エリーゼの村での日常②〜ほんとになくなってやがる〜
飲み会の途中で急にやってきて店の入口で叫ぶ少女が現れた。
前回の飲み会の続きです!
「おーう!ナーシャこっちだー」
きっと彼女が怒っている原因その1がのんきに手を振って呼んでいる。何考えてるんだろうこの親子…
ズンズンズンと音が鳴り響くほど一歩一歩に力を入れてナーシャと呼ばれた女の子はこちらに近づいてくる。
おいおい床が可愛そうだろ?床には罪はないんだから優しくしてやれよー。
「なんでエドガーさんもエリーさんもここに居るんですか!」
「今日の営業は終了したの。しかたがないわ」
原因その2が火に油を注いでいる…
「私が依頼に行ってるの知っているのになんで閉めちゃうんっすかー!」
「さっきも言ったとおり今日の営業は終了したの」
「営業時間ってその日の気分で変わってるっすよね?エリーさん酷いっす〜!」
たしかに…この人達の気分でコロコロ変わってたな。
「どうせ今日はまだ依頼は達成できてないんだろ?」
おっと原因その1の口撃だ…どうやらクリティカルヒットのようでナーシャはうなだれてしまった。
「あいつらまったく尻尾出さないんっすよ〜。ところでだれっすかこの人達?」
初対面の人に対してそれは酷いぞ?
「お前なぁ〜…」
ほら、原因その1も頭抱えちゃってるよ…
ここは先輩として空気を読んであげますか。
「はじめまして。僕はエルドナスといいます。あとこっちは…」
ほら、目配せだけでもやることわかるよね君たち!信頼してるからね!!
「私はエーシェルドよ。気軽にエーシェと呼んでね」
「僕はヒスイだよー。よろしくー」
君たち天才!!さすがだよ!!
「エーシェーなんかエル君の目線がうるさいんだけどー」
「いつもはよく喋るのにこういうときだけ目線で指示されるのは面倒ね」
泣いちゃおうかな〜?泣くよ?大号泣しちゃうけどいいの?
泣かないんですけどね!!
「僕達はヴィジェって名前で活動してるんだ。あらためてよろしく」
はい!とびっきりの営業スマイル!きまった〜〜!
「あ、私はナーシャっす!この村で冒険者をしてるっす!」
やっぱりこの子が僕らの後輩ちゃんだったのね。
「あれ?エルドナスって…エドガーさん?もしかして?」
「ああ、そうだ」
エドガーさん?ナーシャまだほとんど何も言ってないのにそうだってどういうこと?
「あの…一角熊1人で倒して担いで帰ってきたっていう?」
「ああ、そうだ」
「あと、武術祭で優勝してエドガーさんと魔法ありで思いっきりやり合ったっていう?」
「ああ、そうだ」
「おまけに、ドラゴンと戦って仲間にして王都に行ってるって言ってた人っすか?」
「ああ、そうだ」
おい相槌テキトーすぎるだろエドガーさん!!
事実確認は終了したらしくガバっと僕らの方に頭を下げてくるナーシャ。
「先輩たちとは知らずに申し訳なかったっす!」
あ、この子いい子なんだろうなー。
「いいよいいよ。知らなかったというかこの2人が教えてないのと僕らが居なかったのも原因だし」
まぁ、色々と重なった結果なんだろうな…しかたがない。
「ナーシャは今日も飲んじゃだめよ?酔っ払い2人も連れて帰るのは嫌よ」
「はいっす!私は当分お酒は飲まないっす!」
この子もお酒に弱いんだね〜…いつもは酔いつぶれたエドガーさんを背負ってエリーさん帰ってるけど、二人のときはどうやったんだろ?
