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山が騒ぐ④〜こんばんは…死神です〜

エルドナスの【探索】で突き止めた山賊の居場所。

山にあった洞穴の奥に行くと、そこには捉えられたナーシャと山賊たちの姿があった。

山賊たちの行動を見ていたエルドナスは怒りで自分の行動を制御できないところまで来ていたのだった。

「いてぇ…なんだ!?」

「ぎゃぁぁ!俺の指がぁぁぁ!」

「なんだなんだ!?何が起きている?」

男たちの汚い悲鳴と困惑した様子の声が洞穴の奥にこだまする。

ナーシャに触れようとしたその汚い手を指を、その汚い存在を僕は全て否定するために丁寧に関節1つ分ずつ切り落としていく。

姿は見えないが何かが起きていて、これは何者かによる仕業であることを察知した山賊の頭は声を荒らげる。

「お前ら狼狽えるんじゃねぇ!何も見えねぇが何かが居やがる。てめぇら守りを固めろ!」

山賊の頭の声に反応し男たちは怪我をした箇所を押さえながら頭の周りに集まった。

そうやって部下を自分を守るために使うのはちょっとどうかと思うんだよねぇ…。

盾にされちゃって可哀想だなぁなんて思ってやらないけどね。

すぱっとまた山賊の部下たちの腕を短剣で切り裂いていく。

今度はさっきとは違う。切り落としはしない。使えなくなるのは同じだけどね。

「ぎゃぁぁ!また切られた!ほんとに何なんだよ!あ、あれ?」

切られた腕を押さえて不思議がる山賊の部下。

「どうした?」

「頭…俺の腕が動かねぇんっすよ」

だらんと切られた右腕を垂らしながら訴える山賊の部下。

「そりゃ切られて痛てぇからだろ」

「そうじゃねぇんすよ。斬られたところの腕に力が入んねぇんすよ」

僕たち人間というか動物っていうのは基本的に骨格に対してくっついている骨格筋が緊張と弛緩を繰り返すことで動くことが出来るのである。

今回ぶった切ってやったのは筋肉そのものではなく、骨と筋肉をくっつけている腱である。

そりゃ動かなくなるだろうね。よく知らんけど。

スパスパと移動しながら山賊の頭の周りを守らされている山賊の下っ端共の体を切り裂き続けていく。

辺りに汚い血が飛び散り続ける中で、ふと前世で聞いた話を思い出した。

人間の体というのは男女で色々な違いがあると。

体に備わっているものが違うというのは当然だが、精神的にも違いがあるとかなんとか。

例えば、痛みに対してである。

女性は出産に伴い激しい痛みを経験するということで、そもそも痛みに対しての耐性が男性よりもそなわっているとかなんとか。

そんなわけで、精神構造的に女性の方が強くできているらしい。噂くらいにしか聞いたこと無いけどね。

ちなみに、ビルから飛び降り自殺をするときにその違いがあるとかないとか。どうせ、死人に口なしなので本当にそうなのかと言われたらそんなもんわからないってのが事実なんだろうけどね。

