帰路につく①〜王都最後の1日〜
二人で夕日を見ながら話した日から数日が経っていた。
ついに第三章開幕です!
あの事件から1週間位経ったのだろうか…正直なところ性格な日数というものを数えていない。
あれからの僕らの日々は僕が想像していたよりも慌ただしいものだった。
爵位の授与に関しての書類とエーシェと結婚に関しての書類、今回の事件に関しての書類書類書類…
手元にあった最後の書類を書き終えふーっと大きなため息をつく。
「やっと全部終わった!これで全部だよね?全部だと言ってくれ!!」
僕の言葉に死にそうな顔をしている二人がこっちを向いてくれる。
「さすがにもう無いと思うわ…これ以上もう嫌よ」
「僕ももういやー!なんでこんなに髪と向き合わなきゃいけないんだよー!」
二人が死にそうになっているのも無理はない。
僕らがここ数日で書いてきた書類を見ると数十センチの暑さにまでなっていた。
ここまでの量を手書きで書いたのは初めてだったのかも…。
「今日はもうゆっくり休んで明日は思いっきり羽を伸ばそうか」
「伸ばしていいの?ほんとに!?」
僕の言葉を聞いてすごくいきいきとしているヒスイ君。
「あ、ごめんヒスイ…物理的に羽を伸ばすんじゃなくて思いっきり楽しもうって意味で言ったんだよ」
「そういうことなんだ!僕にしか羽は無いはずなのになんでだろうって思ったんだよね」
僕らで話しているときにたまにアホの子になるの何なんだろう。
「もう楽しいことだけを考えよう。みんな明日行きたいところある?」
お茶の準備をしてエーシェとヒスイの前に置いていく。
「行かなきゃいけないところとかもう無いよね…?もはや記憶が混濁し始めてる」
今日が王都に来て何日目なのかもわからないくらいになってるんだから相当重症だとは自覚している。
「そろそろあれが出来上がってるんじゃないかしら?」
「あれって?」
ほんとに記憶が無いんだけど…なんだっけ?
「なんで忘れっちゃってるのかしら…家紋の制作を依頼していたじゃない」
ああ!それか!!
「イザベラさんのところのやつね!お、覚えていたよ当然」
「嘘ばっかり。それはそうと私はそろそろケーキが食べたいわね」
こいつほんとに頭の中ケーキのことばっかりだな。
「エリーゼの村にあったお店の本店がこっちにあるんだっけ?行ったことあるの?」
「…無いわね。いつも取り寄せていたわ」
さっすがお姫様!違うねー!
そういえば…あのお店に書いてあったな「王家御用達」って…絶対コイツだろ…
「じゃあ、明日はそこも行こっか。ヒスイはどこか行っておきたいところある?」
「うーん僕は別にないかなぁ。二人についていくよ」
「そっか。わかったよ。じゃ今日は早めに寝て明日に備えることにしようよ」
「「はーい」」
各自自分の寝室に行き床につく。
これまでの疲れのせいなのか布団に入るとすぐに眠気が襲ってきて眠りにつくことができた。
ああ、でもこういうときってだいたいアティが出てくるんだよなぁ…
ーーちゅんちゅん!!
あれ?朝になってる!?
アティ出てこなかったな…
珍しいこともあるものだと頭をポリポリと掻きながら部屋を出る。
寝室を出るとヒスイとエーシェはすでに支度を終えてお茶を飲んでいた。
なんという優雅な朝なんでしょうか。
…あれ?なんか僕睨まれてません?
「おはようエル君。今何時かわかるかしら?」
「え!?いや、まだ朝の時間だと思ってたんだけど…」
「僕らずっと待ってたんだよ?」
「ご、ごめんね。それなら起こしてくれればよかったのに」
ごめんて…
でも、目覚まし時計という文化がないこの世界が悪いと思います!
