王都編⑯〜月明かりに照らされる〜
エルドナスとヒスイがたどり着いたのは先日王と会った謁見の間。
ヒスイの探索魔法によればここに人が居るとのこと。
さて、鬼が出るか蛇が出るか…それとも?
僕の身長の2倍異常はあるであろう謁見の間の扉を静かに開け中に入る。
ちょうど傾きはじめていた月明かりが窓から入り込んできて真っ暗なはずの部屋の中をほのかにだが照らしてくれていた。
ヒスイが探索を使ってこの部屋に人が居ることはわかっている。
二人で慎重に進みながら部屋の中を見回す。
どうやら正面に居る人以外はいないみたいだ。
【道具箱】から魔力の回復薬を取り出し飲みつつ正面にいる人の前まで移動する。
王様用に作られた大きな椅子には誰も座っておらず、少し小さく作られた椅子にその人は座っていた。
月明かりでそれほど良くは見えないが一人の女性がそこには座っていた。
僕は【属性付与】を施していたマントを脱ぎその人の前に姿を表す。
「この月明かりで薄暗くなっている状況だけど、部屋に入った時にすぐに分かったよ。迎えに来たよエーシェ。いや、エーシェルド第三王女様」
普段は絶対に着ることが無いであろうフリルの付いた大きめのスカートのドレスのようなものを着ているエーシェは僕が目の前に現れても声をかけても反応がなかった。
隣でヒスイもマントを脱ぐ。
「僕達エーシェのことを迎えに来たんだよ!また一緒に行こうよエーシェ」
ヒスイの声を聞いてもエーシェは反応が無い。
ただただ心を持たぬ人形のように座ったまま前を向いていた。
その目は姿を現したはずの僕達に焦点が合うことはなくどこかを見ているようでどこも見ていないようなそんな風に思えた。
「ヒスイ…エーシェが首につけているあれ見たことある?」
「初めて見るけど…」
エーシェは耳飾りではなく鈍く黒っぽく光るドレスには似つかわしくないネックレスのようなものをしていた。
「魔法をあれに封じ込めてとかってできるかな?」
「確かにできなくは無いはずだけど…ちょっとまってね…」
ヒスイが両手をエーシェの方にかざす。
「あれ…賢者が編み出してしまった禁術が織り込まれてる。人を操る闇魔法の1つだよ」
やはり…か。
「解除方法とかってある?」
「一般的には術者を倒すか聖属性の魔法をかけるか魔法を受けている人の精神力が魔法を上回ることが無いと…」
やっぱりそういう感じだよねぇ…だとしたら方法はこれかなぁ…。
でも、これ最終手段だからなぁ…。
「ヒスイ…僕はこの後死ぬかもしれん。その時骨は拾ってくれよ…」
「急にどうしたの!?」
すぅ〜っと大きく息を吸い込む。
精神力が魔法を上回ればいいんだよね。
なら…これだろ!
