王都編⑫〜点と点は線に〜
正門近くでいつも警備をしているという衛兵のナデランに教えてもらった酒場へ向かったエルドナスとヒスイの二人。
情報屋に出会うためのエルドナスの駆け引き?が始まる。
ナデランさんに教えてもらった酒場と思わしき場所に到着してみたのですが…。
「これは…なかなか入りにくい感じだねー」
こら、ヒスイ君!思っていても口に出してはいけないこともあるんですよ!
ここに来るまでの途中にも何件か酒場のような店はあったけど、明らかに外装からお金かかってますよーみたいな上流階級御用達なお店とか明るい感じのお店が多かった。
それに対して僕らの前にあるのは中は明るいけど外は真っ暗というお店だ。
入り口は木の板が二枚。カーボーイが出てくるような映画で出てくるような感じだ。
いかにも中で喧嘩が起きたりしていそうな…外で打ち合いが起きていそうな…。
「ここだけ世界観間違えてないか?」
「エル君も口から出ちゃってるじゃん」
ヒスイの言葉にはっとしながらも勇気を出して一歩目を踏み出してみることにする。
でもなぁ…こういうところって入ったこと無いからよくわかんないんだよなぁ…。
エリーゼの村のターシャちゃんのお店は食事処兼居酒屋だから入りやすかったけど、ここは完全に飲むための場所だもんなぁ…。
酔っぱらいに絡まれたりしたら嫌だなぁ…。
でも、せっかく教えてもらったんだもんなぁ…。
勇気を出して扉に手をかけ中に入ることに。
中には数グループの客と一人の客がチラホラといて意外と盛況のようですね。
とりあえず、ここはカウンター席に座って情報を集めることにしましょう。
「坊主。ここは子供の来るところじゃないんだがな」
カウンターに座ろうとしたタイミングで渋い声のおじさんの店員さんに声をかけられた。
「ああ、それって僕のこと言ってます?確かに連れの見た目はそうですけど僕らは成人をしているのでこの店に入ってはいけないってことは無いと思うんですけどね」
喧嘩を売られたので弾き返すことにしました。
「ふん。お前らが飲めるような酒なんてのは置いてないってことだよ。ほら、これ見てお前らが飲めるようなの探してみな」
愛想悪いけどメニューはくれるんだね。
「おじさん僕らちょっと人を探しているんですけど、一番高いお酒を飲んだら教えてくれたりします?」
僕の言葉に対しておじさんはピクッと眉を動かした。
「ふん。お前なんかが払えるのかね。一番高いのはこれだよ」
そう言いながらもなんだかんだで親切なおじさんが指を刺してくれたのは1瓶で金貨一枚するお酒だった。
「じゃ、それで」
そう言いながら僕はポケットから金貨を取り出す。
「お前…いいだろう。飲めなくても文句言うんじゃねーぞ」
ドンとカウンターにボトルが置かれ氷の入れられたグラスが添えられる。
ボトルを開けるとちょっと強めのアルコールの香りが鼻を突いてくる。
グラスに注いでみると琥珀色した液体がコップの中に入っていく。
香りからしてウィスキーみたいな感じのお酒かな?
「エル君大丈夫なの?」
「たぶんこれ僕の大好物かも」
前世の時は大変お世話になりました…。眠れない夜のお友達だったもんね。
この体もきっと飲めるはずだよ…エーシェよりは強いし…。
氷が解けてカランと音を立てたグラスに入った液体をぐっと口の中に放り込む。
口に入れた瞬間は少し甘いような味がするがアルコール分が強い分舌が少ししびれる。その後に来るのは少し苦味のような味が口の中に広がる。
ぐっと飲み込むと喉から食道にかけてが少し熱く焼けるような感覚に襲われるのと同時に鼻から香ばしい香りが抜けていく。
ああ、久しぶりにこの味を飲んだ気がする…。
飲んでるって感じる…。
「おいしい…」
自然と口からそう言葉が溢れていた。
「どうやら嘘ではなさそうだな。疑ってすまなかったな。お前くらいの年頃の奴らがたまにここに来ては飲めもしない酒を頼んでいくことがあってな」
急に表情を穏やかなものに変えるおじさん。
おじさんもいろいろあるんだね。
『エル君大丈夫なの?』
ん?なんだコレ頭の中に声が響くんだけど?
