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せっかくなので揃えてみた

「それで、連れてきてしまったんですか、地竜を」

「うん、連れて来ちゃった」


 えへっと笑うリアンに、リュシエンは引き攣ったように苦笑をする。


 旧グラングレス王国、首都デンダインから離れたこの場所は、サントヴィレだった。

 今現在、リアンたちの拠点にしている宿屋の一室に、リアンは地竜バルムートと共に帰ってきたのだった。


「お一人で何処かに行かれたなと思っていましたが……まさか、千年と行方知れずの地竜を見つけて連れてくるだなんて……」


 リュシエンは信じられない目で、地竜だという白髪褐色の少年のほうを見た。


「こやつは愛いやつだな……ほれほれ」

「がうがう!」

「この子はミレット様と言うのですよ。バルムート様」


 バルムートは小さな子虎のミレットと戯れ合いながら、ファリンと話をしていた。


「どうするんですか、リアン様……子猫を拾ってきたみたいに、地竜を拾ってきて!」

「子猫って言うか、虎なら確かに先に拾ったけど」

「言葉のあやでした! とにかく、どうするんですかっ!」

「いや、どうするって言われても。とりあえず、今は世間には地竜の存在は伏せておくしかなくない?」

「確かに、今表にバルムート様の存在を出してしまうと騒ぎになってしまうでしょう……しかも今は地竜祭が近い時期ですし……」


 地竜祭とは、この地域に伝わる伝統の祭だ。

 その名の通り、地竜に対して日々の感謝を伝える祭り事で、毎年この時期になると国を挙げて開かれる。

 あのグラングレス王国とバルミア公国が戦時中であっても、この時期だけは決まって休戦していたほどだ。

 バルミア公国の領地であるこのサントヴィレの街も、今はどこもかしこも祭りの飾りで彩られていた。


「今の地竜祭は形骸化しており、昔のように熱心に地竜に対して感謝を捧げているわけではありませんが……」

「この時期に地竜が千年ぶりに姿を見せるとなると、やっぱり色々と厄介だよね……」

「ええ、そうでしょう……」


 リュシエンとリアンは困ったようにお互いの顔を見合わせる。


「心配せんでも、我は表に出るつもりはないぞ」

「わっ……聞こえてたの!?」

「お前さんの耳が良いように、我も耳が良いからな」


 リアンは水を通して色々な声など聞くことができる。

 バルムートも同じように地を通して声を拾っているのだろう。


「先程言ったように、我は騒がしいのは好かないからな」

「……でも、君はバルミア公国に行きたいんだよね」

「ああ、守護竜としてロアの末裔たちの様子は見に行かねばならんからな」


 バルムートは膝に乗るミレットを撫でながら答えた。


「お前さんが案内をしてくれるのだろう?」

「まぁ、確かに言ったけど」


 千年ぶりに外を出歩くバルムートは、世間のことを知らない。

 リアンもこの世界に生まれて間もないが、バルムートよりは今の世界について知っているので、案内を買って出たのだ。

 ……目覚めさせた手前、バルムートのことを放っておくわけにはいかないから、というのもあるが。


「……改めて言うけど、公国では絶対に正体を明かさないでね?」

「うむうむ。人間に化けたままでいれば良いのだろう? 大丈夫だ」

「地竜の力も使ったりしたらダメだからね?」

「……それもダメなのか?」

「ダメに決まってるよ……」


 リアンは頭を抱えた。本当に大丈夫だろうか?


