初依頼④~やはり筋肉が足りないのか?~
一角熊を討伐したかと思ったらエーシェに向けて弓を構え始めるエルドナス。
チーム結成の翌日にチーム解消の危機が訪れる?
初依頼編最終章開幕です!
どさっという音とともにエーシェが膝から崩れる。
「なにも…ない?」
それもそうだ。僕が狙ったのはエーシェではない。エーシェの後ろに居たやつだ。
「エーシェ。大丈夫だった?」
「大丈夫だけど大丈夫じゃないわよ」
「いや、だってさ…エーシェが気が付くと暴れだすんじゃないかと思って」
エーシェの後ろには一角熊が一体倒れていた。
「だいたい何も言わずに弓を構えるのはどうかと思うんだけど?」
(2分前)
1匹目の一角熊を仕留めてエーシェの後ろを向いた時にエーシェの後ろにいる存在に気が付いた。ゆっくりと近づいてくる大きな影があった。
エーシェはその存在に気が付く様子は無い。勝って兜の緒を閉めよとはよく言ったもので何かを達成した余韻に浸っているときが一番といっていいほど油断をしているものだ。最初の依頼の達成だし喜ぶのもいいのだが、周りに警戒はしてほしいものだな。この状態でエーシェが気が付いたとして半径1メートル以内に体長数メートルの熊がいたらさすがに取り乱すだろう。
ゆっくりと弓を構えて熊に狙いを済ませた。弓を構えたらエーシェが何かを言い始めたけど、エーシェに当てないように射らなくていけないから集中したいからちょっと黙っててほしいですね。
少しだけエーシェよりも左側に焦点を合わせて射る。そこから2回右に曲げることで一角熊の角の下。眉間のあたりに矢を命中させた。
そんなわけで2匹目の討伐もできたんですけど…黙って弓を引いたのは良くなかったんですかね。
「そういえば、弓を射るときにエーシェ何か言ってた?」
「なんでもないわよ。何回か魔法を当てそうになって怒ったのかなって思っただけよ」
「ああ、そのこと。別に気にしてないよ」
「そ、よかったわ。でも、せめて今後は動かないでとかは言ってほしいものね」
「今後は気を付けるよ。何はともあれ初依頼達成だね!」
「そうね」
僕が右手を上げるとエーシェはハイタッチしてくれた。ハイタッチの文化はあるのか!?
「そうだ。今後もしエーシェが危ない時はそれがどんな相手だろうと僕はエーシェのことを守るからね」
「な、何よ急に?まぁいいわ。よろしくね」
二人の間に何ともいえない空気が流れる…。うーんこういう空気って耐えられないんだよね僕。
「ところで…2体の一角熊がここにいますね」
「そうね」
「熊って…食べれるよね?」
「とは、聞いたことがあるわね」
「レッツクッキング!」
「え?なんて?」
「ちょっと食べよっか」
「ええ…」
とりあえず部位とかよくわかんないんであばら骨のあたりをちょっとえぐってみる。おっとグロいからエーシェさんには見せられないですね。生きるとは食べること。
「エーシェ!火をお願い!」
「はいはい。わかったわよ【火弾】」
魔法を使うと火おこしの手間が無くて楽ですねー。キャンプやるなら楽できそうでいいっすね。
肉を切り取ってテキトーに木に差して焼いてみる。火の熱で脂が少しずつ落ちていく。
いい感じですね。そろそろいただきましょうか…。
「エル君。味付けとかしないの?」
「そのままいこうかなと…エーシェ何か持ってるの?」
「そんな予定はなかったから何もないわよ」
「だよねー。焼けたみたいだから食べるけど、エーシェいる?」
「脂っこいの嫌いなのよね。ほら、さっさと食べて。満足したら帰るわよ」
「はいよー」
火から外して脂の滴る肉をほおばる。こういうのってジビエ料理とかって言ったりするんだっけか?そういうのは食べるのは初めてなんだけど何に近いのかな…歯ごたえがあってそんなにこってりしていなくて…牛肉とも違うし羊肉とも違うけど…ああ、これ焼肉のたれ欲しい!エ○ラさんこの世界に工場作りませんか?ほんとにあんなにおいしいものがないなんて…。
美味しいお肉なんだけど、さすがに味がないと厳しいなぁ。
「うーん。料理してもらった方が絶対においしいだろうから、この熊持って帰るわ」
「あ、そう。ん?」
あら、そんなにきれいな二度見しなくてもいいじゃないっすかエーシェさん。びっくりするくらいツッコミに向いてますよその感じ。
「だから、持って帰る。熊料理食べたいからね」
「そうは言うけど、どうやって持って帰るのよ」
「頑張る…」
【筋力強化】×3発動!