僕だっていつも寝坊をしたくてしているわけではないんだから許してほしいものである。
「何回も起こそうとしたよ。でも、エル君何しても起きなかったんだよ。最終的にエーシェが鼻と口の両方をつまもうとしたときにはちゃんと止めたんだよ?」
え?なに?僕寝坊したからって殺されそうになってたの!?
「さて、エル君も起きたことだし行くわよ。あ、そうそう。今日のケーキ代もエル君のおごりね」
「それは…わかってるよ。ところで、僕の朝ごはんとかは…」
「あるわけ無いでしょ?行くわよ?」
「…はい」
さよなら僕の朝ごはん…
そうして僕らは宿屋を後にした。
そういえば…
「3人で王都を回るの初めてじゃない?」
「そういえばそうね」
「エーシェここに来てからずっと引き籠もってたもんね。今日は引き籠もらなくてもいいの?」
「もういいのよ。外に出て誰かに見つかっても家に連れ戻されることはなくなったもの」
やっぱりそういう理由だったのか…
まぁ、宿屋で引き籠もっていても居場所を特定してくる有能な使用人さんも居ましたからねぇ…
「最初はイザベラさんのお店でいいかな?」
「そうね。彼女のことだからきっと仕上げてくれているはずよ。確認はしていないけど大丈夫よ」
うわぁ…試されるイザベラさんの力…
「で、できていなかったらどうするの?」
「まぁ、そのときは…急がせるわよ」
イザベラさん逃げて!!
「エーシェ怖い…目が笑ってないよ…」
「あら?そんなことないわよ?ウフフ」
うちの嫁さんが怖い件について…
そんな会話をしていたらイザベラさんのお店に到着した。
「いらっしゃいませ!おまちしていました!」
いつもながら元気だなぁ…
あれ?ちょっと目の下にクマがあるような気が…気のせいだよな?
「そろそろいらっしゃる頃だと思っていました。例の物出来上がっております」
「さすがイザベラね」
お疲れさまです…
そこまで仕上げるのに眠れない夜も…
いや、本当に寝てないんじゃないかこれ?
「こちらが依頼を頂いていたものとなります。いかがでしょうか?」
イザベラさんが僕らの前に持ってきた家紋は素晴らしい出来だった。
僕の描いていたメモはただの剣と杖の絵だったのにそれをもとに僕の使っている剣とエーシェが使っている杖に寄せて作ってあった。
僕の使っている剣は日本刀よりのものなので、使っている人は少ないはずなのに似せてくれていた。
更には僕の残念なドラゴンのイラストもとってもかっこよく仕上げてくれていた。
「これが二人が言ってたやつ?この真ん中のは…僕?」
「そうそう。僕らはドラゴン様に守られてるからね」
「何よそれ」
「ねーねーおねーさん。これってちょっと直してもらうことってできる?」
ま、まさかのヒスイから追加注文!?
「ど、どの部分がお気に召しませんでしたか?」
笑顔を保とうとしてくれているけど、完全に顔がひきつってしまっているイザベラさん。
ごめんなさい…うちのドラゴン君風属性魔法使うくせに空気は読めないんですよ。
「えっとね。ここの角の部分なんだけど、これと同じ形にしてほしいの」
そう言いながら自分の頭に生えている角を指差すヒスイ。
君そんなにそこにこだわりがあったんだ。
「そ、それでしたらすぐにできるかと思いますので…お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
それは…嘘ですよね?
これきっとヒスイの言っていた部分を修正するとなるとこのドラゴンの部分は全て書き直しになりますよね。バランスとか色んなものあると思うんで…
「ゆっくりでいいですよ。あ、そうだ!納得のいくものが出来たら手紙で送ってもらうことは出来ますか?」
これ以上この人に急ぎの依頼を投げてはいけないと思ったエルドナスだった。
「ええ、できます。どちらにお送りすればよろしいでしょうか?」
「エリー村のこの住所にお願いします」
僕は自分たちの家の住所をメモに残して渡した。
「では、出来上がり次第送らせていただきます」
「よろしくおねがいします」
それだけ伝えて僕達はお店を後にした。
「すぐに作り直してもらえばよかったのに」
お前には人の心が無いのか!?
