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アルバーノ海賊団

 ロアードたちのほうに追ってくる一隻の海賊船。

 徐々に鮮明になっていくその船は……奇妙だった。

 ボロボロの帆で風を受けながら進み、マストには長い海藻が絡みついている。

 船として機能しているのが不思議なほどに、今にも沈みそうなほどに老朽化している。

 マストに掲げられた船旗はフェニックスを模した海賊旗。

 まるで幽霊船のような海賊船。


「……なるほど、あれがアルバーノ海賊団か」


 事前の情報ではアルバーノ海賊団が人を拐っていると聞いていた。

 きっとあれがそうだろうと、ロアードは思ったが――。


「あれはブラック・フェニックス号……!? ……本当に彼らなのですか……」


 リュシエンが驚きながらも、その目はしっかりと海賊船に向いている。


 船員がかろうじて見える距離に来て、明らかになった。

 ――乗っている船員はすべて、骸骨だった。

 骨だけになった船員がカタカタと音を鳴らしながら、船を動かしていたのだ。


「シーサーペントたちが撤退していくぞー!」


 マストの上に乗っていた船員が叫ぶ。

 シーサーペントと水生族が撤退を開始していた。

 しかし、幽霊船から彼らを追撃するような砲撃は止まない。


「シーサーペントも俺達も敵ってことか……!」


 船に飛んでくる砲弾を、ロアードが切り伏せて防いだ。

 シーサーペントたちを追いかけたかったが、負傷者も乗る船を置いていくわけにもいかなかった。

 その間にシーサーペントたちは逃げてしまったようだ。


「大海蛇野郎には逃げられたが、貴様らは逃がさねぇっすよ!」


 いつの間に近付いてきたのか。

 幽霊船がロアードたちの船の真横に付き、甲板から銃口を向けてきた。

 古代遺物(アーティファクト)の単発魔導銃だ。

 魔力をチャージして、魔弾を一発撃てる代物。

 旧文明の古代帝国が海に沈むこの海域ではよくサルベージされるため、このララハ諸島地域では一般的に出回っている。


「さぁ、降伏して人質たちを解放するっす!」

「人質……? なんのことだ?」

「ワワ族の人らっすよ! アンタたちが拉致してたじゃないっすか!」

「何言ってるんだ、お前たちが連れ去っていたんじゃないのか?」


 微妙に会話が噛み合わない。

 この幽霊船の指揮をとっているのは他のスケルトンたちよりも背の小さなスケルトンだった。

 骨格と体型からしてドワーフのスケルトンだ。

 ボロボロのバンダナを頭蓋骨に巻いている。

 そのドワーフは腕を組みながら、海賊でありながら正義の味方のように振る舞っていた。


「あの……わたしたち、この人たちを助けていたのですが……」

「えっ……?」


 ドワーフのスケルトンが慌てて身を乗り出しながら、ロアードたちの甲板を覗きこむ。

 ……慌てすぎて危うく頭を落としそうになっていたが。

 甲板には救助されたワワ族たちがおり、手厚く治療を受けていたりされていた。

 どうみても、拉致をしているようには見えない。


「いやいやいや、信じないっす! 絶対嘘っすよ!」

「……はは、あははははは!」

「な、なんすかいきなり!?」

「……リュシエン?」

「お兄様……?」


 そんな混沌とした場に、突然リュシエンの笑い声が響いた。


「……あなたは相変わらず、おっちょこちょいですね、ヘスス」

「な、なんでオイラの名前知ってるんすか!?」


 一歩、ロアードたちより前にリュシエンが出る。

 ヘススと呼ばれたドワーフのスケルトンを見据えながら、リュシエンは大きく息を吸ってから、大声を出した。


「この野郎ども、私の顔を忘れたとは言わせませんよ!」


 そして彼は躊躇いがちに、ずっと被っていたフードをとった。


「あ……ああ! まさか、そんな……オイラは夢でも見てるんすか!」

「夢じゃねぇよ、ヘスス……俺たちも同じもんが見えてる……」

「……船長だ! 船長が帰ってきてくれたぞ! おい、銃を下せ!」


 歓喜の声が幽霊船から上がり、代わりに銃口は下ろされていく。

 リュシエンと海賊たち以外は状況が掴めずに唖然としていた。


「船長だと……?」

「まさか、知らなかったんすか? このお方こそ伝説の海賊の名を欲しいままにした我らが船長! ”不死身のアルバーノ”こと、アルバーノ船長っす!」

「船長! 船長! 船長!」

「うおおお! アルバーノ船長おおおお!」


 スケルトンの海賊たちの船長コールは止まない。

 歓喜の声に混じって号泣する声すら聞こえてくる。

 リュシエン……アルバーノ船長と呼ばられた彼は、とても気まずそうな表情をしていた。


「なるほど、これが理由か」