「思いっきりやれば…持てるんじゃないかなって!」
熊の腕を持って思いっきり引っ張り上げ何とかしたに滑り込むように下に入り無理やり熊を背負う。
「無理やりじゃない。そんなんで村までもつの?」
「がん…ばる…」
一歩一歩がズシンズシンという音がするくらいには重たい…こいつ何キロあるんだろう…。
「エル君大丈夫?村まで耐えられる?」
「ぎりぎりだけど…諦め…ない」
「どこからその執念が来るのかしら…」
だって食べたいじゃないかおいしく調理された熊肉!さっき焼いただけでも結構おいしかったから調理されたお肉は絶対においしいはず!ちょっとがんばれば手に入るおいしいお肉を誰が諦められるだろうか?(いや、いるはずがない)
(30分後)
「やっと…ついた…」
熊を村の近くの草原に置いて休憩する。ここまで休憩なしで熊を運んできたから足が限界だ…筋力強化を使っていたとしても限界の重さだった。もうやりたくない…。
「私冒険者組合にどうすればいいか聞いてくるからちょっと休憩してたら?」
「さすがにそうする~」
村のほうに歩いて行くエーシェを見送って一息つく。
矢を射る前にエーシェが言っていたこと実は全部聞こえていた。内容が内容なだけに照れ隠しでなんて言ったのなんて聞いてしまったけど、さすがに無言で構えるのは良くなかったな…。
それにしても…。
「みんな私を…やっと仲間ができたと思ったのに…」
僕らは数日前にたまたま出会って、たまたま同じタイミングで冒険者の試験を受けたことでチームを組むことになっただけの仲だから僕はエーシェのこれまでを全く知らない。知っていることといえば彼女が王都の出身であることと魔法が使えることくらいだ。それ以上はそういえば聞いていなかった。
仕事をするうえでどの程度まで仲良くなるのがちょうどいいのか、そもそも男友達のようにはいかないからどんな感じが正解なのかがよくわからない。
昔のことを聞くべきなのか聞かないべきなのか…え、これってこんなに悩むことなんだっけ?一緒に仕事するだけなのにいろいろと知ってても意味はないだろうから「きもい」って言われて僕の心が砕けるよりも聞かないでおくのが正解な気がしてきた。「え、なんで?」とかでも僕の心は傷つきそうだから自己防衛のためにもそれが正解だろう…。そうだそうしよう。
もし、何か聞くべき時が来たときは僕のことを話せばいい…とは思ったけれども、これと言って話すようなイベントがあったような人生ではなかったことを思い出してさみしくなる。僕の人生のこれまでの記録…父さんとの修行の記憶と本を読んで練習した魔法の記憶。
「おーい。エル君?どうしたの?」
「ちょっと考え事」
「何考えてたの?」
「エーシェのことと、僕の人生のこと」
「何よ急に」
「いや、嘘は言ってないんだけどな…。そんで、この熊どうすればいいの?」
「エドガーさんからの伝言ね。『持ってこい』だそうよ」
「うへぇ…まじか」
もう限界に近いんだけど…実は限界を迎えてるんなんてこともあるんじゃないだろうか?
「あと、持ってこなかったら換金しないとも言ってた」
「オッケーわかった最後の力を振り絞るよ」
解除していた強化魔法を再度かけて熊を持ち上げる。
「エル君…大丈夫?」
「もうよくわかんないけど、頑張る…」
一歩一歩がまたもずんずんと音をさせながら歩いて行く。森の中だと別に気にならなかったけど、村の中では熊背負ってるのめちゃくちゃ目立つな…。いろんなところから視線を感じる。
「エーシェ…これ…もしかしなくても…目立ってる?」
「考えてもみなさいよ。村の中で熊を担いで歩いている人間が居たらそれは目立つでしょ」
「だよね…」
視線を無視しながら村の奥にある冒険者組合のところまで到着した。
とは言っても、この小さい扉からこの熊どうやって運び込めばいいんだろうか?