「これ以上の厄介ごとはないですよね、リアン様?」

「地竜以外に? そんなのあるわけ……あっ」

「あってなんですか!? これ以上何があるんですか!?」


 リュシエンに問い詰められながら、リアンは思わず顔を逸らす。


「いやー、ほら、地竜祭って祭りじゃん? せっかくだし祭りを楽しもうと思ったんだよね? ファリンと一緒に――」

「それ私は、聞いておりませんけど。まさかまた抜け駆けを!?」


 ……リュシエンの圧が強くなる。


「いや、ちゃんと今回はリュシエンにも声を掛けるつもりだったって! いや問題はそこじゃないんだけど」

「私にとっては大問題ですが?」

「ああもう、とにかく! 君にも声を掛けるつもりだったから、もう一人……いやもう一竜にも声を掛けたんだよ!」

「もう一竜ってまさか……」


 その時だ。外が騒がしくなった。


「そのまさかだよ」


 この宿屋の一室はベランダ付きの一等室だ。

 リアンはベランダから外に出ると、そこには想像通りの竜がいた。


「リ〜ア〜ン! 誘いに応じて妾が来てやったのじゃ!」


 ベランダに向かってうっきうきで飛んでくる紅の火竜――ヒノカがそこに居たのだった。


「ヒノカ様、お久しぶりでございます!」

「ファリン、久しゅうのう〜! 元気にしておったか〜?」


 ヒノカは人の姿になり、ベランダに降り立つと、出迎えたファリンの元に嬉しそうに駆け寄った。


「あの子はヘルフリート……ではないな?」

「ほら、さっき説明した二代目の火竜、ヒノカだよ」

「ああ、あの子が……」


 バルムートは窓際から覗き込むように、ベランダにいるヒノカを見ていた。


「なんでヒノカ様をお誘いしたのですか……!」

「だって約束したから……次に遊ぶ時はちゃんと誘うってぇ!」


 前回ヒノカとした約束を、ちゃんとリアンは覚えていた。

 覚えていた結果、リュシエンの悩みの種がまた一つ増えたのだった。


 なにせここには、水竜はもちろん、地竜、火竜と揃ってしまったからだ。


「もういっそ、こうなったらあの竜も連れてくる……?」

「……え、まさか、あの方も連れて来るんですか!?」


 あと一竜で四竜が揃う。もうここまで来たら綺麗に揃っている四竜が見たくなってきた。


「しかし、あなたに探し出せますか……あの方を」

「リュシエン、最近エスパーダ船団に捕まっていた海賊たちが謎の大脱走をしたって話題になっていたんだけど知ってる?」

「…………あーもう、なにやってるんですか、あの方は!!」


 確かにリアンにはあの神出鬼没の存在を捉えることはできない。だが、周りの足跡から辿っていけばいい。


 シーサーペント事件に関わっていた溟海教団と、それに加担していた偽物のアルバーノ海賊団はエスパーダ船団に捕まっていた。

 その偽物の海賊たちが、厳重な警備があったにも関わらず、牢屋から脱走したと話題になっていた。


「というわけで、ちょっと行ってくるね!」

「……本当に、本当に連れて来るんですか!? そもそも連れて来る意味あるんですか!?」

「意味はあんまりないかも知れないけど……リュシエン、君は会いたくないの?」

「……ぐっ」


 ……会いたくないのかと言われると、リュシエンは否定出来なかった。




「――で、それでオレがここに連れて来られたのか?」


 数刻後。ベランダには新たにもう一竜増えていた。

 草臥れたコートを着た海賊のおじさん。その正体は風竜であり、今は借りた名を名乗るアルバーノが。


「せっかくのいい機会かと思って?」

「だからって……前足で掴んで逆さまのまま宙ぶらりんで連れて来ることはないだろ!!」


 リアンは海上で見つけた海賊船の甲板から、獲物を狙う鷹よろしく、アルバーノを掴んで持ってきたのだった。

 そんなわけで、アルバーノは逆さまの宙吊りで連れて来られたので、ベランダに倒れ込んでいた。


「ちょっと急いでいて。まぁ、おじさんも私を同じように誘拐したんだから、おあいこだよ、おあいこ!」

「ぷぷぷ、これくらいで根を上げるとは、だらしないのじゃ〜」

「……このクソガキどもが」


 今のアルバーノはまるで親戚の子供に揶揄われているおじさんのようだった。


「ほう、お前さん。姿は違うが我には分かるぞ、久しいなジ――」

「あっぶねぇ! テメェ今、オレの名前を言いやがったな!」


 バルムートが言いかけた風竜の名前は、風によって消された。しばらく口を動かすが、声が出ないバルムートの姿が続いた。


「お前さん、まだあんなことやっておったのか……」

「ああ、今じゃあんた以外に一人が名前を知ってるだけだ。だから頼むから無闇にオレの名前を言わないでくれ……」

「分かった。そういうことならば、そうしよう」

「助かる……。今はアルバーノって名前を借りてる。そう呼んでくれ」

「うむ、アルバーノだな」


 バルムートは相変わらずゆっくり話しながら、頷いた。


「だが、今のでよく分かったよ。……あんたは本当にバルムートなんだな……生きていたとは」

「竜は死なぬだろう? いや、今はそうではないんだったか……」


 アルバーノは立ち上がり、バルムートの方を見た。……のだが、すぐに気まずそうに目を逸らした。バルムートのことを死んでいたと思っていたことが後ろめたいのだろう。


「はい、積もる話もあるだろうから、立ち話もなんだし、お茶を飲みながらしようよ」


 リアンが周りにそう声をかけて、部屋に入るように促した。


「……というわけでリュシエンよろしく!」

「何がよろしくですか……!」

「まぁまぁ、お兄様。わたしも手伝いますから」

「あなただけが私の癒しですよ、ファリン……」


 四大元竜全員にお茶を出すなど、思いもしなかったリュシエンだった。


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