「エーシェ…イザベラさんの顔見た?結構無理してたじゃん」
「でも、彼女はそれが仕事なんだから…」
「追い込まれた人間がいい仕事なんてできるわけが無いと思うんだ。だったらゆっくりと納得がいくまで仕上げてもらったほうが確実にいいものが届くと思うんだ」
「どうしたのエル君?」
「エル君の目が本気だよエーシェ…」
「エル君がそれでいいならそれでいいんじゃない?」
よかった…イザベラさんの睡眠時間を確保することができそうだ。
「じゃ、家紋はもう少しゆっくり待つことにしてケーキ食べに行こうか」
「そうね。お店はこっちだったと思うわ」
歩き出す前にお店の中を見るとイザベラさんと目があったので軽く会釈すると彼女は深々と礼をしてくれた。
頑張ってください…
「エル君何してるの?行くわよ」
「あ、ごめんごめん今いくよ」
後日色々あって受け取るのが送れてしまった手紙にはヒスイの角の指定を完璧に入れ込みそれ以外の部分まで書き直しを行ってくれていた完璧なものだった。
一緒に入っていた手紙には感謝の言葉が綴られていた。あの時のイザベラさんはやはり数日間ほとんど寝ずに作業をしていたらしく、限界が近かったとのこと…今までこんな風に時間をもらえたことはなかったから気合を入れたらいいものを作ることが出来たともあった。よかったよかった。
想像以上に自分を追い込みながら仕事をしてくれていたイザベラさんのいる方向に向けて一人敬礼をしていた僕がいた。
時間は戻って王都。
「ここが本店ね。初めてきたけど大きいわね」
「あのお店が支店だったってわかる大きさだね…」
僕らがエリーゼの村でいつも行っていたお店を一回り以上大きく、更に外装を豪華に外装からして本気度が違うぜ!
「本店にしか無いものも無いらしいわ。楽しみね」
こっちもそこまで情報を集めてくるなんて…本気だ!
3人で店に入ると内装はエリーゼの村のものと同じだったので外装が豪華すぎて少しビビっていた僕は安心することができた。
メニューを見てみると…
「エーシェ…これじゃないかな?極みの上の天界だって」
「どうして極みの上が天界なのかしら?」
知らねーよそんなこと!僕に聞かないで店長とかに聞いてくださいよ…
「せっかくだしここでしか食べられないならこれにしようよ」
「あら、エル君がいいのならいいわよ?」
「せっかくなら思い出に残ったほうがいいじゃん?」
「じゃ、早くお願いしようよ!すみませーん!」
おいヒスイ!?
ここそんな感じのお店じゃないのだけど!?
目の前にあるベル見えませんか???
「ヒスイ!ここではこれを鳴らすんだよ」
「あ、そうなんだ。これ食べられなそうなのになんで置いてあるんだろうって思ってたんだ」
こんの能天気ドラゴンめ…
店員さんから若干の注意を受けながらも注文をして待つこと数分…
「お待たせいたしました!こちら天界3人前になります!」
ふぉぉぉ〜!
すげー!なにこれ!
紅茶とケーキはいつもどおりなんだけど、なんかタワーみたいなのにいろんなお菓子が乗ってるよ!!
これあれでしょ?貴族のお茶会とかにあるやつでしょ?実物初めてみた!!
さっきから感想がすげーしか出てこないけどすげー!!
「エーシェすごいねこれ!」
「…そうね」
あれ?いつもと様子が違う…
いつもならケーキにしか目線が向かない人なのに…なんだか浮かない顔をしているような…
「では、ごゆっくり」
店員さんが居なくなったのを確認してエーシェに尋ねることにする。
「どうしたのエーシェ。いつもならどんなケーキが来ても嬉しそうにしているのに…今日はどうしたの?」
「そんなことないわよ…ちょっとね」
エーシェがケーキを目の前にしてこんな表情になるなんて…明日は雪か?