「まぁその……色々とありまして」


 ララハ諸島にリュシエンが行きたくなかった理由がようやく分かった。

 賞金首として指名手配もされていたような伝説の海賊――その張本人だったわけだ。


「お兄様が……海賊をしていた……?」

「ファリン、確かに私は海賊をしていましたが、今は違いますから! もう足は洗いましたから!」

「そんな船長! オイラたちのところに戻ってきてくれたんじゃないんすかっ!!」

「あなたたちが銃を下さないから、ファリンの安全のために、私が仕方なく出たまでです……!」


 ――アルバーノ海賊団のスケルトンたちの興奮が落ち着くまで、しばらく時間がかかったのだった。


 ◇◇◇◇


「……本物(、、)が出てきたか」


 クコ島からだいぶ離れた沖合。

 岩礁の影に隠れるように停泊した一隻。

 その船のマストにはフェニックスを模った海賊旗がはためいていた。

 男は甲板から魔導単眼鏡を覗き込み、幽霊船を確認していた。


「本物ってどういうこと、アルバーノ(、、、、、)おじさん?」

「亡霊が出てきちまったってことだぜ、リアンちゃん」


 男は……アルバーノ(、、、、、)と名乗った海賊はリアンの頭をぽんと叩いた。


「船長! 船長、どこにいやすか!」

「おう、ここだ。ここ!」


 甲板で船長を探していた船員に向けて、アルバーノは片手をふる。


「そこにいやしたか! 教団の奴らが回収してきた人々を船に積み終わったところですぜ!」

「よし、ならここにはもう用はない。エスパーダの船隊が来る前にずらかるぞ!」

「承知しやした!」


 人間の船員が船長の指示を聞き、甲板の上を走っていく。

 ……その方角のほうをみれば、犬耳が頭についた部族、縄で縛られたワワ族たちがいた。

 年齢も性別もバラバラだ、老人もいれば子どももいる。

 海には拉致してきた実行犯である水生族らしき者たちがおり、引き渡しが終わったからか、海に潜っていく。


(……彼らは何をしてるんだ?)


 どうみても人助けをしているようには見えない。ワワ族の大量拉致といったところか。

 海賊の彼らはシーサーペントが起こした被害に巻き込まれた人々を、どさくさに紛れて拉致してきた形だ。

 なぜこんなことをしているのか、シーサーペントとは繋がりがあるのか……彼らへの疑問が絶えない。


「何考えてんだ、リアンちゃん?」

「うわっ」


 いつの間にかアルバーノの髭面が間近にあって、リアンは驚く。


「別に……ただ本当に海賊なんだって思って……」


 先程までの印象は、どこの町にも転がっていそうな浮浪者の酔っ払いのおっさんだった。

 今も海賊の船長には見えない。指示出ししているのを見てやっとそう見えた程度だ。

 そういう船長としてのカリスマ……オーラや存在感と言ったものが全然ないのだ。

 さっきだって、船員が船長を見つけるのに苦労していたくらいに。

 そのせいなのか、リアンも気配が掴めないものだから、接近に気付きにくい。


「やっと怖がってくれるようになったか、嬢ちゃん?」


 言い淀んだリアンの様子を怖がっていると受け取ったのか、アルバーノは悪い笑みを作りながら言う。


「オレたちは海賊だ。あんたを誘拐したように、人拐いはよくある仕事の一つだからな」


 捕まった人々が次々に船室に運ばれていく。

 正直、ここで水竜の力を使えば彼らを簡単に助け出すことはできるが……。


(……まだ裏がありそうなんだよね。それに教団とも言っていたし……。)


 彼はこれが仕事の一つといった。

 つまり、この大量に拉致された人々を求める取引相手がいるということだ。

 また、教団という単語も気になった。やはりあの教団なのだろうか。

 真相を知るために、もう少し泳がせて様子を見てみようとリアンは思った。


「よし、帆を全て降ろせ! この海域から離脱するぞ!」


 甲板にいたワワ族たちは船内に移動させ終わったのを確認し、アルバーノが出発の号令をかけた。


「……でも今、風が吹いてないみたいだけど」

「安心しろ、オレにはいつだって幸運の風が吹いてんだよ」


 その瞬間、風が吹き始めた。

 ちょうど進行方向に向けて吹く風を受けて、帆は張り、船はスピードをあげて進んでいく。


「ほらな? 言った通りだろ」


 アルバーノは自慢げにニヤリと笑う。

 海賊船の船長らしくやっと見えてきたのだが……。


「船長~! どこいったんですか~!」

「オレはここにいるぞ? おい……おーい!」


 相変わらず、船員には探されていた。

 ……本当になぜこの男が船長になれたのだろうか。不思議な男であった。



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