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忘れない

 兵士たちはリアンたちを見つけると一斉に身構えた。

 正確に言えば、後ろにいた白虎を警戒するように、槍や剣を手にした。

 それを受けてリュシエンも槍を手にするが――。


「武器をしまえ! 今は必要ない!」

「リュシエン、下がって!」


 リアンとロアードの声が重なる。

 その言葉に兵士たちとリュシエンが揃って驚いた。


「……やっと君とまともに話ができそうだよ」

「お前との話は後だ。そうだろう? ――コレットを探していると言ったな」


 ロアードの行動にリアンは嬉しそうに笑う。

 ロアードは複雑そうに顔をしかめながらも、隣の方を見る。

 彼に促されるようにして前に出てきたのは青年だった。


「……まさか君がコレット?」

「違います。えっと……僕のお祖母ちゃんがコレットという名前でして……」

「お祖母ちゃん? コレットって少女じゃなかった?」


 思わず白虎の方を見る。

 白虎の話では小さい女の子だと言っていたが……一体いつの話か分からなかったが、まさか少女が老婆になるほど前の話だったとは。


「僕のお祖母ちゃんが昔、よく話してくれたんです。行商人だった父親に付いていってサントヴィレに来たときのことを。そこで小さな白猫と花畑でよく遊んでいたことを」


 歳をとってベッドから寝たきりとなった祖母はその昔話をする時だけ、まるで少女のように楽しげに話していた。


「また遊ぼうって約束したのはいいけど、公国と王国が戦争を再開してしまったせいでサントヴィレに行きづらくなってしまったのだと言っていました」


 七十年前の当時もバルミア公国とグラングレス王国は戦争をしていた。


 当時も休戦を挟んでから再開した急な開戦。

 公国兵が王国の民間人を冤罪で殺害しただの、でっち上げたような理由であったが、両国にとっては戦争ができればどちらでも良かった。


 当時十歳だったコレットには、その戦火の最中を潜ってサントヴィレに行くなど無理な話であった。


「お祖母ちゃんは戦争が収まったら行こうと思っていたみたいだけど、全然終わらなくて……。気付いた時にはもう満足に歩けない体になっていて、それで五年前に亡くなって……」


 時の流れは少女を大人に変えた。その間にコレットは結婚をし、子供をもうけ、町の商店を営んだ。

 時たまある休戦の間なら行けたかもしれないが、親に黙って街を抜け出した子供の時のように自由ではない。


 家庭を持ったコレットではなかなか街に行くことができず、悩んでいる内にまた戦争が再開されてしまった。


 十五年前、両国の戦争は予想外の形で終わったが、その時にはコレットは満足に動ける体ではなかった。


「死ぬ間際まであの時の白猫との約束を気にしていました。僕は猫ならそんなに長生きしないし、待ってないよって言ったんですけど全然、納得してくれなくて。それで僕は約束したんです。じゃあ代わりに僕が行ってくるよって」


 青年はゆっくりと前へ歩いていく。その目は大きな白虎をまっすぐに見つめていた。


「ずっと、待ってくれていたんだね。遅くなってごめんよ――ミィちゃん」


『――ミィちゃん!』


 白虎は思い出した。遠い昔、白虎の名前を呼んだコレットの声を。

 幼いコレットは魔物だと知らずにただの小さな白猫だと思って、無邪気に白虎をそう呼んでいた。


「ガゥ……ガルル……」


 白虎が――ミィちゃんが泣きながら声を上げる。

 コレットは忘れてなんていなかった。


 ずっと覚えていてくれたのだ。ここで待っていたミィちゃんと同じように。


 出来ればまた会いたかっただろう。

 嬉しさと悲しさがないまぜになった声でミィちゃんは吠えた。


「ありがとね、ロアード。彼を連れてきてくれて」

「あいつが居合わせていたから連れてきただけだ。俺は何もしていない」


 ロアードの近くに寄ったリアンが礼を言えば、ロアードは素っ気なく返した。


「それにお前を完全に信用したわけでは――」


 ――ガサリ。その時、木々が揺れ動く音がした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔獣白虎、名前をミィちゃんw 切なくて悲しい感動的な話をブッタ斬るようなネーミングに思わず笑ってしまったw いや、わかりますよ? 小さな白い子猫に付けた名前だから、そんな可愛らしい名前なの…
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