二代目水竜リアン
――そして、私が二代目の水竜になった。
結局、私は人間では無かったわけで……前世の記憶とやらが戻ってくるようなこともない。
まぁ、自分がどんな存在なのかを、正しく知れたことは良かったことだろう。
たぶん、私はこのことを誰にも話さない。
この嘘は私が知っていれば、それで十分だからね。
「お姉様、見てください! 綺麗な景色ですよ!」
「がうがー!」
ファリンとリュシエン、それからミレットと共に私はある場所を訪れていた。
そこはバルミアからかなり西に行った地域で、峡谷がある地域だった。
うねるように出来た峡谷に、谷間を流れる川。
その合間に架けられた大きな吊り橋は確かに綺麗だ。
「百年以上前にこの辺りに来たことがありますが……その時はあの橋は架かっていませんでしたね」
「へぇ、昔はあの橋はなかったんだね」
リュシエンも興味深そうに、吊り橋と景色を眺めていた。
「さてと、この辺りのはずなんだけど……」
最近、この辺りでは落石と崩落が多発していた。
それはこの辺りで発生するようになった地震が原因らしい。
だけど、この地域では地震は珍しいという。
なぜ、地震が起こり始めるようになったのか、気になり、私たちは調査をしに来たのだ。
「……?!」
その時、ごうっと地面が大きく揺れた。
震源が近い? あの辺りっぽい。
「お姉様!」
リュシエンとファリンを置いて、私は峡谷の谷底まで滑り落ちていく。
「――やっぱり。見つけた」
そこで私は、小さな竜を見つけた。
河辺の岸で、ゴツゴツとした岩に囲まれながら、それは丸まって寝ていた。
黒曜石の鱗をした小さな竜が、少しいびきを立てるだけで、さっきの地震が起こっていた。
「……キュイ?」
それは私の気配を感じ取ったのか、目を覚まして、私を見上げた。
「やぁ、初めまして。君が新しい地竜かな?」
私には一つ、確かめたいことがあった。
それは空席となった地竜について。
二代目の概念を先代が作り出したことで、人々はそれを受け入れたはずだ。
しかし、それが本当に機能しているかを確かめる必要もあった。
私もヒノカも、自然と二代目となったわけじゃない。
何もしなくても、自然に次代の竜が生まれ出るかどうかを、確かめたかったのだ。
……その結果は、どうやらうまくいったみたい。
まぁ、先代のことだから、こうなることも織り込み済みだっただろうけどね。
小さな地竜は私を不思議そうに見上げていた。
「自己紹介がまだだったね。私の名前はリアン。――二代目の水竜、リアンだよ」
――私のやるべきことはまだ始まったばかり。
あのはた迷惑な先代が遺していった問題も片付けなきゃならない。
大変だろうけど、きっと大丈夫だ。
だって私の願いは、この世界で楽しく生きていくことに決めたから。
そう私は先代の願いを、自分の願いにしたんだ。
半分当て付けだ。先代は悔しがっていることだろう。
だからいつか、今度は私が語り聞かせてあげよう。
――邪竜がいなくなった後の世界について、ね。
(これにて完結となります。最後までお付き合い頂き、ありがとうございました! 少しでも面白かったと思いましたら評価やリアクションなどよろしくお願いします。あとがきは活動報告のほうに0時頃に載せておく予定なので気になる方はそちらをお読みください)




