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海でバカンス

 シーサーペントが討伐されたことで、ララハ諸島には平和が戻った。

 欠航していた定期船や商船などが再び海を行き交うようになり、活気が戻っていく。

 いずれ、この島々や海を目当てにした観光客たちもやってくるだろう。


「だからこの南の島を楽しむなら、人が少ない今がちょうどいい」


 照りつける太陽に、輝く白い砂浜。

 半透明で美しい海。

 そんな波打ち際の砂浜で、リアンは水着姿でサマーベッドに座っていた。


「いやぁ、やっぱり海に来たからには、海を楽しまないとね!」


 パラソルの陰の下、ココナッツミルクを飲みながら、波の音を聞く。

 それだけで、心が癒やされていく。


「……こうして海でのんびり過ごすのも、久しぶりです」


 その隣で、リアンと同じように、サマーベッドに座るリュシエンがいた。

 彼もまた水着姿をしているが、エルフというのは日に焼けやすいのか、上着を一枚羽織っている。


「リュシエンお兄様〜! リアンお姉様〜!」


 海にいたファリンがそんな二人に向かって手を振った。

 輝く海を背に手を振る彼女は、眩しかった。

 薄桃色のワンピースの水着姿がとても似合っていて可愛らしい。


「きゃっ! もうミレット様ったら!」

「ガウガウ!」


 ミレットは海が楽しいのか、大きな白虎となってはしゃいでいた。

 バシャバシャと跳ねた波がファリンにかかったので、お返しとばかりにファリンは水をミレットにかける。


「ああ……ファリンが楽しそうで何よりです。……新しい水着も実によく似合っている……」

「わざわざ新調するなんて……リュシエンらしいよ」


 妹の姿に感動しているリュシエンに、ちょっと呆れた目線を送るリアン。

 そんなリアンの水着も新しいものだ。

 淡い水色をした、ヒラヒラとした波のようなパレオが合わさった水着。これもまた可愛いのだが、大人らしさもあり、リアンは気に入っている。


「で、ロアード。君も相変わらずだね?」

「何がだ?」


 リアンたちの真横で、ロアードは腕立て伏せをしていた。

 彼も水着は着ているのだが、やっていることが普段と変わらない。


「準備運動にしては本格的すぎるよ。ちゃんと息抜きしなきゃ」

「……ここのところ、きちんと鍛錬が出来なかったんだ。しっかりしなければ――」

「あー! ロアード様ダメですよ!」


 海にいたファリンがロアードに気が付いて、走ってきた。


「右腕は治療したばかりでしょう! まだ無理をさせてはいけません!」

「いや、これはリハビリも兼ねて……」

「ダ・メ・で・す・よ!」


 ファリンはロアードの腕を取って立ち上がらせると、近くの空いていたサマーベッドに押し込むように座らせる。


「お兄様!」

「はい」


 そこにリュシエンがスッと現れ、ロアードの手に、ココナッツミルクを握らせた。


「ファリンの言うことは、きちんと聞かないといけませんよ、ロアード様?」


 リュシエンの笑顔の圧が重い。

 思わずロアードはリアンを見た。


「あははは! いいじゃん! そのままバカンスを楽しもうよ」

「はぁ……分かった」


 残念ながら、ロアードに味方はいなかった。

 ロアードは少し諦めたようにため息をつくと、ココナッツミルクを飲んだ。


「あ、それはファリン特製の栄養ジュースですよ」

「ゲホッ……先に言え、リュシエン!」


 ……どうやら中身は違ったようだ。


「にしても、ずっと気になっていたんだが、なんで俺の水着まで用意しているんだ、リュシエン」


 そう、リュシエンはロアードの水着の分までしっかりと用意していた。あまりにも用意が良すぎる。


「あなたの分も用意しないと、ファリンに仲間外れはいけないと怒られてしまいますから」

「は?」

「何かおかしいでしょうか?」


 リュシエンは当然と言わんばかりの真顔で言い切った。

 ロアードも仲間なのだから水着を用意するのは当然だ。そう当然なのだ、むしろ用意しないのは非常識だ。


「……俺がおかしいのか?」