「そういえば、ナーシャはどんな依頼を受けてるの?」
「今は緊急で山賊の調査依頼を受けてるっす」
今とびきりホットな話題だもんねー。そりゃそうなるか。
「本当だったらエルドナス君たちにやってもらうような依頼だったんだけど、あなた達が思ったよりも帰ってくるのが遅かったからひとまずナーシャちゃんに調査をしてもらってるのよ」
いやー僕らも思ったより時間がかかっちゃってびっくりしたんですよー。
書類の山との格闘が長かったんですけどねー…
「この前やっと奴らを見つけたと思って追っかけてたら、あいつら村の中で魔法を使いやがったんっすよ。そのせいで1件家が燃えちゃって…」
「ナーシャ!その話は…」
はいどうもー当事者でーす!!
僕らのお通夜モードの顔を見て色々と察してくれたナーシャ。
「もしかしなくても…あの家って…」
「ああ、うん。気にしなくていいよ。ナーシャが悪いわけではないんだから」
「すみません…っす」
まぁ、恨むべきは山賊だよなぁ…さっきはサラッと流していたけど、魔法を使えるやつが居るというのはちょっと厄介かもな。
「ナーシャ。その依頼危ないこともこれからあるかもしれないから気をつけて続けるんだよ?」
僕の言葉にナーシャはぱぁーっと表情を明るくする。
「はいっす!ありがとうございますエルドナス先輩!」
ぐっと両手でガッツポーズをしたことでナーシャの胸部が強調される。
お、大きいなぁ…
いやいや、良くない良くない!僕は隣に可愛いお嫁さんが…あれ?隣に居るのは般若か何かでしたっけ?
「エル君ちょっと?」
「はい?なんでございますでしょうか?」
「私というものがありながらあなたはなんでそうなのかしら?」
はて、思い当たるフシしかありませんな!す、すいませんっした!!
すっと椅子から降りて土下座の姿勢になる。ここまで1秒未満で行うことが出来たな。
自分のしたことを鑑みて行動できる人が優秀だよって前世の社会人の時の先輩が言ってたっけな。
先輩僕は今それができるようになったと思います!
「ふーん?土下座をしているってことは何か悪いことをしていたってことなのかしら?」
こいつ…わざわざ公開処刑をすることがお望みなのか?僕にそんな趣味は無いのだが!?
「いや、ちょ…確実にエーシェさんを怒らせてしまったと思いまして…」
「私は怒ってなんか無いわよ?どうして土下座をしているのかを聞いただけよ?」
怖い怖い怖い怖い怖い!!!
え?何?僕ちょっと目の前の大きめなおっぱいに目を奪われてしまいましたって言えばいいの?
何その羞恥プレイ!嫌だよ!!
「いや〜…なんとなく怒らせてしまったかなぁと感じまして…ここは潔く謝ったほうが正解かと」
「そう…思い当たる節は無いと?」
うう…逃げ場がなくなっていく…
仕方がない…もう逃げられないならば諦めよう…
「眼の前にいた後輩の胸に目が行ってしまったことをここに謝罪いたします。申し訳ございませんでした」
「あら、ちゃんとわかっていたじゃない。もう戻っていいわよ?」
「はい!!」
立ち上がる許可が出たので席に戻るとエーシェの隣に居るヒスイと目の前に居るナーシャが顔面蒼白で小刻みに震えている。どうやらとっても怖い思いをしたようだ。
あと、エドガーさんはもうお休みタイムに入りました。
「ど、どうしたんっすか急に!」
え?ただ僕がエーシェに謝っただけだけど?
「私もさっき知ったんだけど、この二人結婚しているらしいのよ」
「あーそういうことでしたか」
ほんと…すいません…うちの嫁が…
ちょっと無いものねだりをしてもいいじゃないっすか…あ、だめですかごめんなさい。
やっと震えを収めてくれたヒスイとナーシャの2人。
「それにしてもきれいに尻に敷かれているわねエルドナス君。2人がくっついたらそうなるとは思ってたけど」
「ははは…」
乾いた笑いしか出てこない…
「夫婦で一緒に冒険者やってるんっすね〜。ソウイウのもあるんっすね」
「たまに居るわよ?それを理由に引退する人たちのほうが多いけど」
へーそういうもんなんだ。まだなって1年も経ってないから引退とか全く考えてもなかった。
「ところで、エルドナス先輩!先輩たちと仲間になったドラゴンってどこに居るんっすか?もしかして村には入れないから村の外で待っててもらってるんっすか?」
キラキラした目でこっちを見てくるなー。僕の隣の隣にいるよー?