まぁ、その噂話を信じてみることにすると、男性は落ちている最中で気を失うらしく最後の方は気を失ったまま逝けるらしく、女性は下につくまで意識があるとか。

なんでこんな話を思い出したかって言うと、いつの間にか僕の目の前に立っていた人が1人しかいなくなってしまっていたからなんですけどね。

さて、そろそろ隠れている必要性もなくなってきたからこの邪魔なマントは脱ぎ捨ててしまいましょうか。

何かが居るとはわかっていたが、姿も形も見えない相手に自分の部下が蹂躙された山賊の頭は目の前に現れた少年の姿を見て驚いた。

山賊として山を移動をしている途中で出会っていたらただのカモだとしか思えないような少年だった。

こんな状況でなければすぐにでも金目のものを持っていないか何か利用価値はないかと注意深く観察をするのだが、今回は違う。

ただただ、目の前に現れたたった1人の少年に対して抱くのは恐怖の念だった。

こんな状況でわざわざ姿を現したのだからこの惨状を作り出したのも確実に目の前に居る少年だと確信をするのに思考など必要が無かった。

「んー!んんんー!」

僕の姿を見て固まる山賊の頭とは対象的にナーシャは助けを求めた。

「ナーシャもう少し待っててね。すぐに助けるから」

目の前に居る山賊の頭からわざわざ目をそらしてナーシャの方を向き僕は声をかけた。

僕のその行動で山賊の頭は顔を更に青ざめさせた。明らかに敵対している相手から目線を切る。つまり、自分のことは眼中にもないという明確な意思表示であった。

「てめぇ…何者だ?」

山賊の頭がやっと喉から絞り出した言葉だった。

「ああ、挨拶がまだだったね。こんばんは…死神です。本日冒険者から転職してみました。あなた達が悪さをしていると聞いていたので恐怖と死をお届けに参りました」

丁寧に頭を下げて挨拶をしてみる。そして、頭を上げて最高の作り笑いをプレゼントした。

「だめだ!ここまでは黙ってみていたが、やりすぎだ!」

僕の後ろの方から声が響く。

バサッとエドガーさんもマントを脱ぎ現れる。

誰もいないと思っていたところから、二人目の…そして最悪の相手が現れてしまったことに山賊の頭は再び恐怖する。

この山の南にある村には絶対に手を出してはいけない相手がいる。そんな話を噂程度に聞いていた。

その男はたくましい肉体を持ち、人だろうが龍だろうが構わず打ち倒すだけの実力を有していると。

山賊の頭は見ただけで突如現れた2人めの男がその男であるとわかった。

得体のしれない少年と絶対に相手をしてはいけない男が目の前に現れたこの絶望的な状況に山賊の頭は動けずに居た。

「ちゃんと見てくださいよエドガーさん。殺してはないですよ。このまま放置した場合はどうなるかわからないですけどね」

「それが、まずいと言っているんだ!」

自分のことはそっちのけで口論を始める2人をただただ見ていることしかできない。

「じゃあ、助かる可能性があるとするなら、ここの人たちとナーシャをお願いします。外で回復をかけてもらえばギリギリ助かるかもしれませんから」

なんと少年は男に対して指図をしているではないか。あまりにも多すぎる情報に山賊の頭は頭が混乱し、痛くなり始めるのを感じた。

「わかった。ここはおまえに任せよう。俺が出たら後でおまえから色々と言われそうだからな。ただし、こいつらには聞きたいことも山程ある。いいか?絶対に殺すんじゃないぞ!」

男の言葉に対して、ひらひらと手を振る少年。

この圧倒的に不利な状況下から唯一の希望が見え始めたことに山賊の頭は頬が緩むのを感じた。

男が人質と部下たちを一気に抱えて洞窟の入り口の方へ走っていったを確認して張り詰めていた緊張が解けるのも感じた。

これならば、自分ひとりでなんとか出来るのではないかと感じたその時だった。

「やっと邪魔者が消えてくれましたね〜。それじゃ、始めましょうか」

ズンッと重たい空気が洞窟内に張り詰めるのを感じた。

おかしい。何かがおかしい。これは…魔力だ。

明らかに人が有している魔力の量から逸脱している量の魔力が少年の体から溢れ出している。

一瞬でもこの状況が好転したと思っていた自分を恨む。この少年は姿が見えない状態で自分たちに止めがさせる状態なのにも関わらず、あえて止めを刺さず、さらにはわざわざ姿を表す狂ったやつだったことを思い出した。

「えっと…名前は知らないからおじさんでいいや。おじさん今武器持ってないでしょ?自分が一番得意なやつ持ってきなよ。待っててあげるから」

少年はやはり狂っていた。

この優勢の状況下からわざわざ自分を追い込むような真似をしている。

だが、これは好機だ。俺はついている。

こいつは完全に自分が勝てると見込んでこんな提案をしてきているが、これならば可能性はまだある。

壁にかけてあった柄の長い斧を手に取る。

「せっかく俺に勝てるかもしれなかったのに残念だな。俺は、この斧を持って負けたことが一度も無い!」

実際この山賊の頭は強い。

日々、奪い奪われいつ自分の命を失うかもわからない山賊家業に身を置き続けられているということは、負けていないからということになる。

この山賊たちがこの山に来たのも他の山でやることがなくなったからであった。

自分たちのやってきたことが噂で広まり誰一人その山を通ろうとするものは居なかった。

それでは仕事にならないからと移動してきたのがこの山だった。

ここ数週間しつこく自分たちのことを嗅ぎ回っていた冒険者も捕まえやっとまた仕事が出来ると思ってた矢先にこの状況だったが、実際ここまで負けたことなど一度も無かったのであった。

