王都編⑲〜約束〜
アヴェンの刃に貫かれたエルドナス。
精神支配の魔法から自力で脱出したエーシェとヒスイが駆け寄るも二人もアヴェンの前に倒れてしまう。
1人笑うアヴェンと倒れたエルドナスたち…。
対勇者戦第四弾!
えっと…僕は何をしていたんだっけ?
見えるのはさっきまで僕が居た豪華なレッドカーペットの敷かれた部屋。
真ん中には高笑いをしている一人の男性。
レッドカーペットの上には赤に赤でよくわかんないけど、血まみれになって横たわっている僕だったモノ。
左右の壁のところにヒスイとエーシェが放られた人形のようにもたれかかっている。
ああ、これはきっと死というやつだな。
エーシェの胸にあったネックレスが無い…そうか…正気に戻ってくれたんだな。
良かった…。
これで安心して…。
逝けるわけねえだろうが!!!!!!
何も解決してないじゃないか!
僕はただ全く歯が立たない敵にバカみたいに突っ込んでいっただけじゃないか!
何をしているんだ僕は!
本当に…何をしているんだ…。
情けなくて情けなくて…。
体を失い涙が出るはずも無いのに…涙を流している?
「悔しいの?」
声がする方を向くとアティがそこに居た。
「…うん…すごく…悔しいんだと…思う…」
涙がこみ上げてきて
嗚咽混じりに途切れ途切れの言葉を紡ぎ出す。
「どれだけやっても結果は変わらないとしても?」
いつものただ僕と話していることを楽しんでいるアティの声ではない。
優しいようでいてかけられる言葉には冷たさが混じっていた。
でも…それは事実だ。
何千回何万回と繰り返したとしてもあれに勝てる保証なんてものはない。
勝てないとわかっている戦いを挑むものを愚かと笑うならば笑えばいい。
僕はそれでも…天文学的な確率だったとしても…あいつに勝ちたいんだ…。
「変わらなくても…勝てなくても…あいつに負けたくなかった…あいつだけには!」
いつの間にか涙と嗚咽は止まっていた。
悔しさだけがこの意思を動かしていた。
「アティ!僕はもう一度君に望む…助けてくれ…」
今は無いはずの体を動かすイメージで僕は自然と膝をついて祈るような姿勢で願いを乞う。
「それはあなたが助かりたいの?それともエーシェが助かればいいの?」
その言葉に僕は迷いなく叫ぶ
「全てだ!全てを救ってくれアティ!お願いだよ…もう僕は全てを出し切ったんだ。残ったのはあのときの約束だけだ。お願いしますアティ様…僕を助けてください…」
アティは僕の言葉を聞きこれまでの真剣な顔つきをふにゅっと和らげる。
「そうね…今しかないかもしれないわね。エル君最後に1つ聞きたいことがあるのだけど」
「何?」
「あなたはこの選択を後悔しない?」
「するはずない!もし僕がこのことを後悔することがあるのであればそれは僕が僕をやめるときだ!」
「うん。じゃあ、そうならないことを願っているわね」
そう言うとアティは後ろを向いてしまった。
後ろを振り返る時に小さく声が聞こえたように思えた。
「…ごめんね…」
きっと僕にはそう聞こえていた。
気を失っていたヒスイが目を覚ますとそこにはこれまでと違う光景があった。
先程アヴェンにより体を貫かれたはずのエルドナスの体に魔力が帯び始めているのだ。
朦朧とする意識の中なにかの間違いではないかと確認をし直しても結果は変わらない。
エルドナスの体に魔力が流れているということは死んでいないということだ。
ついさっき自分の体を柱から脱出させるほどの衝撃と絶望を与えたあの光景は間違いなく真実のはずだが、実際にエルドナスは生きていると核心ができたヒスイは静かに微笑んだ。
エルドナスの体を包み込んでいた魔力は少しずつ強くなっていき次第に白く輝き始める。
「何ダ?先程始末シタハズ…」
アヴェンは発光し始めたエルドナスの体を見て高笑いを止めた。
確実に心臓を突いたはずだとこの体の感覚が言っていたにも関わらず目の前にあるものはそれを否定する。
魔力が流れることはその者の生存を意味する。
心臓を貫かれ生きていられる人間など存在しないはずだが実際にそこにあるそれは自分の知り得る状態ではない。
そんなこと考えていたアヴェンの口からは自然と言葉が漏れてしまっていた。