「おーい。こっちだ」
冒険者組合のいつもの入り口ではなく、建物の奥から出てきた。え、何それ。
「こっちから運び込めるからこっち持ってこい」
呼ばれた方までよろよろと歩いて行くと、大きな扉があった。え、初めて見たこんな扉。ちゃんとした扉あったんだこの施設。
「ここは解体場っていってな名前の通りの場所だ」
あ、説明ありがとうございまーす。
真ん中にある大きな台の上にクマを乗せると、限界だったのか膝が笑いはじめた。
「はっはっは!依頼はなんとかなるとは思っていたがまさか本体を持ってくるとは思ってもいなかったぞ」
そりゃそうでしょうよ。肉が美味しいことに気が付かなかったら持ってこようなんて思ってもなかったんだから。
「向こうでもう一体倒したのをちょっと食べたら美味しかったので」
「お?そーかそーか!じゃあ、こいつを解体したら持っていきたいところは持っていけばいい。それ以外は組合の方で素材として買い取るからな」
そんなこと言いつつ手が全く止まる様子のないエドガーさん。解体作業に慣れているようだ。さっきまで熊だったものが毛皮と骨と肉に変わっていく。
「んで、どこ持ってくんだ?」
「1番美味しいところと油の少ないところで。油が少ないのはエーシェのオーダーです」
「よしわかった。じゃ、もう少し待っててくれ」
待ってたくて待ってるわけではなく今のところ立ち上がれそうにないからこうしてるんですけどね……。
「エル君そろそろ終わった?」
「エドガーさん曰くもう少しらしいよ。ところでエーシェさんや。回復魔法って極度の筋肉疲労にも効くのかな?」
「え?知らないけど?」
「エドガーさん知ってますか?」
「そんなこと考えたこともなかったな!一旦かけてもらえばいいと思うぞ!何事もモノは試しだ」
「ということで、よろしくお願いします」
「はいはい。【回復】」
回復魔法には適正のなかった僕だが、使えたらいいなーと思ってめちゃくちゃ勉強したけどあんまりよく分かってないんですよねー。たぶん患部の時間経過を速めるか代謝を向上させるのどちらかであるからおそらく過度の筋肉疲労にも効くと思うんだよね。
そして、おそらく後者の可能性が高いので使うと筋力が向上している可能性もある。これ、体をめちゃくちゃ追い込んでから回復魔法かければ永久に体を鍛えられるんじゃないかな?疲労回復はしてないから永久にってのは無理があるだろうけど…。
「終わったわよ。どうかしら」
「お!立てるよ!よかったー。ありがとねエーシェ」
「ふむ。それ便利だな」
あ、エドガーさんがたぶん同じことを思いついてる。あの人もう筋肉いらないでしょ。
「それはそうと、終わったぞ!さっき言われてた部位はここに置いておく。依頼の達成分と熊の素材の買取料は半分ずつお前らの口座に振り込んどくから今度確認しておいてくれ」
「了解です!ちなみにお肉持っていって料理してくれるお店とかってありますか?」
「それならこの前みんなで行った店がやってくれると思うぞ」
「じゃ、エーシェさん晩御飯行きますかー」
「そうしましょ」
お願いしてあった肉を貰って冒険者組合を後にする。
2人で前に行ったお店を目指して歩いていく。
「ひとまず初依頼は達成だね」
「今日はスライムばっかりで疲れたから早く帰って休みたいわね」
「確かに!何回エーシェに打たれるかと思ったか……」
「エル君に向けては売ってないわよ。射線上にいるのが悪いの」
「はいはい」
お店に着くといつものようにターシャちゃんがお出迎えしてくれて席に案内してくれた。
お肉を渡して「いい感じで!」とテキトーな注文をして料理を待つことに。
数分後に料理と飲み物が到着した。
「ひとまず、初依頼お疲れ様でしたー!」
「「かんぱーい」」
2人でグラスを鳴らして料理を楽しむことにした。
僕のほうはステーキのように肉を焼いてソースをかけたもので、エーシェのは油が嫌だからという理由で蒸し料理風になっていた。いつの間にそんな注文してたの!?
美味しい料理に満足してお店を後にする。ちなみにエーシェは今回もお酒を飲んでいるので途中からだる絡みモードになってましたが気にしない気にしない。多分明日にはそんなこと忘れてると思うから。何か僕が不利になった時に前はあんなこと言ってたのにと言うためだけに覚えておくことにする。
半強制的に移動させられた一緒の宿屋に帰りヘロヘロのエーシェを部屋に送り届けてから自分の部屋に入る。
お父さんお母さん。
僕はこの村に来て仕事をしてお金を稼ぐことが出来ました。新しい友達も出来ました。僕は元気にやっていますよ。家を出てからまだ数日ですが、お土産話は持って帰ることが出来そうです。帰れる時を楽しみにしてます。
「初依頼④」最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回で初依頼編が終了になります。エーシェが無事で良かったですほんとに……。
次からまた新しいお話になります。次は何するんでしょうか?ここまで時間経過がかなりゆっくりでしたがここから少しづつ早くなっていく予定です。
【嘘次回予告】
エルドナスが来てから1ヶ月がたった静寂に包まれるエリーゼの村。そこでは謎の事件が連続していた。倒れていくエルドナスの知り合い達。裏切りが裏切りを呼ぶ惨状にエルドナスがとる行動とは!
次回!「三文ミステリー①」お楽しみに!
※全て嘘です




