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少女との約束

 白虎には仲の良かった少女がいた。

 それがコレットという少女だ。


 コレットは時々森に遊びに来て、この花畑で白虎と遊んでいたという。

 だが、ある日を境に彼女は白虎の前に現れなくなった。


『また遊びに来るから、ここで待っててね! 約束だよ!』


 その言葉を信じて白虎は今まで待っていた。

 何度も太陽が登り、沈んでいった。

 何度も輝く星空を見上げてから、眠りについた。


 明日にも彼女が来てくれるかもしれないと、期待して森の中を徘徊したりしながら。


 そうしていたある日、花畑の花が枯れ始めた。

 白虎は慌てた。

 コレットはこの花畑で待っていてと言っていたから。


 もしもこの花畑がなくなってしまえば、コレットはここに来てくれないかもしれない。

 目印になる場所がなくなるのは嫌だった。

 彼女との思い出も一緒に枯れてなくなってしまう気がした。


 だけれど、白虎にはどうすることも出来ない。

 待っていても彼女は来ない。

 その間に花はどんどんと枯れていく。


「だからコレット探しも兼ねて、この花畑をなんとかしてくれる人を探しにサントヴィレの街に現れたんだね」

「ガウ!」


 リアンの言葉に肯定するように白虎が返事をする。

 白虎は花を助ける術を持たないが人間たちであれば、何か知っているかもしれない。

 それにもしかしたらコレットを先に見つけることができるかもしれないという期待もあったのだろう。


「……ずっと待っていたんだね。君はすごいよ」

「ええ、本当に」

「ガゥ……」


 褒めるようにリアンとファリンが白虎を撫でる。頭は身長的に届かないので、首あたりを撫でた。

 白虎は嬉しそうに、だけれど少し寂しそうに返事をする。

 ずっと待っていたが、今だにコレットは現れていないからだろう。


「一体どれほど待っているのか知りませんが、十年以上も経っているなら望みが薄いかもしれませんね。その約束自体忘れているかもしれません。子供の約束なら尚更です」

「リュシエン、そうとも限らないでしょ。コレットにも何か事情があって、会いに来れないのかもしれないし」


 どちらにせよ、ここでコレットのことを考えても答えは出てこないだろう。


「コレットも気になるけど、まずは花が枯れていく原因でも探ろうか」


 リアンが白虎から離れ、花畑の方へ移動する。

 花畑の状態は悪い。一刻も早く手を打たねばならないようだ。

 コレットがなぜ来ないのか分からないが、この花畑がなくなってしまえば悲しむだろう。


「花が枯れていくとなるとよくあるのは水不足ですが……」

「……地面の状態を見ても水分はあるから水不足が原因ではなさそうだね」


 リュシエンの言葉にリアンが答える。周囲の水の気配を探ってみたが十分にあるようだ。


「これ、魔力不足ですよ」

「魔力不足?」


 花に近づいて調べていたファリンがそういった。


「はい。花の状態からして、急激にこの地の魔力が吸われたようです。この森に入ったときから他の木々も元気がないなぁって思っていたので、この森の全体で魔力不足が起こっているようです」

「ファリン、そういうのも分かっちゃうんだ!」

「あ、ありがとうございます。元々エルフというのは自然と共に生きる種族ですから。わたしは特に植物の状態を知る力が強いようでして……」


 大昔のエルフの中には木々や植物と心を通わせ、話すことができたという。

 ファリンは声を聞くことはできないが、他の同族よりも植物と心が通じる。

 ファリンのポーション製作の腕が高いのも、薬草の良し悪しを見抜く時にその力が役立つからだ。


「当たり前です。私の自慢の妹ですから」

「リュシエンも分かったりするの?」

「……残念ながらあまり。一度村を出たせいでしょうか、植物には嫌われているようです。それより一定範囲の魔力不足となると、魔物が魔素を取り込んだことで起こったことかもしれません」


 突然起こる魔力不足は魔素の低下が原因の一つだ。

 その場合、原因となる魔物を討伐すれば魔力不足も収まる。


「この森全体となると三級の魔物かと」

「…………んー、試しに今探してみたけど、ここは水辺が少ないから音が拾えなくて探せないね」


 リアンは耳が良いが、それは水に反響した音を拾っているだけだ。

 聴覚の機能が高いというわけではないため、水辺がなければ音は拾えない。


「まぁ、ないなら作ればいいんだけどね」


 この森全体に雨を降らすことなど造作もない。

 雨が降れば、水たまりくらいならあちこちにできるだろう。それを通して音を拾うことができる。


 そう思って雨を降らそうとした、その時。

 森の向こうから複数の足音と篝火の光が見えた。

 それはこちらに向かってきているようだ。


「……リアン様」

「うん、来るとは思ってたよ。……ロアードでしょ?」


 リアンたちの前に現れたのはロアードと五十人は超える兵士たちだった。


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