「いや、君は何もおかしくないよ……」


 思わずリアンはフォローを入れておいた。

 ……おかしいのはこのシスコンだ。


「さて、そろそろ私も海でひと泳ぎしようかな……ん?」


 リアンはパラソルの陰から出たはずだった。

 なのに陰が差したまま。

 思わずリアンは空を見上げた。


「リ〜ア〜ン! 見つけたのじゃ!」

「え、あれってヒノカ!?」


 太陽を背にして、火竜が砂浜に突っ込んできたのだった……。


 ◇◇◇


「なぜ! 妾を呼ばんのじゃ〜!」


 火竜が突っ込んできたせいで、ちょっと穴がビーチに空いた。

 穴を開けた原因……ヒノカは今は人間の姿となってリアンに怒っていた。


「妾は言ったではないか! お主が二代目と名乗る時に手伝うと! そんなに妾は頼りないというのか!」

「今回、名乗る予定とか全く考えてなくて……ただちょっとバカンスしに来ただけで……」

「だったら、尚更妾を呼ばんか〜! そういうのは友達を呼ぶものではないのか〜!」


 ぐわんぐわんとリアンの肩を掴みながら揺らすヒノカは若干涙目だった。

 ……誘われなかったことがよっぽど寂しかったらしい。


「ごめんごめん。てっきり、君はヒカグラから出ないものかと思ってて……」

「ふん、確かにあそこは火竜の縄張りじゃ。じゃが、だからと言って出れないわけではないわい!」


 現に今、こうしてヒノカはララハ諸島までやってきたのだ。


「にしても、耳が早いね」

「ちょうど、お主らに会いにバルミアに遊びに行ったんじゃよ。妾の存在を広めるついでにな。そしたらお主らはララハ諸島に行ったとバルミアの主君が言うたのじゃ」

「バルミアまで行ってたんだ……」


 ということはバルミア公国ではちょっとした騒ぎになっていただろう。

 いきなり火竜が現れたのだから。

 火竜が現れた理由はリアンにあるが、きっとその時はまだ二代目水竜として名乗り出る前だろう。

 唯一事情を知るエルゼリーナが、対応したようだ。


「そしたら道中でお主の名を聞いたのじゃ!」


 ずいっとリアンに顔を近づけるヒノカ。


「人間たちはお主の存在を問題なく受け入れておった……。……悪くはない、とても良いことじゃ。じゃが、妾も、妾もできれば手伝いたかったのじゃ」


「……大丈夫だよ。君はちゃんと手伝えてるから、現在進行形で」


 涙目のヒノカが不思議そうに首を傾げた。

 ……周囲を見れば一目瞭然だった。


「あれが二代目の火竜……ヒノカか?」

「なんで火竜がここに?」

「一緒に居るのって二代目の水竜じゃなかったか? 確かリアンって名前の……」

「ロアードもいるから間違いない」

「……わざわざ火竜まで来るとは……やっぱり本物なんだな」


 ローロ島の島民たちである猫の獣人、ネネ族たちがこちらを遠巻きに眺めながら、そんな会話をしていた。

 火竜が飛んできたことで、野次馬が集まってきていたのだ。


「……妾、役に立ったのか?」

「うん、そうだよ。ありがとう、ヒノカ」

「ふ、ふふ、妾にかかれば、これくらい当然じゃ!」


 さっきまで泣いていたのが嘘のように、ヒノカは嬉しそうに高笑いをし始めた。


「……なんだ? 今日は一段と賑やかだな?」

「うわっ、アルバーノおじさん!?」


 急に後ろから話しかけられてリアンは驚いてしまった。

 振り返れば、あの神出鬼没の男がいた。


「……びっくりしたぁ……本当に気配ないんだから」

「な、なんじゃこいつ! いきなり現れよったぞ!?」


 リアンの後ろからヒノカがアルバーノを見上げた。

 ヒノカは若干警戒していた。

 それもそうだろう、全く気配を悟られずに、至近距離まで来たのだから。


「リアン、此奴何者じゃ!」

「あー、この人は……私を攫った誘拐犯の海賊?」

「だはははっ! リアンちゃん、ひどいな! まぁ間違ってねぇけどな。……なんなら後ろの子も可愛いじゃねぇか、一緒に攫っちまいたくなる」


 全く悪びれることもなく、アルバーノはそんなことを言った。


「リアンを……攫ったじゃと?」

「え、あれ? 後ろのお嬢ちゃんどうした?」