『ヒスイだよ。僕があんまり喋るような感じでもないかなって思って。で、大丈夫なの?」
あー大丈夫大丈夫。これくらいなら問題ないよ。
『よかったー。エル君お酒強いんだね』
あのちんちくりんと同じにしないでくれ。…あ、情報屋!!
「ある人からここの店に情報屋がよく居ると聞いて来たんですけど、今日は居ますか?」
「情報屋か…そうだな…いいだろう。おいゼラン客だぞ」
呼ばれて立ち上がったのは一人の男性だった。
年は40まではいかないくらいだろうか。
無精髭にローブを羽織ったぜランと呼ばれた男はおじさんに呼ばれてこっちに近づいてきた。
『エル君この人大丈夫?』
きっと大丈夫だと思う。
このおじさんは高い金を叩いた人間に対して、酒を飲んで美味しいと言った人間に対してそんなことをする人じゃないと信じたい。
「話は聞いていたよ。人探しだって?」
「そうです。その人の情報を集めたいだけなんですよね」
ジロジロと僕のことを観察しているようだな。
まぁ、初対面の人間に対して警戒をするのは当たり前ですよね。
いい気はしないんですけどね。
「はじめに報酬の話しをしましょうか。僕が知りたいのはある一人の女性についてです。それだけの情報にたいいしてあなたの提示する報酬を払いましょう」
その言葉でゼランはこちらを見る視線を変えた。
「さっきからお前は随分と羽振りがいいみたいだな」
「ちょっといい仕事をすることができたので今はお財布がホクホクなだけですよ。それでも、あの人には怒られちゃいましたけどね」
「そうか。それでその探している人というのは?」
こいつ情報屋のくせにあんまり話聞いてないな…酔っ払ってんのか?
「報酬の話が先と言ったんですけどね」
「ああ、それなら…その酒を俺も飲ませてくれねぇか?」
え?
「そ、それでいいんですか?」
『この人ただ酒が飲みたいだけの人なんじゃないの?」
そうかもしれないけど、まぁ、嘘をつかれたらそれはそれで後で…
『エル君?顔に出てるって…』
あら、失礼。
さて、酒をおごるだけで情報を教えてもらえるなら安いものでしょう。
「じゃ、まず一杯」
とくとくと音を立てながらゼランのコップに琥珀色の酒をついでいく。
「ああ、こんなの初めて飲むぜ。ありがとうな」
ああ、すごーくいい顔しているなぁ〜。
うん。これは悪い人じゃないと信じよう。
「じゃ、仕事の話をしましょうか」
「おう。それで、探している人はどんなやつなんだ?」
「ああ、その人は…」
そこから僕は知っている限りのエーシェの情報を話した。
「エーシェって女の子ねぇ…珍しいということは無いけど見た目が特徴的だな。ちょっとまってくれよ…そうだな…ああそうだ今日そんな見た目の女の子を見たって話があった気がするな」
「その情報を詳しく」
「今日の昼過ぎとかにそんな容姿の女の子が通りを歩いていたって話は聞いたが、それ以上のことはわかんねえな。すまねえな兄ちゃん」
おそらく、宿から目的地に歩くまでのところを誰かに見られていたということだろう。
そうなると更にわからなくなってくる。
エーシェはその人について行ったとということになる。
そして、その人は別に人通りなどは気にせずに歩いていたということだから別に見られて困ることは無いということだ。
そうなると、単純にエーシェが屋敷に連れ帰られただけの話になるな。
エーシェさんにもっと話を聞いておけばよかったかもなぁ…。
「ありがとうございます。じゃあ、もういっぱい」