「おいちんちくりんツルペタ!せっかく助けに来てやったのに僕らのことを無視するとはいい度胸だな!いつもと違ってきれいな格好をしても結局のところ胸が無いことが強調されてるだけだぞ!ほらなんとか言ってみろ!」
「エル君!?死ぬ気!?完全に喧嘩売ってるじゃん!」
だからそう言っただろうに。
僕の言葉にエーシェは立ち上がり口を開いた。
「な…んで…来たの?…だめ…に…げて」
目の色がいつもの調子に戻ってはいるのだが、いつもと違うのはあのエーシェが涙を流しながら僕らに訴えていることだ。
その言葉を最後に目の色は先程と同じく黒っぽい色が混じっていく。
またエーシェが口を開く。
「私はあなた方のような下賤なものに気安く話しかけられるような立場の人間ではありません。立ち去りなさいここはあなた方のような人が来るような場所ではありません」
抑揚の無い冷たい言葉をかけられる。
言葉のどこにも感情と呼べるものは含まれていないように思えた。
「だってさヒスイ」
「普段エル君が怒られているときさ、僕いつも何でこの人はエーシェの言うことの逆のことやるんだろうって思ってたんだけど、今回はそうだね」
「思いっきり無視しようか!」
「そうだね!まだ僕達は帰るつもりは無いよ!!」
全く表情のなかったエーシェの顔が引きつったように感じた。
「で、そろそろ出てきてくんないかな黒幕さん」
「やれやれ…彼女の言うとおりに帰っていればいいものを」
エーシェの座っていた椅子の後ろから男性の声が響く。
鎧の一部がガシャンガシャンと音を立てながら男性は椅子と椅子の間に現れる。
「いつから気がついていたのだ?」
月明かりに照らされ光る鎧に身を包んだ青年は問いかけてくる。
「この場所に立ったときからって言えば驚いてくれる?」
椅子の後ろまでがぎりぎり10メートルくらいなんだよねー。
「ふっ…だとしたら今までの会話はなかなかの演技だったと褒めてやろうエルドナス」
「お褒めに預かり光栄です勇者コディティア様。ちなみに聞いておきたいんだけどエーシェがそうなっているのはお前のせいってことでいいかな?」
「なぜお前はわかりきっていることをわざわざ聞くのだ?」
はい自白いただきました〜!あー残念!こういうことをすんなりと言ってくれるのであれば録音ができる魔法を作ってから来ればよかったよ。
「それでー?富でも権力でもなんでも手に入れられそうな勇者様が何でこんなことをしているのか聞いても?」
「どうやらお前は話すのが好きらしいな…いいだろう。さて…どこから話したものかな。そもこれはわたしのものなのだが」
ふーん…「これ」ね。
「これは私の婚約者だ。それはお前も見当がついているのだろう?」
「はいはい。そんなのとっくに知ってますよー。勇者様との婚姻が嫌で嫌でしかたがなかったこの王国の第三王女様は婚姻発表前にトンズラかましたことまでね」
「そこまでわかっているのであればなぜ危険を冒してまでここに来た?これは私の后となる娘だ。お前たちと一緒に旅をする必要などない」
うわーこいつと話してるとイライラしてくるねー。ふざけるか。
「聞いたかいヒスイ君。この人わざわざわかりきってること聞いてきた僕を馬鹿にしていたのに自分もわかりきっていること聞いてきたよ!」
「エル君どうしたの?悪い顔してるよ」
おいここは空気読めよ。
「自分の嫁さんに逃げられたからって誘拐まがいのことまでしても拒絶されたからって魔法に頼ってやんの。プークスクス!だっせー」
おやおや、怖い顔しても僕の防御力は下がりませんよ〜?
「誘拐だと?我が后が王都に戻ってきていると聞いたからあくまで平和的に話し合いをするために王城へ戻ってきてもらっただけだ」
「平和的ねぇ〜?」
「エル君何言ってるのこいつ?じゃあ、エーシェにあんなのつける必要ないじゃん」
いいぞヒスイもっと言ってやれ!
「少しおいたが過ぎたのでな今は大人しくしてもらっているだけだ」
「エル君人間ってこんなんばっかりなのかな?歪んでるよ」
「歪んでるからモテないんだよきっとロリコンの変態紳士さんなんだよ」
「エル君ロリコンってなに?」
「えっとねー。容姿が幼い異性のことが好きになっちゃう人のことだよ〜」
「でも、エル君だモガァ」
はーいうるさいのはこの口かなぁ〜?
僕は胸が大きい人のほうが好みですよー。そういうシュミは無いですよー?
「私はロリコンではない!!」
やっぱり通じたねー。
「お前転生者か。ちゃんと言葉は使い分けないとダメだよ〜」
「そういうお前はどうなんだ?」
「ひ・み・つ。男には秘密の1つや2つあったほうがかっこいいでしょ〜?」
それにしても転生したら勇者だったとかどんだけ恵まれてるんだよ。
「ふーん。転生者って本当に居るんだね。初めて見たよ」
ごめんなさい!黙ってたけどずっと一緒に居た僕もそうなんです!
