二ヶ月後
「これにて依頼は完了です。お疲れ様でした!」
受付嬢が笑顔でそういった。
ここはバルミア公国の冒険者ギルド。
その受付カウンターで、リアンたちはちょうど受けた依頼の報告をし終わったところだった。
「無事に依頼を終えましたね、お姉様!」
「うん。今回は先代は全然関係なくて、ただの巨大電気ウナギの大量発生だったけど」
依頼金を受け取って、ファリンとそんな会話をする。
ヒカグラの国の騒動から二ヶ月。
リアンはファリンとリュシエン、そしてミレットと共に冒険者として依頼をこなす日々を送っていた。
彼女が依頼を受けるのはもちろん、先代水竜であり、邪竜と呼ばれたドラゴン……レヴァリスが振りまいた厄災を見つけ、取り除くためだ。
今のところ、その行動は……ほどほどと言ったところか。中には今日みたいに空振ることもある。
ただ、人助けにはなるため、けして悪い気はしなかった。
「お前たちも依頼終わりか?」
「これはロアード様ではありませんか」
「あ、ロアード! 久しぶりー!」
リュシエンと共にリアンがあいさつを向ける。
そこには黒髪と紫の瞳をし、大剣を背にした一級冒険者にして、邪竜殺しの英雄ロアードがいた。
冒険者として活動を始めたリアンは、バルミア公国の首都カーディナルにある宿屋に拠点を移した。
いつまでも公国の世話になるわけにはいかなかったからだ。
ロアード自身も冒険者としての仕事をしているので、必然と会うことも少なくなった。
「そういうロアードもちょうど依頼が終わったんだね」
「あぁ、西の山に出た怪鳥の討伐に赴いていた」
「そっちもなかなか大変な依頼だったみたいだね。よければこのあと夕飯でも一緒にどう? その話聞かせてよ」
リアンがそんな誘いをし、ロアードが頷きかけた時だった。
「あら、できれば私もご一緒したいわね」
ロアードの肩に手を置いた、フードを被った女性。
しかし、そのフードの下の顔は見覚えがあった。
「……あれ、エルゼリーナじゃん」
そう、このバルミア公国の女王、エルゼリーナがなぜかそこにいたのだ。
「シー。周りにバレてしまったら、騒がしくなってしまうでしょう?」
人差し指を立てて、エルゼリーナは茶目っ気たっぷりにそういった。
「……エルゼ、なぜここに」
「あなたに用があって来たのよ」
「なら、俺を直接城に呼び出せばいいだろう……」
「せっかくだから、リアン様たちにも会えないかなって思ったのよ」
ロアードが少し頭を抱える。
確かに国の王たるものが、軽々と市内に出ていいものではないだろう。
「それで、俺に何のようだ」
「……あなたに指名依頼が来ているわ」
「指名依頼? 何処からだ?」
「南のララハ諸島からの依頼。内容はシーサーペントの討伐よ」
指名依頼とはその名の通りだ。
冒険者ギルドが発令する特殊な依頼の一つ。
要求される階級のランクや難易度が高すぎる場合、その依頼をこなせる人物を冒険者ギルド側が選別し、指名する。
一級冒険者たるロアードが指名されるほどの依頼とは……よっぽどのものだ。
「詳しい話は別室でしましょう? ……リアン様たちも聞いていかれます?」
「え、いいの?」
「興味津々のご様子でしたので」
くすくすと笑うエルゼリーナに、リアンは思わず顔に手を当てる。
……そんなに顔に出ていただろうか。
「ララハ諸島ですか……」
「……お兄様、どうされましたか?」
「いえ、なんでもありません……」
別室に移動していくリアンたちだったが、一人リュシエンが足を止めていた。
妹のファリンに促されて、彼もまたリアンたちに付いていった。