発光は更に強まり球体になりそのまま宙に浮き始める。
床から2メートルほどの高さにまで登ったその球体はゆっくりと発光を弱め中から体育座りのような格好をした女性が現れる。
ふわっと床に降り立つその女性は白地に白い糸で文様が描かれた服を身にまとい長い白い髪を伸ばし手には扇のようなものを持ち口元を隠していた。
「…」
女性はレッドカーペットに降り立ちただ無言で辺りを見回している。
「これ、気持ち悪いわね」
静かにそう言うと口元に当てていた扇を空間を切り裂くようにゆっくりと前で大きくあおいで見せる。
勇者コディティアが最後に唱えた魔法であった【神域展開】が発動してから謁見の間を包み込んでいた魔力が霧散していくように消え失せていったのだった。
「あースッキリした〜。ほんとよくこれをそんなふうに神聖なものとして呼べるわよね〜」
今やったことはただ自分にできる当たり前のことであったかのように話し始める女性は格好と口調に大きく差があるなとヒスイは感じた。
ふと、ヒスイと女性の目が合う。
「あれ?ヒスイちゃん起きてたんだ。大丈夫?」
「大丈夫…では無いかなぁ…回復まで時間は掛かりそうだし」
「結構やられちゃってたもんね〜。でも、ほら、もう動けるはずよね?」
ヒスイは自分の体を見て驚愕する。
先程アヴェンに2度も吹き飛ばされたときの傷が治っているのだ。
「アレの相手は私がするからその間にエーシェちゃんをお願いね」
「わかった。でも、その…エル君は…」
ヒスイの目線は話しながら少しずつ下がっていた。
その先の言葉はわかっていても言えなかった。
言ったら認めてしまうことになってしまうと思ったからだった。
「エル君は今は少し眠ってもらってるの。この戦いが終わるまでは…ね。あまり長引いてもいいことは無いから。その分思いっきりやるからエーシェちゃんをちゃんと守ってね」
「わかった…勝てるの?」
「そうねー…昔やったときも勝ってるから大丈夫だと思うわよこのアティ様に任せなさいって」
「??」
疑問を抱えながらもエーシェの元に向かうヒスイ。
その時、これだけゆっくり話していてもアヴェンが全く入ってこようとしなかったことに気が付き彼の方を見ると先程言葉を話したときのまま固まっている。
動いていないと言うよりは…その姿勢のまま固定されていると言う方が正しいのかもしれない。
それを見たヒスイはエーシェを抱え王座の後ろに移動することを急いだ。
これは、これまでの戦いの比にならないことが起きるそれだけは革新できていたからこそその行動を選んだのだった。
「おっまたせ〜?さて、始めましょうか?…あれ?何で黙ってるのよ!せっかく久しぶりに会ったって言うのに!…あ、そっかそっか。これで喋れるでしょ?」
再び扇を前で大きくあおぐとアヴェンはその場に崩れるように膝をついた。
「ナ…何故オ前ガ!!」
アヴェンの眼差しはこれまでエルドナスたちに向けられていたそれとは違いただ恨みの籠もった視線に変わっていた。
「いろんな偶然が重なっただけよ。でも、私にとっては幸運でも会ったのかしら…ううん。でも、やっぱり不幸なのでしょうね。あなたに会ってしまったということ自体ががやはり不幸なのでしょう」
その言葉を聞き更に恨みの籠もった視線に変わるアヴェン。
「さぁ…始めましょう。そして…終わりにしましょう。【神域展開】」
アティがそれを唱えた途端にアティを中心に膨大な量の魔力が部屋中を包み込んだ。
エルドナスが使っていた探索で使っている魔力の量の数倍から十数倍の濃度の間ちょくが部屋を満たした。
魔力で満たされた部屋はその風景までも変えてしまった。
床は一面木材の板で張られ、柱から天井に至るまで全てが木材でできていた。
柱の間から見える外の景色までもがすべて変わり外には赤く色づいた紅葉の木と様々な色に美しく衣替えをした山々が見える。
アティが持っていた扇を天高く掲げると扇は薙刀のように変わった。
薙刀までもが全て白一色で統一されたアティの姿は神聖なものように見える。
「マタシテモ邪魔ヲスルノカァ!!!」
アヴェンは魔力を自身に纏いこれまで片手で扱い続けていた剣を両手に握り変えアティに向けて駆け出す。
ギャギャギギャン!