「お前らと話していると疲れるな。いつもそんな調子なのか」
「んーどーだろうね。じゃ、最後にしつも~ん」
【道具箱】に手を突っ込んで魔法銃を握りしめる。
「エーシェの耳飾りどこやった?」
「ふんっ。あんな汚らわしいもの壊して捨てたわ!」
「オッケーヒスイ!こいつ殺っちまおう☆」
【魔法弾装填】
属性:光・火
弾数:各8
特性:光の弾丸に炎をまとわせる・ホーミング
ババンッ!と銃声が鳴り響き発射した弾が勇者に向けて飛んでいく。
「他愛もない」
すっと左手を前に出したコディティアの目の前に魔法障壁が現れ魔法弾をかき消す。
「やっぱり詠唱なしか!そういうのチートって言うんだよチートって」
「エル君!援護するよ!【俊敏強化】!」
強化魔法がかかったことを確認してコディティアの方に向け思いっきり駆け出す。
走りながら両手を前に出して1発ずつ発射。両手を広げて左右に1発ずつ発射して更に上に向けても発射する。
「先程からそんな物効かぬとわからんのか?…ん?」
それぞれの弾は時間差でコディティアに向けてカーブしていき全弾命中したかのように見えた。
【武器交換】で短剣に持ち替え短剣に【属性付与】で火の魔力を付与する。
「おかしな魔法を使うのだな」
「それ絶対褒めてないだろ」
コディティア体の周りに複数枚の魔法障壁を展開させて簡単に僕の攻撃を防いでいた。
短剣に魔法を付与したまま正面から魔法障壁に向けて切り込むが…これ硬いなぁ…。
ヒスイくーん。合図するからエーシェに当てないように遠距離魔法行ける?
『わかったー。合図はエル君よろしくね』
さっすが天才ドラゴンさん。頼りになるなー。
行くよー3・2・1!今だ!
ばっと僕はコディティアの正面から右に移動する。
一瞬僕に目を向けたコディティアだったが、すぐに正面を見た。
そこには身長よりも大きな鎌を片手でいとも簡単に操る少年が一人。
「さすがはドラゴンと言うべきかな」
「【空気刃】」
鎌の刃の部分から無数の空気の刃がコディティアに向けて飛んでいく。
ちょうどコディティアの展開している魔法障壁の幅くらいに調整された空気の刃を飛ばすヒスイはやっぱり天才ですね。
その空気の刃も勇者の魔法障壁を破ることはできずに弾かれている。
その間に僕は【筋力強化】を発動し【道具箱】にしまっていた透明になれるマントを羽織ってジャンプして柱へ。
柱から壁に飛び移り、壁を思いっきり蹴って魔法障壁を張っていなかった後ろから勇者の首をめがけて斬りかかる。
キィィィン!と甲高い金属音が部屋の中に鳴り響く。
コディティアは僕のことを一度も見ないまま背中に刺してあった剣で僕の首への攻撃を止めたのだった。
全体重を乗せた攻撃だったのだがコディティアは一歩も動く様子はなくこれを弾き返してきた。
宙返りしながら【武器交換】を発動し、両手で残っていた弾をすべてコディティアに向けて発射する。
合計8発の弾は一気にコディティアに向けて飛んでいったが背中に刺してあった剣の一太刀ですべてかき消されてしまった。
そんなんありかよ…いや、これに近いことやってた人いたわ…ばけものどもめぇ…。
「姿を消す魔法に背後からの攻撃を首へ迷わず攻撃してきて弾かれながらも銃弾を浴びせてくるとは…お前冒険者よりも暗殺者にでもなったほうがいいんじゃないか?」
「じゃあ、今からそうするんでエーシェ返してくんない?」
「それはできないな」
「んだよケチ!せっかくお前の提案に乗ってやろうと思ったのに!」
「それとこれとでは話が違うからな」
「じゃあ、最初の暗殺対象の方は静かに殺されてくれませんかねぇ…」
「それもできないな。お前たちはここで私に負けるのだから」
「やなこった!べーっだ!」
壁を蹴って思いっきり距離を取りヒスイのところに戻る。
どうよヒスイ君。あの魔法障壁破れそう?
