王都編⑩〜異変〜
長かった王城での時間も終わり、帰路につくエルドナスとヒスイ。
今回はそんな王城からの帰り道から始まります。
僕の体感時間では5時間位に感じた会食は実際のところ2時間くらいで終わっていたらしい。
ひっきりなしにいろんな人から挨拶をされたのだがみんな同じようなひげと腹回りをした恰幅のいいおっさんたちで結局誰の名前もよく覚えてなんてなかった。
終わりの合図となる誰だかよくわからん偉い人の言葉で会食は終了し、僕とヒスイはやっとこの辛い空間から開放されることになったのだった。
「あ〜長かった…もうやりたくない。エドガーさんたちが逃げるように田舎に行ったのもわかったわ」
「そう?僕は美味しいごはん食べれたから良かったけど」
本当にまんざらでもない感じで返してくるこのドラゴン君はさすがとしか言いようがない。
「まぁ、たしかに美味しかったけど食べ慣れていないものばかりでてきても困っちゃうんだよね」
「僕は全部食べ慣れていないものだから関係ないけど」
「あ〜確かにそうか。そういえば大きな姿していたときって何食べてたの?」
最近どんな料理でも美味しい美味しいと頬張るヒスイを思い返しながらふとそんな疑問が生まれていたのだ。
「えっとねー。その辺にいたやつをパクって。あとは木の実とかも甘くて好きだよ?」
あーやっぱり。想像通りだったか。
「だからねー。料理するって偉大だと思うんだよねー。前に人間と居た時は結局料理されたものを食べたことはなかったから全部が新鮮だよ」
「なんだかその話生々しいね…。それにしてもいつもあんなことをしている貴族たちはすげー精神力だと思うよ」
「きっと、みんなエル君と一緒だよ。誰が誰だかわかってないって」
「あ、バレてた?」
そんな風に談笑しながら王城から宿までの道を歩いていた。
昨日までと何も変わらない一幕。
ヒスイと二人で歩いて帰ってきて部屋に戻るとエーシェが待っている。
そんなことが最近の僕の当たり前になっていた。
僕が部屋に戻ると勝手に僕の部屋に入り浸っているその少女が居ることが当たり前になっていた。
「なんだかんだで遅くなっちゃったけど、大丈夫だよね?」
「エーシェだからねー。別に怒られる理由ないけどね今回は」
そう言って同調してくれるヒスイも居てくれることが当たり前になっている。
思えばほんの一週間くらい前に出会ったのだろうか?
人ではないが人の姿をしているという彼と一緒に生活をするというのが当たり前になっている。
そう。当たり前になっていたのだった。
宿に戻り自分たちの用意された部屋に戻る。
なんだかんだで結局の所一度もまだ眠ったことの無い寝室のある部屋に入る。
「ただいまー」
これも当たり前になっていた1つの習慣だった。
しかし、いつもとは違う現実がそこに待っていた。
「あれれ?部屋の明かりが無いよ?」
あざといぞドラゴン。
「暇すぎて寝たんじゃない?エーシェ一日ここに居るんだからさ」
部屋の明かりの場所を探してランプに火を灯す。
「エーシェー帰ったよー」
だが、部屋に人の気配はなかった。
はじめはただの違和感だったが、その違和感は少しずつ大きなものになってくる。
「ヒスイ。エーシェの寝室見てきて」
「ええ、寝てたら悪いよ。明日にしようよ」
杞憂ならそれでいい。僕が怒られればいいだけなのだから。
でも、ここで確かめなければ一生後悔をすることになりそうだった。
「いいから、見てきて」
「そんなに言うなら見てくるよ〜。怒られたらエル君のせいにするからね」
「それでいいよ」
ヒスイがエーシェの寝室に向かうと同時に部屋を見回す。
今日の朝はわりとギリギリまで準備をしていたから何がどこにあったのかまでは正確に把握している自身は無いが、何かが起きているのであれば異変があるはずだ。
見回してみるが、これといった異変は感じられない。
目で見れないなら感じ取るまでと【探索】を部屋の全体を覆えるほどに展開。
部屋にあるものすべての情報が魔力を通して手にとるようにわかるようになったと同時に激しい頭痛が襲いかかってくる。
「うぐぁぁ…」
そんな声が僕から漏れた頃にすごい勢いでヒスイが戻ってくる。
「エル君!エーシェが!」
今にも泣き出しそうな顔をしているヒスイを見ると少し安心ができた。
僕には仲間がいるんだ。
そう思うと少し頭痛が治まってきた気がした。
「いま、僕も確認したよ」
「どうしたの頭を押さえて…もしかして部屋全体で探索魔法をかけたの?」
「ちょっと思うところがあってね。それでそっちは?」
慌てた様子だったヒスイは1つ深呼吸をして話し始める。
「エーシェはいなかった。荷物もいつもある場所に置いてなかったよ」
確認したくはなかったが、それは探索で確認ができてしまっていた。
「やっぱり…ヒスイ。ちょっと待ってて従業員の人に確認してくるよ」
「僕も行く」
ちょっと感情的になってしまっているヒスイは置いていこうかと思っていたが、ここで来るなと言っても逆効果になってしまうと判断して一緒に行くことにした。
「わかった。でも、ヒスイにお願いがあるんだ」
「なに?」
「従業員の人と話すのは僕だけにしたい」
「エル君がそういうなら」
ちょっと不満げだったが、この異変に気がついたのも僕だったからすんなりと僕の意見を飲んでくれた。
二人で部屋のある2階から1階にある入口横の受付に移動する。
「すみません。ひとつ聞きたいことがあるんですけど僕達と同じ部屋に泊まっていたえっと…ラーシェルという女性がいたと思うんですけどその人がどこに行ったかなんて知りませんか?」
受付のお兄さんは僕の質問に対して受付の名簿を見ながら丁寧に対応をしてくれた。
「ラーシェル様ですね。少々お待ち下さい…ああ、その方ならもう宿を出られていらっしゃいますね。その時に同室の方々のことを聞いたのですが、その方々はまだもう一泊していくからそのままでいいとラーシェル様だけお手続きをいただきました」
一人だけ…宿を出る手続きをしていた?