「そのドラゴンって僕だよー?」
テーブルに届いていた骨付き肉を食べながらヒスイが答える。こら、食べるか喋るかどっちかにしなさい?
「え?またまた〜…え?」
ヒスイを見た後にこっちを見て真偽を確認してくるナーシャ。うんその反応わかるぞ〜。
「ほら、この角だって本物だよ?触ってみる?」
「え!それって装備とかじゃないんですか?わわっ!ほんとだ!ちょっと温かい!」
へードラゴンの角ってちょっと温かいんだ。触ったこと無いから知らなかった。
母乳類の角って血管とか神経とかが通ってるのがあったからそういう感じなのかな?でも存在そのものがファンタジーだから僕の常識は通じなさそうだなーサイズ変わるし。
「ヒスイはうちの守護龍兼抱きまくら兼マスコットだからなー」
「僕を抱きまくらにするのはエーシェだけだよ!!」
「あの抱き心地が癖になるのよね。それで、エル君マスコットって何?」
あ、カタカナ使っちゃったわ…
「えっと…何ていうんだっけな…幸福をもたらすお守りとかだったかな?」
「僕お守りなの!?」
「いや、なんか違うんだよな…えっと身近に置いておきたい存在ってことだよ!」
「それならいいや。でも、抱きまくらは嫌かな〜」
じーっとエーシェの方を見るヒスイ。
「いつもはお願いしないわよ?エル君が私に何かした日だけお願いね」
「エル君わかってるよね?」
「はいはい」
わかってる。わかってるよ?わかってはいるんだけどさ、週1回くらいは何かしらでエーシェ怒らせちゃうからその時はよろしくねヒスイ?
「エリーさん先輩たちっていつもこんな感じっすか?」
「そうね。いつも通りね」
「楽しそうっすね!いいなー私も仲間欲しくなったっす!」
エドガーさんの話だとナーシャは割と1人で何でもできちゃう系ヒューマンらしいから仲間って集めようとしてなかったのかもな。
「なんか困ったら僕らに声をかけてよ。必要があれば協力するよ」
「ほんとっすか!お願いするっす!」
やっと出来た可愛い後輩ちゃんだもんね。優しくしてあげて王都に行かないようにしないとね!人材の流失はこの村にとって最大の痛手ですからね!
「うぅ…うぷぅ!!」
ガバっと急に立ち上がったかと思うといつもどおりトイレに駆け込んでいくエドガーさんを見て帰ってきたんだなと実感するのはなんか違う気もするけど、僕らはここに帰ってきたんだと思えた。
僕達の帰還祝いなどなどの名目で開催された飲み会はエドガーさんがトイレから戻ってきたところで時間も時間だったので解散となった。
そしていつも通りエドガーさんはエリーさんに担がれて行ったのだった。
僕達は話を聞いただけでは実感がわかなかったこともあり、一度みんなで家に向かうことにした。
飲食店通りを奥に進みそのままぐるっと回っていくと僕らの家の場所はあった。
ただ、そこに残っていたのは燃えきらなかった柱と灰だけだった。
「ほんとになくなってやがる。マジだったのか」
百聞は一見にしかずとはいうが、実際に目にしてみると実感してしまう。
つい半月前まであった僕達の家はもうここには無いのだと。
エーシェとここで過ごした時間はそれほど長いものではなかったけど、それでもなくなってしまったという事実だけで心にくるものがあった。
「エル君…エーシェ…えっと…えっと」
ヒスイは僕らに言葉をかけようとしているけど、なんて言葉をかけたらいいのかわからないようだった。
「気を使わなくていいんだぞヒスイ。そりゃ悲しいけど10年も20年も住んでいたわけじゃないからな。傷は浅いよ」
「そうね。私達2人で決めて買った最初の物だったから寂しさはあるけど、もう嫌ってなるほどじゃないわね」
意外と我々2人はドライなのかもしれない。
「ずっとここに居てもしょうがないから、宿屋行こっか」
「そうね…」
少し含みのある感じで僕に同意をしたエーシェの目には少し涙が滲んでいるように見えた。
口ではなんとでも言えるけど、このなんか有ると思っていたものがなくなってしまったと思うと心にぽっかり穴が空いたような感覚になる。物理的にじゃなく心に。
それはエーシェも同じなのだろうか。
「せっかくお城の寝具と同じものを取り寄せてもらったのに…残念ね」
お前寝具のことで泣いてたんかーい!!