「気になることがあるなら言っておいたほうがいいって」
「いいえ、不満があるわけじゃないのよ。ただ…これ…いつも私がお城に持ってきてもらっていたものと同じなよ」
はぁ!?
「どれだけすごいものが来るのか楽しみにしていたら、いつもどおりのがきてちょっと気分が上がりきらなかっただけなの」
どんな理由だよ…
「ヒスイ…僕らはびっくりしてるよね」
「うん…びっくりしすぎてどこからたべればいいかわからなくなってるもん」
かわいいねーヒスイ君は。
「そうだよねー。これがいつもどおりとかなんなんだろうねー」
「うらやましいねー。エル君は何から食べるの?」
「う〜ん…どうしよっかなー」
「ごめんなさい!私が悪かったから!みんなで楽しく食べましょ?」
私が悪かったから会話に混ぜてくれと言いたげなエーシェを見てヒスイと目を合わせて笑う。
「ごめんね。ちょっと意地悪したくなっただけだからさ」
「悪かったとは思っているわよ」
それからはみんなでケーキをつつきながら話を続けることになった。
「それでさ、今後の話なんだけど、そろそろエリーゼの村に戻る頃なんじゃないかなと思ってるんだけどどうかな?」
「そうね。王都でやるべきことはなくなったのだからそろそろ家の布団が恋しいわ」
「いや、絶対に王都の宿のほうがいいものだと思うんだけどなぁ…
あ、そう言えばエーシェは僕と違うものを買っていた気がしたな…あの宿のより良いものを買ったとか言ってたら引くなぁ…
「僕もいいよー。僕はもともと報告があるからってここに来ただけでどこに居ても変わらないし」
もともといろんな土地を飛び回っていたんだからそうだろうねー。
「じゃあ、明日でいいか」
「随分と急だけどわかったわ。家には手紙を書いておくから大丈夫よ」
「あ、手紙かぁ…僕も書いておこう」
「エル君も手紙書くんだ」
「たまに書いてるわよね。ほんとにたまーに」
こっちを見ながらニヤニヤしやがって…
「エーシェは手紙書いてるところなんて見たこと無いけど?」
「だってこれまでは書いたら場所をわざわざ教えていることになっちゃうでしょ?書くわけないじゃない」
ですよねー。
家出しているときに手紙を書く人なんて居ないですよね。
「これからは書いていくつもりよ。そうしないと戻ってきて話してくれって言われそうだもの」
「それは大事だね!すぐ書こう!たくさん書こう!」
「すぐに帰ってこれる距離ではないもの。できるだけ帰らなくても済むようにするつもりよ」
「困ったら僕に乗ればいいじゃん」
「「それは無い」」
「えーなんでさ!!」
【帰路につく①〜王都最後の1日〜】最後までお読みいただきありがとうございます。
あけましておめでとうございます。2022年最初の投稿が第三章の1話目となるのは幸先がいい感じがすると感じているのは僕だけでしょう。ゆっくりといろんなことに挑戦していければいいなぁと思っている今日このごろです。
今年もエル君たちをよろしくおねがいします♫
【次回予告】
ざー「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
エル「この人が何故ざーさんになったのかは前回の幕間を見てね!」
エー「それで、次回はどうするのよ。これ最後の一日って言ってるのにまだ王都から出てないじゃない」
ざー「そこ、つっこまれると…」
ヒスイ「でも、次回はもう王都出るの?」
ざー「それはまだ言わなーい」
エル「あ、そうだ。こっちの世界だと秋の前だから年越しネタ使えないからね?」
ざー「わかってるって。さて、そろそろ。次回【帰路につく②〜エル君が酔わない簡単な方法〜】お楽しみに」
ヒスイ「簡単な方法があったら苦労しないんじゃ…」




