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海底からの光

「ごめんね、クラウディア……」


 海の底に沈んでいく彼女をリアンは見送る。

 いくら話したところでクラウディアはリアンを否定し、認めることはなかった。

 認めてくれないならば、力尽くで認めさせるしかなかった。


「リアン……!」


 エスパーダ船団の一隻がリアンに近いてくる。

 その甲板にはロアードとゴゥグの姿があった。


「やぁ久しぶりだね、ロアード。君も見事にあのシーサーペントを倒したんだね」

「ああ……お前も変わらずで何よりだ」


 リアンは甲板に飛び降りる。……もちろん、水竜の姿ではなく、人の姿になってから。


「あのロアード様……二代目の水竜とは……知り合いなのですか……?」


 ゴゥグたちは人の姿になったリアンに驚きながら、そう話しかけてきた。


「……その話は後でしよう。今は拉致された人々の救出が先だ」

「……仰る通りでした!」


 ゴゥグが慌てて頷き、エスパーダ船団に指示を飛ばしていく。


 ちょうどその時だった。

 近くの海面から何が複数浮上してきた。


「リアンお姉様ー!!」

「がうがー!」

「あ、ファリン! それにミレット!」


 浮上してきたのはファリンたちを乗せたボロボロの幽霊船。

 アルバーノ海賊団のブラック・フェニックス号だった。

 それと二隻の古代遺物(アーティファクト)により、潜水性能を持った船だ。

 二隻にはスケルトンの海賊が乗り、操舵をしていた。


「拉致された人々は全員助けて、連れてきましたよ!」


 海賊たちが乗る三隻の船の甲板には、確かに獣耳が付いたネネ族や、ワワ族などが乗っていた。


「ありがとう、ファリンー!」

「いえ、これもミレット様やヘスス様たちのおかげでしたから!」

「がう!」

「へへ、照れるっすよ!」


 あの時、深海の宮廷の祭壇で、クラウディアがリアンに襲いかかった時。

 リアンはクラウディアを引き連れて、壁をぶち壊して外の深海に出た。

 クラウディアを抑えておく代わりに、ファリンたちに捕まった人々の救出を頼んでいたのだ。


「……リュシエンはどうした?」


 甲板の上に、リュシエンがいない。

 そのことにロアードは気付いた。


「船長は途中で合流したんすけど、なんか先に戻ってろって言われたっす!」

「ええ、お兄様は私たちを船まで送ってくれたのですが……」


 祭壇から人々を救出した後、ファリンたちは再びリュシエンと合流していた。

 しかし、リュシエンは宮廷に残ったという。


「リュシエンが……船長?」


 リアンはその話を聞きながら、どうしても気になってしまい、首を傾げてしまった。


「リュシエンは……元海賊だったそうだ」

「そうすっよ! あの人は伝説の海賊、アルバーノ船長っす!」

「なるほどね。本物って、そういうことか……」


 リアンは偽物のアルバーノ……あの髭面のおっさんをつい思い出した。

 ……そういえば、彼は今、何処にいるのだろうか。クラウディアの協力者として彼女を手伝っていたようだが、彼女が消えた今、どうしているのか。


「……あれ?」

「お姉様、どうしましたか?」


 リアンは、海から違和感を感じとった。

 とっさに意識を海に潜らせる。

 違和感の原因はもっと深い場所……海底だ。


「あれはなんだ……!」


 同時に、周囲の海域に変化が起きた。

 ぶくぶくと白い泡が吹き出し、そこを中心に渦が巻き起こり始めた。


「引けー! 渦に巻き込まれるなー!」


 船たちが渦から遠ざかる。

 ……浮いたままだったシーサーペントの死体が巻き込まれ、渦の中に消えていく。


 渦の動きはどんどんと強くなり、やがて中心から光の線が空に伸びた。

 光の線は曇天を突き破って空へ。

 空にぶつかった瞬間、根を伸ばすように光が広がっていく。


「……いっ!」


 光が空に伸びた瞬間、リアンは自分の身体の中心がドクンと、痛み出した。

 まるでないはずの心臓を鷲掴みされたように感じた。

 同時に、周囲一帯の魔力が光に集まって吸収されていく。

 ……まるで、世界の魔力を吸っているかのようだ。


「あれ、よくないものだ。……放っておいたら何が起こるか分からない……」


 リアンはそう直感する。

 ならば、何が起きているのか、確かめに行かなければならない。


「リアン、俺も一緒に……」

「ロアード様! その怪我ではいけません!」


 右腕を負傷していたロアードを、慌ててファリンが止める。


「その腕の怪我、魔蝕に侵されてますよね?」


 ロアードの右腕は紫色に変色していた。

 魔蝕……それは魔物の魔力に侵されるとなる症状だ。

 特に強い魔物の魔力はそれ自体が毒に近い。

 一級の魔物であったシーサーペントからの攻撃は、当然その魔蝕が発生する。

 魔蝕の治療は難しく、回復ポーションでは回復ができない。

 毒素たる魔力を体外に排出しなければならず、その治療には回復の魔術や魔法を施す必要があるが、少し時間がかかるだろう。


「そうだよ、ロアード。君たちはここで待ってて」

「だが、お前にすべてを任せるわけにはいかない。……竜にまた頼るわけには……」

「勘違いしないで欲しいな、ロアード」


 やれやれと言うように、リアンはロアードを見る。


「私は君たちのために行動していない。私は、私のやりたいことをしてるだけだよ」


 けして先代のように、人々に迷惑はかけないように。しかし、人々の要望にも応えない。

 ただ、リアンは自分がしたいことをするだけだ。


「それにこれは私の役目だ。……二代目水竜としてのね」


 リアンは安心させるように、笑顔を見せてから、その身体を水に変え、水竜の姿となった。


「何が起こるか分からないからこの海域からは離れておくんだよ。リュシエンのことも心配しないでね」


 ロアードやファリンたちにそう言い残し、リアンは海に飛び込んだ。

 光が発生している場所へ……深海の宮廷を目指して。


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