うごめく闇
『――ああ、恨めしい』
真っ暗に染まった空間の中で、それは怨嗟の炎を燻らせていた。
『恨めしい……恨めしい……なぜ、私がここにいるというのだ……』
輝かしい栄華を掴むはずだった。
人々を従え、権力者として君臨するはずだった。
なのに、何故、こんな闇の中にずっと閉じ込められているのか。
『……わけ……せん。陛下』
その時、闇の向こう側から声が聞こえてきた。
声を聞くなど久しい。何百年ぶりだろうか?
遠くから聞こえてきたその声はどんどんと近付きつつあるようで、何を言っているのか分かるようになってきた。
『水に沈んでいた影響で、幾つかの物から水が溢れ出しまして……床が濡れております。拭いたのですが間に合わず……』
『よい、気にするな』
畏まった男の声に、凛とした女の声が返事を返した。
『グラングレスの宝物庫から回収したものはこれですべてとなります。先程も説明した通り、宝物庫自体が水に浸かって沈んでいたので、状態が無事な品は少なかったです』
……グラングレス。その名を聞いた瞬間、闇の中にいた者は震えた。……懐かしい響きであり、忌々しい名だ。
『……ロアの叙事詩は見つかったかしら?』
『魔術書として遺されていました。魔術のおかげで状態は良いため、今解読しております』
『叙事詩が無事ならあとはいいわ。……地竜祭までには間に合う?』
『間に合わせます』
『地竜祭の為にも、必ず間に合わせなさい』
『はっ!』
男と女のやり取りを、闇の中でそれは聞いていた。
地竜……ああ、忌々しい。何が守護竜だ、あの地竜のせいでこうなったのだ。
『恨めしい……ああ、恨めしい……』
『……? 今何か、聞こえたかしら?』
女の声が近付いてくる。
確かこの女は陛下と呼ばれていた。
陛下とは笑わせる。その座にあるべきは己のはずだった……!
突如、闇に光が差した。
己を縛っていた枷が同時に外れる。
やっと自由になれた。……ならば、すべきことは一つだ。
『……グラングレスに呪いあれ、地竜の子に災いあれ!』
――それは渦巻く怨嗟と共に、外に飛び出した。
自身を裏切ったかの者たちに復讐するために。