「エーシェ家より寝具なの?」
「あ、家がなくなったのは悲しいわよ?でも、あの寝具で寝れると思っていたから残念で。あると思ってたものがもう無いと思うと寂しいわよね」
うん。でも、なんか違う気がする。
「はは、まさか寝具にそんなにこだわりがあるなんて知らなかったよ」
「あら、言ってなかったかしら?また買えばいいのだから少しの辛抱よ」
まぁ、そうだね。
「次はどんな家にしようか?ヒスイはどんな所が良い?」
「んー?僕は別に屋根があればどこでもいいよー?」
家と呼ばれるものには基本屋根は付いてるから問題ないね!…違うそうじゃない!
「大雑把すぎるよ…エーシェはどんなところがいい?」
「私もなんでもいいわ。広すぎると面倒だから広さによっては使用人を雇わなくてはいけないわね」
ふむ…使用人か…出費がかさみそうだな…
「ま、それは明日から考えていこうか!」
「そうね」
「さんせーい!」
3人は家のあった場所に背を向け歩き始めた。
【エリーゼの村での日常②〜ほんとになくなってやがる〜】最後までお読みいただきありがとうございます。
そんなわけで新キャラのナーシャちゃんでした!後輩感を出すためにはどうしたらいいんだろうかと考えた結果が語尾の「っす」でした。…まぁ、これ便利だなと思いましたっす。何にでも付けられるんだもん。
途中にも書かれていたとおり、ナーシャちゃんは割とボインちゃんの設定です。1人くらいそういうキャラがいてもいいのかなと思ってそういう感じにしてみました。
身長がエーシェ<ナーシャ<エリーで胸がエーシェ<エリー<ナーシャって感じです。色々とごめんエーシェ。
さて、次回は一晩明けてもう少し日常編が続くんですけど〜これは日常って呼んでいいのかしら?ま、いいか!って感じの話です。お楽しみに!
【次回予告】
エル「役所の話しようや」
ざー「えー…前回で忘れてたと思ったんだけどなぁ…」
エル「前回はそれ以上の衝撃的な事実があったから一旦置いておいたんだよ」
ざー「そのまま忘れ去ってしまって良かったのに」
エル「それで役所って何するところ何だよ」
ざー「んー…祭りとかそういうのの運営かな?一番最初にそういうのないと村としてどうなんだろって思って置いてみたんだけど、別に使わないなと思ってあんまり考えてないんだよね」
エル「ぶっちゃけたなー…」
ざー「それはそれとして、ナーシャどうだった?」
エル「元気で純粋な子だな〜って感じ?」
ざー「エル君にはそう見えるってことね。OK」
エル「ん?どういうこと?」
ざー「さて、次回!【エリーゼの村での日常③〜どうしてこうなった?〜】お楽しみに!」
エル「次回も困惑している僕が居るのがわかるの嫌だなぁ…」