 ……周囲の火の元素が強まっていく。

 アルバーノの表情が徐々に引きつっていく。


「……君とは初めましてだったかな? 彼女はヒノカだよ。あの二代目の火竜」

「嘘だろ? 前に見た時と雰囲気が違うんだが?」


 どうやら、アルバーノはヒノカを見たことがあるらしい。

 だが、火竜に目覚めてからのヒノカを知らなかったようだ。


「誘拐犯など聞き捨てならぬ! お主、そこに直るが良い!」

「待て、お嬢ちゃん……! オレの話を聞け! ああ、クソッ!」


 身の危険を感じて、アルバーノは踵を鳴らす。

 古代遺物(アーティファクト)のジェット・ブーツを起動させ、全力で砂浜をかけながら、アルバーノが逃げていく。

 それを火竜の姿に戻ったヒノカが追いかけていく。


「本当になんなんだ、アイツは……俺も気付かなかったぞ」

「ああ、あの人ね。風竜だよ」

「ゴボッ……は、はぁ!?」

「まぁ!」


 ロアードは口直しに飲んでいた水で咽せ、ファリンは口に手を当てて驚いていた。


「おい、何サラッとバラしていやがる!!」

「いいじゃん、名前が知れ渡る訳じゃないからね」


 火竜に追いかけられる風竜の姿を見ながら、水竜は……リアンはまたサマーベッドに座ってココナッツミルクを飲み始めた。

 一応、ロアードたちは知ったが、野次馬のほうまではリアンの声は届いていないため、バレてはいない。


「何やっているんですか、リアン様……」

「いやぁ……やっぱりさ。アルバーノにはちょっとお灸をすえとこうって思って」


 苦笑いをしているリュシエンにリアンはそう返す。

 少なくとも自分を誘拐したくらいの借りは返しておこうと思ったまでのことだ。


「……どうするんですか、この状況」

「まぁ、あの二竜は落ち着くまで待とうじゃないか。それまでロアードたちに説明よろしく」

「え、私が?」

「だって君の親友の話でしょ?」


 リュシエンがちらりと横を見れば、どういうことかと訴えるロアードとファリンの目線とぶつかった。


「ということでよろしくね〜」

「がーう」


 そんな混沌とした状況を尻目に、リアンはサマーベッドに背を預ける。

 いつの間にか子虎の姿となって膝の上に来ていたミレットを撫でながら……。


 結局落ち着いたのは、アルバーノの古代遺物(アーティファクト)の魔力が切れたころだった。


「ぜぇ……はぁ……マジで、死ぬかと思った……」

「大丈夫ですか?」


 息切れしながら砂浜に転がるアルバーノに、リュシエンは水を差し出していた。


「此奴が風竜じゃと……?」


 そんなアルバーノの姿に、火竜の姿から人の姿に戻ったヒノカが信じ難い目線を送っていた。

 ちなみに彼女も水着に着替えていた。和柄を用いた黒と赤の水着だ。

 例の如くリュシエンが用意したものだ。

 ……なぜ、そんなに用意がいいのか。それはもちろんファリンに関係するからだ。

 ヒノカはファリンの友達だ。

 ならば、友達の分を用意するのは常識だ。

 そう、常識なのだ。誰がなんと言おうと。


「うん、彼は風竜だよ」

「こんな奴が?」

「こんな奴とは、失礼だな。ヘルフリートの娘」


 やっと落ち着いたらしいアルバーノが、起き上がる。


「……前に見かけた時は人間みたいだったのに、今はヘルフリートの奴に似てるじゃねぇか」


 父親に似ていると言われ、少し嬉しそうな表情を見せたヒノカだったが、すぐにその表情を消して問いかける。


「お主、父上を知っておるのか……」

「当たり前だろ。……つっても、他竜とはそこまで会ったことはねぇよ。ただ顔は知ってるくらいだ」

「確かに妾はお主の話など父上から一度も聞いたことがないのじゃ……」

「あんたの父親はオレらの中でもっとも他竜に興味なかったからな。……人間もだったが」


 ……たった一人の例外を除けば、ヘルフリートは竜も人にも興味を示さなかった。


「君はヒノカを知ってたみたいだけど、それは?」

「ララハを離れて放浪してた時に、少しだけヒカグラに寄ったことがあるんだ。ほら、オレは名乗らなきゃ認識されないから、竜宮山にも誰にも気付かれずに入り込めたんだよ」

「なるほどね」