『うーん。もっと一点集中して攻撃できれば可能性はあるかも?』
わかった。じゃあ、僕が一気に銃で攻撃した後に一点集中型の魔法を使うからそこに思いっきり鎌で攻撃とかどうよ?
『わかった!エル君の攻撃に隠れて移動するよ』
頼むわ!
さっき装填した【魔法弾】をコピーして再度装填。
一気に行くよヒスイ!
【銃弾の雨】!!
さりげなーく【時間認識強化】でできる限りやってやった連射によりほぼ同時に16発の魔法弾を発射した裏で次の魔法の準備をする。
更に久しぶりに使ってやろうじゃないの!
右の手のひらを掲げそこに魔力を集中させる。
作るのは僕の魔法の中でも最強最速で一番貫通力がありそうな槍!
【光炎槍】!
【銃弾の雨】がコディティアの魔法障壁に当たったくらいのタイミングで思いっきりぶん投げる。
ヒスイ!今だよ!
「【神速】」
ヒスイが僕のぶん投げた最速の槍と同じスピードでかけていき魔法障壁に向けて槍と同時に鎌での攻撃をぶち当てる!
ビシビシッ!と魔法障壁にヒビが入っていく音が聞こえ始める。
もうひと押しだ!
【光炎槍】を投げていた後にそのままコディティアに向けて走っていた僕は最後のひと押しをするために…。
ヒスイの鎌をめがけて思いっきりドロップキックをした。
バッギュィィィィン!
魔法障壁が壊れそのままヒスイの鎌とコディティアが構えていた剣がぶつかり再び甲高い金属音が鳴り響いた。
「これで攻撃が届いた!」
「エル君これ僕の鎌なんだけど!?」
【王都編⑯〜月明かりに照らされる〜】最後までお読みいただきましてありがとうございました!
いやー久しぶりにエーシェが出てきましたねー…。
僕のイメージの中だと結構かわいい感じのドレスを着てもらってるんですけど、語彙力が足りなくて申し訳ない…。
さて、ついに始まってしまったエルドナス&ヒスイvs勇者コディティア!
最初っから魔力切れとかガン無視のゴリッゴリの魔法戦ですね!
ルビに入れたい文字がながすぎてエラーが出ちゃいましたよ…とほほ。
何か【光炎槍】の時は上手く言ったのに【銃弾の雨】のときだけは同じ方法なのに上手く行かなかったんですよ残念…。これ語彙力が足りなすぎて伝わんないと思うんですけど、明確なイメージがあったりします。
それでルビに使ってる言語があれだったりするので伝わってくれたら嬉しいなと思っている小ネタでした♪
まだまだ続く対勇者戦!次回もお楽しみに!
【次回予告】
エル「あんな魔法言えるか!!」
ヒスイ「いいじゃんエル君は実際に発音するわけじゃないんだから」
エル「だとしてもさ、最初の方の魔法に比べて明らかに難しくなりすぎでしょ!」
ヒスイ「そうだね~。そういえば今回初めて魔法名じゃなくて技名にルビが入ったんだって!ピアッジャ・ディモニッツィモすごかったね!」
エル「あれずるしてるからな〜。普通にやったらできないから」
ヒスイ「僕にもああいう技ほしいよ!ねぇ作って!!」
作者「ただいま誠心誠意製作中ですので思い付いたらそこにぶちこんでいくよ」
ヒスイ「わーい!やったー!じゃ、次回予告だね!次回【王都編⑰〜遊技盤〜】お楽しみに!」
作者「うわ…これって取材行かなきゃじゃん…」