なんだ?情報が少ない…。
「もともと僕らの宿泊予定はもう数日あったと思うのですが、何かその時に言っていませんでしたか?」
「そうですね…ああ、そうでした!これをお二人が来た時に渡して欲しいと」
そう言って渡されたのは、一枚の紙切れだった。
部屋に置いてあったメモ帳のようなもので、各寝室に1つずつ紙の束とペンが置かれていたのだった。
二つ折りにされていた紙を開くといつものエーシェの字とは思えないほど雑に走り書きで2行だけ言葉が書かれていた。
『ごめんね
私は大丈夫だから心配しないで』
内容を見てすぐにいくつかの可能性が頭をよぎる。
「ラーシェルが部屋を出る前に何かありませんでしたか?急に客が来たとか手紙が来たとか」
「エル君?」
不安そうにこちらを見つめるヒスイだが、今は情報を集めることに集中したい。
「そうですね…来客がありました。本来であればお通しすることは無いのですが、少々ごねられまして」
やはり…来客がいたか。
「その人はラーシェルの名前を出していましたか?」
受付のお兄さんは上を見上げながらその時のことを思い返してくれる。
「そう言えば、一度もラーシェル様のお名前は仰っていませんでしたね。ただ、確実にラーシェル様のことをわかっているような言い方でした」
それもそうだ。ラーシェルは偽名で、その場でエーシェがテキトーに名前をもじっただけなんだから。
「その人はどんなふうにラーシェルのことを伝えていましたか?」
「背格好と髪の色と目の色。あとはそうですね服装と帽子について言われたのと、これを見せればわかるからと言われて一枚の硬貨を渡されまして」
「それはどんなものでしたか?」
「初めて見るものでした。硬貨には紋章のような物が刻まれていて…どこかで見た気がするんですけど、思い出せないです」
硬貨に書かれた紋章…ね。
「それで、ラーシェルに硬貨を見せに行ったときの反応は」
「すみません。別の者にお願いをしたのでわかりませんが、その後すぐにこちらに降りていらっしゃいました」
あれだけ外出をすることや、人に顔を見られるのを嫌がっていたエーシェがすぐに降りてきたということはそのコインに刻まれていた物がヒントになりそうだが…きっとここにそれはもう無いんだろうな。
「その後は?」
「そうですね…少しあちらで二人でお話をされた後ラーシェル様は部屋に戻り荷物を持って受付で手続きをされましたね」
「わかりました。そのラーシェルに会いに来た人はどんな人でしたか?」
「年はそれほど行っていない男性でしたが、話し方がとても丁寧できっとどこかのお屋敷に務められているような方だと思います」
「ありがとうございました」
聞けることだけ聞いて部屋に戻る。
「エル君どういうことなの?僕よくわからないんだけど」
「ちょっとまってくれヒスイ。僕もまだ整理できてないんだ」
「でも!」
「わかった。ちょっと話しながら整理をしていこう。まず、今回大事なのはエーシェは自分の意思で部屋を出ていったということだ」
「ほんとに?例の男の人に何か言われたから渋々ってこともありえるんじゃないの?」
「その可能性はある。だが、本当に無理やり連れて行くのであればあんな小娘一人くらい男性は簡単に引っ張っていける」
「それは犯罪じゃん」
「まぁ、そんなんだけどね」
ふーっと一息付いて考えをまとめる。
「ヒスイもさっきのこれ見たでしょ?」
そう言って先程もらったメモ書きをヒスイの前でピラピラさせる。
「見たけど、本当のことを書いているとは限らないよ!」
「それはそうだ。あと、ここに書かれていることは嘘だ」
「どこらへんが?」
「ここの部分見てよ」
メモ書きの下の方がわずかにインクが滲んでいた。
「これがどうしたの?」
「おそらくなにかで濡れた跡だろうな。汗でここまでなるとは考えにくいからおそらくは…」
「くしゃみでもしたのかな?」
ここでポンコツかましてくるなよ…。笑っちゃったよ。
「一般的には涙の跡とかって言ってほしかったんだけどなぁ…。まぁいいや。というか大丈夫ってんだったらわざわざ宿の手続きをしなくてもいいだろ」
ぽんっと手を叩くドラゴン君。その文化こっちにもあったんだ。
「それもそうだね。僕もいきなりのことがありすぎて焦ってたみたい」
「僕も今のヒスイの言葉でちょっと落ち着いたよ。ありがとう。これは大丈夫って書いてあるけどきっと大丈夫じゃない。僕はそう思っている。あいつのことだから本当に大丈夫何だったらこんな物残さないだろ」
「それもそうだね。エーシェだもんね」
どんなふうに思われてるんだよエーシェさんよ…。
「それで?この後の僕らの行動なんだけど、ヒスイはどうしたい?」
「探す!」
僕に問われたヒスイは強い眼差しでわりと食い気味に答えてくる。
「だよね。そうと決まれば、どこを探すかなんだけど…こういう時に探索がこれくらいの範囲で楽々使えたらいいんだけどね」
「エル君頭痛くなっちゃうんだっけ?」
「そうなんだよね…。なんとかならないかな?」
「えっとねー。確か賢者がおんなじような悩みを持ってたから…なんだっけ?頭痛耐性?とかいうのを魔法で作れるはずだよ。僕よくわかんないけど」
そんな画期的な物作ってるんだったらもっと万人に伝えなさいよ賢者!!