「オレがそこに寄ったのはヘルフリートの死を確認するためだ。その時にチラッとお嬢ちゃんを……ヒノカを見たんだ」

「……なぜ声をかけなかったのじゃ」

「その時は名乗るための名前を持っていなかったからな」


 すぐに別の名前を名乗ったからと言ってアルバーノが認識できるようになるわけではない。

 しかも、年々力を失い、存在が弱くなっている風竜だ。少し時間をかけなければ名乗る名を持てない。

 手っ取り早いのは、やはり他人の名前を名乗ることだろう。


「今はアルバーノって名前を借りて名乗ってる。改めてよろしくな、ヒノカちゃん」

「アルバーノじゃな。うむ、我が父上と同じ代の竜とはレヴァリス以外では初めて会うのじゃ。よろしく頼むぞ」


 先程までの剣呑な雰囲気は落ち着き、二竜は打ち解けた様子だった。


「それで、お前はあの風竜と親友だったんだな?」

「ええ、まぁ、はい……」

「ということはお兄様の風牙槍って……」


 リュシエンから話を聞き終わったロアードとファリンが、彼とアルバーノを見比べる。


「おう! そいつはリュシエンがエルフの村に戻る時に、オレが餞別として渡した槍だぜ」


 風牙槍……この槍の正体は宝剣クロムバルムと同じく、竜の一部が使われた武器だった。


「これをきちんと使ったことは今までありませんでしたけどね」

「その割にはきちんと使いこなせてたじゃねぇか」

「そうでもしないとあなたに殺されそうでしたので。……あの時、私を本気で殺そうとしてましたよね?」

「本気でやらなきゃ、戦いは愉しくないだろ?」

「そう言ってあなたに何度も殺されかけたのは忘れていませんよ」

「だははは!」


 悪びれもなく笑うアルバーノに、リュシエンは困ったように微笑む。

 ……けしてアルバーノの言葉を否定しないのは、彼自身もまた戦闘狂の気があるからか。


「……ま、話はこれくらいでいいかい? そろそろバカンスの続きをしないと」


 そう、今日は海でバカンスを楽しむためにやってきたのだ。

 時間は限られているのだから。

 というわけで、それからリアンたちはバカンスを楽しむことにした。


「な、ななななんじゃー!?」

「ヒノカ、火の元素の出力下げてー!!」

「魚さんが浮いてきました……」

「ガーウ!」

「あ、ちょっとミレット待って! うわー!」


 ヒノカが海に入った瞬間、周囲の海水が沸騰し始めて慌てたり、浮いてきた魚にミレットが飛び付いたり。


「いいか、この板に乗り、小船と結んだ紐を持つ。そして風の力を使って高速で小船を移動させれば……水上スキーができるんだぜ?」

「え、この槍でそれをやれって言うのですか? そんな使い方でいいんですかっ!?」

「いいじゃん、楽しそうだから!」

「リアン様は水の力で似たようなことが出来ますよね!?」


 風牙槍を使って水上スキーを楽しんだり。


「ロアードー! 左じゃ左! いややっぱ右じゃ!」

「ロアード様! 右腕は使わないように! 左腕だけでお願いしますね!」

「いや、どっちだよ……」


 ヒノカが持ってきたスイカで、目隠しをしたロアードがスイカ割りをしたり。


 とにかく海の遊びを全力で楽しんだのだった。

 気付けば太陽は沈み、あたりはすっかり暗くなっていた。


「ふふ、夜はこれを楽しもうではないか!」

「これって……花火?」

「うむ! 海で花火というものがしてみたかったのじゃ! その為に妾は再三の注意を払ってこれを持ち込んだのじゃ……!」

「ああ、よく火薬に引火しなかったなと思ったら……」


 ヒノカはさらにヒカグラ産の花火を持ち込んで来ていた。

 小型の打ち上げ花火から手持ち花火や、変わり種の花火まで沢山の種類がある。


「……ねぇ、なんかこの手持ち花火、火が付かないんだけど」

「リアン……お主の手にある花火、湿気っておるぞ……」

「あ、やべっ」


 今度はリアンが水の元素の調整であたふたしていた。

 火を付けることに関しては火竜のヒノカは例外としてリアンを除けば、全員魔術で付けられていた。実に便利である。


「おじさんはどうやって付けてるの?」

「こいつだ、"ライター"だ」