ゼランの飲み終わったグラスにもういっぱい酒を継ぎ足す。
「なんだ?まだ聞きたいことがあるのか?」
「そうですねー。風のうわさで聞いたんですけど、勇者の婚約に関しての話で噂よりももっと深いところとかですかねー」
『エル君それ関係あるの?』
関係ないかもしれないけど、情報は持っているだけで価値になるんだから集めといて損はないんだよ。
『そういうもんなんだ』
お前だって色々知りたいからって言って僕らと行動するって言いだしたじゃん。
『それとこれとは別の話なんじゃ?』
知らないことがあるのはヒスイも性に合わないんだろ?僕も一緒なだけだよ。
もしかしたら何かのきっかけがあるかもしれないからね。
「そんな話もあったなぁ…それで、お前さんはどんな部分を聞きたいんだい?」
「貴族は婚姻するまではその人の情報を隠しておくと聞いたんですけど、もし、その相手が誰だったかとかがわかればいいなと思って」
「そうさなー。結構いいところの貴族様としか世間は知らないだろうな」
世間は知らないということは…こいつは知っているということだな。
「大きな声で話せない内容であればあるほど知りたいんですよね」
そう言いながらゼランのグラスに酒を追加する。
「ちょっと耳をかせ」
言われたとおりにゼランの方に近寄るとゼランは口元を隠し話し始めた。
えー僕にはそういう趣味無いんですけど、聞きたいから聞きますね。
「実は、この国の王様の子供は3人居てな。全員が女だ。長女と次女はすでに婚姻を発表されていて名前も出ているからわかっているんだが、実は末っ子の話だけはまだ公表されていない。公表されていないだけで勇者と婚姻する予定だったのはこの末っ子だとは聞いているんだが急にその話がなくなってしまってな」
「それはいつ頃の話ですか?」
「大体半年くらい前かな。同じ頃から王城から末っ子の話を聞かなくなった。きっとどっかに行っちまったんだよ」
情報源は確かではないような話しぶりだが…。
「王家のお姫様たちの様子って結構入ってくるものですか?」
「そりゃあ…そうでもないが、数ヶ月に1回は入ってくるかな。だが、末っ子の話はピッタリと止まっちまったんだ」
「そうですか…ありがとうございます。話は変わっちゃうんですけど」
ちょっとおっさんとこしょこしょばなしをしているのもいい加減疲れたので離れることにする。
「勇者ってなんすか?」
僕が離れたのでグラスに口をつけていたぜランが僕の質問に対して酒を吹き出す。
汚いなぁ〜そんでもってもったいない。
「おま、お前そんなんも知らんのか?」
「ええ、僕はすごく田舎に住んでいたのでそういう情報も一切入ってこなかったんですよ」
「勇者ってのはな、協会に…というか神様に認められた存在なんだよ。だからめっぽう強い」
何で神様に認められたら強いのかよくわかんないけど強いんだね。
「どれくらい強いんですか?」
「そうだなー。今代の勇者は一人で行動することを好んでいるって話は聞いたな。そんでドラゴンを倒したって話は聞いたことがあるが、本当かどうかは知らんな」
今代ってことは勇者も偶発的に存在しているような存在なんだろうな。
『ふーん。誰だろ負けたの…ザコだね』
おーいヒスイ君怖いよー?
『僕だったら負けないかなって思ってね』
いや、たしかにヒスイは強いけど…最近ドラゴンを倒せるかどうかが強さの基準になっているからほんとにおかしいんじゃないかなと思い始めているんですけど、僕の感覚は間違っていないですよね?