「それ教えて。どうやってたの?」
「なんかねー。頭をふわ~って何かで包み込むみたいなこと言ってたけど僕よくわかんない」
曖昧だなぁ…。
これの原因は情報量が一気に押し寄せてくることだからそれには使えないかもしれないなぁ…。
頭をふわ〜って包み込む…やっぱり優しさと薬用成分イブプロフェンとかかな…。
「参考にはしてみるよ…」
「なんかごめんね…」
自分が使えない魔法を他人に教えるのって至難の技なんだからしょうがないよ!どんまい!!
「それじゃ、どうやって探すかなんだけど」
「僕が飛び回れば見つかると思うよ?上空からでも人の顔見分けつくから」
化け物め!どんな視力視点だよ!マサイ族もびっくりだわ!
「それはここら一帯が騒ぎになる。この国に今ドラゴンが居ることを知っているのは一部の人間だけだろうし」
「えーじゃーどーするのさー」
「まず2つ行きたいところがあるんだ。1つ目は正門。2つ目は酒場かな」
それを聞いて首をかしげるヒスイ。
「何で?特に2つ目」
「正門に行くの理由は2つ。1つはこの国に出入りするにはこの国の正門を必ず通らなくては行けないから。2つ目は、昨日今日と街を歩いてみてエーシェの髪の色はかなり特殊だって気がついたんだ。だから正門にいけばさすがにあの髪の色でわかるよ」
「そんなに記憶力のいい人居るのかな?」
「いつも人が通っていくのを見ているからこそ、特別なもののほうが覚えているはずさ」
前世の僕の経験上すれ違う人たちに関心なんてものはなかった。けど、やはり目を引くものは目を引くからこそ覚えているものだ。
それが、いつも見ているものの中に混ざっていればなおのこと印象には残っているはず。
「それに、もし国を出ていかれていたら手遅れだからね。その可能性を潰すためでもあるかな」
「そうだね。もし、この国から出ていたら僕が空を飛ぶ案を使おうよ」
飛びたくてしょうがないのかな?
「わかった。あと、2つ目場所はね。情報を集めるなら昔から酒場って決まってるんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうもんなの」
【王都編⑩〜異変〜】最後までお読みいただきましてありがとうございました。
いつもの当たり前が崩れるのって一瞬ですよね。ふとした瞬間に何かが崩れていくっていうのが日々僕らは怖くてできるだけいつもどおりを演じているんだと思います。
さて、真面目な話は置いておきまして…今回はどちらかと言えばシリアスなお話にしたかったんです。でも、何かどうしても途中でふざけちゃうんですよね。一回話の方向がずれちゃって消して戻してを繰り返しました…。
でも、最後はちょっとふざけちゃった☆
今回で王都編も前半ラスト(の予定)となっているこのお話で急展開になりました。
正直結構ベタな設定かとも思いますが、やりたかったんだもん(・3・)
僕の悪ふざけで弓に射られそうになったり急に居なくなったりさせられるエーシェはどんな気持ちなのでしょうか?考えたくもありません。きっと火弾が飛んできます。火槍かもしれません。
まだまだ続く王都編暖かく見守っていただければ幸いです。
【次回予告】
ヒスイ「エーシェ居なくなっちゃったよ!」
エル「最近次回予告にも出なかったのはフラグなのか?」
作者「いや、意図していたわけでは…」
エル「ちなみに次回からも?」
作者「本編にもここにも出てこない予定です」
ヒスイ「いつもここってノリだけで書いてるのに?」
作者「割と本編もそうだよ?」
2人「「うわぁ〜…」」
作者「じ、次回!【王都編⑪〜点と点〜】お楽しみに」
2人「「うわぁ〜…逃げたぁ…」」




