。
「美味しいねこれ」
「そうだよねー。ぶどう酒もいいけど、これは飲みやすくて良いんだよね〜」
意外とあれかヒスイって甘党なんだな。いつもは肉ばっかり食べてる印象だったから意外だったな。
「僕さ果物好きなんだよね〜。この姿をしている期間ってそんなに長くはなかったからさ、ほとんどが本来の姿のままだったからさ、食べるものっていったら木の実とかそういうの食べてたから結構好きなんだよね」
あ、そういう理由ですか。確かに自然のものってそのもの味しかないもんね…
「今までいろんな物を食べてきたけど、やっぱりそのまま食べて一番美味しいのって果物なんだよね〜。それで自然とお酒を飲むときも果実酒を選んじゃうのかもね」
今暴かれるドラゴンの生態!!
意外と木の実が好き!!
「ついつい選んじゃうものってあるよね〜」
「そーあるある」
「おまたせしましたー肉盛りとオムライスでーす」
両手に料理を持ったターシャちゃんが僕らのテーブルに来たので、ヒスイに目配せをして、今までの話を一旦止める。
さすがにまちなかにドラゴンが居るってバレたらやばいもんね。
「そういえばお兄ちゃんたち知ってる?最近村きれいな緑色をしたドラゴンが何回も村の近くに来てたって話」
ターシャちゃんの言葉に二人して体をビクンッと反応させる僕ら…
「私は見たことないんだけど、すっごくきれいなんだって。それと、普通ドラゴンが出たら悪さをするらしいんだけど、その緑のドラゴンさんはそういうこと全くしないんだって」
そりゃ、目の前で酒飲みながら肉つまんでるくらいですからね。おい、ヒスイ?お前手が震えているじゃないかどうしたんだよ。
「そ、そーなんだ。確かに前に僕もドラゴンを退治しに行ったことがあったんだけど、そのドラゴンも全然悪さをしないどらごんだったなー」
『エルくん!?』
ヒスイが見たことないようなテンパった顔をしながら念話を飛ばしてくる。
『ああ、大丈夫だからまかせとけって』
「そうなの!良いドラゴンさんもいるんだ!」
すごく純粋な反応をしてくれるターシャちゃんを見ているとなんだろう心が痛くなってくる…
「そうだよー。人もそうだけど、世の中にはどんな生き物でも良いやつと悪いやつが居るんだよ。だから会えると良いねそのドラゴンさんに」
目の前でごふっとむせるヒスイ君。ごめんて。
むせたのになぜかグラスに残っていた果実酒をぐいーっと飲み干してしまうヒスイ君。なぜか僕の方をジト目で見つめてくる。あ、これもしかしなくても酔い始めてる?
「ターシャちゃんはそのドラゴンさんに会ってみたいの?」
「うん!良いドラゴンさんで、それにすごくきれいだって聞いているから会ってみたい!」
うんうんと腕を組みながら頷き始めるヒスイ…何キャラだよそれ…
「ターシャちゃんこの後ちょっとだけ休憩できるかお母さんに聞いてきてごらん?」
「んー?わかったー」
テトテトと厨房の方にターシャちゃんが歩いていくのを見送ってヒスイに話かける。
「お前まさか…」
「だってさー…ね?」
ね?じゃねーよ。大丈夫かこれ…大丈夫なんだろうな…
「大丈夫だって!どうしたの二人とも?」
「「なんでもないよ!!」」
「そ、そう?」
そして僕とヒスイとターシャちゃんは村のはずれの草原に居たのだった。
「これ、エーシェにバレたら怒られそうだよねぇ…」
「僕も同意見だよエルくん…まぁ、お酒の失敗って誰にでもあるよね。そういうことだよ」
そうだね。そういうことにしよう…
「ねーねーお兄ちゃんたちこんなところまで来て何するの?」
さて、どうやってこの場を…
「ターシャちゃん。今から見ることはみんなには秘密にできる?」
「んーと、わかった!秘密にする!」
「じゃ、ちょっと待っててね!」
そう言うとヒスイは数メートル先のところに歩いていった。
「エルドナスお兄ちゃん?ヒスイお兄ちゃんはあんなところに行って何をするの?」
「良いから見ててごらん。僕も久しぶりに見るから楽しみだよ」
僕の何の回答にもなっていない答えを聞き頭にはてなを浮かべるターシャちゃん。
「じゃ、いっくよ〜」
ふわっとヒスイの体が緑色の光に包まれたかと思うと、その光は段々と強くなっていき、ヒスイの姿が見えなくなるほど強くなっていった。
そのままヒスイは少しずつ大きくなっていき、元の姿に戻った。
「え?え?ええ?ヒスイお兄ちゃんがドラゴン!?」
「そうなんだ。今まで黙っててごめんね」
ターシャちゃんはふるふると首を振る。
「いいの。教えてくれてありがとうお兄ちゃんたち!」
ぐいっとターシャちゃんの方に頭を寄せるヒスイ。
「これきっと乗っていいってことだと思うよ」
「え?ほんとに良いの?」
コクリと静かに頷くヒスイ。
ターシャちゃんをヒスイの背中に乗せ、ターシャちゃんの周りに全方位魔法障壁を展開する。
『ヒスイ準備できたよ』
『わかった!いくよー!」
ばさっと翼を大きく羽ばたかせ数メートルはあるヒスイの巨体が浮かび上がる。
「わー飛んでる!すごいすごい!!」
その後僕達は北にある山の上の上空から村を見て元の場所に戻ってきた。
「ターシャちゃんさっき言ってた約束は守れそう?」
「うん!そしたらまたたまに背中に乗せてもらっても良い?」
「もちろん!じゃあ、もう一回約束ね!」
「うん!」
そうして僕とヒスイとターシャちゃんの三人の秘密ができたのだった。
…ちなみに、昼から飲んでたことは別に怒られなかったんだけど、ターシャちゃんを乗せて空を飛んでいたことがバレてちょっとエーシェに怒られました。
【幕間⑤〜男同士の飲み会〜】最後までお読みいただきありがとうございました。
お久しぶりです。
随分と間があいてしまいましたね…こんなに間があいてしまうなんて思ってもなかったんですけど…色々とねありましてん…
やっとインターネットの工事が終わり、今日からついにこうやって更新をすることができました。
いやー1週間位家でWi-Fiが使えない生活をしていたんですけど、しんどかった…
そんなわけで、次回からは4章に入りたいと思います!ドンドンドンパフパフー!!
ま、まだ全部考えられているわけじゃないんですけど、それはまぁなんとかなるんじゃないかなって思ってます。さぁ、頑張るぞ〜!!