アヴェンの繰り出す剣を1つ1つ丁寧にさばきアヴェンの間合いに持ち込ませないアティ。
その動きに無駄はなく
その動きには美しさまである
静かに微笑みながらアヴェンの猛攻を簡単弾き返していく。
「オオオヲヲヲォォォォォ!!」
体に纏っていた魔力を剣に集中させどす黒い魔力を放つアヴェン。
「あの時から何も変わっていないのね…はぁ!!」
魔力でできた刃を手に持っていた薙刀で切り裂くアティ。
「私達に与えられているこの魔力の本質も全く理解しないでただただ荒々しく壊そうとするだけのあなたでは私の足元にも及ばないわ」
カンッ!と薙刀の刃の部分とは反対側を床に突き音をたてる。
圧倒的だった
これまでエルドナスがどれほどの攻撃をしても刃が立たなかったアヴェンがまるで弄ばれているかのようだった。
ただがむしゃらにアティに向け握っている剣と纏う魔力をぶつけ続けているかのように見えるのはなぜだろうか。
先程まで王座の後ろにエーシェとともに逃げたはずだったヒスイは全てが変わってしまったこの空間でそんなことを考えていた。
彼が片手で握っていただけの剣にヒスイとエルドナスは吹き飛ばされていたのだ。
エルドナスはその場の機転で避けたりもしていたが、完全に油断をしていたヒスイは一発でのされてしまったのだ。
そんな圧倒的なまでな暴力を振るっていた彼で遊んでいるかのようにすら見えるアティと名乗った女性をヒスイはただただ見ていることしかできなかった。
実力が違いすぎる。
これまで数千年と生きてきて色んなものを見てきた
これまで数千年と生きてきて色んなものと争ってきた
これまで数千年と生きてきて…こんなにも届かないと思ったことは今まであったのだろうか
いやに思考が巡る頭をフル回転させてもその答えは出てこなかった
「昔やったときも勝っている」
彼女はそう言っていた。
彼女はアヴェンを知っている。
彼女はアヴェント戦ったことがある。
これだけで情報は十分すぎるほどに与えられていた。
これは僕達地上に生きるものが入り込めるような次元の話ではないのだろう…と。
「あの時私に対してしたこと、あのお方に対して向けていた敵意。その全てを許すつもりなどありません」
「何ヲ言ッテイル」
「さらに私のかわいいこの子たちをこれほどまでに…塵も残らぬと思え!!」
アティを中心に先程よりも更に濃い魔力が溢れ出す。
「もとよりあの方より授けられたこの力は黒き大きな力ではあるが闇にあらず。この力は全てを飲み込むためにある力にあらず。…そうこの力は作り出すための力なり!」
白いアティとは対象的なほどに黒い霧のようなそれは彼女の後ろで大きなモノを形作っていく。
「我は願う。我が主に抗い続けるかの者を討ち滅ぼす為の力を…邪悪なる神と身を落としながらも生きながらえるかの者を打つ滅ぼす為の力を…彼が願った夢を叶える為の力を!」
黒い霧の中から大きな白色の像が1つ現れる。
「【神器創造】」
【王都編⑲〜約束〜】最後までお読みいただきましてありがとうございました!
うん。書いてみてわかっていたんだけどレベルバランスが明らかにおかしい!
アティ>>>越えられない壁>>>アヴェン>>>越えられない壁>>>エル君たち
みたいになってることに書いてから気が付きました!
そういうこともあるよね。
ふわふわしている存在だったアティがついに表舞台に出してあげることができました!うん。途中で口調が変わりすぎているので補足を。
まず、あれはどちらもアティです。そして、後半の話し方は昔の癖みたいな感じだと思っていただければ。あんまり書くと今後の話のネタが出てきちゃうので…(隠す意味あるのかってくらい書いてる気もするけど)
次回でついに王都編も20話目本当ならここで終わってるはずの話数でしたが、書いてたらこうなりました。次回についに勇者戦決着か!?
【次回予告】
アティ「なんで私薙刀振ってるの?」
作者「だってかっこいいじゃない。和装女子の薙刀姿!」
アティ「構想段階では私もエルくんと同じく短剣を振っているはずなのだけど?」
作者「いや、和装で短剣というのも良かったんだけど、それってほとんど暗殺者じゃんって気がついて。どこかの国の最初の皇帝様を…なんてね」
アティ「まぁ、いいけど〜?それよりこの話結構長くなっちゃってるんじゃない?」
作者「元の予定では…20話で王都編が終わるはずだったからねー。びっくりびっくり年内に終わるのかな?」
アティ「ふ〜ん?でもあんまり長いとエル君に良くないから早く終わらせてあげてね」
作者「ちょ、おまっ!」
アティ「次回【王都編⑳〜涙と笑顔〜】お楽しみに〜♫」