「じゃあ、恐怖と一緒に絶望も与えられるのか!役得役得♪」

事実を事実のまま伝えたはずなのにも関わらず、全く怯える様子の無い少年は礼をしてから一度も笑顔を崩していない。

「準備はいいってことでいいのかな?」

これまでは威圧用に出していた魔力を戦闘用に切り替える。

僕の言葉と魔力でもともとはエドガーさん並みに強そうな体をしている山賊の頭は今とても小さく見えるようになっていた。

「おまえは何も持っていないようだが、俺も生き残るためには容赦などしない」

斧を両手で握りしめて強い口調で山賊の長は何かを言っている。

でも、僕からしたら小さく見えているから、小型犬が頑張ってキャンキャンと吠えているようにしか聞こえない。

「武器…武器ねぇ…せっかくだから試してみようかな?」

僕の中で何かが切れた時から溢れ出るように湧き出してくるこの魔力とともに僕の頭に1つの魔法が思い浮かんでいた。

これまでは自分でイメージをした魔法しか使ってこなかった僕だが、始めて唐突に頭に魔法の内容が思い浮かんできたのだった。

これはおそらくあの時アティが言っていた固有魔法というものだろう。

一気にいろんな情報がブワッと魔力とともに溢れて来たのだが、これまで僕が使っていたものとは全く違うものだったからぶっちゃけ半分も理解できているか怪しい。

思い浮かんだ魔法の名は【神器創造】

その名の通り、神の器にもなり得る程の宝具とも呼べる代物を魔力で造り出すことが出来るものだ。

だが、実際に造り出すための知識と技量が僕には足りない。

だから、理解ができた半分の知識を使って僕なりのアレンジの入った魔法を発動することにした。

【神機模造】

アティの魔法が作るのは神器であるのに対して、僕が作れるのはおそらくそれに満たない何かである。

神の器を模したものを機械的に造り出す。

だから【神機模造】

体からあふれるいつもとは違う黒い魔力を一点に集め形作る。

僕が造り出したのは、自分の身長ほどある大鎌である。

ちょっとヒスイと武器が被ってしまう感は否めないが、先程自分のことを死神と名乗ったこともあり一番イメージがしやすかったものがこれだったのだ。

造り出した大鎌を手に持ち、手の上で回してみると思ったよりも軽い。魔力を固めたものだから、重さがあるのかどうかも本当は怪しいところなのだろうが、感覚としては軽い。

なんとなくの間合いと使い方を理解したところで再び目線を山賊の頭に向けると、彼はまた顔を青ざめさせていた。

わけがわからないと言いたげな顔をしながらこちらを見ている。

先程から一歩も動こうとしないのはなんだかつまらなく感じ一つ仕掛けてみることにした。

「準備はできているはずだと思うから、こっちから行っちゃうね」

両手に握った大釜を構え、一気に間合いを詰める。

ギィン!と甲高い金属音が洞窟の中に響き渡る。

僕の一撃を山賊の頭は斧で受け止めた。刃の長さが長い分を考慮し、思ったよりも手前のところで受け止められてしまったためちょっと腕が痛い。

「ああ、そうだ。聞いておきたいことがあったんだった。これまで散々奪う側をやっていた人に聞いてみたかったんだよね。奪われる側の気分はどうだい?」

返事は返ってこなかったが、山賊の頭の表情がすべてを物語ってくれたのだった。

【山が騒ぐ④〜こんばんは…死神です〜】最後までご覧いただきましてありがとうございました。

今回のお話は本業が忙しかったこともありますが、とっても更新に時間がかかってしまいました。

一回手前で出来上がったものはそれはそれはもっと狂った状態のエル君が終始暴れ続けるだけのお話だったんですけど、流石にそれはちょっと違うなと感じてこういう形になりました。

あのタイプのエル君は書いてて楽しかったんですけど、自分でも引いてました…

さて、合間で日常の方も投稿させていただきましたが、本編の方もゆるゆると続けていきますのでよろしくおねがいします。

【次回予告】

エー「なんだか中からすごい魔力を感じるのだけど…」

ヒスイ「エルくんだね」

カミラ「そうですわね。本当にただの人なのですの?」

エー「私、人じゃない人たちに人外認定されている人と結婚したのね…」

ヒスイ「最近エルくんどんどん人間離れしていくよね〜どこまで行くんだろ?」

カミラ「空とか飛べそうですわね」

エー「そのうち魔力で瞬間移動とかし始めそうよね」

ヒスイ「ははは、そんなまさか〜…いや、エルくんだしな…」

エー「無いとは言い切れないのよね…」

カミラ「それはそうと、さっきからこちらを見ている何かが居るのですが?」

ヒスイ「無視で」

エー「無視ね」

ざー「…次回…【山が騒ぐ⑤〜だめ!〜】お楽しみに…」

カミラ「なんだか私あの人が可哀想に思えてまいりましたわ」

3人「!?」

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