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私は邪竜じゃありません! 転生して二代目水竜になりましたが先代は邪竜と呼ばれていました  作者: 彩帆
第七章

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勇敢なる人の英雄よ

 強い雨が肌を冷やす。

 ロアードは魔剣オルトゥスを構えながら、目の前邪竜と戦っていた。


「やはり、簡単には死なぬな?」


 黒く濁った水のブレスを切り裂きながら、ロアードは宙を舞う。

 海上からは渦を巻きながら水柱が立ち登る。

 巻き込もうとする渦巻きから逃げるように、《防御障壁(プロテクション)》を宙に張り、それを足場に宙を跳んでいた。


「しかしそれでは、私を殺せぬのではないか?」


 邪竜が羽ばたけば、黒い水の刃が現れ、ロアードを襲う。


「舐めるな……!!」


 魔剣でその刃を受け止め、受け流す。

 ……その攻撃に近づくだけでも、肌を焼くような痛みが走る。これは魔蝕を受けた時に近い痛みだ。

 近づいただけでこれだ。もし一撃でも喰らえば、シーサーペントの時に受けた傷とは、比べ物にならない傷を負うだろう。


「はっ……」


 ロアードは息を僅かに吸って止めた。

 周囲はすでに水の魔素に満たされており、酸素が少ない。宙にいたとして、ここは水の中と変わらないのだ。

 あまり息を吸い過ぎては呼吸が出来なくなる。

 水中呼吸のポーションを飲んでいるが、この魔素濃度ではあまり意味がない。

 火竜の時と同じく、満足に呼吸を出来ない状態で戦わなければならなかった。


「素晴らしいな。やはり、"英雄"と呼ばれているだけある」


 今だに一撃を喰らわずに、戦い続けるロアードをみて、邪竜レヴァリスは牙を見せながら笑っていた。


「しかし、お前は本物の英雄ではない。――偽りの英雄だ」


 ――英雄ロアード。

 その功績の始まりは邪竜殺しから始まった。

 しかし、本当は邪竜を殺していない。

 その殆どの功績は嘘である。


「それを今から本当にしてやる……!」


 ロアードはまた一つ刃を切り伏せながら叫んだ。


「ここで貴様を倒せば、偽りなしだ! ――《反射障壁(リフレクト)》」


 足場にした障壁に、反射の力を乗せる。

 本来それは相手の技を撃ち返す反撃技。

 それを彼は加速装置として使った。

 踏み込んだ勢いで、そのまま前に打ち出される。

 残像すら残さない速さで、邪竜に迫る。


「面白い。だが、まだだな」

「――!?」


 高速で動くロアードを、邪竜は尻尾で叩き飛ばした。


「ぐっ……!」


 豪速球のように飛ばされながら、ロアードはなんとか体制を立て直そうとするが止まらない。

 途中にあった沈んだ街の時計塔にぶつかるも、それでも止まらずに突き抜けた。


「……なんだ?」


 そのまま山の斜面に叩き付けられそうになった時、ふわりと体を包む風が受け止めた。


「なんとか間に合ったか……」

「伯父上もなかなかやるではないか!」

「上から目線で見やがって……クソガキが!」


 ロアードの側に、二体の竜が近づいてきた。

 火竜ヒノカと風竜となったアルバーノであった。


「風竜……それにヒノカまで、なぜここに」

「リュシエンは無事だ。ファリンがなんとかしてくれたからな。オレたちはあんたの加勢に来たぜ」

「あれは妾の仇でもあるのじゃ! お主だけに任せられぬ!」


 ロアードは風竜の背に乗りながら、二竜の話を聞いていた。


「……俺は竜の力など借りはしないぞ」

「ごちゃごちゃうるせぇな! 何もオレたちは一方的にあんたに手を貸しに来た訳じゃねぇんだよ!」

「相変わらず頭の硬い奴じゃ。互いに協力して力を合わせて倒そうと言っておるのじゃ!」

「……協力」


 ロアードは信じられないものを見るよう、火竜と風竜を見た。


「お主はあれを一人で倒せると思っておるのか?」

「そうしなければ、ならないと思っていた……」

「妾と同じじゃな。……しかし、妾はそれは無理じゃと思ったのじゃ」


 ヒノカは一人、あの邪竜に挑んだが、手も足も出来ずに負けた。再び挑んだところで結果は同じだろう。


「一人で挑んだところで、邪竜レヴァリスには勝てぬ。しかし、妾たちが力を合わせねばそうではなかろう?」

「そうだぜ。……人と竜が協力してはならない、なんてことはないだろ?」

「……竜と協力……そんなこと考えもしなかったな……」


 いや、もしかしたら。この場にリアンが居たなら、ロアードはすんなりとそうしていたかもしれない。

 リアンとは度々協力していたのだから。

 ……しかし、彼女はもういない。

 その事実が、彼を焦らせ、周りを見る余裕を無くしていた。


『――君たちなら大丈夫だって、信じてるから』


「……俺たちなら大丈夫か」


 ロアードは魔剣オルトゥスを手に立つ。

 彼は人を代表して、この場に立っていた。


「分かった、共に行こう!」


 ロアードの言葉に、ヒノカと風竜は頷き、共に邪竜の元に飛翔した。


「ほぅ……人と竜が組んで私に挑むのか」

「お主は邪竜じゃ……お主は妾たちの共通の敵じゃ!」

「面白い、ならばやってみよ!」


 黒い水と紅き炎がぶつかる。たちまち水蒸気爆発があちこちで起こり、気温が上がっていく。

 レヴァリスによる水の刃やブレスはヒノカの炎がすべて燃やしていく。

 以前戦った時よりも火力が強い。

 それはもちろん――火の勢いを増す追い風があるからだ。


「……力の弱いオレが出来るのはサポートくらいだ。……行けるな、ロアード!」

「ああ!」


 水と火の魔素が満ち、さらに魔素濃度が上がっている。しかし、ロアードの呼吸を妨げないように、風が酸素を送っていた。


「――リアン。お前は俺なら出来ると信じてくれた」


 ロアードが手にした魔剣オルトゥスに魔力が集まっていく。

 魔剣は魔力を受けて、光を帯び始めた。

 使用者の魔力を圧縮し、それを出力する。


 この魔剣に込められているのは光の魔術。

 邪悪なる者を討ち払う、聖なる剣の力。

 古代遺物(アーティファクト)を参考に作られた、現代の魔導具。

 この力は一度使えば、しばらくは使えないため、無闇には使えなかった。


「ならば、俺はお前が信じた俺を信じる……!」


 ロアードは魔剣を手に、風竜の背から飛び出した。

 邪竜への道筋は火がこじ開け、風が導くように彼を押し出す。


「あれは……!」


 天を仰ぎ見た邪竜の前に、それは輝いていた。

 暗雲の空に輝く光はまるで、夜明けの星。

 その星は真っ直ぐに、邪竜に向かって落ちてきた。


「邪竜を生み出したのが人々の絶望ならば……人々の希望を持って、お前を否定する!!」


 ――魔剣オルトゥス。

 この魔剣に込められた意味は、竜との縁を断ち切り、人の未来を切り拓くことだ。


「邪竜レヴァリス……ここまでだ!!」


 流星のような一筋が、邪竜を切り裂いた。

 エルゼリーナを始めとし、この剣には人の想いが繋がっていた。

 その繋がりが、邪竜の存在を否定する……!


「……これが、人の可能性……」


 邪竜は光を見た。

 焼き焦がすほどに強い光を。


「……見事だ、英雄よ」


 ――そして、邪竜は地に堕ちた。


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