1 奈月の見る日常に
私は、物心ついたころから見えている。
空にふよふよと浮いている背中に羽の生えた人?や、足元をすり抜けていく小人?…いわゆる、あやかしと言われる者を。
(…そのせいで、小さい頃は嘘つき呼ばわりされたっけ)
昔からよく見えて、人間との違いも分からなくなるほどだった。
本当の事を言っても嘘つきとからかわれ、クラス中から無視もされた。
いつからか、私はその見えているという、本当の事を周りに言わなくなった。
言って人間関係が崩れるなら、と私は見えている事を隠している。
「…なーつーきー?奈月?まぁーた、ぼーっとしちゃって。…まぁ、そこが可愛いんだけど」
「…綾。ごめん、ぼうっとしてた」
「もう、あや寂しかったんだからぁ。って、冗談はおいといて今度の土曜日の夏祭り、浴衣着て孝と一緒に三人で行かない?」
綾は私にウインクしながら言った。
綾は私と中学からの友達だ。今流行りの男性アイドルをおっかけたり、タピオカミルクティにハマったりミーハーなところもあるがこんな私にも付き合ってくれる優しい友達だ。
(土曜の夏祭り…、あ、火倉神社であるお祭りか)
「…いいよ、綾と孝くんで行ってきなよ」
「ええ!?なんで?寂しいじゃない」
(私、孝くん苦手なんだよね…そんなこと、綾に言えないけど)
孝くんは、私や綾と高校からの同級生だ。2年になった今年の春から綾と付き合いはじめた。彼は、背も高く顔も整っている。優しくてクラスの誰からも好かれている。また、真面目で成績も良いからか先生からも好かれている。私からみても、いい人だと思う。でも、あの瞳に見つめられると、私の心の奥を探られているような気になるのだ。あやかしに見つめられたときみたいに。
これ以上、関わってはいけないと頭の警報音がなるのだ。
「奈月、家から出ないつもりでしょ。駄目だからね今年は、奈月と行けるって楽しみにしてたんだから」
「そういう訳じゃないよ、孝くんとの2人の時間を邪魔しちゃ悪いかなって思って」
「良いの、いいの。孝くんも奈月ちゃんと3人で行こう、って言ってたし」
「…孝くんもそう言ってたの?」
「うん、だから一緒に行こ」
「…うん、わかった。行くよ」
「やった!浴衣着て行こうね!」
(…3人で行くならいいかな)
私は苦笑し、そっとため息をついた。
綾と駅の改札口で別れ、高台にある閑静な住宅街の一軒の平屋建ての家屋に入る。
「ただいま」
返事のない玄関から、台所に向かうと白髪の女性がコンロに向かって立っていた。
「…おばあちゃん、ただいま。」
「あら、お帰り奈月ちゃん。晩ごはんもうすぐ出来るからね。」
ニコニコしながら、グツグツ煮込んでいる鍋を見つめている。今日の晩ごはんはロールキャベツみたいだ。
ふとテーブルに置かれた新聞に目をやると、火倉地区の10年前の神隠し事件が一面を飾っていた。
「…この神隠し事件って、まだ女の子は見つかってないの?」
「ああ、火倉女子高生失踪事件のことかい?…そうだね、女の子の鞄は見つかってるけど他は何にも見つかってないねぇ。目撃者もいないし、ほんとに神隠しだよ。」