最初の頃は熊狩りでもなかなかハードル高いと思ってたんですけど、最近はドラゴンの話しか聞かないからレベルインフレもレベルインフレっすよ。
『どうしたのエル君?難しい言葉ばっかり使ってさ』
ちょっとした現実逃避だよ。
「ゼランさんありがとうございました。また機会があればお願いします」
「その時はまた酒を恵んでくれよ。美味かったぜ」
さて、聞きたいことも聞けたなぁ…もう帰ってもいいんだけどさ。
『帰らないの?』
あのさ、実は気になってたんだけどヒスイはずっと僕の思考を読んでるの何なの?
怖いと言うかもはや呆れでしか無いと言うか…ごめんなさいそろそろ普通に喋っていいのでやめてください。
「わかったよー。で、帰らないの?」
「うーん。帰りたくないというか…なんとなくなんだけどわかっちゃったからこれがある意味嘘であってほしいというか」
「なんでさ!僕はエーシェが心配だからすぐにでも探しに行きたいんだけど!」
「情報をまとめるとエーシェは無事だし、何かをされているわけでもないと思うよ。きっと今はあの宿より豪華な寝室で寝ている可能性が高いから」
「本当に?」
「もともとエーシェは貴族の生まれなのはなんとなく察してたけど、もし連れて帰られたとしたならあの子は無事だし、きっと今回はそういう話なんだよ」
「エル君がそう言うならそうなのかもしれないけど、帰らないでどうするの?」
「飲む」
ネコは強い匂いの刺激を受けるとフレーメン反応という目と口を半開きにすることがあると聞くがヒスイのこれはどうなんだろう。
まぁ、たぶん僕があまりにも変なことを言ったから呆れているだけなんだろうけどね。
「おじさん。せっかく協力してもらえたので、このお店に居る人の分全部奢りだって言ったらいくら位になりますか?」
僕の発言におじさんも口をあんぐり。
「あいつらは安酒をかっくらってるだけだから全員分で金貨2枚位で足りると思うぞ」
「そうですか。ちょっとだけ大きな声を出してもいいですか?」
無言でうなずくおじさん。ありがとね☆
「おっっしゃぁぁぁぁぁ!皆さん!今日僕はなんかよくわかんないけど飲みたい気分なので、ここに金貨3枚を置きます!その分だけは奢るんで思いっきりのんでけぇ!!!」
「「「「うおおおおおおおおお!」」」」
「エル君飲み過ぎちゃダメだよ?」
はいはい。わかってますよ。
僕の一声で始まったどんちゃん騒ぎは王都の夜に吸い込まれていく。
月齢はもすぐ満月となるような大きな月が空に浮かんでいる明るい夜は賑やかに過ぎ去っていった。
【王都編⑫〜点と点は線に〜】最後までお読みいただきましてありがとうございました!
今回は解決編?みたいな感じのイメージで書かせていただきました。
前段階の内容だと全部を文章として書き起こしてみても良かったんですけど、それだと面白みにかけるんじゃないかというお酒がはいった状態の僕の勝手な思いつきにより今回のような形になりました。
まぁ、ここまで読んでくれていた方々はわかり易すぎて「まぁ、そーよね」ってなる続きかもしれませんが温かい目で見守っててくださいね(鋭い眼差し)
【次回予告】
ヒスイ「ほんとにエル君来てないんだけど?」
作者「まぁ、呼んでないからね。やる気の無いやつはいらん」
ヒスイ「さいてー」
作者「さて、ヒスイ君。実は次の話はもう次の日の昼過ぎくらいから始まります」
ヒスイ「なんでさ!あの後が一番大変だったのに!エル君が…」
作者「おっと、ヒスイ君それはネタバレになっちゃうぜ☆」
ヒスイ「ほんとうざい…」
作者「直球どストレートは傷つくぜぇ〜。じゃ、いつものやつヒスイにお願いするね」
ヒスイ「はいはい。次回【王都編⑬〜奪還作戦開始〜】お楽しみに…え?始まるんだ」
作者「知らんかったんかい!君たちに休みがあると思った?」
ヒスイ「うわー!ブラックだー!!」