 アルバーノは手のひらサイズの銀の箱の蓋を開き、それを操作して火を付けてみせた。


「こいつも古代遺物(アーティファクト)の魔導具だ。こいつは結構見つかるから世の中には出回っているほうだな」

「へぇ〜そうだったんだ」

「まぁ、高価なのは変わらないから、使う奴はそんなにいないかもな。それに今の時代の古代遺物(アーティファクト)は魔術師が持つものになってるしな……」


 誰でも魔術を扱えるように目指した理念とは逆で、今では魔術を扱える者しか、古代遺物(アーティファクト)を持たない。

 古代遺物(アーティファクト)であるが故に、よくわからない物が多く、また昔よりも管理や調整が必要でコストが掛かるからだ。

 古代遺物(アーティファクト)を自身で調整できるような魔術師でなければ所持が難しい。


「おじさんは魔術は使えないけど、どうしてるの?」

「んなもん、金で解決してるに決まってるだろ?」


 自身で調整出来ないなら……残るは金の力で依頼して調整するのみだ。


「にしてもこの花火、なんか地味なんだが。すぐ消えるしよ……」

「それは線香花火って言うらしいよ。火種を落とさないように、動かさないように持つのが大事なんだってさ。……おじさんが落ち着きないから落ちるんだよ」

「言ったなこいつ……」

「うわっ」


 リアンの頭をぐりぐりと拳を押し付けた後、アルバーノは新しい線香花火を取り出し、ライターで火を付けた。


「そう言うからにはリアンちゃんはオレより先に落とさないよな?」

「も、もちろんだし」


 もう一本の線香花火を渡されたので、リアンもそれを手にした。


「……不思議だな。火竜が用意した花火を、水竜と一緒にやってるなんてよ」


 パチパチと爆ぜ始める線香花火を眺めながら、アルバーノがぼやいた。


「先代たちとは本当に、そんなに関わらなかったんだね」

「ああ……オレたちは必要以上に関わろうとはしなかった。自分たちの領域があるからってのもあったが。……だけど」

「だけど?」

「水竜は……レヴァリスだけは違ったな」


 線香花火は大きく弾け始めた。


「オレが今日来たのは、一つ思い出したことがあったからだ」

「……何を思い出したの?」

「地竜がいなくなった件にも、レヴァリスが絡んでいそうだったことだ」

「……え?」


 二つのうち、一つの線香花火が落ちた。


「……いなくなった地竜もレヴァリスのせいだと?」

「さてな、オレも詳しくは知らないぜ? ……だが、リアンなら何か分かるかもな。あんたは二代目の水竜なんだから」


 風竜でも行方を知らない地竜――バルムート。

 その件について、レヴァリスは関わっているという。

 だから、二代目の水竜であるリアンならば、探し出せるというのか。


「さて、線香花火の勝負はオレの勝ちだな?」

「え……あっ!」


 先に落ちていたのはリアンの線香花火だった。


「ずるいよ!」

「何もずるくないだろ?」


 だはははと笑うアルバーノの線香花火も、最後に大きく爆ぜて落ちていった。


「もう一回! もう一回!」

「なんじゃ、リアンたち楽しそうじゃの! 妾も混ぜるのじゃ!」

「わたしも! わたしも混ぜてください!」


 そこにヒノカとファリンがやってきて、一気に賑やかとなる。


「……いやぁ、ここが楽園かな。水着の可愛い女の子たちに囲まれるなんざ、最高で――」

「今、何か、仰いましたか?」

「不埒者の討伐か? 手伝うぞ、リュシエン」

「ガウガウ!」

「……悪かった! オレが悪かったよ!!」


 アルバーノが慌てて降参するように両手をあげる。

 ……その後ろには保護者もとい守護者たち。

 リュシエンが槍の切先をアルバーノに向けており、さらにロアードと大きな白虎のミレットがいた。

 さすがに一級冒険者が二人(うち一人は英雄)に、二級の魔物相手は、今のアルバーノには分が悪すぎるのであった。


 こうして現在の三竜が揃ったバカンスは、打ち上げ花火を眺めて締め括られたのだった。

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